24 / 40
別れの足音
全て忘れ眠れ(カイル視点)
しおりを挟む
それから俺たちは家に戻った。いつもは自分の部屋で寝ているのに、今夜はなぜかアニスから
「まだ君と一緒に居たい」
と言われて、俺の部屋で一緒に寝ることになった。今日から俺たちは婚約者だから、甘えてくれているのかも。嬉しくて顔がずっとニコニコしてしまう。
暗い部屋の中。2人でベッドに横になる。俺のベッドはシングルなので、自然と肩が触れ合う。窓から差し込む僅かな光が、お互いの姿を青く照らす。
アニスはなぜかすぐには眠らず、ジッと俺を見ていた。いつもならすぐに目を閉じたくなるのに、アニスが隣に居るとドキドキして、もう遅い時間なのに目が冴えてしまう。
明日は旅立ちで、さっきは結婚の約束をした。そんな高揚感のせいか
「あの、アニス。俺、ねだりすぎかもしれないけど……」
気が緩んだ俺は、ついキスしたいとねだってしまった。
前にすぐに手を出すのは、アニスを大事にしていないみたいで嫌だと言ったのに。
自分の発言を忘れたわけじゃないけど、こんなに顔が近いと吸い寄せられるみたいに、もっとくっつきたくなってしまう。
それでもアニスが少しでも嫌なら、すぐに撤回するつもりだったけど
「いいよ。私も君にして欲しい」
意外な返事に俺は驚いて
「ほ、本当!? アニスも俺にキスして欲しいって」
アニスは今までお礼として、何度も自分の体を差し出そうとした。でも自分が「したい」と言ってくれることは無かった。
だけど今は
「君は私の特別だから。君とキスできたら嬉しいよ」
言葉もさることながら、優しく細められた目や俺の髪を撫でる手に、何より愛情を感じて
「カイル。どうして泣くの?」
「だって嬉しくて……」
ずっと俺ばかりアニスが特別で大好きだった。見返りはいらないと強がったけど、本当はずっと振り向いて欲しかった。
一方通行だった気持ちが、今は通じ合っていることが、例えようもなく嬉しくて
「嬉しくて泣いたの、はじめてだ。俺、アニスを好きになれて良かったなぁ」
怒りも悲しみも喜びも、抑え切れないほどの感情は、みんなアニスと出会って知った気がする。
泣きながら笑う俺に、アニスはなぜか少し痛そうな顔で
「多分そのうち、私なんか好きにならなきゃ良かったと思うよ」
結婚の約束をしたばかりなのに、また後ろ向きな発言。
でもアニスは無邪気に幸せを信じられないだけで、本当は信じたいはずだから
「絶対にならない。ずっと大好き」
何度でも言葉にして抱きしめる。俺に愛されていることを、彼女が当たり前だと思えるまで。
「だから、キスするね?」
話を戻すと、アニスは目を閉じることで了承を示した。
ドキドキしながらアニスの唇にキスする。はじめて触れた彼女の唇は、俺より少し冷たくて柔らかかった。触れた瞬間、喜びで胸が弾けそうになる。
「アニス、アニス。俺すごく嬉しい。幸せ。大好き」
抑え切れない喜びに、再びアニスを強く抱き締める。
こんなにテンションが上がっちゃうと、眠気なんてすっかり吹っ飛んじゃって
「俺もう今日は絶対に眠れないや。明日は旅立ちなのに、寝坊しちゃったらゴメンね」
照れ笑いしながら言うと、アニスは薄く笑いながら
「……じゃあ、眠りの魔法でもかけてあげる?」
「わぁ、いいかも。アニスに魔法かけられてみたい」
快諾する俺に、彼女は少し複雑な顔で
「……少しも疑わないんだね。私は闇属性なのに。もし怖い魔法をかけられたらって怖くないの?」
「だってアニスは優しいから。俺に酷いことなんてしないよ」
笑顔で答えると、アニスは「……じゃあ、布団に入って」と俺に指示した。
横になった俺の隣で、アニスは身を起こしたまま
「君と私ではあまりに魔力の差があるから、普通にかけても魔法が通らない。だから君が許可してくれる? 君は自分の意思で、私の魔法を受け入れると。私になら何をされても構わないと」
その要求にも、俺はやはり少しも迷わずに
「うん。いいよ。アニスの魔法を受け入れる。アニスになら何をされても構わないもん」
光属性はそもそも闇魔法にかかりにくい。加えて俺は魔力も高いので、魔法による状態異常にかかったことが無かった。毒や麻痺にはなりたくないけど、魔法でぐっすり眠れたら気持ち良さそうだ。
ワクワクしながら受け入れると
「……君は本当に愚かだ」
「えっ?」
異変を感じたのも束の間。俺を冷たく見下ろすアニスの瞳が、紫に光って
「『眠れ。私のことは全て忘れて。忘れたことすら、いつしか忘れて』」
魔力を伴った言葉とともに、ゾッとするような感覚が体の中に入り込んだ。本来あるはずの光の守護をすり抜けて。
「あ、アニス? 今のは?」
いま胸の中を占める絶望を否定して欲しかった。けれどアニスは感情を排した物言いで
「前に見たでしょう。眠りと忘却の魔法だよ。『次に目が覚めた時、君は私に関する全てを忘れている。違和感があっても気にしない』」
それは単なる説明ではなく、重ねて暗示をかけられたのだと、俺は直感的に悟って
「なんで? なんでそんな魔法をかけるの? アニスを忘れたくないのに!」
抵抗しようにも体はとっくに動かなかった。泣きながら彼女を見上げるも
「こんな女を無防備に信じるのが悪いんだよ。これに懲りたら、何をされてもいいなんて軽々しく言っちゃダメだ」
「あ、アニス……」
アニスはひんやりした手の平で俺の視界を塞ぐと
「……もうおやすみ。そうすれば、この悲しみも忘れてしまうから」
眠れば終わりだと分かっていた。けれど抗いようなく意識が闇に落ちた。
「まだ君と一緒に居たい」
と言われて、俺の部屋で一緒に寝ることになった。今日から俺たちは婚約者だから、甘えてくれているのかも。嬉しくて顔がずっとニコニコしてしまう。
暗い部屋の中。2人でベッドに横になる。俺のベッドはシングルなので、自然と肩が触れ合う。窓から差し込む僅かな光が、お互いの姿を青く照らす。
アニスはなぜかすぐには眠らず、ジッと俺を見ていた。いつもならすぐに目を閉じたくなるのに、アニスが隣に居るとドキドキして、もう遅い時間なのに目が冴えてしまう。
明日は旅立ちで、さっきは結婚の約束をした。そんな高揚感のせいか
「あの、アニス。俺、ねだりすぎかもしれないけど……」
気が緩んだ俺は、ついキスしたいとねだってしまった。
前にすぐに手を出すのは、アニスを大事にしていないみたいで嫌だと言ったのに。
自分の発言を忘れたわけじゃないけど、こんなに顔が近いと吸い寄せられるみたいに、もっとくっつきたくなってしまう。
それでもアニスが少しでも嫌なら、すぐに撤回するつもりだったけど
「いいよ。私も君にして欲しい」
意外な返事に俺は驚いて
「ほ、本当!? アニスも俺にキスして欲しいって」
アニスは今までお礼として、何度も自分の体を差し出そうとした。でも自分が「したい」と言ってくれることは無かった。
だけど今は
「君は私の特別だから。君とキスできたら嬉しいよ」
言葉もさることながら、優しく細められた目や俺の髪を撫でる手に、何より愛情を感じて
「カイル。どうして泣くの?」
「だって嬉しくて……」
ずっと俺ばかりアニスが特別で大好きだった。見返りはいらないと強がったけど、本当はずっと振り向いて欲しかった。
一方通行だった気持ちが、今は通じ合っていることが、例えようもなく嬉しくて
「嬉しくて泣いたの、はじめてだ。俺、アニスを好きになれて良かったなぁ」
怒りも悲しみも喜びも、抑え切れないほどの感情は、みんなアニスと出会って知った気がする。
泣きながら笑う俺に、アニスはなぜか少し痛そうな顔で
「多分そのうち、私なんか好きにならなきゃ良かったと思うよ」
結婚の約束をしたばかりなのに、また後ろ向きな発言。
でもアニスは無邪気に幸せを信じられないだけで、本当は信じたいはずだから
「絶対にならない。ずっと大好き」
何度でも言葉にして抱きしめる。俺に愛されていることを、彼女が当たり前だと思えるまで。
「だから、キスするね?」
話を戻すと、アニスは目を閉じることで了承を示した。
ドキドキしながらアニスの唇にキスする。はじめて触れた彼女の唇は、俺より少し冷たくて柔らかかった。触れた瞬間、喜びで胸が弾けそうになる。
「アニス、アニス。俺すごく嬉しい。幸せ。大好き」
抑え切れない喜びに、再びアニスを強く抱き締める。
こんなにテンションが上がっちゃうと、眠気なんてすっかり吹っ飛んじゃって
「俺もう今日は絶対に眠れないや。明日は旅立ちなのに、寝坊しちゃったらゴメンね」
照れ笑いしながら言うと、アニスは薄く笑いながら
「……じゃあ、眠りの魔法でもかけてあげる?」
「わぁ、いいかも。アニスに魔法かけられてみたい」
快諾する俺に、彼女は少し複雑な顔で
「……少しも疑わないんだね。私は闇属性なのに。もし怖い魔法をかけられたらって怖くないの?」
「だってアニスは優しいから。俺に酷いことなんてしないよ」
笑顔で答えると、アニスは「……じゃあ、布団に入って」と俺に指示した。
横になった俺の隣で、アニスは身を起こしたまま
「君と私ではあまりに魔力の差があるから、普通にかけても魔法が通らない。だから君が許可してくれる? 君は自分の意思で、私の魔法を受け入れると。私になら何をされても構わないと」
その要求にも、俺はやはり少しも迷わずに
「うん。いいよ。アニスの魔法を受け入れる。アニスになら何をされても構わないもん」
光属性はそもそも闇魔法にかかりにくい。加えて俺は魔力も高いので、魔法による状態異常にかかったことが無かった。毒や麻痺にはなりたくないけど、魔法でぐっすり眠れたら気持ち良さそうだ。
ワクワクしながら受け入れると
「……君は本当に愚かだ」
「えっ?」
異変を感じたのも束の間。俺を冷たく見下ろすアニスの瞳が、紫に光って
「『眠れ。私のことは全て忘れて。忘れたことすら、いつしか忘れて』」
魔力を伴った言葉とともに、ゾッとするような感覚が体の中に入り込んだ。本来あるはずの光の守護をすり抜けて。
「あ、アニス? 今のは?」
いま胸の中を占める絶望を否定して欲しかった。けれどアニスは感情を排した物言いで
「前に見たでしょう。眠りと忘却の魔法だよ。『次に目が覚めた時、君は私に関する全てを忘れている。違和感があっても気にしない』」
それは単なる説明ではなく、重ねて暗示をかけられたのだと、俺は直感的に悟って
「なんで? なんでそんな魔法をかけるの? アニスを忘れたくないのに!」
抵抗しようにも体はとっくに動かなかった。泣きながら彼女を見上げるも
「こんな女を無防備に信じるのが悪いんだよ。これに懲りたら、何をされてもいいなんて軽々しく言っちゃダメだ」
「あ、アニス……」
アニスはひんやりした手の平で俺の視界を塞ぐと
「……もうおやすみ。そうすれば、この悲しみも忘れてしまうから」
眠れば終わりだと分かっていた。けれど抗いようなく意識が闇に落ちた。
1
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?
陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。
この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。
執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め......
剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。
本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。
小説家になろう様でも掲載中です。
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
森でオッサンに拾って貰いました。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。
ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
記憶喪失のフリをしたら夫に溺愛されました
秋月朔夕
恋愛
フィオナは幼い頃から、自分に冷たく当たるエドモンドが苦手だった。
しかしある日、彼と結婚することになってしまう。それから一年。互いの仲は改善することなく、冷えた夫婦生活を送っていた。
そんなある日、フィオナはバルコニーから落ちた。彼女は眼を覚ました時に、「記憶がなくなった」と咄嗟にエドモンドに嘘をつく。そのことがキッカケとなり、彼は今までの態度は照れ隠しだったと白状するが、どんどん彼の不穏さが見えてくるようになり……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる