21 / 40
別れの足音
あっけないほど簡単に(カイル視点)
しおりを挟む
反省した俺は、すぐにアニスに父さんとの話し合いの内容を伝えに行った。もしかしたら数日中に、一緒に村を出ることになるかもしれないと。
アニスのことだから「ダメ。応じられない」と、すぐに断ると思ったけど
「……そう言うことなら、私も神父様と話して来る」
「えっ? 話すって何を?」
「君と私が一緒に居ることを、認めてもらえるように」
「えっ、本当に? 俺、アニスと一緒に居ていいの?」
目を丸くする俺に、アニスはなぜか少し泣きそうに微笑んで
「……だって君は絶対に諦めないんでしょう? どれだけ拒んでも諦めてくれないなら、もうこの方法しか無いから」
そう言い残すと、本当に父さんの部屋に向かった。俺はアニスが心配でついて行こうとしたけど
「大人同士の話だから。君は自分の部屋で待っていて」
と追い返された。
ずっと俺を拒んでいたアニスが、同行を許可してくれて、信じられないくらい嬉しい。
ただアニスだけで話しに行って、父さんと口論にならないか心配だった。
父さんは温厚で、女こどもに怒鳴り散らすような人じゃない。ただいくら父さんでも自分がずっと育てて来た子どもが、まだ12にもならないうちに家を出ようとするのは許せないだろう。
俺のしていることは非常識で不義理だと言う自覚はあった。でも常識や義理よりも、俺はアニスを大事にしたい。
(父さんにはたくさん恩があるのに、言うことを聞けなくてゴメン)
俺は多分アニスが言っても無駄だろうと考えていた。父さんが反対しても彼女が許してくれるなら、強引にでも家を出ようとも。
しかし結果は
「……アニスさんと話した。お前の好きなように生きなさい」
ただ今すぐ出て行くのは早すぎるから、少なくとも12の誕生日までは待つように言われた。
あっけなく許可された俺は、かえって驚いて
「いいの? 本当にアニスと行って。父さんの言うことを聞かなくて」
「父さんの言うことを聞けと言ったら聞くのか?」
父さんの問いに、無言で首を振ると
「ずっと素直で聞き分けのいい子だったのに、いつからそんなに頑固になったんだろうな」
父さんは苦笑しつつも
「アニスさんにも言われたが、いくら止めても、どうせお前は勝手に出て行くだろう。それなら、せめて誕生日までは、ここに居てくれ。お前を手放す心の準備をさせてくれ」
自分の我を通すために、父さんに折らせてしまった。覚悟していたつもりだったけど、やっぱり気がとがめて
「ゴメン、父さん。ずっと大切に育ててくれたのにワガママを言って。だけど俺には本当に、すごく大事なことなんだ。聖騎士にはならなくても、父さんをガッカリさせるような生き方はしないから許して」
「……今は何も言えない。明日また話そう」
父さんに背を向けられて、胸がズキッと痛んだ。
そんな俺の肩に、アニスは励ますように手を置くと
「大丈夫。すぐには受け入れられないだけで、君を嫌っているわけじゃないよ」
「情けないな、俺。何を捨てることになってもアニスと居ようと思ったのに。やっぱり父さんに嫌われるのは悲しいんだ……」
ついポロッと零してしまったけど、やっぱり子どもだと呆れられるかもしれない。
しかし俺の心配をよそに、アニスは真面目な顔で
「神父様は君の家族でしょう。簡単に捨てられるほうがおかしい。何も情けなくなんてない」
本人は気づいていないけど、アニスは自分に厳しい反面、他者には自然と深い思いやりを向ける。
俺はアニスの優しさに救われて
「……うん。ありがとう、アニス」
俺たちは12歳の誕生日の翌日に、村を出ることになった。村の人たちにもお世話になったし、別れを告げるべきじゃ無いかと思ったけど
「12の少年が女性のために村を出ると言ったら、お前ではなくアニスさんが責められる。皆には私からうまく言っておくから、誰にも内緒で行きなさい」
と父さんに言われた。
別れも告げずに村を去ることが少し罪悪感だったけど、アニスが悪く思われるよりはと、父さんの助言に従った。
アニスのことだから「ダメ。応じられない」と、すぐに断ると思ったけど
「……そう言うことなら、私も神父様と話して来る」
「えっ? 話すって何を?」
「君と私が一緒に居ることを、認めてもらえるように」
「えっ、本当に? 俺、アニスと一緒に居ていいの?」
目を丸くする俺に、アニスはなぜか少し泣きそうに微笑んで
「……だって君は絶対に諦めないんでしょう? どれだけ拒んでも諦めてくれないなら、もうこの方法しか無いから」
そう言い残すと、本当に父さんの部屋に向かった。俺はアニスが心配でついて行こうとしたけど
「大人同士の話だから。君は自分の部屋で待っていて」
と追い返された。
ずっと俺を拒んでいたアニスが、同行を許可してくれて、信じられないくらい嬉しい。
ただアニスだけで話しに行って、父さんと口論にならないか心配だった。
父さんは温厚で、女こどもに怒鳴り散らすような人じゃない。ただいくら父さんでも自分がずっと育てて来た子どもが、まだ12にもならないうちに家を出ようとするのは許せないだろう。
俺のしていることは非常識で不義理だと言う自覚はあった。でも常識や義理よりも、俺はアニスを大事にしたい。
(父さんにはたくさん恩があるのに、言うことを聞けなくてゴメン)
俺は多分アニスが言っても無駄だろうと考えていた。父さんが反対しても彼女が許してくれるなら、強引にでも家を出ようとも。
しかし結果は
「……アニスさんと話した。お前の好きなように生きなさい」
ただ今すぐ出て行くのは早すぎるから、少なくとも12の誕生日までは待つように言われた。
あっけなく許可された俺は、かえって驚いて
「いいの? 本当にアニスと行って。父さんの言うことを聞かなくて」
「父さんの言うことを聞けと言ったら聞くのか?」
父さんの問いに、無言で首を振ると
「ずっと素直で聞き分けのいい子だったのに、いつからそんなに頑固になったんだろうな」
父さんは苦笑しつつも
「アニスさんにも言われたが、いくら止めても、どうせお前は勝手に出て行くだろう。それなら、せめて誕生日までは、ここに居てくれ。お前を手放す心の準備をさせてくれ」
自分の我を通すために、父さんに折らせてしまった。覚悟していたつもりだったけど、やっぱり気がとがめて
「ゴメン、父さん。ずっと大切に育ててくれたのにワガママを言って。だけど俺には本当に、すごく大事なことなんだ。聖騎士にはならなくても、父さんをガッカリさせるような生き方はしないから許して」
「……今は何も言えない。明日また話そう」
父さんに背を向けられて、胸がズキッと痛んだ。
そんな俺の肩に、アニスは励ますように手を置くと
「大丈夫。すぐには受け入れられないだけで、君を嫌っているわけじゃないよ」
「情けないな、俺。何を捨てることになってもアニスと居ようと思ったのに。やっぱり父さんに嫌われるのは悲しいんだ……」
ついポロッと零してしまったけど、やっぱり子どもだと呆れられるかもしれない。
しかし俺の心配をよそに、アニスは真面目な顔で
「神父様は君の家族でしょう。簡単に捨てられるほうがおかしい。何も情けなくなんてない」
本人は気づいていないけど、アニスは自分に厳しい反面、他者には自然と深い思いやりを向ける。
俺はアニスの優しさに救われて
「……うん。ありがとう、アニス」
俺たちは12歳の誕生日の翌日に、村を出ることになった。村の人たちにもお世話になったし、別れを告げるべきじゃ無いかと思ったけど
「12の少年が女性のために村を出ると言ったら、お前ではなくアニスさんが責められる。皆には私からうまく言っておくから、誰にも内緒で行きなさい」
と父さんに言われた。
別れも告げずに村を去ることが少し罪悪感だったけど、アニスが悪く思われるよりはと、父さんの助言に従った。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
【R18】聖女の推しは少年騎士!
ドゴイエちまき
恋愛
聖女アンジェリカの推しは四つ歳下の騎士リオン。
人知れずこっそりリオンを推してきた彼女は、とある計画を思いつく。
推しと二人で仲良く気ままなのんびり旅!と思っていたけど……。
「俺は弟じゃなかったんですか?」
「私以外にそんな顔見せないで」
推しを愛でるアンジェリカと真面目でしっかり者な少年リオンの軽いラブコメです。(注おねショタおね)
全12話。
R18=★
異世界転移したら、推しのガチムチ騎士団長様の性癖が止まりません
冬見 六花
恋愛
旧題:ロングヘア=美人の世界にショートカットの私が転移したら推しのガチムチ騎士団長様の性癖が開花した件
異世界転移したアユミが行き着いた世界は、ロングヘアが美人とされている世界だった。
ショートカットのために醜女&珍獣扱いされたアユミを助けてくれたのはガチムチの騎士団長のウィルフレッド。
「…え、ちょっと待って。騎士団長めちゃくちゃドタイプなんですけど!」
でもこの世界ではとんでもないほどのブスの私を好きになってくれるわけない…。
それならイケメン騎士団長様の推し活に専念しますか!
―――――【筋肉フェチの推し活充女アユミ × アユミが現れて突如として自分の性癖が目覚めてしまったガチムチ騎士団長様】
そんな2人の山なし谷なしイチャイチャエッチラブコメ。
●ムーンライトノベルズで掲載していたものをより糖度高めに改稿してます。
●11/6本編完結しました。番外編はゆっくり投稿します。
●11/12番外編もすべて完結しました!
●ノーチェブックス様より書籍化します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる