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別れの足音

あっけないほど簡単に(カイル視点)

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 反省した俺は、すぐにアニスに父さんとの話し合いの内容を伝えに行った。もしかしたら数日中に、一緒に村を出ることになるかもしれないと。

 アニスのことだから「ダメ。応じられない」と、すぐに断ると思ったけど

「……そう言うことなら、私も神父様と話して来る」
「えっ? 話すって何を?」
「君と私が一緒に居ることを、認めてもらえるように」
「えっ、本当に? 俺、アニスと一緒に居ていいの?」

 目を丸くする俺に、アニスはなぜか少し泣きそうに微笑んで

「……だって君は絶対に諦めないんでしょう? どれだけ拒んでも諦めてくれないなら、もうこの方法しか無いから」

 そう言い残すと、本当に父さんの部屋に向かった。俺はアニスが心配でついて行こうとしたけど

「大人同士の話だから。君は自分の部屋で待っていて」

 と追い返された。

 ずっと俺を拒んでいたアニスが、同行を許可してくれて、信じられないくらい嬉しい。

 ただアニスだけで話しに行って、父さんと口論にならないか心配だった。

 父さんは温厚で、女こどもに怒鳴り散らすような人じゃない。ただいくら父さんでも自分がずっと育てて来た子どもが、まだ12にもならないうちに家を出ようとするのは許せないだろう。

 俺のしていることは非常識で不義理だと言う自覚はあった。でも常識や義理よりも、俺はアニスを大事にしたい。

(父さんにはたくさん恩があるのに、言うことを聞けなくてゴメン)

 俺は多分アニスが言っても無駄だろうと考えていた。父さんが反対しても彼女が許してくれるなら、強引にでも家を出ようとも。

 しかし結果は

「……アニスさんと話した。お前の好きなように生きなさい」

 ただ今すぐ出て行くのは早すぎるから、少なくとも12の誕生日までは待つように言われた。

 あっけなく許可された俺は、かえって驚いて

「いいの? 本当にアニスと行って。父さんの言うことを聞かなくて」
「父さんの言うことを聞けと言ったら聞くのか?」

 父さんの問いに、無言で首を振ると

「ずっと素直で聞き分けのいい子だったのに、いつからそんなに頑固になったんだろうな」

 父さんは苦笑しつつも

「アニスさんにも言われたが、いくら止めても、どうせお前は勝手に出て行くだろう。それなら、せめて誕生日までは、ここに居てくれ。お前を手放す心の準備をさせてくれ」

 自分の我を通すために、父さんに折らせてしまった。覚悟していたつもりだったけど、やっぱり気がとがめて

「ゴメン、父さん。ずっと大切に育ててくれたのにワガママを言って。だけど俺には本当に、すごく大事なことなんだ。聖騎士にはならなくても、父さんをガッカリさせるような生き方はしないから許して」
「……今は何も言えない。明日また話そう」

 父さんに背を向けられて、胸がズキッと痛んだ。

 そんな俺の肩に、アニスは励ますように手を置くと

「大丈夫。すぐには受け入れられないだけで、君を嫌っているわけじゃないよ」
「情けないな、俺。何を捨てることになってもアニスと居ようと思ったのに。やっぱり父さんに嫌われるのは悲しいんだ……」

 ついポロッと零してしまったけど、やっぱり子どもだと呆れられるかもしれない。

 しかし俺の心配をよそに、アニスは真面目な顔で

「神父様は君の家族でしょう。簡単に捨てられるほうがおかしい。何も情けなくなんてない」

 本人は気づいていないけど、アニスは自分に厳しい反面、他者には自然と深い思いやりを向ける。

 俺はアニスの優しさに救われて

「……うん。ありがとう、アニス」

 俺たちは12歳の誕生日の翌日に、村を出ることになった。村の人たちにもお世話になったし、別れを告げるべきじゃ無いかと思ったけど

「12の少年が女性のために村を出ると言ったら、お前ではなくアニスさんが責められる。皆には私からうまく言っておくから、誰にも内緒で行きなさい」

 と父さんに言われた。

 別れも告げずに村を去ることが少し罪悪感だったけど、アニスが悪く思われるよりはと、父さんの助言に従った。
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