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クォーツバード

忘却の魔法

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 彼らは状態異常対策をしていると言ったが、全ての状態異常を防ぐような高機能のアイテムは、一般にはほとんど出回っていない。

 神の御業みわざいにしえの人たちの知恵か、そういう高機能の装備品も存在する。しかし現代の技術では効果の異なる魔法を、1つの物質に同時に定着させることはできない。

 だから金で買えるような状態異常対策アイテムは、1つの症状しか予防できない。重ね付けするとしても2つが限度だ。

 さっき彼らに見せられたアクセサリーは明らかに新品だった。現代の技術で作られたなら、無効化できる状態異常は最大でも2つ。

 毒や麻痺や眠りと違い、魅了や石化を使うモンスターは稀だ。最初から魅了や石化を使うモンスターを退治しに行くつもりで無ければ、それを防ぐアクセサリーを付けている可能性は低い。

 だから眠りは防げても魅了は防げないだろうと言う読みが当たった。魔法学校の生徒なので、魔力の差によって防がれる可能性もあった。

 けれど闇魔法への抵抗力は、本人の精神状態にも左右される。

 彼らは女の裸に自然な興味を抱いた。半分落ちかかった状態で、魅了するのは容易い。

 ただし主犯の彼だけは意中の彼女が居るせいで私への興味が薄かったか、他の者たちよりも魔法抵抗が高かったのだろう。

 私は彼らが体勢を立て直す前に

「カイル。この人たちは私が抑えておくから、彼を気絶させて。そうしたら後は、私がなんとかするから」

 私の指示に、カイルはすぐに

「分かった!」

 と剣を構えた。領主の息子は馬鹿にした態度で

「何が「分かった」だ。1対1だからって俺が子どもなんかに負けるはず……」

 彼は見たところ18歳で、カイルは11歳だ。体格にもかなりの差がある。

 しかし前にも言ったとおり、膨大な魔力は肉体の優位を容易く覆すので

「流石にもう少し苦戦するかと思ったけど、君は本当に見た目に寄らないね」

 電光石火の早業で、あっという間に領主の息子を倒したカイルに声をかけると、彼はホッとした顔で

「このお兄さん、口だけでそんなに強くなくて良かった」

 カイルは弱いと感じたようだが、彼は恐らく魔法学校の中では平均的な強さだ。魔法が使える者自体が珍しいので、本来なら決して弱くない相手。

 ただしカイルは膨大な魔力を持っている上に日夜、元聖騎士の神父様を相手に修行している。だから学生程度は本気で相手にならないのだろう。可愛い顔して末恐ろしい少年だ。

 カイルは心配そうに、領主の息子を見下ろして

「でも勢いで倒しちゃって良かったのかな? この人、領主の息子だって。貴族に恥をかかせたら大変なことになるんじゃ」
「恥をかかせられたことを覚えていればね」
「覚えていればって?」

 私は気絶と魅了状態によって精神的に無防備になっている彼らに、以前カイルにもらったクォーツに溜めておいた魔力を使って

「『私たちとクォーツバードに関する記憶を全て忘れろ。辻褄つじつまが合わない部分が合っても、些細なことだと気にするな』」

 と暗示をかけて気絶させた。

 やがて自然に意識を取り戻した彼らは

「……はぇ? なんで俺たち、こんなところに?」
「しかも体中痛てぇ……」

 1人だけカイルと戦闘し、負傷している領主の息子のかたわらで、友人たちは首を傾げつつ

「武装もしているし、修行にでも来たのか?」

 当然ながら不可解そうにしていたが、違和感があっても気にするなとも命じてあった。そのおかげで仲間同士で詳しく話し合うこともなく「変だなぁ」と首を傾げつつ、去って行った。

 彼らが森から去った後。木々の陰に隠れていた私たちは

「すごい! アニス! 人の記憶を消しちゃうなんて!」
「消したんじゃなくて、思い出せなくしただけだよ」

 記憶は薄れたり埋もれたりして思い出せなくなることはあっても、完全に消えることは無い。ただ彼らには記憶の欠落に関して「気にするな」とも暗示をかけたので、まず思い出さないだろう。

「どっちにしてもすごいよ。ピィも良かったね、アニスが助けてくれて。ほら、アニスにお礼を言って」

 カイルが笑顔で指示すると、彼の光魔法で回復したピィは

「ピィ。ピィ」

 気持ち嬉しそうな声で、私に向かって鳴いた。
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