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クォーツバード

物と命

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 光属性は最も神に愛された属性だと言う。絶滅したはずのクォーツバードと出会い友だちになったことからも分かるように、直感に優れるだけじゃなく引きが強い。つまり強運だ。

 魔法アイテムに欠かせない素材としてクォーツは高値で売れる。つまり落ちていればみんな拾うのだから、目に見えて落ちていることは少ない。

 あったとしても人目を逃れるような小さな塊だ。しかしカイルは人が見落とした、そこそこの大きさのクォーツを発見してくれた。

 今日も家事や教会の仕事の手伝いの合間を縫って、カイルとクォーツを探しに来た。

 もうクォーツに溜めるほどの魔力は無い。しかしクォーツは、それ自体が高値で売れる。

 お金があれば元の生活に戻っても、前ほど無理せずに済む。カイルにどうやって別れを納得させるかは未定だが、お金はあるに越したことが無いので可能な限り集めていた。

 しかしクォーツを探して森を歩く途中。カイルがふと誰かに呼ばれたように顔を上げて、辺りを見渡した。

「カイル? どうしたの?」
「ピィが呼んでいる気がする」

 遠くを見るような眼差しで、森の一点に目を向けると

「行かなくちゃ!」

 突然走り出したカイルを、私も慌てて追いかける。

 私たちの体力差からして、本来ならあっという間に置いて行かれただろうが、幸い本格的に走り出す前に

「ピィ……」

 弱弱しい鳴き声をあげながら、ピィがよれよれと飛んで来た。

 カイルはピィを両手で受け止めると

「怪我している。誰にやられたの?」

 その問いに答えるように、ピィが飛んで来た方向から

「おい。その鳥を寄越せ。その鳥は俺たちのものだ」

 現われたのは18歳くらいの傲慢そうな少年たちだった。都会的な服装から、すぐにこの辺りの人間では無いことが分かった。

 カイルは謎の4人組に

「お兄さんたちは誰!? なんでピィを傷つけたの!?」
「ピィ? そいつはクォーツバードだ。愛玩用じゃなく、魔法アイテムのための素材だ」

 クォーツバードはとっくに絶滅したはずの種なので、一般の人はまず知らない。そんなクォーツバードを知る彼らは、魔法学校の生徒だそうだ。

 エリートを育てる魔法学校は都市部にある。

 その魔法学校の生徒が、なぜこんな辺鄙へんぴな村に居るかと言うと、リーダー格の少年がここら一帯の領主の息子らしい。

 その縁で去年、この森で魔法の練習をしていた彼は偶然ピィを見かけた。

 その時はクォーツバードだと知らなかったようだが、『生きる宝石』とも呼ばれる彼らは人の所有欲を刺激する姿をしている。

 だから領主の息子もその希少性を知らずとも欲しいと思い、去年もこの子を攻撃したようだ。

 しかしその時は準備不足ゆえに逃げられ、火の魔法により負傷したピィはカイルに助けられた。

 ピィを逃がした彼は、学校の友だちに話して希少さを知り、帰省ついでに本格的に捕獲しに来たそうだ。

 カイルはピィを両手で包むように庇いながら

「お金持ちならこんな小さな子を殺さなくても、魔法の装備でもアイテムでもいくらでも買えるでしょう。なんでピィを殺そうとするの?」

 カイルは知らないことだが、クォーツバードの価値は3億から10億だ。それだけ高価なら、貴族が動いても不思議は無いが

「コイツの好きな女を射止めるためさ」

 彼らの回答に、私はポカンとした。しかし彼らにとっては、とても素晴らしい計画らしく

「彼女は学園でもいちばんの美人で、しかも名家の娘だ。金を出せば買える在り来たりな贈りものはもらい慣れている」
「そこで伝説のクォーツバードの出番だ」
「今から100年ほど前。貴族は殺して空にしたクォーツバードに自分の魔力を込めて意中の相手に贈ったそうだ」

 その逸話いつわなら私も知っている。当時ただでさえ激減していたクォーツバードを、絶滅に追いやった最後の一因。

「小鳥の形をした透明な結晶の中で、愛する者の魔力の光が揺らめく。まさに心を込めた贈りものってヤツだ」
「どうだ? ロマンチックだろ? これなら必ず彼女も気に入る。だから俺にはその鳥が必要なんだ」

 彼らは得意げに笑いながら言った。女の気を引くために狩られる側の気持ちなど、まるで考えもせずに。

 彼らの素敵な思い付きに、カイルは敵意の表情で

「殺した動物を部屋に飾ることがロマンチック? そんなのロマンチックどころか悪趣味だよ。その人だって、きっと喜ばないよ」

 私もそう思うが残念ながら

「お前はガキだから、そう思うんだよ。女に限らず人間は希少で得難いものが好きなんだ。とっくに絶滅したはずの鳥を自分のものにできたら誰だって喜ぶさ」

 彼らの言うとおり、希少な小鳥をもらったら喜ぶ者のほうが多いだろう。だからこそクォーツバードは乱獲されたのだから。

「だいたいこの森はうちの領地だ。うちの領地にあるものは、うちの一族のものだ。人の家のものに勝手に名前を付けて、領主の一族から宝を奪おうとするお前のほうが悪なんだよ!」

 厳しく責め立てられてカイルは怯んだ。いくら強くても、カイルはただの村人だ。領主の息子に逆らえば、どんな罰を受けるか分からない。
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