記憶を奪って逃げた意味~死にたがり魔女は未来の聖騎士様の溺愛から逃れたい~

知見夜空

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急速に過保護になる子どもと完全拒絶お姉さん

優しい子どもと誤魔化す大人

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 当然ながら戸惑いを浮かべたカイル君に

「……ゴメン。気持ち悪いでしょう。化け物みたいだよね」
「そんなこと思ってないよ!」

 カイル君は強く否定してくれたが

「でも私は昨日、親切なフリをして君を食い物にしたんだ」

 膨大な魔力を持つこの子が、自分に性的な興味を抱いていると気付いた。

 相手は子どもだ。でも子どもだからこそ安全に精液を採取できると、してはいけないことをした。

 今さら反省して、善人ぶるつもりは無いけど

「君や神父様と違って、私は他人をそういう風にしか見られないんだ。使えるか使えないか。得になるかならないか。君に心配してもらうような価値は無いんだ」

 もう心配されないように、本当の私を教えると

「だからこれは受け取れないし、もう君の世話にもなれない」

 私の宣言に、カイル君は心配そうな顔で

「えっ? 世話になれないって、ここを出て行くってこと? でも、お金も無いのに、どうやって生活するの?」
「君が魔力をくれたおかげで、昨日のうちに商品を作れたから。それを売れば、もとの生活に戻れるよ」

 流石にこれほど急に出て行くつもりは無かったが、いい機会だと調理の火を消す。

 けれど台所を出ようとしたところで、カイル君に腕を掴まれて

「ダメだよ、そんなの。せっかく元気になったのに、もとの生活に戻ったら、きっとまたすぐに体を壊しちゃうよ」

 カイル君の言うとおり、今は豊富な魔力も遠からず失われ、私は以前の生活に戻る。

 この子と比べれば、並の男から取れる魔力なんて本当に僅かだ。

 カイル君なら一汲ひとくみで満ちるはいを、雨粒で満たそうとするようなもの。

 考えるだけで気が遠くなるけど

「……それくらいでいいんだよ。無駄に長生きするより、生きられるだけ生きて、早く死ねたほうが」

 私の返答に、カイル君はショックを受けたような顔で

「なんでそんな風に言うの? 死にたくなるような生活に、どうして戻ろうとするの?」
「……自分でも分からない」

 この件に関しては本で得た知識を語るように、整然とした説明はできなくて

「まだ死にたくないと思う自分と、もう消えたいと思う自分が居るんだ」

 ただありのままの心情を話すことしかできず

「だから故意に死ぬことは無いけど、人に迷惑をかけてまで長生きしたくないんだ」

 ずっと自分がなんで生きているのか分からなかった。でも今は終わりを求めているのかもしれないと思う。

 まだ死ねないともがく自分が、万策尽ばんさくつきて消え去ることを望んでいる。

「……せっかく助けてくれたのにゴメンね。最後まで君の厚意を無碍むげにして」

 一方的に別れを告げて、その場を去ろうとしたけど

「勝手に話を終わらせないで」

 カイル君は私の腕を強く掴むと、怒った顔でこちらを見て

「俺はまだ行っていいなんて言ってない」

 彼が本気で止めてくれているのは分かるけど

「悪いけど、君に私を止める権利は無いよ」
「分かっているよ。この村から出るというお姉さんを俺には止められない。力ずくで引き留めようとしても、きっと父さんや周りの人が反対する」
「じゃあ」

 しかしカイル君は、私の言葉を遮るように強い語調で

「でも、お姉さんをここに引き留めることはできなくても、俺がお姉さんについて行くことはできる」

 予想もしない発言に、私は「えっ?」とたじろぎながら

「どういうこと? ……もしかして私と村を出るって言っている?」
「うん」

 凛々しい顔で言い切るカイル君に、私はいよいよ狼狽えて

「いや「うん」じゃないから。神父様だってそんなワガママ許さないよ」
「父さんが反対しても関係ない! お姉さんが出て行く気なら、俺もついて行って、お姉さんを護る!」

 君、前に自分は聞き分けがよすぎて変だと言われるみたいなことで悩んでいなかったっけ?

 聞き分けがいいどころか、急に全力で物分かりが悪くなるカイル君に困惑しながら

「話を聞いて無かったの? 私は君に迷惑をかけてまで生きていたくなんか……」
「俺がお姉さんに生きていて欲しいんだよ!」

 カイル君は涙目で怒鳴った。

 弱った人を心配する気持ちは分かる。でも私なら自分の生活を壊してまで救おうとは思わない。

 それなのに、なぜカイル君がこんなに必死に私を止めようとするのか分からず

「……私が好きだからってこと? 昨日みたいなことがしたいなら、もう2年もすれば君ならいくらでも相手が」
「そういうことが目当てで、引き留めているんじゃない!」

 怒声とともにカイル君の目から大粒の涙が零れた。

 今までさんざん嫌な目に遭って来た。でもこんな火のような怒り方はされたことが無くて

「な、泣かないでよ……」

 たじろぎながら宥めるも、カイル君は余計に熱くなって

「お姉さんが馬鹿だから悪いんだ! どうして自分が大事な人だって分からないの!?」
「そんなことを言われても分からない……。君以外の人に大事だなんて言われたことが無い……」
「じゃあ、俺がこれから毎日言う。お姉さんがこの村を出ても、無理やりついて行って毎日言うから」

 カイル君は私に抱き着くと、肩に顔を埋めながら涙声で

「勝手に消えちゃわないで。独りにならないでよ……」

 火のような怒りは消えて、悲しみだけが残った。肩が濡れる感触で、カイル君が泣いていると分かった。

 無理に旅立っても、この子は本気でついて来そうだ。私は説得を諦めて

「分かった。もう少しだけ、ここに居るから」
「ほ、本当に? ここに残ってくれるの?」

 ぱっと上げた顔は、やっぱり真っ赤に泣き濡れていた。私は罪悪感を覚えながら

「うん。だからもう泣かないで」
「うん、ゴメンね。ワガママを言っちゃって」

 カイル君には悪いが、残ると言っても一時のことだ。いずれは去るつもりなので

「……いいよ。ワガママはお互い様だから」

 やや目を逸らしながら言うも、純粋なカイル君は何も気づかずに

「ううん。俺のほうがワガママだよ。でも俺のワガママを聞いてもらった代わりに、ここから出て行く以外のことは、なんでもしてあげるから。して欲しいことがあったら、なんでも言ってね」

 ニコニコと私を見上げる彼に

「別に君に頼みたいことは」

 遠慮しようとして、ふと思いつく。

「本当になんでも頼んでいいの?」
「うん、いいよ。俺にできることなら、なんでも言って」
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