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プロローグ・路地裏でゲロっていたら子どもに拾われた件

12も年下の少年に保護される私

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 この世界の人間には大なり小なり魔力がある。しかし魔法が使えるほどの魔力の持ち主はまれだ。

 逆に言えば、魔法が使えるほどの魔力があれば、人並み以上の暮らしができる。

 そんな世界で、私は魔法効果のあるアイテムを作って生活している。

 しかし私自身には、人並み以上どころか平均以下の魔力しかない。

 では、どうやって魔法のアイテムを作っているのか?

 この世界の生物は全て、地水火風に光と闇を加えた6属性に分類される。この属性は使える魔法の種類だけでなく、本人の性格や体質に影響する。

 私は闇属性で、他人の体液を魔力に変換できる。体液とは具体的には血や精液だ。しかし魔力を求めて他人から血液を奪えば傷害または殺人罪だ。

 だから闇属性の多くは、人を襲う犯罪者として世間を敵に回すか、人並み以下の魔力しか持たない無能として不遇の人生を送る。

 しかし男の闇属性と違って、女は精液なら合法的に入手できる。だから私も魔力を使う仕事をするために、まずは精液を集めていた。

 口淫だけで済めばいいが、女から声をかけると、大抵の男はそれ以上の行為を望む。そのせいで私は不本意ながら、夜の街に繰り出しては、名前も知らない男たちと一夜の関係を持ちまくっていた。

 今居るのは比較的大きな街なので油断したが、酒場でやった女の話でもするのか、私のことが噂になっていたようだ。タダで誰とでも寝る若い女が居ると。

 身持ちの悪い醜女しこめなら喜ぶと思ったのか、それとも単に身寄りの無い旅人だからか。性質たちの悪い男たちに捕まり、空き家に引きずり込まれて代わる代わる犯された。

 途中で気を失ったようで気付いたら朝。お前はゴミだと言わんばかりに、どこかの路地裏のゴミ溜めに捨てられていた。

 せめてもの情けか、剥ぎ取られた服もその場にあった。全裸で無いだけマシだが、精液まみれのゴミまみれで色々と最低だし、ついでに財布も盗まれた。

 嘆いたところで助けてくれる人は居ないので、ガタガタ言わずにまずは服を着る。

 よそ者が殺されても大して問題にならない世界で、殺されなかっただけ運が良かったと思うしかないが

「……うぇっ」

 生々しい凌辱の記憶と財布を奪われたショックに加え、喉の奥で絡む白濁はくだくの気持ち悪さが混然一体こんぜんいったいとなって襲いかかる。

 耐え切れずに吐いていると

「お姉さん、大丈夫!?」

 表通りから声をかけて来たのは、11歳くらいの男の子だった。

 ちょうど今降り注いでいる日差しのように眩しい金髪と、光に透ける若葉色の瞳。つるりとした白い肌。

 こんな不潔な路地裏には似つかわしくない、あまりの美少年ぶりに、一瞬天使がお迎えに来たのかと思った。

 しかしカイルと言う名のその子は、村のおじいさんの代わりに牛乳配達に来たそうだ。言われてみれば、村の子らしい簡素かんそな格好をしている。

 とは言えカイル君自身は、どこかの王族の落としだねだと言われたほうが納得できるような高貴な顔立ちだ。

 魔力の大小は外見や雰囲気にも影響する。これだけ目を引く容姿なら、きっと魔力にも恵まれているだろう。

 相手が子どもである以上に、カイル君の持つ恵まれた者特有の雰囲気が、薄汚れた私には居心地が悪くて

「心配してくれて、ありがとう。でも大丈夫だから」

 やんわり追い払おうとしたが、彼は心配そうな顔でこちらに歩み寄ると

「大丈夫な人は吐いたりしないよ。それに服が破れているし、すごく汚れているし」

 汚れを落とそうと思ったのか「このベタベタは何?」と、ためらいなく触れて来た。それが精液だとも知らずに。

「ダメだよ、触っちゃ。汚いから」

 咄嗟とっさに拒んだが、カイル君はかえって泣きそうな顔で、私にかかった白濁を自分の袖でグイグイと拭った。

 そんなことをしたって汚れは落ちない。自分まで汚れるだけなのに。

 しかもカイル君は一向に去らないどころか

「お姉さん、家はどこ? 俺、送って行くよ」

 送って行くよと言われても、旅人なので家は無い。昨日までは安宿に泊まっていたが、財布を奪われたせいで食事も宿泊もできない。

 どん詰まりの状況だが、子どもに頼れるはずがない。

 けれど色々あったせいで、私は極度に消耗していた。朦朧もうろうとする頭では受け答えだけで精いっぱいで、適当な誤魔化しは浮かばなかった。

 次々と質問するカイル君に、つい正直に家は無いと答えてしまった結果。


 私はカイル君が牛乳を積んで来た荷馬車に乗せられ、彼の村へ連れて行かれた。

 子どもが生き物を拾ったら、まず保護者に飼っていいか相談する。

 なので私もカイル君の保護者である教会の神父様に、まずは引き合わされた。

 神父様は聖職者の割にガタイのいい40代半ばの男性だった。まだ子どものカイル君と違い、大人が私の恰好を見れば、だいたいどんな目に遭ったか想像がつく。

 神父様は私を刺激しないように、あれこれ詮索せんさくはせず

「これまで大変だったでしょう。気持ちが落ち着くまで、いくらでも我が家で休んでください」

 と快く受け入れてくださった。

 ところでなんで私が荒んだ生活をしていたかって、この世界で闇属性は嫌悪と差別の対象だからだ。

 他人の血液や精液を魔力に変換するうえに、魔法の系統としても状態異常やステータスダウンなど、人を呪い弱め苦しめるものが多い。

 さらに魔力が高まれば、洗脳や暗示によって人を操れる。闇属性の私でさえ、それらの能力を脅威だと思う。

 だから6属性の中でも闇属性は異質で、最初から人では無いとする説もある。

 神が人に与えたのは地水火風に光の5属性で、闇は神意に反する悪魔の力だと。

 人並み以上の魔力を得て、闇属性の性質を表した者は、人ではなく吸血鬼や淫魔や悪魔のたぐいだと。

 私は自分を人間の夫婦から生まれた人間だと思っている。しかし闇属性については、学者の間ですら人間かそうでないかで意見が分かれている。

 だから私はなるべく自分のことを知られないように、人を避けて生きて来た。

 そんな私にとって、住人全員が顔見知りみたいな小さな村での暮らしは合わない。

 ただ今は財布を盗まれて無一文だし、これまでの生活に少々疲れた。

 だからまた白濁地獄に身を投じるだけの気力と資金が溜まるまで、カイル君親子に甘えさせてもらうことにした。
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