14 / 25
第四話・海水浴に行こう
助けては助けられて
しおりを挟む
しばらくは千堂の弟たちと、バシャバシャと水をかけ合って遊んでいた。しかし千堂は聖さんたちの様子も気にかけていたようで、
「ヤバい。聖たちが男に絡まれている」
千堂の視線の先を見ると、確かに聖さんと友人たちが、ガラの悪い男たち3人に絡まれていた。
千堂はなぜかバシッと僕の背中を叩くと、ビシッとビーチを指差して
「よし行け、白石!」
「なんで僕が!?」
「俺が行っても舐められるだけだろ? そのタッパと顔面力でアイツらを圧倒してやれ!」
釈然としないが、コイツを行かせるのは確かに危ない。かと言って女の子たちを放っておけるはずがないので、
「すみませんが、彼女たちは僕たちと海に来ているので、誘わないでくれませんか?」
声をかけると男たちは、あからさまに気分を害して
「なんだよ。いきなりしゃしゃり出て来やがって。この子たちの誰か、お前の彼女だって言うのか?」
「いや、僕の恋人ではありませんが」
「お前のものじゃないなら口を出す権利は無いだろ。お前は向こうでお友だちと遊んでいろよ。この子たちは俺たちが楽しませてやるからさ」
男は馴れ馴れしく聖さんの腰に手を回した。好きでもない相手に触れられることに、僕自身が強い嫌悪感を持っているので
「頭が悪いのか性格が悪いのか、どっちだ? この子たちは明らかに嫌がっているんだから、お前たちと行って楽しめるはずがないだろう」
もはや敬語も外れて遠慮なく敵意をぶつけると、
「あ、頭が悪いだって? ちょっと顔がいいからって粋がってんじゃねぇぞ!」
それが引き金になったように、男が殴りかかって来た。砂浜の上、ビーチサンダルであることを加味しても鈍い動作。サッと避けたついでに足をかけると、
「ぶわっ!?」
男は見事に砂浜に顔面から突っ込んだ。僕は残る2人の動きを警戒しつつ、
「粋がっているのはそっちだろう。これ以上は他の人たちにも迷惑だ。恥の上塗りをしたくなければ去れ」
強く警告すると男たちは
「く、クソ……」
「い、行こうぜ……」
不服そうにしながらも立ち去ってくれた。大事にならずに済んで良かったと、胸を撫でおろした瞬間。周囲から黄色い歓声が上がる。
「すごい! カッコいい! 白石さん!」
「相手は3人だったのに勇気があるんですね!」
「いや、別に大したことじゃ」
聖さんと友人2人は、ナンパから助けられたのだから喜んで当然かもしれない。しかし、その様子を遠目に見ていた無関係の女性たちまでが、
「あの、どこから来たんですか?」
「お名前はなんて?」
「もし良かったら一緒に遊びませんか?」
とゾロゾロ集まって来た。しかも海なので当たり前だが、全員が水着姿だ。女体に囲まれた僕は、以前ラブホテルに連れ込まれかけたトラウマが蘇り、思わず硬直した。その隙をつくように、女性が僕の腕を取ろうとした。
けれど、その手が触れる前に
「悪いね。コイツは俺の犬なんだ」
千堂はニコッと僕の腕を取ると、女性の輪から連れ出した。タイミング的には申し分なかったが、
「犬ってなんだ!? もっと他の言い回しは無かったのか!?」
女性から離れて元気に吠え出す僕に、千堂はいつもどおりケロッと笑って、
「普通に友だちって言ったんじゃ、「じゃあ、あなたも」って誘われるだけだろ。だからあえてヤバいヤツを装ってかく乱したの。実際に誰も付いて来なかっただろ?」
確かに同級生を犬扱いする男と、犬扱いされている男と知り合いたい女性は居ないだろう。不本意ながら納得すると、千堂は続けて
「それよりお前はすっかり女嫌いになっちまったみたいだけど、大丈夫か?」
「全然大丈夫じゃない……。あの手の女性は話しかけられるだけでグラグラする……」
「じゃあ、俺の服の裾でも握っとけ」
「どうして?」
「人見知りアピール。単独じゃ動けないんだと思えば、声をかけて来る女も減るだろ」
海に来る前は、僕で女性を釣るとか言っていたのに。千堂の配慮が僕には意外で
「せっかくの海なのに、僕で女性を集めなくていいのか?」
「今日はいかがわしいことは無しの約束だろ。それにいくらなんでも男にけしかけた直後に、女を釣るエサにはしねーよ」
千堂は僕の背中をポンと叩くと、
「それと聖たちを助けてくれて、ありがとな。カッコ良かったぜ、ヒーロー」
ヒーローなんて喜ばせであって本気じゃない。それが分かっていても、コイツに笑いかけられると嬉しくて、それこそ犬みたいに尻尾を振りたくなってしまう。その気持ちをどう扱うべきか分からず、僕は黙って千堂に言われたとおり、しばらくヤツの服の裾を握っていた。
「ヤバい。聖たちが男に絡まれている」
千堂の視線の先を見ると、確かに聖さんと友人たちが、ガラの悪い男たち3人に絡まれていた。
千堂はなぜかバシッと僕の背中を叩くと、ビシッとビーチを指差して
「よし行け、白石!」
「なんで僕が!?」
「俺が行っても舐められるだけだろ? そのタッパと顔面力でアイツらを圧倒してやれ!」
釈然としないが、コイツを行かせるのは確かに危ない。かと言って女の子たちを放っておけるはずがないので、
「すみませんが、彼女たちは僕たちと海に来ているので、誘わないでくれませんか?」
声をかけると男たちは、あからさまに気分を害して
「なんだよ。いきなりしゃしゃり出て来やがって。この子たちの誰か、お前の彼女だって言うのか?」
「いや、僕の恋人ではありませんが」
「お前のものじゃないなら口を出す権利は無いだろ。お前は向こうでお友だちと遊んでいろよ。この子たちは俺たちが楽しませてやるからさ」
男は馴れ馴れしく聖さんの腰に手を回した。好きでもない相手に触れられることに、僕自身が強い嫌悪感を持っているので
「頭が悪いのか性格が悪いのか、どっちだ? この子たちは明らかに嫌がっているんだから、お前たちと行って楽しめるはずがないだろう」
もはや敬語も外れて遠慮なく敵意をぶつけると、
「あ、頭が悪いだって? ちょっと顔がいいからって粋がってんじゃねぇぞ!」
それが引き金になったように、男が殴りかかって来た。砂浜の上、ビーチサンダルであることを加味しても鈍い動作。サッと避けたついでに足をかけると、
「ぶわっ!?」
男は見事に砂浜に顔面から突っ込んだ。僕は残る2人の動きを警戒しつつ、
「粋がっているのはそっちだろう。これ以上は他の人たちにも迷惑だ。恥の上塗りをしたくなければ去れ」
強く警告すると男たちは
「く、クソ……」
「い、行こうぜ……」
不服そうにしながらも立ち去ってくれた。大事にならずに済んで良かったと、胸を撫でおろした瞬間。周囲から黄色い歓声が上がる。
「すごい! カッコいい! 白石さん!」
「相手は3人だったのに勇気があるんですね!」
「いや、別に大したことじゃ」
聖さんと友人2人は、ナンパから助けられたのだから喜んで当然かもしれない。しかし、その様子を遠目に見ていた無関係の女性たちまでが、
「あの、どこから来たんですか?」
「お名前はなんて?」
「もし良かったら一緒に遊びませんか?」
とゾロゾロ集まって来た。しかも海なので当たり前だが、全員が水着姿だ。女体に囲まれた僕は、以前ラブホテルに連れ込まれかけたトラウマが蘇り、思わず硬直した。その隙をつくように、女性が僕の腕を取ろうとした。
けれど、その手が触れる前に
「悪いね。コイツは俺の犬なんだ」
千堂はニコッと僕の腕を取ると、女性の輪から連れ出した。タイミング的には申し分なかったが、
「犬ってなんだ!? もっと他の言い回しは無かったのか!?」
女性から離れて元気に吠え出す僕に、千堂はいつもどおりケロッと笑って、
「普通に友だちって言ったんじゃ、「じゃあ、あなたも」って誘われるだけだろ。だからあえてヤバいヤツを装ってかく乱したの。実際に誰も付いて来なかっただろ?」
確かに同級生を犬扱いする男と、犬扱いされている男と知り合いたい女性は居ないだろう。不本意ながら納得すると、千堂は続けて
「それよりお前はすっかり女嫌いになっちまったみたいだけど、大丈夫か?」
「全然大丈夫じゃない……。あの手の女性は話しかけられるだけでグラグラする……」
「じゃあ、俺の服の裾でも握っとけ」
「どうして?」
「人見知りアピール。単独じゃ動けないんだと思えば、声をかけて来る女も減るだろ」
海に来る前は、僕で女性を釣るとか言っていたのに。千堂の配慮が僕には意外で
「せっかくの海なのに、僕で女性を集めなくていいのか?」
「今日はいかがわしいことは無しの約束だろ。それにいくらなんでも男にけしかけた直後に、女を釣るエサにはしねーよ」
千堂は僕の背中をポンと叩くと、
「それと聖たちを助けてくれて、ありがとな。カッコ良かったぜ、ヒーロー」
ヒーローなんて喜ばせであって本気じゃない。それが分かっていても、コイツに笑いかけられると嬉しくて、それこそ犬みたいに尻尾を振りたくなってしまう。その気持ちをどう扱うべきか分からず、僕は黙って千堂に言われたとおり、しばらくヤツの服の裾を握っていた。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
ひとりで生きたいわけじゃない
秋野小窓
BL
『誰が君のことをこの世からいらないって言っても、俺には君が必要だよーー』
スパダリ系社会人×自己肯定感ゼロ大学生。
溺愛されてじわじわ攻略されていくお話です。完結しました。
8章まで→R18ページ少なめ。タイトル末尾に「*」を付けるので苦手な方は目印にしてください。
飛ばしてもストーリーに支障なくお読みいただけます。
9章から→予告なくいちゃつきます。
平凡腐男子なのに美形幼馴染に告白された
うた
BL
平凡受けが地雷な平凡腐男子が美形幼馴染に告白され、地雷と解釈違いに苦悩する話。
※作中で平凡受けが地雷だと散々書いていますが、作者本人は美形×平凡をこよなく愛しています。ご安心ください。
※pixivにも投稿しています
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
俺が勝手に好きな幼なじみに好きって十回言うゲームやらされて抱えてたクソでか感情が暴発した挙げ句、十一回目の好きが不発したクソな件。
かたらぎヨシノリ
BL
幼なじみにクソでか感情を抱く三人のアオハル劇場。
────────────────
────────────────
幼なじみ、美形×平凡、年上×年下、兄の親友×弟←兄、近親相姦、創作BL、オリジナルBL、複数攻3P、三角関係、愛撫
※以上の要素と軽度の性描写があります。
受
門脇かのん。もうすぐ16歳。高校生。黒髪平凡顔。ちびなのが気になる。短気で口悪い。最近情緒が乱高下気味ですぐ泣く。兄の親友の三好礼二に激重感情拗らせ10年。
攻
三好礼二。17歳。高校生。かのん弄りたのしい俺様王様三好様。顔がいい。目が死んでる。幼なじみ、しのぶの親友。
門脇しのぶ。17歳。高校生。かのん兄。チャラいイケメン。ブラコン。三好の親友。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる