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第二話・悪夢再び

俺以外には強いくせに(千堂視点)

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 自業自得と言われればそれまでだが、学校ではすっかり俺が白石の弱みを握って言いなりにしていると見られていた。俺は成績こそ悪いものの、愛嬌があるので意外と大人受けはいい。

 先生たちには「やんちゃなところはあるが、人をいじめるような子ではない」と信用されていた。問題はその他の生徒。無駄にハイスぺイケメンに成長した白石を言いなりにさせるネタを女子が欲するのは当然だし、女の子に

「ねぇねぇ、教えて」

 と甘い声で強請られるのは俺も満更じゃない。けれど俺のもとには他にも、

「お前、あのお坊ちゃんの弱みを握っているんだって? 俺たちにも教えろよ。アイツの家は金持ちなんだろ? 派手に金をふんだくろうぜ」

 家が大金持ちの白石は、恋愛対象としてだけじゃなく金づるとしても大人気だ。

 俺は自分よりガタイのいい男2人に絡まれつつも、顏には余裕の笑みを浮かべて

「何を勘違いしているか知らないけど、アイツと俺はただの友だちだよ。アイツは根っからのお坊ちゃんなんだから、強請れるようなヤバいネタなんか持ってないって」

 俺は自分が得する機会は逃さないし、人をおちょくって楽しむ傾向はある。そんな俺にとって弱点だらけの白石はいいカモだった。でもカモを絞め殺しかねない相手に手綱を譲るつもりはない。自分のせいで白石が不幸になったら寝覚めが悪い。自分はいいのかと思われそうだが、俺は生かさず殺さず弁えているからいいの。

 そんなわけで不良たちに追及されても秘密を守ろうとしたが、

「仮にネタが無いとしても、アイツがお前の言いなりなのは事実なんだろ? じゃあ、うまく言い包めて無理にでもネタを作れや……って、ぎゃんッ!?」

 暴力の気配を察知したので、先制攻撃で股間に膝蹴りを食らわせた。悶絶する不良Aに代わり、

「このっ! いきなり何しやがる!」

 不良Bが掴みかかって来たが、サッとかわしてダッシュで逃げる。体格には恵まれなかったが、すばしっこさは人並み以上だ。その場からさっさと逃走した。


 しかし体勢を立て直した不良が、すぐに追いかけて来た。思ったより足が速くて振り切れずに居たが、

「白石ぃぃ!」
「うわぁっ!?」

 前方に白石を発見して、そのまま背中に突っ込んだ。普通なら押し倒されてもおかしくないが、子どもの頃から鍛えている白石はグッと踏みとどまると

「いきなりなんだ!? 危ないだろう!」
「ヤバいヤツらに絡まれているんだ! 助けてくれ!」

 俺の要請に白石は目を見張った。アイツが口を開く前に、不良2人が追いついて、

「おい! ソイツをこっちに引き渡せ!」

 俺が股間を蹴ったせいだけど、ヤバいくらいブチギレてら。普通の人間でも、怒気を発していれば怖いものだ。見るからに不良っぽい男たちの怒気に晒されたら、普通は逃げ出したくなるが、

「コイツになんの用だ?」

 白石は俺を背中に庇いながら、男たちに毅然と聞き返した。取りあえず、すぐさま引き渡す気は無いようで安心したが、

「ソイツがいきなり俺の股間を蹴りやがったんだよ。落とし前を付けさせなきゃいけないから渡せよ」

 当たり前だが、相手は自分に都合のいい部分だけを言う。白石の中で俺の素行は最悪だろう。こりゃ急いで弁解しないとヤバいなと口を開きかけたが、意外にも白石は

「コイツは酷い男だが、理由もなく暴力は振るわんぞ。そちらの一方的な言い分だけで、引き渡すことはできん」

 現在進行形で俺に扱き使われている癖に、そこまでの無法者じゃないと信じているようだ。ただ股間を蹴られたのは事実なので、向こうも簡単には引いてくれず、

「うだうだ言ってないで、お坊ちゃんは大人しく言うことを聞いときゃいいんだよ! 怪我したくなかったらよぉ!」

 男たちはカッとなって、白石の胸倉を掴もうとしたが

「って」

 その腕を逆に白石に取られて

「痛だだだだだだだ!? やめろやめろやめろ!」

 ギリギリと捻り上げられて悶絶した。白石は静かな怒気を発しながら、

「痛い目に遭いたくなければ、お前たちこそ引き下がれ。お前たちに舐められるほど僕は弱くないぞ」
「くっ……このゴリラめ!」

 不良はバッと手を振り払うと、

「ちょっと強いからって、いい気になるなよ!」

 小物丸出しの捨て台詞を吐いて、相棒とともに走り去った。王子を目指している白石は、突然のゴリラ呼ばわりにカッとなって、

「なんだゴリラって!? 僕のどこがゴリラなんだ!?」
「ゴリラ並みの握力ってことじゃない?」

 憤慨する白石に笑いながら声をかけると、アイツは不可解そうに俺を振り返って

「それでお前は、なんでアイツラに追われていたんだ?」
「お前から金をふんだくりたいから、俺の握っているネタを寄こせってさ」

 俺の返事に、白石は信じられないとばかりに目を丸くして、

「えっ? 僕がお前に脅されていると知って、さらに脅してやろうと近づいて来たのか? ハイエナみたいな連中だな。類は友を呼ぶってこういうことか」

 ナチュラルに失礼なことを言う白石に、俺は軽くムッとして

「それは俺もハイエナみたいってことか? 俺は一応お前の秘密を守ってやったんだぞ?」
「お前が僕を脅しているせいで目を付けられたのに、恩に着せるのはおかしい」
「確かにお前の言うとおりだ。でも俺はこれからも、お前を利用する気満々だから、一蓮托生ってことで襲われたら、また助けてくれ」
「お前がいちばん性質が悪い……」

 白石はジト目でぼやいたが、そこには不良に向けたような本気の嫌悪は無かった。惚れた弱みが多少は残っているのか、コイツは俺が男だと分かってからも、どこか態度が許している。だから安心して付け込んじゃうんだよな。

 モンスターや英雄を指揮するゲームが流行っているが、自分より上位の存在を従えることに、人は愉悦を感じるらしい。白石には迷惑だろうが、単純な損得以外にスペックだけなら最上級のコイツが、俺の言動に振り回されること自体が面白かった。

 流石に卒業後もしつこく絡んだりはしないから、同じ学校に通っている間くらいは遊ばせてもらおう。
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