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エピローグ・眩しい日々の後で

最終話・果たされた約束

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 本物の騎士王と主の伝説と違い、私たちが作り直したゲームは私か由羽ちゃんから主人公を選べる。律子編を選んでも由羽編を選んでも、お互いがお助けキャラとして出て来る。選択肢による分岐などはなく、私を選べばユエルと、由羽ちゃんを選べば風丸と歩んだ道が再生される。

 18禁要素はお互いに相手に知られるのが恥ずかしいので省いた。結末をどうするか少し悩んだ。お互いに最愛の人と別れて終わるのは悲しすぎる。だからって有りもしない幸福な日々を描くのは、実在する彼らをオモチャにするようでけっきょくできず。

 由羽編はネフィロスを警戒して送り帰したところで。律子編はユエルの背中を押して、自分だけ元の世界に戻ったところで終わる。

 エンディングは日常に戻った私たちが再会して、このゲームを作ると決めるという、本当にただ記憶を保存するための作品になった。

 彼らの存在を嘘にしないように形にして留めておくという意味では、これで正解なのだろう。私と由羽ちゃん以外は誰もプレイすることのないゲームなのだから、幸せな終わりでなくとも真実であれば十分だ。

 18禁要素と選択肢によるルート分岐などを省いたお陰で、それほど大ボリュームにはならず半年ほどでゲームは完成した。

 まず私がプレイして不具合をチェックしたのち、由羽ちゃんに完成品を渡すことになっていた。しかしゲームをはじめた瞬間。つけっ放しになっていた指輪が突如発光した。まるで送還の光に包まれた時のように、緑色の光が私の身体を包む。


 次に気づいた時には夜の自室から、真昼の光差し込む中世ヨーロッパの聖堂のような場所に移動していた。既視感を覚えたのは、映画や写真で見たからではない。私は実際に、ここに来たことがあった。

『王家の人間はここで結婚するんです』

 かつてユエルに連れられて指輪をもらった場所。

 そこで私は

「マスター?」

 聞き覚えのない男性の声に振り返る。そこに居たのは、白い髪に空色の目をした背の高い青年だった。明らかにユエルではない年齢と大きさ。それなのに顔立ちや雰囲気がどことなく彼に似ていた。何より私をマスターと呼ぶのは彼しかいないと

「もしかしてユエルなの?」

 半信半疑で名前を呼ぶと、彼は端正な顔を泣きそうに歪ませて

「……また会えるなんて夢みたいだ。もう絶対に会えないと思っていたのに」

 突然の再会にユエルは感極まった様子だが、私は驚きと疑問のほうが大きくて

「どうして会えたんだろう? 君が召喚したわけじゃないよね?」

 この世界には人為的な召喚術は無いはずだと尋ねると

「もしかすると、この指輪の力かもしれません。マスターが来る前に光っていたから」

 確かに私の指輪もここに来る前に、これでもかと光っていた。恐らくそれは

「僕があなたを想い続けると言う誓願を果たしたから、10年後に結婚するという誓いを守らせるべく、指輪があなたをここに呼んだのかもしれません」
「じゃあ、ここはあれから10年後の世界なの?」

 指輪をくれた時、ユエルは14歳になっていたから、今ここに居る彼は24歳ということか。道理で大きくなっているはずだと納得した。でもここが10年後の世界だとしたら

「……あれから10年も経っているのに、君はまだ私を想ってくれていたの?」

 10年の間には、たくさんの出会いと出来事があったはずだ。人の記憶はいつでも今がいちばん鮮明で、古くなるほどぼやけていく。どれだけ誠実に約束を守ろうとしたって、想いの風化は止められないはずなのに。

 気持ちを疑われていると思ったのか、ユエルは少し怒った顔で

「あの時、誓ったはずです。あなたのためだけには生きられないけど、女性として愛するのは生涯あなただけだと。でもそれは約束だからじゃなくて……ただ、どうしようもなくあなたなんです」

 ユエルは自分でも、どう言葉にしたらいいのか分からない様子で

「二度と会えなくても触れられなくても、誰より僕を大事にしてくれたあなたを、ずっと想っていたかった」

 私に向けてというよりは独り言のような呟き。でも彼が口にした想いは

「……両想いって、こういうことかな。私も離れている間、ずっと同じことを思っていた。君と違って私は半年だけど、二度と会えなくても、ずっと君を想っていたかった」

 彼は離れても薄れることなく、私と同じ気持ちを持ち続けてくれた。その大きすぎる喜びに、目には自然と涙が滲んだ。私の発言に、ユエルはなぜか驚いて

「マスターも同じ気持ちなんですか? 僕はあなたをさんざん傷つけて、あなたが危惧していたとおり、あなたを手放したのに」

 ネフィロスに操られて私を攻撃したことや、魔王の封印を優先して私を送還したことを、どうやら気に病んでいたらしいが

「やっぱり10年も経つと記憶が歪むみたいだね。あの時、私は君の背中を押したつもりだよ。捨てられたわけじゃないのに恨むはずがない」

 私はユエルに一歩近づくと、少し背伸びして腕を伸ばして

「約束を守ってくれて、ありがとう。よくがんばったね」

 今は私よりずっと高いところにある頭を撫でた。

「……マスター」

 ユエルは声を震わせると、弾かれたように私を抱きしめて

「あなたが居なくて寂しかった。ずっとあなたに会いたかった。お願いですから、もうどこにも行かないで。ずっと傍に居てください」

 その切実な声音を聞いたら、私もずっと堪えていた寂しさが込み上げた。以前とは比べ物にならないほど、逞しくなった体に腕を回すと

「お願いするのはこっちのほうだよ。お願いだから、二度と離さないで。今度は最後まで傍に居させて」

 私たちは泣きながら、お互いを強く抱きしめ合った。もう二度と何があっても、引き裂かれることのないように。
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