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エピローグ・眩しい日々の後で
由羽ちゃんとの再会
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あれから私は無事に元の世界へ戻った。あの世界での私はダウン寸前だったが、まるで全てがリセットされたように時間も場所も1年前に戻っていた。私は自分の部屋で、パジャマ姿で、これから『騎士王と主の伝説』をプレイするところだった。
しかしパソコンの中に『騎士王と主の伝説』のデータは無かった。それどころかマイナーではあっても、同人ゲームとしてこの世に存在していたはずの『騎士伝』は、ネット上からも消えてしまった。私や由羽ちゃんのアカウントも無くなっている。
夢でも見ていたのかと疑うが、私の左手の薬指にはユエルからもらった指輪が光っている。これだけが、あの世界が本当に存在するという証。そして色が使用中を示す緑のまま変わらないと言うことは、私が約束を交わした人は、ユエルはまだ生きているはず。
けれど、これすら『自分で買った指輪を証拠と思い込んでいるだけ』みたいな目の前の現実とのすり合わせによって、いつか曖昧になって消えて行くかもしれない。
……由羽ちゃんに会いたい。夢じゃなかったと確認したい。
しかし由羽ちゃんと交流していたアカウントは消えてしまった。
どうやって彼女と連絡を取ろうと頭を悩ませていたが、数日後。『騎士王と主の伝説』で検索をかけ続けていたら、1件だけヒットした。由羽ちゃんがアカウントを作り直し、再び『騎士伝』のイラストを投稿していたのだ。
二度と会えなくても、風丸の絵を描き続けるんだね。流石『風丸は我が命』。
離れても変わらない由羽ちゃんの風丸愛にホロリとしつつ、私もアカウントを作り直して、すぐに彼女とコンタクトを取った。
以前はネットだけの付き合いだったが、流石に今回はリアルで会うことになった。
由羽ちゃんの地元の駅で待ち合わせた私たちは
「律子さん!」
「由羽ちゃん」
私の姿を見つけた由羽ちゃんは小走りに近づいて
「どうして律子さんまでこっちに? ユエル君と向こうに残るはずだったんじゃ」
「……どこかに入って話そう。少し長くなるから」
それから私たちは、駅近くの喫茶店に入った。適当に飲みものを頼むと、私は由羽ちゃんが帰ってからの出来事を話した。
やはりネフィロスが妨害に現れたこと。ユエルが操られて、魔王と戦う前に多大な消耗を強いられたこと。ネフィロスは倒したものの、私と風丸は戦闘不能になったこと。
そこに追い打ちをかけるように、ネフィロスの魔属性の力に共鳴したらしい魔王が一気に覚醒して、ダンジョン内のモンスターが凶暴化した。
最終的にユエルだけで魔王を封印しに行き、もう戦えない私と風丸はその場に残ることになった。けれどユエルが転移石を使って、私だけ元の世界に送り返してくれた。
全てを話し終えた私は最後に
「……ゴメン。風丸を助けられなくて」
他にどうしようも無かったとは言え、私は魔王の再封印のために風丸を切り捨てた。そのくせ自分だけは元の世界に逃げ延びた。どれだけ責められても仕方ない所業だと、ただ謝罪する私に
「律子さんは風丸が死ぬところを見たんですか?」
いつもほがらかな由羽ちゃんには珍しく、少し硬い声で問われた私は
「いや……私が居る間は無事だったけど、その後どうなったかは分からないから」
風丸の死亡を確認してないのもあるが、あんなに彼を愛していた由羽ちゃんに「風丸は死んだ」とは言えなかった。気まずく言葉を濁す私に由羽ちゃんは
「風丸は無事ですよ」
なんでこの状況でそんなことが言えるのか、由羽ちゃんは確かな声音で
「風丸は強いですし、律子さんたちを護るだけじゃなくて、自分も無事で居ると約束してくれましたから。絶対に大丈夫です」
それは現実を無視して、都合のいい幻想を信じようとする逃避ではなく
「だから律子さんもユエル君を信じてあげてください。2人とも絶対に無事ですから。彼らが私たちとの約束を破るはずがありませんから」
どんな時も愛する人を信じようとする由羽ちゃんの意志だった。
彼女の気持ちに心を打たれた私は
「由羽ちゃん……そうだね。好きな人のことは信じなきゃダメだ」
彼女の手に自分の手を重ねると
「私も信じるよ。ユエルは魔王に勝って皆を護り、風丸は由羽ちゃんとの約束を守って、絶対に無事で居るって」
揺らいでしまいそうな時こそ、大切な人たちを堅く信じ抜こうと、私と由羽ちゃんは強く誓い合った。
しかしパソコンの中に『騎士王と主の伝説』のデータは無かった。それどころかマイナーではあっても、同人ゲームとしてこの世に存在していたはずの『騎士伝』は、ネット上からも消えてしまった。私や由羽ちゃんのアカウントも無くなっている。
夢でも見ていたのかと疑うが、私の左手の薬指にはユエルからもらった指輪が光っている。これだけが、あの世界が本当に存在するという証。そして色が使用中を示す緑のまま変わらないと言うことは、私が約束を交わした人は、ユエルはまだ生きているはず。
けれど、これすら『自分で買った指輪を証拠と思い込んでいるだけ』みたいな目の前の現実とのすり合わせによって、いつか曖昧になって消えて行くかもしれない。
……由羽ちゃんに会いたい。夢じゃなかったと確認したい。
しかし由羽ちゃんと交流していたアカウントは消えてしまった。
どうやって彼女と連絡を取ろうと頭を悩ませていたが、数日後。『騎士王と主の伝説』で検索をかけ続けていたら、1件だけヒットした。由羽ちゃんがアカウントを作り直し、再び『騎士伝』のイラストを投稿していたのだ。
二度と会えなくても、風丸の絵を描き続けるんだね。流石『風丸は我が命』。
離れても変わらない由羽ちゃんの風丸愛にホロリとしつつ、私もアカウントを作り直して、すぐに彼女とコンタクトを取った。
以前はネットだけの付き合いだったが、流石に今回はリアルで会うことになった。
由羽ちゃんの地元の駅で待ち合わせた私たちは
「律子さん!」
「由羽ちゃん」
私の姿を見つけた由羽ちゃんは小走りに近づいて
「どうして律子さんまでこっちに? ユエル君と向こうに残るはずだったんじゃ」
「……どこかに入って話そう。少し長くなるから」
それから私たちは、駅近くの喫茶店に入った。適当に飲みものを頼むと、私は由羽ちゃんが帰ってからの出来事を話した。
やはりネフィロスが妨害に現れたこと。ユエルが操られて、魔王と戦う前に多大な消耗を強いられたこと。ネフィロスは倒したものの、私と風丸は戦闘不能になったこと。
そこに追い打ちをかけるように、ネフィロスの魔属性の力に共鳴したらしい魔王が一気に覚醒して、ダンジョン内のモンスターが凶暴化した。
最終的にユエルだけで魔王を封印しに行き、もう戦えない私と風丸はその場に残ることになった。けれどユエルが転移石を使って、私だけ元の世界に送り返してくれた。
全てを話し終えた私は最後に
「……ゴメン。風丸を助けられなくて」
他にどうしようも無かったとは言え、私は魔王の再封印のために風丸を切り捨てた。そのくせ自分だけは元の世界に逃げ延びた。どれだけ責められても仕方ない所業だと、ただ謝罪する私に
「律子さんは風丸が死ぬところを見たんですか?」
いつもほがらかな由羽ちゃんには珍しく、少し硬い声で問われた私は
「いや……私が居る間は無事だったけど、その後どうなったかは分からないから」
風丸の死亡を確認してないのもあるが、あんなに彼を愛していた由羽ちゃんに「風丸は死んだ」とは言えなかった。気まずく言葉を濁す私に由羽ちゃんは
「風丸は無事ですよ」
なんでこの状況でそんなことが言えるのか、由羽ちゃんは確かな声音で
「風丸は強いですし、律子さんたちを護るだけじゃなくて、自分も無事で居ると約束してくれましたから。絶対に大丈夫です」
それは現実を無視して、都合のいい幻想を信じようとする逃避ではなく
「だから律子さんもユエル君を信じてあげてください。2人とも絶対に無事ですから。彼らが私たちとの約束を破るはずがありませんから」
どんな時も愛する人を信じようとする由羽ちゃんの意志だった。
彼女の気持ちに心を打たれた私は
「由羽ちゃん……そうだね。好きな人のことは信じなきゃダメだ」
彼女の手に自分の手を重ねると
「私も信じるよ。ユエルは魔王に勝って皆を護り、風丸は由羽ちゃんとの約束を守って、絶対に無事で居るって」
揺らいでしまいそうな時こそ、大切な人たちを堅く信じ抜こうと、私と由羽ちゃんは強く誓い合った。
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