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第11話・さよなら由羽ちゃん
幸福な結末なんて
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風丸は由羽ちゃんが去る前に、彼女から借りていた一角獣の腕輪を外すと
「……元の世界に戻る前に、これを返すよ」
貴重な装備品だけあって、外せば大幅にステータスダウンする。ただその腕輪は由羽ちゃんが、神秘の森のユニコーンから友情の印としてもらったものだ。単なる装備品ではなく由羽ちゃんの宝物なので、二度と会えなくなる前に返そうとしたようだが
「それは風丸が持っていてください」
「でもこれはアンタが、あの馬にもらったもんだろ」
遠慮する風丸に、由羽ちゃんは笑顔で首を振ると
「ユニちゃんには、もう許可をもらったので大丈夫です」
風丸が外した腕輪を、自分の手で彼に付けてあげながら
「元の世界に持ち帰って、たまに綺麗だなと眺めるより、ここで私の大事な人を護って欲しい。そういう使い方をしたいと言ったら、納得してくれました」
たった今、恋愛関係を否定されたばかりなのに、変わらぬ愛情を風丸に示すと
「……だから風丸。これをあげる代わりというわけじゃないんですが、1つだけいいですか?」
「なんだい?」
「皆を護って。あなたも絶対に無事で居てください」
由羽ちゃんの言葉に、風丸はわずかに肩を震わせると深く俯いて「……分かった」と言葉少なに約束した。
その様子を見届けたユエルは
「……では相楽さんを元の世界へお帰しします」
送還の光に包まれた由羽ちゃんは、私を見て最後に
(やっぱりダメでした)
と言うように眉を下げてへにゃっと笑うと、バイバイの代わりに小さく手を振った。
由羽ちゃんが居なくなった後。地面の上にポトリと何かが落ちた。最初にそれに気付いたのは風丸で
「なんだ? これ……羽飾り?」
「由羽ちゃんの落とし物かな?」
彼の手の中に、純白の羽飾りが見えた。羽と軸の繋ぎ目の部分が金と緑色の宝石で装飾されており、とても綺麗だ。由羽ちゃんはエバーシュタインさんと違って、自分のためのものはほとんど買わなかったから、誰かからのもらいものかな?
ふと顔を上げると
「って、風丸。泣いているの?」
指摘された瞬間、彼はサッと顔を逸らした。でも顔を見せられないってことは、それが真実ということだ。
「……あなたはやっぱり由羽ちゃんが好きだったんじゃないの? じゃなきゃどうして、あの子が居なくなって、力の影響が消えたのに泣いているの?」
「仮にこの気持ちが本物だとしても、俺はマスターちゃんとは行けねぇよ」
「どうして?」
私の質問に、風丸はしばし沈黙したが
「……アンタとユエルには話してもいいか」
彼はおもむろに、いつも首に巻いていたストールを外した。露になった首には
「な、何? その痣?」
風丸の首には縄のような赤黒い痕が幾重にも巻き付いていた。一目で不吉さを感じさせるそれにユエルは
「呪いですか? それもかなり強力な」
「そう。俺はこの呪いのせいで、一生自由になれないのさ」
風丸によれば、彼の里では忍の長が、呪いで下忍を縛っているのだと言う。
「術者を殺そうとすれば死ぬ。命令に逆らっても死ぬ。定期的に呪いをかけ直さなければ死ぬ。だからどこにも逃げられない。異世界なんてもってのほかさ」
どれだけ由羽ちゃんが繰り返しても、風丸のトゥルーエンドにたどり着けないわけがようやく分かった。好感度の問題じゃない。彼には最初から無かったんだ。相手が誰だろうと、1人の人間として幸福に生きる結末なんて。
風丸が密かに背負っていた宿命を知った私は
「ユエル。ユエルはこの呪いを、なんとかできないの?」
「待ってください……」
呪いは魔属性の力だ。だとすれば反対属性のユエルなら、なんとかできるのではないかと思ったが
「術者の魔力を妨害して、呪いを発動させないことはできるかもしれません。でもそれには僕が定期的に、守護の魔法をかけ直す必要がある。だとしたら、やはりこの世界から出ることは……」
できないとは言えず、言葉を濁すユエルに
「そんな深刻な顏すんなよ。アンタらが俺のために気を揉む必要は無い」
風丸は素っ気なく言うと、由羽ちゃんが落とした羽飾りに目を落として
「……本来なら存在しないはずの幸せを数か月も味わえたんだ。十分すぎるほど恵まれているよ。使い捨ての下忍にしてはね」
手放した彼女を偲ぶように、手の中のそれを握りしめた。
「……元の世界に戻る前に、これを返すよ」
貴重な装備品だけあって、外せば大幅にステータスダウンする。ただその腕輪は由羽ちゃんが、神秘の森のユニコーンから友情の印としてもらったものだ。単なる装備品ではなく由羽ちゃんの宝物なので、二度と会えなくなる前に返そうとしたようだが
「それは風丸が持っていてください」
「でもこれはアンタが、あの馬にもらったもんだろ」
遠慮する風丸に、由羽ちゃんは笑顔で首を振ると
「ユニちゃんには、もう許可をもらったので大丈夫です」
風丸が外した腕輪を、自分の手で彼に付けてあげながら
「元の世界に持ち帰って、たまに綺麗だなと眺めるより、ここで私の大事な人を護って欲しい。そういう使い方をしたいと言ったら、納得してくれました」
たった今、恋愛関係を否定されたばかりなのに、変わらぬ愛情を風丸に示すと
「……だから風丸。これをあげる代わりというわけじゃないんですが、1つだけいいですか?」
「なんだい?」
「皆を護って。あなたも絶対に無事で居てください」
由羽ちゃんの言葉に、風丸はわずかに肩を震わせると深く俯いて「……分かった」と言葉少なに約束した。
その様子を見届けたユエルは
「……では相楽さんを元の世界へお帰しします」
送還の光に包まれた由羽ちゃんは、私を見て最後に
(やっぱりダメでした)
と言うように眉を下げてへにゃっと笑うと、バイバイの代わりに小さく手を振った。
由羽ちゃんが居なくなった後。地面の上にポトリと何かが落ちた。最初にそれに気付いたのは風丸で
「なんだ? これ……羽飾り?」
「由羽ちゃんの落とし物かな?」
彼の手の中に、純白の羽飾りが見えた。羽と軸の繋ぎ目の部分が金と緑色の宝石で装飾されており、とても綺麗だ。由羽ちゃんはエバーシュタインさんと違って、自分のためのものはほとんど買わなかったから、誰かからのもらいものかな?
ふと顔を上げると
「って、風丸。泣いているの?」
指摘された瞬間、彼はサッと顔を逸らした。でも顔を見せられないってことは、それが真実ということだ。
「……あなたはやっぱり由羽ちゃんが好きだったんじゃないの? じゃなきゃどうして、あの子が居なくなって、力の影響が消えたのに泣いているの?」
「仮にこの気持ちが本物だとしても、俺はマスターちゃんとは行けねぇよ」
「どうして?」
私の質問に、風丸はしばし沈黙したが
「……アンタとユエルには話してもいいか」
彼はおもむろに、いつも首に巻いていたストールを外した。露になった首には
「な、何? その痣?」
風丸の首には縄のような赤黒い痕が幾重にも巻き付いていた。一目で不吉さを感じさせるそれにユエルは
「呪いですか? それもかなり強力な」
「そう。俺はこの呪いのせいで、一生自由になれないのさ」
風丸によれば、彼の里では忍の長が、呪いで下忍を縛っているのだと言う。
「術者を殺そうとすれば死ぬ。命令に逆らっても死ぬ。定期的に呪いをかけ直さなければ死ぬ。だからどこにも逃げられない。異世界なんてもってのほかさ」
どれだけ由羽ちゃんが繰り返しても、風丸のトゥルーエンドにたどり着けないわけがようやく分かった。好感度の問題じゃない。彼には最初から無かったんだ。相手が誰だろうと、1人の人間として幸福に生きる結末なんて。
風丸が密かに背負っていた宿命を知った私は
「ユエル。ユエルはこの呪いを、なんとかできないの?」
「待ってください……」
呪いは魔属性の力だ。だとすれば反対属性のユエルなら、なんとかできるのではないかと思ったが
「術者の魔力を妨害して、呪いを発動させないことはできるかもしれません。でもそれには僕が定期的に、守護の魔法をかけ直す必要がある。だとしたら、やはりこの世界から出ることは……」
できないとは言えず、言葉を濁すユエルに
「そんな深刻な顏すんなよ。アンタらが俺のために気を揉む必要は無い」
風丸は素っ気なく言うと、由羽ちゃんが落とした羽飾りに目を落として
「……本来なら存在しないはずの幸せを数か月も味わえたんだ。十分すぎるほど恵まれているよ。使い捨ての下忍にしてはね」
手放した彼女を偲ぶように、手の中のそれを握りしめた。
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