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第10話・波乱
暗転する物語
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ユエルに支援を任せて私が火属性の魔法でカイゼルを、風属性の風丸がクレイグを攻撃する。なんとかカイゼルとクレイグを倒すと
「これだけお膳立てしても勝てないとは嘆かわしい。人質を取って脅すなんて短絡的な真似はしたくないのですが、やむを得ませんね」
ネフィロスは敗北した仲間たちを冷笑すると、腕の中にいる由羽ちゃんの首に改めてナイフを突きつけて
「この子を殺されたくなければ、動かないでください」
私たち全員の動きを封じた。さらにネフィロスは、私たちの目の前でカイゼルとクレイグの魂を奪った。
「どうして、その2人の魂まで。仲間じゃなかったの?」
私の質問に、ネフィロスはあざけりの笑みを浮かべて
「この2人が仲間? 私に仲間は居ません。目的のために、ただ利用しただけです。そしてこの魂も利用価値があるのでいただいていきます」
ネフィロスがくいと指を曲げると、カイゼルとクレイグの魂は彼のもとに吸い寄せられた。アルゼリオの魂を取り返すどころか、新たに2人の魂を奪われてしまった。さらにネフィロスの腕の中には
「しかし相楽さんはこの2人と違って、人質としては優秀なようだ。婚約者であるユエル君と和泉さんを殺し合わせることは不可能でも、この子の忍である風丸君には言うことを聞いてもらえそうですね」
ネフィロスは、ぐったりと目を閉じている由羽ちゃんの頬を妖しく撫でると
「というわけです、風丸君。次は君がユエル君と戦ってください。この子を殺されたくなければね」
「か、風丸……」
私自身どうすべきか分からず、ただ風丸の顔を見た。風丸は苦渋の表情で
「……ユエルを殺せば、マスターちゃんは助けるんだな?」
「ええ、私の目的は魔王の解放なので。この子と和泉さんは必ずしも殺す必要は無い。ユエル君を殺してくれたら、この子と和泉さんは生きて元の世界に帰してあげましょう」
「か、風丸さん……」
ユエルは戸惑いの表情で風丸を見た。しかし風丸は揺らがぬ瞳でユエルを見返すと
「お前たちも遠慮しないでかかって来いよ。その代わり俺も、全力でお前の命を取らせてもらう」
こんなに真剣な風丸ははじめて見た。彼は本気でユエルを殺す気だ。それを邪魔すれば恐らく私も。でも私もユエルも、まだ覚悟が定まり切らなかった。次の瞬間には風丸が、ユエルに斬りかかることが肌で感じられた。けれど風丸が踏み出す寸前。
「ダメぇっ!」
バシャッ!
「グワァァ!?」
一瞬、何が起きたのか分からなかった。その場にいる全員の視線が、悲鳴の主であるネフィロスに集中する。ネフィロスは顔面を押さえて苦しそうに呻いていた。手の隙間からは、しゅうしゅうと白い煙が立ち上っている。
後で分かったことだが、実は由羽ちゃんの麻痺も先ほどユエルが行った全体浄化で解除されていた。彼女がちっとも動かないので、まだ麻痺していると誤解していたが、下手に動けば危ないとジッとしていたらしい。
けれど一触即発の雰囲気に、とうとう由羽ちゃんは動いた。そして事前に風丸からもらった聖水を、ネフィロスの顔面にぶっかけたのだった。
「風丸!」
由羽ちゃんは悲痛な声をあげながら、風丸のもとへ走った。しかしその後方ではネフィロスが殺意の表情で、由羽ちゃんの背中にナイフを投げる。見えていても、その一投を誰も止められず
「あぁっ!?」
「マスターちゃん!」
由羽ちゃんの背中にナイフが突き刺さる。倒れた彼女に全員が気を取られている隙に、ネフィロスは魔法で空間全てを闇で覆った。もともと暗かった森が、完全に闇に閉ざされる。私たちの視界がゼロになっている間に、ネフィロスはその場から離脱した。ユエルが魔法で闇を払った時には、ネフィロスの姿はすでに無かった。
ネフィロスを追いたかったが、今は由羽ちゃんの治療が先決だ。ユエルに頼んで由羽ちゃんを治癒してもらった。ナイフは心臓を掠めていたが、幸い治療が早かったので、由羽ちゃんは傷跡も残らずに回復した。
「マスターちゃん! 大丈夫か!?」
「わ、私は大丈夫です……」
風丸に助け起こされた由羽ちゃんは泣きながら私を見ると
「すみません、私。ギリギリまで怖くて動けなくて。皆に迷惑をかけちゃって……」
「泣かないで。由羽ちゃんは何も悪くない。無事で良かったよ」
それは彼女を宥めるためでなく
「由羽ちゃんが無事で、本当に良かった……」
言葉とともに涙が溢れた。19歳の由羽ちゃんとは7歳も離れている。でも彼女は私にとって間違いなく、人生でいちばんの親友だった。生きていて良かったと心から安堵すると同時に、この物語が私たちの予想を離れて、いつ殺されるか分からない最悪の展開を迎えたことを予感した。
「これだけお膳立てしても勝てないとは嘆かわしい。人質を取って脅すなんて短絡的な真似はしたくないのですが、やむを得ませんね」
ネフィロスは敗北した仲間たちを冷笑すると、腕の中にいる由羽ちゃんの首に改めてナイフを突きつけて
「この子を殺されたくなければ、動かないでください」
私たち全員の動きを封じた。さらにネフィロスは、私たちの目の前でカイゼルとクレイグの魂を奪った。
「どうして、その2人の魂まで。仲間じゃなかったの?」
私の質問に、ネフィロスはあざけりの笑みを浮かべて
「この2人が仲間? 私に仲間は居ません。目的のために、ただ利用しただけです。そしてこの魂も利用価値があるのでいただいていきます」
ネフィロスがくいと指を曲げると、カイゼルとクレイグの魂は彼のもとに吸い寄せられた。アルゼリオの魂を取り返すどころか、新たに2人の魂を奪われてしまった。さらにネフィロスの腕の中には
「しかし相楽さんはこの2人と違って、人質としては優秀なようだ。婚約者であるユエル君と和泉さんを殺し合わせることは不可能でも、この子の忍である風丸君には言うことを聞いてもらえそうですね」
ネフィロスは、ぐったりと目を閉じている由羽ちゃんの頬を妖しく撫でると
「というわけです、風丸君。次は君がユエル君と戦ってください。この子を殺されたくなければね」
「か、風丸……」
私自身どうすべきか分からず、ただ風丸の顔を見た。風丸は苦渋の表情で
「……ユエルを殺せば、マスターちゃんは助けるんだな?」
「ええ、私の目的は魔王の解放なので。この子と和泉さんは必ずしも殺す必要は無い。ユエル君を殺してくれたら、この子と和泉さんは生きて元の世界に帰してあげましょう」
「か、風丸さん……」
ユエルは戸惑いの表情で風丸を見た。しかし風丸は揺らがぬ瞳でユエルを見返すと
「お前たちも遠慮しないでかかって来いよ。その代わり俺も、全力でお前の命を取らせてもらう」
こんなに真剣な風丸ははじめて見た。彼は本気でユエルを殺す気だ。それを邪魔すれば恐らく私も。でも私もユエルも、まだ覚悟が定まり切らなかった。次の瞬間には風丸が、ユエルに斬りかかることが肌で感じられた。けれど風丸が踏み出す寸前。
「ダメぇっ!」
バシャッ!
「グワァァ!?」
一瞬、何が起きたのか分からなかった。その場にいる全員の視線が、悲鳴の主であるネフィロスに集中する。ネフィロスは顔面を押さえて苦しそうに呻いていた。手の隙間からは、しゅうしゅうと白い煙が立ち上っている。
後で分かったことだが、実は由羽ちゃんの麻痺も先ほどユエルが行った全体浄化で解除されていた。彼女がちっとも動かないので、まだ麻痺していると誤解していたが、下手に動けば危ないとジッとしていたらしい。
けれど一触即発の雰囲気に、とうとう由羽ちゃんは動いた。そして事前に風丸からもらった聖水を、ネフィロスの顔面にぶっかけたのだった。
「風丸!」
由羽ちゃんは悲痛な声をあげながら、風丸のもとへ走った。しかしその後方ではネフィロスが殺意の表情で、由羽ちゃんの背中にナイフを投げる。見えていても、その一投を誰も止められず
「あぁっ!?」
「マスターちゃん!」
由羽ちゃんの背中にナイフが突き刺さる。倒れた彼女に全員が気を取られている隙に、ネフィロスは魔法で空間全てを闇で覆った。もともと暗かった森が、完全に闇に閉ざされる。私たちの視界がゼロになっている間に、ネフィロスはその場から離脱した。ユエルが魔法で闇を払った時には、ネフィロスの姿はすでに無かった。
ネフィロスを追いたかったが、今は由羽ちゃんの治療が先決だ。ユエルに頼んで由羽ちゃんを治癒してもらった。ナイフは心臓を掠めていたが、幸い治療が早かったので、由羽ちゃんは傷跡も残らずに回復した。
「マスターちゃん! 大丈夫か!?」
「わ、私は大丈夫です……」
風丸に助け起こされた由羽ちゃんは泣きながら私を見ると
「すみません、私。ギリギリまで怖くて動けなくて。皆に迷惑をかけちゃって……」
「泣かないで。由羽ちゃんは何も悪くない。無事で良かったよ」
それは彼女を宥めるためでなく
「由羽ちゃんが無事で、本当に良かった……」
言葉とともに涙が溢れた。19歳の由羽ちゃんとは7歳も離れている。でも彼女は私にとって間違いなく、人生でいちばんの親友だった。生きていて良かったと心から安堵すると同時に、この物語が私たちの予想を離れて、いつ殺されるか分からない最悪の展開を迎えたことを予感した。
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