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第5話・〇〇しないと出られない部屋レベル1

ショタとキスする大罪

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 すっかり儀式めいてしまったが、もともとはお題のためのキスだ。しかし我に返って辺りを見るも、宝箱も扉も見当たらなかった。

「もしかして手ではダメだったんでしょうか?」
「そんなはずはないんだけど……」

 ゲームではキスのお題に対して『どこにしますか?』という質問が出て来て

『じゃあ、おでこ?』
『ほっぺかな』
『手にして欲しい』
『もちろん唇で!』

 と4つの選択肢が現れる。ちなみにモラルの番人ことユエルに唇を求めると

『他の可能性を試してからでも遅くはないかと』

 と、やんわり拒否される。いくら未成年で非攻略キャラとは言え、いちおう乙女ゲーなのに本当に鉄壁の防御だった。それでも額や頬や手へのキスは可能だったし、お題も消化できていた。

 手へのキスはユエルにとって特別らしいので、何度も強請るのはかえって悪いと

「他の可能性を試すってことで、取りあえず額にしてみようか。さっきはユエルがしてくれたから、今度は私がするね」
「は、はい」

 私が声をかけると、ユエルは自分で前髪をあげた。絶対に思っちゃいけないのだが、自分からオデコを差し出すの可愛い。邪念があるからこそ、額とは言え13歳の少年に口づけるのは後ろめたかったが、なるべく無心でキスした。しかし部屋はシーンと静まったまま。いつものようにクリアの反応は無かった。

「ま、マスター……」
「ゴメン。ユエル」
「わっ!?」

 異常事態にやや焦りながら、彼の頬に続けてキスする。ゲーム内の選択肢を3つ潰しても、なぜか扉も宝箱も出ない。宝箱はともかく扉は出てくれないと、この部屋に閉じ込められてしまう。

「あの、マスター。キスって、やっぱり唇へのキスなんじゃ……」
「いや、そんなはずはないから。もう一度試してみよう」
「えっ? ま、マスター?」

 手、額、頬ともう一巡してみるも

「なんで出ないんだ……ってユエル? 大丈夫?」

 俯きながら震えているユエルに気付いて声をかけると

「ひゃ、ひゃい……」

 ユエルは湯気が出そうなほど真っ赤になって、目をグルグルさせていた。理性の申し子の理性が、グラングランになっている。推しの未知の反応が心配になり

「ゴメンね、何度も。気持ち悪かったよね」
「いえ、気持ち悪いわけじゃ。ただ唇を避けたいのは分かりますけど、それ以外の部分でも何度もされるとダメージがあるので」
「ゴメン、そうだよね。いくら信じられないことでも、エラーを疑う前に最後の1つを試すべきだよね」

 じゃないと余計に傷口を広げるだけだと、私も覚悟を決めて

「じゃあ、唇にするけど……ゴメンね。こんなことになって」
「そんな。マスターは何も悪くないんですから、謝らないでください」
「でもユエルはキスするの、はじめてなんじゃ」
「はじめてですけど、僕は男ですし、平気です」

 強がりかもしれないが、ユエルはキスを許可してくれた。後はするだけなのだが

「本当に申し訳ないんだけど、良かったら君がしてくれないかな?」
「ぼ、僕がマスターにキスするんですか?」

 案の定とまどうユエルに、私は「ゴメン」と詫びつつも

「こんなおばさんに自分からキスするなんて嫌だろうけど、私が君にキスするのはあまりに重罪な気がして」

 額や頬ならともかく、未成年への口づけはどうしても躊躇われた。しかしユエルも困った顔で

「むしろ騎士である僕が、主の唇を穢すほうが重罪だと思いますが」
「いや、13も年上の女相手に穢すとか思わなくていいよ。それに脅したくは無いけど、やらなきゃ行きつく先は餓死だから。もはや人工呼吸のようなものだよ」

 キスと考えるからおかしいのであって、この場合は人命救助のために必要な手順だった。まだ年若いユエルには酷かもしれないが、それくらいクールに行こうぜと声をかけると

「人工呼吸……分かりました。そのつもりでしてみます」

 ユエルは生真面目に頷いて、私の肩に手を置くと

「……目を閉じていただいていいですか?」

 目を閉じてから少しして、唇にふにっと柔らかな感触が触れる。ゴメン、ユエル。ゴメン、ユエル。あまりの罪悪感に脳内で二度謝ると

「良かった。これでも反応しなかったら、どうしようかと」

 数々の犠牲の果てに、今度こそ扉と宝箱が現れた。しかし今回は助かったものの

「今後はお題部屋には入らないほうが良さそうだね」

 お互いに理由が無いとスキンシップできないからと利用していたけど、ゲームとは違うからか、不確定の要素があって怖い。

 私の意見にユエルも

「……そうですね。いいこともたくさんありましたけど、相手の意思を無視してというのは良くありませんから、もう来ないほうが良さそうですね」

 相手の意思を無視して……のくだりが密かに突き刺さる。ユエルは平気だと言ってくれたけど、やっぱり13も年上の女にキスさせられるなんて、嫌だったんだろうなと反省した。
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