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第2話・かつての友と色んな話
アカウント名ヤバい仲間
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導き手と騎士の組み合わせが決まると、今日のところは休んでいいと、私たちはそれぞれ与えられた自室に戻された。ちなみに主と従者の部屋は、続き部屋になっている。元が18禁乙女ゲームなので従者が恋人に昇格した暁には、廊下を通らずダイレクトにお互いの部屋を行き来できるようになっているのだ。
ただユエルは非攻略キャラなので、従者に選んでも、この続き部屋のドアがノックされることは無かった。
しかしその代わり、廊下側のドアをノックする者があった。その相手は、なんと相楽さんだった。予期せぬ訪問に少し驚く。でもすぐに、この状況なら同じ境遇の人間と話したいかと納得した。
ところが相楽さんが私の部屋を訪ねた理由は
「あの、いきなりですが、もしかして和泉さんは『ユエル大天使さん』では?」
彼女の質問に、一瞬時が止まる。『ユエル大天使』は、このゲームの数少ないファンと交流するために作った私のアカウント名だった。
「な、なんでそのイカれた名前を?」
相楽さんは私を脅しに来たわけではないようで、パッと笑顔になると
「やっぱり! さっきのユエル君とのやり取りを聞いて思ったんです! ユエル君への理解の深さと並々ならぬ愛情は『ユエル大天使』さんなんじゃないかって!」
「ゴメン。リアルでアカウント名を連呼するのはやめて欲しい。特にユエルにバレたら死ねるので、私のことは和泉律子と呼んでください」
羞恥に震えながら頼むと、相楽さんはハッと顔色を変えて
「はっ、すみません、つい興奮して! もちろん他の方の居るところでは言いません!」
なんで相楽さんが私の黒歴史を知っていたのか。その理由は
「えっ。じゃあ、相楽さんが『風丸は我が命』ちゃんだったの?」
「そうです! だからここでまさかの騎士伝友だちである和泉さんと出会えたことが嬉しくて! つい声をかけてしまいました!」
彼女は『騎士王と主の伝説』繋がりで出会ったネット上の友人だった。私の中では神作品だが、騎士王と主の伝説は個人製作のマイナーゲームだ。イラストや小説など二次創作どころか、感想を呟いている人すら稀だ。そんな中、騎士伝のイラストや漫画を投稿していた彼女を私が見つけて、感想を送ったのが縁で仲よくなった。
私たちはあっという間に打ち解けると、そのまま私の部屋で
「でも、まさかこっちの世界で由羽ちゃんに会うとは思わなかったな。向こうではメッセージでやり取りするだけで、顔を合わせたことも電話したことも無かったのにね」
「ねっ、私もビックリしました。でも私はけっこう人見知りなので、慣れない異世界でひとりぼっちじゃなくて良かったです」
慣れた人には人懐っこいタイプなのか、由羽ちゃんは先ほどと違ってニコニコと答えた。彼女は決して美人ではないが、こうして表情豊かだと、ファニーフェイスと言うか、愛嬌があって可愛らしい。
「ひとりぼっちと言えば本当に良かったの? 由羽ちゃんだけ騎士の居ない状態になっちゃって」
「本当に大丈夫ですよ。さっきも言いましたけど、おのおの本当に自分が仕えたい人に、仕えるのがいちばんだと思いますので」
しかし由羽ちゃんは、ちょっと神妙な顔になると
「むしろ騎士も居ないのに、風丸目当てに残留してすみません。ぶっちゃけ皆さんに義務だけ押し付けて、自分は遊びに残ったようなものですね」
深刻な事態だと理解しているからこそ、役割も無いのに残ったことが後ろめたいようだが
「そんな風に思わなくていいよ。私も由羽ちゃんと同じくらいこの作品のファンだから、すぐに帰るのはもったいないと思う気持ちも分かる。それに私も自分の意思で残ると決めたとは言え、1人で心細かったから、由羽ちゃんが居てくれて嬉しいよ」
「うぅ、律子さん。優しい。好き」
由羽ちゃんは目をウルウルさせて私にくっついた。思わず頭を撫でると、途端にえへへと笑顔になった。なんだろ、この可愛い生き物。やはり人は話してみなきゃ分からないなと思った。
ただユエルは非攻略キャラなので、従者に選んでも、この続き部屋のドアがノックされることは無かった。
しかしその代わり、廊下側のドアをノックする者があった。その相手は、なんと相楽さんだった。予期せぬ訪問に少し驚く。でもすぐに、この状況なら同じ境遇の人間と話したいかと納得した。
ところが相楽さんが私の部屋を訪ねた理由は
「あの、いきなりですが、もしかして和泉さんは『ユエル大天使さん』では?」
彼女の質問に、一瞬時が止まる。『ユエル大天使』は、このゲームの数少ないファンと交流するために作った私のアカウント名だった。
「な、なんでそのイカれた名前を?」
相楽さんは私を脅しに来たわけではないようで、パッと笑顔になると
「やっぱり! さっきのユエル君とのやり取りを聞いて思ったんです! ユエル君への理解の深さと並々ならぬ愛情は『ユエル大天使』さんなんじゃないかって!」
「ゴメン。リアルでアカウント名を連呼するのはやめて欲しい。特にユエルにバレたら死ねるので、私のことは和泉律子と呼んでください」
羞恥に震えながら頼むと、相楽さんはハッと顔色を変えて
「はっ、すみません、つい興奮して! もちろん他の方の居るところでは言いません!」
なんで相楽さんが私の黒歴史を知っていたのか。その理由は
「えっ。じゃあ、相楽さんが『風丸は我が命』ちゃんだったの?」
「そうです! だからここでまさかの騎士伝友だちである和泉さんと出会えたことが嬉しくて! つい声をかけてしまいました!」
彼女は『騎士王と主の伝説』繋がりで出会ったネット上の友人だった。私の中では神作品だが、騎士王と主の伝説は個人製作のマイナーゲームだ。イラストや小説など二次創作どころか、感想を呟いている人すら稀だ。そんな中、騎士伝のイラストや漫画を投稿していた彼女を私が見つけて、感想を送ったのが縁で仲よくなった。
私たちはあっという間に打ち解けると、そのまま私の部屋で
「でも、まさかこっちの世界で由羽ちゃんに会うとは思わなかったな。向こうではメッセージでやり取りするだけで、顔を合わせたことも電話したことも無かったのにね」
「ねっ、私もビックリしました。でも私はけっこう人見知りなので、慣れない異世界でひとりぼっちじゃなくて良かったです」
慣れた人には人懐っこいタイプなのか、由羽ちゃんは先ほどと違ってニコニコと答えた。彼女は決して美人ではないが、こうして表情豊かだと、ファニーフェイスと言うか、愛嬌があって可愛らしい。
「ひとりぼっちと言えば本当に良かったの? 由羽ちゃんだけ騎士の居ない状態になっちゃって」
「本当に大丈夫ですよ。さっきも言いましたけど、おのおの本当に自分が仕えたい人に、仕えるのがいちばんだと思いますので」
しかし由羽ちゃんは、ちょっと神妙な顔になると
「むしろ騎士も居ないのに、風丸目当てに残留してすみません。ぶっちゃけ皆さんに義務だけ押し付けて、自分は遊びに残ったようなものですね」
深刻な事態だと理解しているからこそ、役割も無いのに残ったことが後ろめたいようだが
「そんな風に思わなくていいよ。私も由羽ちゃんと同じくらいこの作品のファンだから、すぐに帰るのはもったいないと思う気持ちも分かる。それに私も自分の意思で残ると決めたとは言え、1人で心細かったから、由羽ちゃんが居てくれて嬉しいよ」
「うぅ、律子さん。優しい。好き」
由羽ちゃんは目をウルウルさせて私にくっついた。思わず頭を撫でると、途端にえへへと笑顔になった。なんだろ、この可愛い生き物。やはり人は話してみなきゃ分からないなと思った。
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