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第1話:主要キャラと顔合わせ
主従決定
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女同士の奪い合いに終止符を打ったのは
「僕のために議論してくださっているのに申し訳ありませんが、どの導き手につくか決めるのは騎士である僕たちです」
見かけによらない冷厳さで放たれた正論は、女の子2人を黙らせた。これが『モラルの番人』の力……。
ユエルは作中でヒロインと騎士の関係が淫らになりすぎて育成が疎かになると、ほどほどにするように釘を刺して来る。それでも態度を改めず、騎士との性愛に耽って本業を疎かにしていると
『あなたの存在は僕たちを導くどころか、惑わせるだけのようです。元の世界にお帰りください』
それまでの温和さが嘘のような冷徹さで、転移石を使ってヒロインを強制送還する。以上の役割からユエルは、このゲームのファンに『モラルの番人』や『理性の申し子』という2つ名を付けられていた。
ユエルの『モラルの番人』としての片りんに密かに痺れていると
「僕はこの方の騎士になります」
ユエルはいきなり主を決めた。本当に大人しそうな外見に反して、果断な少年である。そんな私の中の理想の少年が主に選んだのは
「えっ? 私の騎士になるの?」
まだユエルとは一言も話してないのに。暫定的な組み合わせとは言え、そんなにあっさり決めていいのかと驚いたが
「どうしてその人を選ぶの? その人についたら、ユエル君は1人で戦わなくちゃいけないのに」
星月さんの質問にユエルは
「僕が騎士としてこの場に居るのは、王だから封印の一族だからと、誰かに強いられたからではありません。魔王の再封印を無事に果たし、平和を維持するのは僕自身の願いです。最終的にサポートに回るのは僕の能力上、仕方ありませんが、最初から最年少として甘やかされたくありません」
先ほどからの子ども扱いがやはり屈辱だったのか、ユエルはやや厳しい態度で返すと
「ですから戦力をまとめる必要が出るまでは、僕はこの方のもとで自分を鍛えます」
推しと解釈が一致して密かに嬉しい。この子は誰かに命じられて、嫌々この場に居るわけではない。控えめに見えて誰より強固な信念を持って、人々の安寧を護ろうとしている。誰かの背に隠れて無傷で居るより、自らの手を汚し血を流しても、人を護れる強さを望む子だと思っていた。
ただ相手が生身の人間だと胸が熱くなる半面、不安もあって
「私は正直、君の力になりたいから、選んでくれるなら嬉しいよ。ただ1人での戦いは、恐らく君の想像以上に厳しい」
彼の覚悟を確かめるようで、本当はきっと自分に向けて
「君の覚悟を信じて、本気で鍛えてもいいの?」
ゲームでしたような過酷さで、生身の彼を鍛えていいのかと問う。でも私の懸念を吹き飛ばすように、ユエルは微笑みさえ浮かべてこちらを見上げて
「それが僕の望みです。人々の安寧のため決して折れない強い剣になれるように、どうかあなたの手で僕を鍛えてください」
そんな流れで私はユエルのマスターなった。
ユエル本人の意思なら反対できないと思ったのだろう。エバーシュタインさんは不服そうではあったが、それならと話を切り替えて
「では私はユエル君の代わりに、カイゼルさんに残っていただくことにします。後は残ったお2人とクレイグさんで、どちらにつくか決めていただければよいかと」
どうしてもフルメンバーにしたいようで、ユエルの代わりにカイゼルを欲しがった。しかしカイゼルは冷たい美貌をあからさまな嫌悪に歪めて
「なぜ私が「はい。そうですか」とお前の傘下に入ると思う? 元の世界でのお前がどれほどの地位か知らないが、私は王子だ。無礼は許さない」
誰かの穴埋めにされて喜ぶほど、彼らは卑屈ではなかった。この世界でもトップクラスの家柄と実力を誇る彼らに対して、エバーシュタインさんはあまりに傲慢すぎた。
クレイグもエバーシュタインさんに愛想を尽かして、別の主を求めた。しかし次に2人が選んだ導き手はヒロイン似の星月さんだった。
たった今ルックスで選んで失敗したのに、まだ外見で選ぶんだな。
ちなみに星月さんは自分が損をしそうな時は平等を訴えていたが、自分も2人騎士を得られそうになると
「相楽さんには気の毒だけど、不本意な相手に仕えさせられるのは彼らが可哀想だから」
と相楽さんに権利を放棄するように求めた。
私はこの展開に驚いて
「第一印象だけで人の本質は分からないよ。この場に呼ばれたからには、ここに呼ばれただけの意味が彼女にもあるんだと思う。導き手に本当に相応しい人物を選ぶためにも、機会は平等に設けるべきだよ」
彼女にも1人は騎士がつくようにしたかったが、意外にも相楽さん自身が
「私のことなら気にしないでください。もともと私には荷が重いなと、辞退しようとしていたくらいなので」
「えっ、そうなの?」
「はい。それに皆さんの安全を考えたら、なるべく戦力は分散しないほうがいいですし。むしろこれがベストな分け方かと」
戦力は分散するべきではないと皆が思いつつ、誰も人に譲ることはしなかったのに。相楽さんはちゃんと危機的状況であることを理解して、全体のために身を引けるんだなと感心した。
そう感じたのは私だけじゃないようで
「ありがとう! 皆のために譲ってくれて。あなたって良い人ね!」
「本当に。大人のくせに空気を読まない誰かさんと違って」
星月さんはいいけど、エバーシュタインさんには嫌味を言われてしまった。
これが少女漫画なら相楽さんの人柄に感心して、騎士の誰か「俺はやっぱり彼女につくよ」とか言いそうなものだけど、誰も彼女に仕えるとは言い出さなかった。やっぱり騎士伝の男キャラは、ユエル以外クソだなと思った。
「僕のために議論してくださっているのに申し訳ありませんが、どの導き手につくか決めるのは騎士である僕たちです」
見かけによらない冷厳さで放たれた正論は、女の子2人を黙らせた。これが『モラルの番人』の力……。
ユエルは作中でヒロインと騎士の関係が淫らになりすぎて育成が疎かになると、ほどほどにするように釘を刺して来る。それでも態度を改めず、騎士との性愛に耽って本業を疎かにしていると
『あなたの存在は僕たちを導くどころか、惑わせるだけのようです。元の世界にお帰りください』
それまでの温和さが嘘のような冷徹さで、転移石を使ってヒロインを強制送還する。以上の役割からユエルは、このゲームのファンに『モラルの番人』や『理性の申し子』という2つ名を付けられていた。
ユエルの『モラルの番人』としての片りんに密かに痺れていると
「僕はこの方の騎士になります」
ユエルはいきなり主を決めた。本当に大人しそうな外見に反して、果断な少年である。そんな私の中の理想の少年が主に選んだのは
「えっ? 私の騎士になるの?」
まだユエルとは一言も話してないのに。暫定的な組み合わせとは言え、そんなにあっさり決めていいのかと驚いたが
「どうしてその人を選ぶの? その人についたら、ユエル君は1人で戦わなくちゃいけないのに」
星月さんの質問にユエルは
「僕が騎士としてこの場に居るのは、王だから封印の一族だからと、誰かに強いられたからではありません。魔王の再封印を無事に果たし、平和を維持するのは僕自身の願いです。最終的にサポートに回るのは僕の能力上、仕方ありませんが、最初から最年少として甘やかされたくありません」
先ほどからの子ども扱いがやはり屈辱だったのか、ユエルはやや厳しい態度で返すと
「ですから戦力をまとめる必要が出るまでは、僕はこの方のもとで自分を鍛えます」
推しと解釈が一致して密かに嬉しい。この子は誰かに命じられて、嫌々この場に居るわけではない。控えめに見えて誰より強固な信念を持って、人々の安寧を護ろうとしている。誰かの背に隠れて無傷で居るより、自らの手を汚し血を流しても、人を護れる強さを望む子だと思っていた。
ただ相手が生身の人間だと胸が熱くなる半面、不安もあって
「私は正直、君の力になりたいから、選んでくれるなら嬉しいよ。ただ1人での戦いは、恐らく君の想像以上に厳しい」
彼の覚悟を確かめるようで、本当はきっと自分に向けて
「君の覚悟を信じて、本気で鍛えてもいいの?」
ゲームでしたような過酷さで、生身の彼を鍛えていいのかと問う。でも私の懸念を吹き飛ばすように、ユエルは微笑みさえ浮かべてこちらを見上げて
「それが僕の望みです。人々の安寧のため決して折れない強い剣になれるように、どうかあなたの手で僕を鍛えてください」
そんな流れで私はユエルのマスターなった。
ユエル本人の意思なら反対できないと思ったのだろう。エバーシュタインさんは不服そうではあったが、それならと話を切り替えて
「では私はユエル君の代わりに、カイゼルさんに残っていただくことにします。後は残ったお2人とクレイグさんで、どちらにつくか決めていただければよいかと」
どうしてもフルメンバーにしたいようで、ユエルの代わりにカイゼルを欲しがった。しかしカイゼルは冷たい美貌をあからさまな嫌悪に歪めて
「なぜ私が「はい。そうですか」とお前の傘下に入ると思う? 元の世界でのお前がどれほどの地位か知らないが、私は王子だ。無礼は許さない」
誰かの穴埋めにされて喜ぶほど、彼らは卑屈ではなかった。この世界でもトップクラスの家柄と実力を誇る彼らに対して、エバーシュタインさんはあまりに傲慢すぎた。
クレイグもエバーシュタインさんに愛想を尽かして、別の主を求めた。しかし次に2人が選んだ導き手はヒロイン似の星月さんだった。
たった今ルックスで選んで失敗したのに、まだ外見で選ぶんだな。
ちなみに星月さんは自分が損をしそうな時は平等を訴えていたが、自分も2人騎士を得られそうになると
「相楽さんには気の毒だけど、不本意な相手に仕えさせられるのは彼らが可哀想だから」
と相楽さんに権利を放棄するように求めた。
私はこの展開に驚いて
「第一印象だけで人の本質は分からないよ。この場に呼ばれたからには、ここに呼ばれただけの意味が彼女にもあるんだと思う。導き手に本当に相応しい人物を選ぶためにも、機会は平等に設けるべきだよ」
彼女にも1人は騎士がつくようにしたかったが、意外にも相楽さん自身が
「私のことなら気にしないでください。もともと私には荷が重いなと、辞退しようとしていたくらいなので」
「えっ、そうなの?」
「はい。それに皆さんの安全を考えたら、なるべく戦力は分散しないほうがいいですし。むしろこれがベストな分け方かと」
戦力は分散するべきではないと皆が思いつつ、誰も人に譲ることはしなかったのに。相楽さんはちゃんと危機的状況であることを理解して、全体のために身を引けるんだなと感心した。
そう感じたのは私だけじゃないようで
「ありがとう! 皆のために譲ってくれて。あなたって良い人ね!」
「本当に。大人のくせに空気を読まない誰かさんと違って」
星月さんはいいけど、エバーシュタインさんには嫌味を言われてしまった。
これが少女漫画なら相楽さんの人柄に感心して、騎士の誰か「俺はやっぱり彼女につくよ」とか言いそうなものだけど、誰も彼女に仕えるとは言い出さなかった。やっぱり騎士伝の男キャラは、ユエル以外クソだなと思った。
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