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プロローグ・突然だが、語らせてくれ

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 ここ2年ほど愛してやまないゲームがある。それは『騎士王と主の伝説』という企業ではなく無名の作者が制作したマイナーゲームだ。

 ストーリーは異世界に召喚された女子高生が、騎士たちを育成・指揮する導き手となり、ダンジョンの最下層にいる魔王を再封印するというもの。RPGとしては王道かつシンプルな内容だが、イケメン騎士たちとの18禁乙女ゲーム要素が含まれた良作だった。

 私のいちばんのお気に入りは聖属性の少年騎士・ユエル。彼は5人の騎士たちの中で最年少の13歳。他のキャラたちと比べてまだ子どもの彼は、攻撃力や体力や防御力など肉体面が弱めに設定されていた。

 それだけ言うと足手まといのようだが、ユエルは回復や支援魔法の使い手である『聖属性』なので、むしろパーティーには必須の存在だ。加えてヒロインが滞在する拠点の主で、太古に魔王を封印した一族の末裔として、ストーリー的にも重要な役どころだ。

 そんな設定を持つせいか、このゲームにはユエルにのみ、特別なエンディングがある。

 このゲームには非攻略キャラであるユエル以外の4人の騎士たちとの個別エンドと、ヒロインが誰とも結ばれずに魔王を再封印して元の世界に帰るノーマルエンドがある。

 そのノーマルエンドは魔王の再封印を果たしたキャラたちが『封印の騎士』の称号を得て、新たな伝説となる『封印の騎士たちと主の伝説エンド』とされている。

 しかし、このゲームのタイトルは『騎士王と主の伝説』。つまり『封印の騎士たち』という横並びではなく、1人のキャラが騎士王として伝説になるエンディングがある。

 その騎士王に唯一なれるのが、実は非攻略キャラかつ騎士としては最弱のユエルだ。他のキャラでは単独で魔王を封印しても、騎士王にはなれない。

 他のキャラが自国の利益や自身の名声のために戦っているのと違い、若くして聖王国の王座についたユエルは、全ての人の命と安寧を護りたいと願っている。その尊い志によって最弱から這い上がり、1人で魔王を封印できる力を得たからこそ、のちに大陸に平和をもたらす伝説の騎士王となる。

 私にとって、このゲームは最早エロゲーではなく、ユエル少年の成長と偉業を見守る物語だった。火力の高いキャラならともかく、基本は最弱で攻撃魔法を持たないユエルが、単独で魔王を倒すのは至難の業だ。

 制作者は攻略のヒントなどを出していないので、純粋にユエルが好きで

「ユエルだけで、このゲームをクリアしてやるぜ!」

 と決意した私のような強火オタクにしか、このエンドはたどり着けない。だからこそ特別で、何度でも見たくなる。

(さぁ、君の夢を叶えに行こう)

 未来の騎士王を導く主として、再びゲームをスタートした時。脳がぐらりと揺れて目の前の景色が歪んだ。


 それからの記憶は曖昧だけど、私は確か神様に会った。病気か何かで突然死んで、天に召されたというのではなく。『騎士王と主の伝説』の世界の神様に、魔王の再封印を果たして世界を救うための導き手として呼ばれた。


 そこで神様とどんな話をしたかは覚えていない。ただ1つ覚えているのは、異世界のゴタゴタに巻き込む代わりに、導き手としてゲームのヒロインが持っていた能力以外に特別な力……異世界転移もので言うところのトリップ特典を与えてくれると言われたこと。

 その世界に行くなら足手まといは御免だ。いざという時はユエルを護れる力が欲しいと私は望んだ。

 次に意識が覚醒した時には、すでにそこは『騎士王と主の伝説』の世界だった。
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