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オマケ【時系列バラバラ】
ウラメと理想の地下室・後編
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それから、どれだけの大金を投じたのか。
ササグは本当に海外の小さな古城を買い取り、もともとあった地下室を監禁用に整えてくれた。
リクエストどおり、アイアンメイデンをはじめとする、いかにもな拷問器具も揃えてある。
他の拷問器具はともかく、アイアンメイデンはフィクションであり、実際に使用されたことは無かったと言われている。
しかしササグによると
「流石に中世ヨーロッパのものではありませんが、この鉄の処女は、その筋の愛好家が密かに作らせて実際に何度か使用されたものです」
他の拷問器具も単なる小道具ではなく、実際に使われたものを集めてくれたそうだ。
ササグの粋な計らいに、私はかつてなく感激して
「実際に使われていたものなの!? すごい! 本当に呪われていそうだね!」
「ここにあるもののほとんどに、拷問の末に殺された者たちの怨霊が取りつき、所有者を呪っていましたが、ウラメ様を害さないように俺が祓っておきました」
ササグは普段から、そういう怨霊付きの古物を祓う仕事もしているらしい。
その伝手で、これらの素晴らしいコレクションも集めてくれたようだが
「怨霊、もうついてないんだ……」
もう『念』が籠もっていないことに肩を落とす私に、ササグは「すみません」と眉を下げつつ
「でも命に関わることですから。それに」
「それに?」
首を傾げる私に、ササグはなぜか嫉妬の表情で
「もう俺以外の誰とも会わない約束でしょう? 例え霊でも俺以外の人間が、ウラメ様を見るなんてダメです」
前世は寿命まで添い遂げて、何度も転生しながら500年も生き続けて尚。1人の人間に、こんなに執着できるのすごい。
ササグの愛執に圧倒されつつも、前世で座敷牢に監禁される夢を叶えた私は、今世で地下室デビューを果たした。
いちばんの夢はやはり怨霊になることだが、座敷牢や地下室への監禁にもロマンを感じていたので、一部だけでも叶って嬉しい。
しかし意外にも、この監禁生活に先に音を上げたのはササグだった。
「ウラメ様。いくらなんでも、こんな不衛生で日の当たらない場所に、ずっと居たら体を壊してしまいます」
ササグの目的は監禁ではなく、私を自分以外の誰にも会わせないことだ。
要するに彼は、私を独り占めしたいだけなので
「地下には俺が仕事で居られない時だけ居てくださればいいので、普段は上の部屋で過ごしてください」
使わない時はおもちゃを仕舞うように、自分が居ない時だけ、私を地下室に閉じ込めたいようだったが
「嫌だ。気が向いた時だけ地下室に入って、普段は上の部屋で快適に暮らすなんて、全然地下室暮らしじゃない。そんなのファッション地下暮らしストだよ」
「ファ、ファッション地下暮らしスト……?」
困惑するササグに、私はさらに
「正直この風情ある空間に空気清浄器を持ち込んだり、しょっちゅうベッドのシーツを替えたりして、少しでも居心地よくしようとするのも無粋だからやめて欲しい」
この負の歴史が薫る素敵な地下室に、文明の利器や新鮮な空気。お日様の匂いのするシーツは必要無い。
「あと蜘蛛の巣や埃も、せっかくいい感じに育っているんだから、払ってリセットしないで」
天井から垂れ下がる蜘蛛の巣。床に降り積もった埃は、時の流れを感じさせる重要なインテリアだ。
普通の部屋ならともかく、ここまで理想的な地下室で暮らすからには、とことんディティールにこだわりたい。
私の強固なこだわりに、ササグは戸惑いの表情で
「う、ウラメ様……。でも不潔で埃っぽい環境のせいで、ずっと咳き込んでいるのに。肺を悪くしているんじゃ……」
病んでいるのは肺だけじゃなくて、皮膚にも謎の発疹ができている。
ササグの指摘どおり、私は明らかに健康を害していたが
「いいの。こうして少しずつ病んで弱っていくのも地下生活の醍醐味だから。ああ、私いま監禁されているなって。すごく楽しい」
「う、ウラメ様……」
ササグは私の体調を心配しているが、『お洒落は我慢』という言葉もある。
昔から人は美意識のために、少なからず健康や利便性を犠牲にして来た。
この最高の地下室のためなら、私も寿命の10年や20年縮んでも惜しくなかったが
「こうしている間にも、刻一刻とウラメ様の健康が害されていくなんて、俺には耐えられません。もう二度と閉じ込めさせて欲しいなんて言いませんから。どうか日当たりと風通しのいい家で、健やかに暮らしてください……」
500年も転生を繰り返している霊能者を、泣きながら土下座させてしまった。
別にササグに監禁を諦めさせるために、粘っていたわけじゃないんだけど。
地下室暮らしは最高だったが、ササグの言うとおり肉体が限界だ。
それにそろそろパソコンで、新作の執筆やら配信やらしたい気持ちもある。
憧れの地下室暮らしのおかげで、私のイマジネーションは溢れんばかりだ。
ササグは怪談師としての活動もやめて欲しいようだが、地下暮らしを諦めることと引き換えなら何も言わないだろう。
そんな流れで私たちは海外の古城を手放し、日本での平凡な生活に戻った。
ただいちばんお気に入りのアイアンメイデンだけは、今も私の仕事部屋にあり、たまに入って楽しんでいる。
ササグは本当に海外の小さな古城を買い取り、もともとあった地下室を監禁用に整えてくれた。
リクエストどおり、アイアンメイデンをはじめとする、いかにもな拷問器具も揃えてある。
他の拷問器具はともかく、アイアンメイデンはフィクションであり、実際に使用されたことは無かったと言われている。
しかしササグによると
「流石に中世ヨーロッパのものではありませんが、この鉄の処女は、その筋の愛好家が密かに作らせて実際に何度か使用されたものです」
他の拷問器具も単なる小道具ではなく、実際に使われたものを集めてくれたそうだ。
ササグの粋な計らいに、私はかつてなく感激して
「実際に使われていたものなの!? すごい! 本当に呪われていそうだね!」
「ここにあるもののほとんどに、拷問の末に殺された者たちの怨霊が取りつき、所有者を呪っていましたが、ウラメ様を害さないように俺が祓っておきました」
ササグは普段から、そういう怨霊付きの古物を祓う仕事もしているらしい。
その伝手で、これらの素晴らしいコレクションも集めてくれたようだが
「怨霊、もうついてないんだ……」
もう『念』が籠もっていないことに肩を落とす私に、ササグは「すみません」と眉を下げつつ
「でも命に関わることですから。それに」
「それに?」
首を傾げる私に、ササグはなぜか嫉妬の表情で
「もう俺以外の誰とも会わない約束でしょう? 例え霊でも俺以外の人間が、ウラメ様を見るなんてダメです」
前世は寿命まで添い遂げて、何度も転生しながら500年も生き続けて尚。1人の人間に、こんなに執着できるのすごい。
ササグの愛執に圧倒されつつも、前世で座敷牢に監禁される夢を叶えた私は、今世で地下室デビューを果たした。
いちばんの夢はやはり怨霊になることだが、座敷牢や地下室への監禁にもロマンを感じていたので、一部だけでも叶って嬉しい。
しかし意外にも、この監禁生活に先に音を上げたのはササグだった。
「ウラメ様。いくらなんでも、こんな不衛生で日の当たらない場所に、ずっと居たら体を壊してしまいます」
ササグの目的は監禁ではなく、私を自分以外の誰にも会わせないことだ。
要するに彼は、私を独り占めしたいだけなので
「地下には俺が仕事で居られない時だけ居てくださればいいので、普段は上の部屋で過ごしてください」
使わない時はおもちゃを仕舞うように、自分が居ない時だけ、私を地下室に閉じ込めたいようだったが
「嫌だ。気が向いた時だけ地下室に入って、普段は上の部屋で快適に暮らすなんて、全然地下室暮らしじゃない。そんなのファッション地下暮らしストだよ」
「ファ、ファッション地下暮らしスト……?」
困惑するササグに、私はさらに
「正直この風情ある空間に空気清浄器を持ち込んだり、しょっちゅうベッドのシーツを替えたりして、少しでも居心地よくしようとするのも無粋だからやめて欲しい」
この負の歴史が薫る素敵な地下室に、文明の利器や新鮮な空気。お日様の匂いのするシーツは必要無い。
「あと蜘蛛の巣や埃も、せっかくいい感じに育っているんだから、払ってリセットしないで」
天井から垂れ下がる蜘蛛の巣。床に降り積もった埃は、時の流れを感じさせる重要なインテリアだ。
普通の部屋ならともかく、ここまで理想的な地下室で暮らすからには、とことんディティールにこだわりたい。
私の強固なこだわりに、ササグは戸惑いの表情で
「う、ウラメ様……。でも不潔で埃っぽい環境のせいで、ずっと咳き込んでいるのに。肺を悪くしているんじゃ……」
病んでいるのは肺だけじゃなくて、皮膚にも謎の発疹ができている。
ササグの指摘どおり、私は明らかに健康を害していたが
「いいの。こうして少しずつ病んで弱っていくのも地下生活の醍醐味だから。ああ、私いま監禁されているなって。すごく楽しい」
「う、ウラメ様……」
ササグは私の体調を心配しているが、『お洒落は我慢』という言葉もある。
昔から人は美意識のために、少なからず健康や利便性を犠牲にして来た。
この最高の地下室のためなら、私も寿命の10年や20年縮んでも惜しくなかったが
「こうしている間にも、刻一刻とウラメ様の健康が害されていくなんて、俺には耐えられません。もう二度と閉じ込めさせて欲しいなんて言いませんから。どうか日当たりと風通しのいい家で、健やかに暮らしてください……」
500年も転生を繰り返している霊能者を、泣きながら土下座させてしまった。
別にササグに監禁を諦めさせるために、粘っていたわけじゃないんだけど。
地下室暮らしは最高だったが、ササグの言うとおり肉体が限界だ。
それにそろそろパソコンで、新作の執筆やら配信やらしたい気持ちもある。
憧れの地下室暮らしのおかげで、私のイマジネーションは溢れんばかりだ。
ササグは怪談師としての活動もやめて欲しいようだが、地下暮らしを諦めることと引き換えなら何も言わないだろう。
そんな流れで私たちは海外の古城を手放し、日本での平凡な生活に戻った。
ただいちばんお気に入りのアイアンメイデンだけは、今も私の仕事部屋にあり、たまに入って楽しんでいる。
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