わたしは怨霊になりたい

知見夜空

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オマケ【時系列バラバラ】

ウラメと理想の地下室・前編

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 500年も独りにしたせいか、ササグは再会して1か月ほどは私をベッドから出してくれなかった。

 この間は、ほぼ性交と気絶のような睡眠の繰り返しで、合間に入浴や食事はするものの、服を着る間も無かった。

 さらにひと月経ち、ようやく私恋しさが落ち着いたササグは

「あの、ウラメ様は地下室って、どう思いますか?」
「急にどうしたの?」

 この頃。私はやっと食卓について、落ち着いて食事を取らせてもらえるようになった。

 一方のササグは、ここ2か月の貪欲さが嘘のような奥ゆかしさで、恥じらいに頬を染めながら

「ここ2か月ほどウラメ様をたくさん抱かせてもらって、それで落ち着くかと思ったんですが、あなたが恋しい気持ちが全然去らなくて……むしろもっと欲しくなってしまって……」

 まだ朝だと言うのに、もう夜のお誘いかと一瞬怯む。

 しかし恋する瞳でササグが述べたのは

「いつか見た映画のように、俺以外誰も来ない地下室にウラメ様を閉じ込めてしまいたいなって。そうすれば、あなたの全てを独り占めにしたい気持ちが収まるかなって」

 私が居ない間、ササグはずっと修行していたわけではなく、その時々の娯楽や文化に触れていた。

 その娯楽の1つに、孤独な男が美しい女性を地下室に監禁する映画があったそうだ。

 ジャンルとしては、もちろん純愛ではなくサイコホラーやサスペンスの部類だが、『愛する人を独り占め』という一点がササグに刺さったらしい。

「でも大切な人を地下室に閉じ込めるなんて、やっぱりダメですよね……?」

 たまに心中スイッチが入ってしまうササグだが、基本は行き過ぎた愛妻家だ。

 私が嫌だと言えば、監禁を控えてくれそうな雰囲気だったが

「それはササグがどんな地下室を用意してくれるかにもよるよ」

 私の返答に、ササグは「えっ?」と目を丸くして

「地下室の内容によっては、閉じ込めてもいいんですか?」

 彼の確認に、今度は私が夢見る瞳で

「なんの面白味もない普通の地下室に閉じ込められるのは嫌だけど、例えば風情ある海外の古城みたいな。アイアンメイデンとかの拷問器具が置かれたロマンと おもむきの感じられる一室に、閉じ込められるならいいかなって」

 いいかなどころか、かなり乗り気だった。

 前世も座敷牢に監禁されてテンションマックスだったが、洋物ホラーも好きなので『地下室×監禁』にうっかり食いついてしまった。

 その勢いで流れるように『理想の地下室』を語ってしまったが

「でも、それだけ内装にこだわるとなると、すごくお金がかかるだろうし、現実的に無理だよね。ゴメン、いきなりワガママを言って」

 私もなんだかんだササグが好きなので、金のかかる女だと思われたくない。

 しかし反省する私にササグは

「ぜ、全然ワガママじゃ無いです」

 ササグによれば、私と再会するまでの500年。彼は霊的な修行だけでなく、私財も貯えていたようだ。

「前世の記憶を受け継げるなら、それまでの貯えを隠しておいて、自由に動ける年齢になったら取りに行くことができたので」

 財産を引き継ぎながら転生を繰り返し、今も異能を駆使して、ずいぶん荒稼ぎしているらしい。

 ササグは控えめながらも、ちょっと誇らしげな様子で

「いつかウラメ様と再会した時。俺と結婚して良かったと思っていただけるように、力も財もたくさん貯えましたから。今の俺ならウラメ様の要望に、なんでも応えられると思います」
「じゃあ、いいの? さっきの地下室の話。古い洋画に出て来るような理想の地下室を作ってもらっても」

 私の問いに、ササグは輝く笑顔で「はい」と答えると

「ただその代わり理想の地下室ができたらウラメ様を、もう俺以外の誰にも会えないように閉じ込めてもいいですか……?」

 彼にとっては愛の告白なのか、少しもじもじしながら尋ねて来た。

 『地下室に閉じ込めさせて』と言われたら、普通の女性は恐怖するのかもしれない。

 しかし過去何度も心中を迫られた私からすれば、監禁は全然許容範囲だ。

 ただ唯一、躊躇する点は

「いちおう今の私にも家族が居るので。親がたまに私に会いたいと言う時だけ、面会させてもらえるなら」

 いっそ死んだなら一時は絶望しても、立ち直れる時が来るだろう。

 しかし大切な人の生死が分からない状態は、諦めることも信じ切ることもできない苦しみがずっと続くことになる。

 親にそんな生き地獄を味わわせるのは可哀想なので、完全に失踪しっそうするわけにはいかなかった。

「でも、もしかして親もダメ?」

 ササグの意向を聞くと、彼は少し考えるような間を開けて

「本当は完全に、あなたを俺だけのものにしてしまいたいんですが、そうやって親を気遣える優しいウラメ様が好きなので。ウラメ様のご両親にだけでしたら」

 と優しい微笑みで許可してくれた。
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