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回想編(ササグ視点)
村での日々
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ウラメ様は俺には普通に話すけど、なぜか他の者たちの前では、あえて不気味に振る舞っていた。
そのせいで村人たちに「白痴だ」「気狂いだ」と陰口を言われていた。
でも村の大人たちでさえ全員は知らないような読み書きや計算を、俺に教えてくれたのはウラメ様だった。
村長によれば同い年のはずなのに、まるでずっと年上のように何も分からない俺を教え導いてくれた。
俺1人では例え思いついても、自分を家畜のように見ている村人たちに
「仕事を手伝わせて欲しい」
と頼むなんてできなかった。
死にたくないから媚びているんだと見下げられ、命だけでなく心まで踏みにじられることに、俺1人なら耐えられなかったから。
だけど俺が生きられるように、ウラメ様が考えてくれたことだと思えば、屈辱にも耐えられた。
そうすれば、本当に生きられると思ったからじゃない。助言に従っている限りは、ウラメ様に気にかけてもらえるからだ。
唯一、俺を生かそうとしてくれる人を失いたくない一心だった。
先の不安と恐怖で寝付けない夜。ウラメ様は俺に自分の寝床を譲り、すぐそばで眠りを見守ってくれた。
大人から饅頭や肉串など特別なご馳走をもらった時、ウラメ様は自分の分をコッソリ俺に譲ってくれた。
俺はご馳走だからこそ遠慮があったし、俺よりもずっと痩せているウラメ様にこそ栄養が必要だと思ったけど
「人は健やかで美しいものが好きなんだよ。だからたくさん食べて元気に育って。誰も君を殺せなくなるように」
ウラメ様はいつも微笑みとともに、俺に生きる糧と機会と知恵をくれた。俺はいつも泣きそうな気持ちで、それを受け取った。
人は神や仏を自分を護り救ってくれる、ありがたいものとして敬う。
だけど俺にとっては居るか居ないかも分からない神仏より、ウラメ様のほうが、よほど眩しくて尊かった。
俺はウラメ様の助言どおり、自分から村人たちの仕事を手伝い、知識や力や技術を身に着けた。
ウラメ様に出会って知った笑顔や気配りを、意識的に他の者にも向けた。
殺すためにもらって来た子どもと打ち解けることに、村人たちも最初は躊躇していた。
でも俺が
「あのままでは飢え死にしていた俺に、少しの間だけでも生きる機会を与えてくれただけでありがたいです」
生贄になることを受け入れている風を装えば
「後で生贄にしないでくれと、泣いて縋られるんじゃないなら」
と考えてか、ウラメ様の言うとおり徐々に扱いはよくなった。
ただ大人には「素直で礼儀正しい働き者だ」と褒められる一方で
「言っておくけど、村の大人たちがお前を褒めるのは、好きだからじゃなくて役に立つからだ」
「どれだけ「利口だ。可愛い子だ」と褒められたって、大蛇の生贄にされるのは俺たちじゃなくてお前なんだからな!」
村の子どもたちには、よく嫉妬された。
俺が村の大人たちから仕事を手伝ったご褒美に、お古やあまりものをもらうのを
「アイツばかり可愛がられてズルい」
と思ったようだ。
でも彼らに教えてもらわなくても、条件付きの寵愛であることは、俺がいちばん知っている。
自分から働くことも学ぶこともしないどころか、人の邪魔をして傷つけるようなろくでなしでも、本当の子は労なく愛され、与えられる。
何もせずとも衣食住を与えられる子どもが、どれだけがんばろうと誰かのおこぼれしかもらえず、時がくれば生贄にされる俺の何に嫉妬することがあるのかと本当は不満だった。
だけど、やがて自分だけが不幸だという意識は消えた。
なぜなら俺はウラメ様の代の生贄で、儀式は3年に1度行われたから。
俺の番が来るまでに、3人の若者が犠牲になった。
俺が直接手をくだしたわけではない。
でも儀式の存在を知りながら止めもせず、この村で生きるということは、自分が生贄を出したのと同じだ。
俺も自分のために他者を犠牲にした。だから俺はもう、俺に生贄役を課した村人たちを恨んでいない。
生贄役にとってどれほど残酷でも、誰かが務めなければいけないことなのだと、身を持って知ったから。
そのせいで村人たちに「白痴だ」「気狂いだ」と陰口を言われていた。
でも村の大人たちでさえ全員は知らないような読み書きや計算を、俺に教えてくれたのはウラメ様だった。
村長によれば同い年のはずなのに、まるでずっと年上のように何も分からない俺を教え導いてくれた。
俺1人では例え思いついても、自分を家畜のように見ている村人たちに
「仕事を手伝わせて欲しい」
と頼むなんてできなかった。
死にたくないから媚びているんだと見下げられ、命だけでなく心まで踏みにじられることに、俺1人なら耐えられなかったから。
だけど俺が生きられるように、ウラメ様が考えてくれたことだと思えば、屈辱にも耐えられた。
そうすれば、本当に生きられると思ったからじゃない。助言に従っている限りは、ウラメ様に気にかけてもらえるからだ。
唯一、俺を生かそうとしてくれる人を失いたくない一心だった。
先の不安と恐怖で寝付けない夜。ウラメ様は俺に自分の寝床を譲り、すぐそばで眠りを見守ってくれた。
大人から饅頭や肉串など特別なご馳走をもらった時、ウラメ様は自分の分をコッソリ俺に譲ってくれた。
俺はご馳走だからこそ遠慮があったし、俺よりもずっと痩せているウラメ様にこそ栄養が必要だと思ったけど
「人は健やかで美しいものが好きなんだよ。だからたくさん食べて元気に育って。誰も君を殺せなくなるように」
ウラメ様はいつも微笑みとともに、俺に生きる糧と機会と知恵をくれた。俺はいつも泣きそうな気持ちで、それを受け取った。
人は神や仏を自分を護り救ってくれる、ありがたいものとして敬う。
だけど俺にとっては居るか居ないかも分からない神仏より、ウラメ様のほうが、よほど眩しくて尊かった。
俺はウラメ様の助言どおり、自分から村人たちの仕事を手伝い、知識や力や技術を身に着けた。
ウラメ様に出会って知った笑顔や気配りを、意識的に他の者にも向けた。
殺すためにもらって来た子どもと打ち解けることに、村人たちも最初は躊躇していた。
でも俺が
「あのままでは飢え死にしていた俺に、少しの間だけでも生きる機会を与えてくれただけでありがたいです」
生贄になることを受け入れている風を装えば
「後で生贄にしないでくれと、泣いて縋られるんじゃないなら」
と考えてか、ウラメ様の言うとおり徐々に扱いはよくなった。
ただ大人には「素直で礼儀正しい働き者だ」と褒められる一方で
「言っておくけど、村の大人たちがお前を褒めるのは、好きだからじゃなくて役に立つからだ」
「どれだけ「利口だ。可愛い子だ」と褒められたって、大蛇の生贄にされるのは俺たちじゃなくてお前なんだからな!」
村の子どもたちには、よく嫉妬された。
俺が村の大人たちから仕事を手伝ったご褒美に、お古やあまりものをもらうのを
「アイツばかり可愛がられてズルい」
と思ったようだ。
でも彼らに教えてもらわなくても、条件付きの寵愛であることは、俺がいちばん知っている。
自分から働くことも学ぶこともしないどころか、人の邪魔をして傷つけるようなろくでなしでも、本当の子は労なく愛され、与えられる。
何もせずとも衣食住を与えられる子どもが、どれだけがんばろうと誰かのおこぼれしかもらえず、時がくれば生贄にされる俺の何に嫉妬することがあるのかと本当は不満だった。
だけど、やがて自分だけが不幸だという意識は消えた。
なぜなら俺はウラメ様の代の生贄で、儀式は3年に1度行われたから。
俺の番が来るまでに、3人の若者が犠牲になった。
俺が直接手をくだしたわけではない。
でも儀式の存在を知りながら止めもせず、この村で生きるということは、自分が生贄を出したのと同じだ。
俺も自分のために他者を犠牲にした。だから俺はもう、俺に生贄役を課した村人たちを恨んでいない。
生贄役にとってどれほど残酷でも、誰かが務めなければいけないことなのだと、身を持って知ったから。
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