13 / 28
新婚編
再びの裏切り
しおりを挟む
そんな生活が、もう1年以上も続いている。しかしササグは一向に私に飽きる様子が無い。
むしろ以前からめいっぱいだった愛情が、今は輝く笑顔と甘やかな声音から、ドバドバと溢れている。
下降するどころか右肩上がりに上昇し続けるササグの愛情。これ、いつかちゃんと下落する日は来る?
ササグが私に飽きる前に、私が愛情の海に沈められるんじゃないかと不安でいっぱいの日々だ。
心配は他にもある。
この村には避妊具が無いので、夫婦は中出しが基本だ。これだけ昼も夜も孕ませエッチされたら普通は妊娠する。
この世界だけか、元の世界でもそうだったのか、腹に子種を宿した女のもとには、この世に生まれ出ようとする魂が寄って来る。
それらは死者の霊のように人間の姿を持たず、光の玉として現れる。多分まだ人格を持たない純粋な魂なのだろう。
恐らく受精卵に魂が宿ることで、人としての成長がはじまる。
逆に魂が宿らない受精卵は、人として育まれることなく流れるようだ。
見える人である私は
「ダメ! 来ないで! あっちに行って!」
器を求める魂を、そのたび追い払っていた。
私が眠っている間は
「ゴメンね。この子は怨霊になりたいんだって。アンタの母親にはなれないのよ」
お姉さん方がお引き取り願っていた。
そのおかげで執拗に抱かれながらも、ササグの子を孕まずに済んでいた。
毎日のように抱いても、なぜか一向に孕まない女。
元の世界とは違い、この世界では子を産むことが女のいちばんの仕事だ。つまり産めない女は出来損ないで価値が無い。
そんな女を妻にしてしまったことも、男にとっては失敗だ。
しかしササグが今のところ、妊娠しないことを気にしている様子は無い。
まだ19歳だからセックスだけでいいのか、それとも私を気遣って触れずにいるのか。
「ササグは子どもが欲しくないの?」
私から聞いてみると
「俺は多分もしウラメ様と俺の子が産まれたらすごく嬉しくて、命よりも大事にすると思います」
ササグは慈しむように私の髪を撫でながら
「だけどお産は母親の命を子に分けることだとも言います。実際にお産で亡くなる人も多いですから、子どもを授からないことにも、愛する人を失わないで済むという安心があります」
愛おしそうに私を見つめて
「だから俺は言葉は悪いけど、どちらでもいいんです。子どもが生まれても生まれなくても、ウラメ様が居てくれるだけで幸せですから」
光が溢れるような笑顔とともに放たれた言葉に「うっ」と嗚咽したのは私ではなく
「お、お姉さん? その光は……」
男に苦しめられた未練の女霊たちは、何やら見覚えのある白い光に包まれていた。
異変を感じた私はササグを離れに残して、霊たちと外に出た。
改めて話を聞くと、6人の霊たちの中でもリーダー的な存在だった女性が
「アンタには言わなかったけど、あたしは子どもを産めないことで、役立たずだと男に詰られて死んだんだ」
「あたしは子どもができてから、母親としての役目だけ求められて、女として見てもらえなくなった」
全員が全員、同じ過去を持つわけではない。ただ1つ共通していたのが、女性としてもっと大切に愛されたかったという想い。
しかしそれが今。
「でも、こんなに情が深い男も居るんだねぇ。アンタを一心に愛するササグ君を見ていたら、なんかもう全部癒されちまったよ」
漂う成仏ムードに私は慌てて
「いや、待ってください! これからじゃないですか! どんな男でも、いつかは絶対に飽きるんでしょう!?」
「アンタはまだササグ君が、普通の男だと思っているのかい?」
お姉さん方は急に怖いことを言い出すと
「ササグ君はアンタの知らないところで、よく村の女たちに誘われているけど、いつも少しも迷わずに拒んでいるよ」
「ササグ君は本当に、アンタのことしか想ってないよ。霊の視点から太鼓判を押すんだから間違いない」
相手の前でだけ良い人ぶるのは難しくない。問題は誰も見ていない時の振舞い。お姉さん方によれば、ササグには本当に二心が無いらしい。
私と居る時は直接尽くし、私が居ない時も懸命に働くことで、私に尽くしていると言う。
お姉さん方は最後に、すっかり浄化されたいい笑顔で
「ササグ君は本物だ。絶対に一生、アンタを離さないよ」
「いや、話が違」
お姉さん方は忘れているようだが、私は彼女たちに恋愛相談をしていたわけじゃない。
私も男に裏切られ、彼女たちと同種の波長を持つことで、怨霊になろうねと約束したはずだ。
ところが私を通して、溢れんばかりのササグの愛情を浴びた彼女たちは
「尽きない愛情もあるんだって、教えてくれてありがとうね……」
「勝手に成仏しないでぇ!? 行くところまで行けば飽きるって、お姉さんたちが煽ったのに! 嘘吐き! 嘘吐きぃ!」
再び霊に裏切られ、置き去りにされた私は半狂乱で泣き叫んだ。
あまりの大騒ぎに、流石にササグが離れから出て来て
「う、ウラメ様? どうしたんですか?」
と泣きじゃくる私を宥めた。
でもまさかササグにあえて捨てられて、怨霊化しようとしていたなんて言えない。
私は二度も霊たちに裏切られ、怨霊化の望みを絶たれた無念を、1人で飲み込むしか無かった。
むしろ以前からめいっぱいだった愛情が、今は輝く笑顔と甘やかな声音から、ドバドバと溢れている。
下降するどころか右肩上がりに上昇し続けるササグの愛情。これ、いつかちゃんと下落する日は来る?
ササグが私に飽きる前に、私が愛情の海に沈められるんじゃないかと不安でいっぱいの日々だ。
心配は他にもある。
この村には避妊具が無いので、夫婦は中出しが基本だ。これだけ昼も夜も孕ませエッチされたら普通は妊娠する。
この世界だけか、元の世界でもそうだったのか、腹に子種を宿した女のもとには、この世に生まれ出ようとする魂が寄って来る。
それらは死者の霊のように人間の姿を持たず、光の玉として現れる。多分まだ人格を持たない純粋な魂なのだろう。
恐らく受精卵に魂が宿ることで、人としての成長がはじまる。
逆に魂が宿らない受精卵は、人として育まれることなく流れるようだ。
見える人である私は
「ダメ! 来ないで! あっちに行って!」
器を求める魂を、そのたび追い払っていた。
私が眠っている間は
「ゴメンね。この子は怨霊になりたいんだって。アンタの母親にはなれないのよ」
お姉さん方がお引き取り願っていた。
そのおかげで執拗に抱かれながらも、ササグの子を孕まずに済んでいた。
毎日のように抱いても、なぜか一向に孕まない女。
元の世界とは違い、この世界では子を産むことが女のいちばんの仕事だ。つまり産めない女は出来損ないで価値が無い。
そんな女を妻にしてしまったことも、男にとっては失敗だ。
しかしササグが今のところ、妊娠しないことを気にしている様子は無い。
まだ19歳だからセックスだけでいいのか、それとも私を気遣って触れずにいるのか。
「ササグは子どもが欲しくないの?」
私から聞いてみると
「俺は多分もしウラメ様と俺の子が産まれたらすごく嬉しくて、命よりも大事にすると思います」
ササグは慈しむように私の髪を撫でながら
「だけどお産は母親の命を子に分けることだとも言います。実際にお産で亡くなる人も多いですから、子どもを授からないことにも、愛する人を失わないで済むという安心があります」
愛おしそうに私を見つめて
「だから俺は言葉は悪いけど、どちらでもいいんです。子どもが生まれても生まれなくても、ウラメ様が居てくれるだけで幸せですから」
光が溢れるような笑顔とともに放たれた言葉に「うっ」と嗚咽したのは私ではなく
「お、お姉さん? その光は……」
男に苦しめられた未練の女霊たちは、何やら見覚えのある白い光に包まれていた。
異変を感じた私はササグを離れに残して、霊たちと外に出た。
改めて話を聞くと、6人の霊たちの中でもリーダー的な存在だった女性が
「アンタには言わなかったけど、あたしは子どもを産めないことで、役立たずだと男に詰られて死んだんだ」
「あたしは子どもができてから、母親としての役目だけ求められて、女として見てもらえなくなった」
全員が全員、同じ過去を持つわけではない。ただ1つ共通していたのが、女性としてもっと大切に愛されたかったという想い。
しかしそれが今。
「でも、こんなに情が深い男も居るんだねぇ。アンタを一心に愛するササグ君を見ていたら、なんかもう全部癒されちまったよ」
漂う成仏ムードに私は慌てて
「いや、待ってください! これからじゃないですか! どんな男でも、いつかは絶対に飽きるんでしょう!?」
「アンタはまだササグ君が、普通の男だと思っているのかい?」
お姉さん方は急に怖いことを言い出すと
「ササグ君はアンタの知らないところで、よく村の女たちに誘われているけど、いつも少しも迷わずに拒んでいるよ」
「ササグ君は本当に、アンタのことしか想ってないよ。霊の視点から太鼓判を押すんだから間違いない」
相手の前でだけ良い人ぶるのは難しくない。問題は誰も見ていない時の振舞い。お姉さん方によれば、ササグには本当に二心が無いらしい。
私と居る時は直接尽くし、私が居ない時も懸命に働くことで、私に尽くしていると言う。
お姉さん方は最後に、すっかり浄化されたいい笑顔で
「ササグ君は本物だ。絶対に一生、アンタを離さないよ」
「いや、話が違」
お姉さん方は忘れているようだが、私は彼女たちに恋愛相談をしていたわけじゃない。
私も男に裏切られ、彼女たちと同種の波長を持つことで、怨霊になろうねと約束したはずだ。
ところが私を通して、溢れんばかりのササグの愛情を浴びた彼女たちは
「尽きない愛情もあるんだって、教えてくれてありがとうね……」
「勝手に成仏しないでぇ!? 行くところまで行けば飽きるって、お姉さんたちが煽ったのに! 嘘吐き! 嘘吐きぃ!」
再び霊に裏切られ、置き去りにされた私は半狂乱で泣き叫んだ。
あまりの大騒ぎに、流石にササグが離れから出て来て
「う、ウラメ様? どうしたんですか?」
と泣きじゃくる私を宥めた。
でもまさかササグにあえて捨てられて、怨霊化しようとしていたなんて言えない。
私は二度も霊たちに裏切られ、怨霊化の望みを絶たれた無念を、1人で飲み込むしか無かった。
5
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる