わたしは怨霊になりたい

知見夜空

文字の大きさ
上 下
10 / 28
新婚編

はじめてのお誘い、盛り上がる外野

しおりを挟む
 結婚してから私とササグは、家族が住む母屋ではなく離れで暮らしていた。仕事だけでなく家のことも、初日の約束どおり全てササグがやってくれている。

 日本昔話のようなこの世界では特に、夫だけ働かせて妻は昼まで寝ているなんて許されない。

 恐らく公家や武家のお姫様だって、そんな怠惰な生活はしていない。

 当然ながら母や姉が

「旦那だけ働かせて、自分は昼まで寝ている嫁がありますか。結婚したんだから、アンタも家事くらい覚えなさい」

 と注意したが、ササグが止めに入ってくれた。

 その後。私不在で行われた家族会議で、ササグは私の両親と姉に

「ウラメ様が大蛇の生贄になろうとしたのは単に村のためだけでなく、死にたいと言う気持ちがあったからだそうです」

 私の希死念慮きしねんりょを伝えて

「今ウラメ様が生きているのは、俺がどうしても生きていて欲しいと縋ったからなんです。必要なことは全て俺がやりますから、ただでさえギリギリで生きているウラメ様を、これ以上追い詰めないであげてください」

 と真剣に訴えたそうだ。

 相変わらず間違いでは無いのだが、ササグが説明すると、やたら深刻な感じになる。

 ササグの頼みを聞き入れた家族は、私が相変わらず昼夜逆転の生活をしていても

(追い詰めて死なれたら嫌だし、ごく潰しでもササグが面倒を見るならいいか……)

 と黙認してくれるようになった。

 今さらだけど、こんな粗大ごみのような女をなぜあえて背負おうとするのか、ものすごくササグに問いたい。

 それでもササグ自身は、自分にとっては損しかない新婚生活を

「毎晩ウラメ様と同じ部屋で眠れるなんて嬉しいです。子どもの頃に戻ったみたいだ」

 夜。ただ布団を並べて寝るだけのことを、とても喜んでいた。

 昔、ササグは夜になると不安が増すらしく寝付けないことが多かった。またササグが死ぬためのものでしかなかった頃は、父は彼に粗末な着物と寝場所しか与えなかった。

 それは単なるケチではなく、お互いの立場を明確にするため。ササグに懐かれて愛着を持たないようにするための予防策だった。

 ともかく不安と粗末な寝床のせいで、寝つきが悪かったササグを私は自分の離れに招いて

『私は昼間眠るから、夜はササグが使っていいよ』

 と布団を貸してあげた。そして悪戯心から、ササグの枕元に座り込み、薄ら笑いで彼の寝顔を見下ろすと言う怨霊ムーブを楽しんだ。

 寝かせたいのか邪魔したいのか分からない行動だったが

「ウラメ様はただ布団を貸すだけじゃなく、夜通し俺を見ていてくれましたよね。目を開けるたびにウラメ様が微笑んで俺を見てくれているのが分かって、すごく安心しました」

 私はいつもニタァ~っと笑っているつもりだったが、ササグには聖母の微笑に見えていたらしい。

 ササグ、視力大丈夫? いくつ? って感じだけど、ササグは飛ぶ鳥の心臓を正確に射貫くことができる。それは技術もさることながら、視力が優れている証拠だ。

 なんで私にだけ目の機能異常になるの? と心配になる。

 けれど、ササグは温かそうな顔で過去の話を続けて

「いつも俺が眠るまで色んな話を聞かせてくれて……こうして考えると、俺はウラメ様のおかげで普通の子どもより、ずっと幸せな子ども時代を過ごしたと思います」
「いや、絶対にそんなことないけど」

 繰り返しになるが、ササグは生贄として村にもらわれて来て、人一倍努力した末に有益な人材として認められたのだ。

 今は村の人たちと友好的な関係を築いているが、それはササグが役に立つから。

 親からの無償の愛という決定的なものが欠けているのに、普通の子よりも幸せだったなんて明らかに言いすぎだ。

 しかし私の言葉に、ササグは首を振って

「もし今の人生と、普通の子どもとして何不自由なく暮らせる人生を交換できるとしても、俺はウラメ様と居られる人生のほうがいいです。それは普通に育つよりも、ウラメ様がくれた幸せのほうが大きい証拠です」

 これはササグの心の歪みが生み出す妄信だ。だけど、それを口にするササグの顔はあまりに綺麗で幸せそうで、私はまた胸が痛くなり

「……じゃあ、もっと幸せになれるようなことをする?」
「もっと幸せになれることって?」
「別々じゃなくて一緒の布団で寝る?」

 私の提案に、ササグは「えっ!?」と驚くと

「ウラメ様と寝られたらすごく嬉しいけど……嬉しいだけでは多分、済まないからダメです……」

 恥ずかしそうに目を伏せながら遠慮する彼に

「私に変なことをしたくなる?」

 重ねて聞いてみると、ササグは躊躇いがちに頷いた。相変わらず、こんな女になぜだと疑問しか無いが

「ちょっとならいいよ。変なことをしても」
「えっ!? ……ちょ、ちょっとって、どこまで?」
「口づけしたり体を触ったり」

 未知の行為への不安が大きすぎて「やってよし」とは言えず、半端に許可を出すと

「……でも触りはじめたら、ちょっとじゃ無理です。多分いっぱい触りたくなります」

 ササグは言葉だけで堪らなそうな顔をしていた。彼の欲を感じて私もドキッとしたが

「可愛いっ! 可愛いねぇっ!」
「あーん! あたしが抱かせてあげたい!」

 実はセコンドとしてこの様子を見守っているお姉さんがたのほうが大興奮しているせいで、すぐに冷静になった。

 我に返ったせいで、ササグの期待に応えたい気持ちよりも、また不安のほうが大きくなり

(許可なんて出して大丈夫ですかね? 怖いことになりませんかね?)

 心の中でお姉さん方に問うと

「何も怖いことなんてないよ! こんなにアンタを愛している子との交わりが、怖いはずないじゃないか!」

 無責任に煽られている気がするけど

「アンタは怨霊になりたいんだろう!? だったらササグ君に純愛を捨てさせないと!」

 た、確かに……と納得した私は

「……さ、ササグの好きにしていいよ」

 と恐る恐る許可した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

ヒョロガリ殿下を逞しく育てたのでお暇させていただきます!

冬見 六花
恋愛
突如自分がいる世界が前世で読んだ異世界恋愛小説の中だと気づいたエリシア。婚約者である王太子殿下と自分が死ぬ運命から逃れるため、ガリガリに痩せ細っている殿下に「逞しい体になるため鍛えてほしい」とお願いし、異世界から来る筋肉好きヒロインを迎える準備をして自分はお暇させてもらおうとするのだが……――――もちろん逃げられるわけがなかったお話。 【無自覚ヤンデレ煽りなヒロイン ✖️ ヒロインのためだけに体を鍛えたヒロイン絶対マンの腹黒ヒーロー】 ゆるゆるな世界設定です。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

義兄の執愛

真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。 教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。 悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

処理中です...