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馴れ初め編
(私以外)大団円
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ある意味では私の説明不足のせいだが
『君の身代わりになるわけじゃない』
『これは悲劇ではない』
『私は大丈夫』
と、あれだけ言い聞かせたにもかかわらず、元から私を過大評価していたササグは
(ウラメ様はご自分の命を犠牲にして村を護ろうとしている。しかもその罪を俺たちに背負わせまいとしている。こんな立派な方を死なせてはいけない)
と思い込んだらしい。
彼は私の立派な行い(誤解)を父をはじめとする村人たちに知らせると
「こんな悲しいことを、いつまでも続けてはいけません。力を合わせて大蛇を討ちましょう。弱い者や優しい者にだけ背負わせぬように、この村の悲劇を終わらせましょう」
と強く訴えたそうだ。
ササグの解説により私のこれまでの奇行は、生贄になるための演技だとバレた。さらに父に対しても
「家のものを盗んでいたのは、1つは俺を自由にするためで、もう1つは父である村長に、金で子どもの命を買う罪を犯させないためとのことでした」
と説明したそうだ。確かに嘘では無いが、全部ではない。
けれど事実の一部だけを聞いた父は、まるで鬼か狐が取りついたように理解できぬ不気味な娘だと思っていた私が、実は自分を気遣っていたと知り
「あの子がそんな深い考えを持っていたとは知らずに、俺はなんてことを……!」
ぶわっと涙して、村の男たちに「まだ間に合う」と肩を抱いて慰められたと言う。
そしてすっかり
「俺たちで悲劇を終わらせよう!」
「ササグの言うとおり、女の子1人に背負わせちゃなんねぇ!」
「どれだけ犠牲を払おうと、大蛇のヤツは俺たちで倒すんだ!」
という方向で話がまとまったらしい。
一度加熱した民衆の勢いは、誰にも止められない。
私が怨霊化を夢見ていた最後のひと月、村の人たちは密かに武器を準備していた。
大蛇をおびき寄せるために、いつもの儀式のていを装ったが、20代から40代までの男のほとんどが木陰で待機していたと言う。
村人たちの捨て身の抵抗は大成功し、負傷者は出たものの死者を出すことはなく
「大蛇を討ち取ったぞぉぉ!」
「うおぉぉ!」
夜明けとともに帰還した男たちの勇ましい咆哮。愛する者の帰りを待っていた女たちが手を取り合い喜ぶ姿。
さらに皆には見えていないが
「まさか本当に大蛇を討ち取るなんて」
「悲劇を終わらせるというのは口だけじゃなかったんだな」
久しぶりに姿を現した霊たちが言い合うのを見て
「ま、まさか知っていたの? 村の人たちが大蛇を倒そうとしていること」
私は蔵に閉じ込められていたが、肉体を持たない無念の霊たちは自由に村を行き来していた。そうすると当然、普段とは違う村人たちの様子に気付く。
まるで合戦の準備のように、武器や火薬を集める姿を不審に思い、村人同士の会話に耳を澄ましたことで彼らの計画を知ったようだ。
「な、なんで教えてくれなかったの?」
私の質問に、無念の霊たちは
「実際に事が起きるまでは、俺たちも半信半疑だったんだ。恐ろしい大蛇と命がけで戦うよりは、これまでどおり嫌われ者や役立たずを差し出すほうが、村のヤツラにとっちゃ簡単だろうと思っていたから」
最初こそ私に対して、すまなそうな顔をしていたが
「でも本当はそうじゃなかった。村のヤツラも簡単に俺たちを生贄にしたんじゃないと気づいたよ」
やがて光が差したかのように顔を明るくすると
「そして救われた。憎い大蛇を村人たちが討ち取り、最後の生贄が見捨てられず、護られたのを見たことで」
気のせいではなく、本当に発光しはじめた。清らかな白い光に包まれる幽霊たちを前に
「えっ? 何その光? ……もしかして成仏しようとしている?」
「……ああ、今すごくいい気分だ。今なら天にも昇れそうだ」
「昇らないで! 私と合体して怨霊になる約束でしょ!?」
私はなんとか霊たちを引き留めようとしたが
「もう何も恨んでいないから無理だ」
彼らは残酷なほど晴れやかな笑顔で言い放つと
「アンタもせっかく生き残ったんだから、怨霊になるなんて馬鹿みたいなことを言わないで、女として真っ当な幸せを掴むんだよ~」
自分は結婚も出産もしないで死んでいった少女たちが私に手を振り、他の皆も光の粒子になって天へと昇っていった。
こうなるまでは一緒に、怨霊になったら「あれもしようね、これもしようね」って毎晩のように語り合ったのに、急に手の平を返して来た……。
村の人たちに大蛇を殺され、信じた仲間にも裏切られた私は、怨霊化の機会を失い灰になった。
『君の身代わりになるわけじゃない』
『これは悲劇ではない』
『私は大丈夫』
と、あれだけ言い聞かせたにもかかわらず、元から私を過大評価していたササグは
(ウラメ様はご自分の命を犠牲にして村を護ろうとしている。しかもその罪を俺たちに背負わせまいとしている。こんな立派な方を死なせてはいけない)
と思い込んだらしい。
彼は私の立派な行い(誤解)を父をはじめとする村人たちに知らせると
「こんな悲しいことを、いつまでも続けてはいけません。力を合わせて大蛇を討ちましょう。弱い者や優しい者にだけ背負わせぬように、この村の悲劇を終わらせましょう」
と強く訴えたそうだ。
ササグの解説により私のこれまでの奇行は、生贄になるための演技だとバレた。さらに父に対しても
「家のものを盗んでいたのは、1つは俺を自由にするためで、もう1つは父である村長に、金で子どもの命を買う罪を犯させないためとのことでした」
と説明したそうだ。確かに嘘では無いが、全部ではない。
けれど事実の一部だけを聞いた父は、まるで鬼か狐が取りついたように理解できぬ不気味な娘だと思っていた私が、実は自分を気遣っていたと知り
「あの子がそんな深い考えを持っていたとは知らずに、俺はなんてことを……!」
ぶわっと涙して、村の男たちに「まだ間に合う」と肩を抱いて慰められたと言う。
そしてすっかり
「俺たちで悲劇を終わらせよう!」
「ササグの言うとおり、女の子1人に背負わせちゃなんねぇ!」
「どれだけ犠牲を払おうと、大蛇のヤツは俺たちで倒すんだ!」
という方向で話がまとまったらしい。
一度加熱した民衆の勢いは、誰にも止められない。
私が怨霊化を夢見ていた最後のひと月、村の人たちは密かに武器を準備していた。
大蛇をおびき寄せるために、いつもの儀式のていを装ったが、20代から40代までの男のほとんどが木陰で待機していたと言う。
村人たちの捨て身の抵抗は大成功し、負傷者は出たものの死者を出すことはなく
「大蛇を討ち取ったぞぉぉ!」
「うおぉぉ!」
夜明けとともに帰還した男たちの勇ましい咆哮。愛する者の帰りを待っていた女たちが手を取り合い喜ぶ姿。
さらに皆には見えていないが
「まさか本当に大蛇を討ち取るなんて」
「悲劇を終わらせるというのは口だけじゃなかったんだな」
久しぶりに姿を現した霊たちが言い合うのを見て
「ま、まさか知っていたの? 村の人たちが大蛇を倒そうとしていること」
私は蔵に閉じ込められていたが、肉体を持たない無念の霊たちは自由に村を行き来していた。そうすると当然、普段とは違う村人たちの様子に気付く。
まるで合戦の準備のように、武器や火薬を集める姿を不審に思い、村人同士の会話に耳を澄ましたことで彼らの計画を知ったようだ。
「な、なんで教えてくれなかったの?」
私の質問に、無念の霊たちは
「実際に事が起きるまでは、俺たちも半信半疑だったんだ。恐ろしい大蛇と命がけで戦うよりは、これまでどおり嫌われ者や役立たずを差し出すほうが、村のヤツラにとっちゃ簡単だろうと思っていたから」
最初こそ私に対して、すまなそうな顔をしていたが
「でも本当はそうじゃなかった。村のヤツラも簡単に俺たちを生贄にしたんじゃないと気づいたよ」
やがて光が差したかのように顔を明るくすると
「そして救われた。憎い大蛇を村人たちが討ち取り、最後の生贄が見捨てられず、護られたのを見たことで」
気のせいではなく、本当に発光しはじめた。清らかな白い光に包まれる幽霊たちを前に
「えっ? 何その光? ……もしかして成仏しようとしている?」
「……ああ、今すごくいい気分だ。今なら天にも昇れそうだ」
「昇らないで! 私と合体して怨霊になる約束でしょ!?」
私はなんとか霊たちを引き留めようとしたが
「もう何も恨んでいないから無理だ」
彼らは残酷なほど晴れやかな笑顔で言い放つと
「アンタもせっかく生き残ったんだから、怨霊になるなんて馬鹿みたいなことを言わないで、女として真っ当な幸せを掴むんだよ~」
自分は結婚も出産もしないで死んでいった少女たちが私に手を振り、他の皆も光の粒子になって天へと昇っていった。
こうなるまでは一緒に、怨霊になったら「あれもしようね、これもしようね」って毎晩のように語り合ったのに、急に手の平を返して来た……。
村の人たちに大蛇を殺され、信じた仲間にも裏切られた私は、怨霊化の機会を失い灰になった。
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