わたしは怨霊になりたい

知見夜空

文字の大きさ
上 下
4 / 28
馴れ初め編

(私以外)大団円

しおりを挟む
 ある意味では私の説明不足のせいだが

『君の身代わりになるわけじゃない』
『これは悲劇ではない』
『私は大丈夫』

 と、あれだけ言い聞かせたにもかかわらず、元から私を過大評価していたササグは

(ウラメ様はご自分の命を犠牲にして村を護ろうとしている。しかもその罪を俺たちに背負わせまいとしている。こんな立派な方を死なせてはいけない)

 と思い込んだらしい。

 彼は私の立派な行い(誤解)を父をはじめとする村人たちに知らせると

「こんな悲しいことを、いつまでも続けてはいけません。力を合わせて大蛇を討ちましょう。弱い者や優しい者にだけ背負わせぬように、この村の悲劇を終わらせましょう」

 と強く訴えたそうだ。

 ササグの解説により私のこれまでの奇行は、生贄になるための演技だとバレた。さらに父に対しても

「家のものを盗んでいたのは、1つは俺を自由にするためで、もう1つは父である村長に、金で子どもの命を買う罪を犯させないためとのことでした」

 と説明したそうだ。確かに嘘では無いが、全部ではない。

 けれど事実の一部だけを聞いた父は、まるで鬼か狐が取りついたように理解できぬ不気味な娘だと思っていた私が、実は自分を気遣っていたと知り

「あの子がそんな深い考えを持っていたとは知らずに、俺はなんてことを……!」

 ぶわっと涙して、村の男たちに「まだ間に合う」と肩を抱いて慰められたと言う。

 そしてすっかり

「俺たちで悲劇を終わらせよう!」
「ササグの言うとおり、女の子1人に背負わせちゃなんねぇ!」
「どれだけ犠牲を払おうと、大蛇のヤツは俺たちで倒すんだ!」

 という方向で話がまとまったらしい。

 一度加熱した民衆の勢いは、誰にも止められない。

 私が怨霊化を夢見ていた最後のひと月、村の人たちは密かに武器を準備していた。

 大蛇をおびき寄せるために、いつもの儀式のていを装ったが、20代から40代までの男のほとんどが木陰で待機していたと言う。

 村人たちの捨て身の抵抗は大成功し、負傷者は出たものの死者を出すことはなく

「大蛇を討ち取ったぞぉぉ!」
「うおぉぉ!」

 夜明けとともに帰還した男たちの勇ましい咆哮ほうこう。愛する者の帰りを待っていた女たちが手を取り合い喜ぶ姿。

 さらに皆には見えていないが

「まさか本当に大蛇を討ち取るなんて」
「悲劇を終わらせるというのは口だけじゃなかったんだな」

 久しぶりに姿を現した霊たちが言い合うのを見て

「ま、まさか知っていたの? 村の人たちが大蛇を倒そうとしていること」

 私は蔵に閉じ込められていたが、肉体を持たない無念の霊たちは自由に村を行き来していた。そうすると当然、普段とは違う村人たちの様子に気付く。

 まるで合戦の準備のように、武器や火薬を集める姿を不審に思い、村人同士の会話に耳を澄ましたことで彼らの計画を知ったようだ。

「な、なんで教えてくれなかったの?」

 私の質問に、無念の霊たちは

「実際に事が起きるまでは、俺たちも半信半疑だったんだ。恐ろしい大蛇と命がけで戦うよりは、これまでどおり嫌われ者や役立たずを差し出すほうが、村のヤツラにとっちゃ簡単だろうと思っていたから」

 最初こそ私に対して、すまなそうな顔をしていたが

「でも本当はそうじゃなかった。村のヤツラも簡単に俺たちを生贄にしたんじゃないと気づいたよ」

 やがて光が差したかのように顔を明るくすると

「そして救われた。憎い大蛇を村人たちが討ち取り、最後の生贄が見捨てられず、護られたのを見たことで」

 気のせいではなく、本当に発光しはじめた。清らかな白い光に包まれる幽霊たちを前に

「えっ? 何その光? ……もしかして成仏しようとしている?」
「……ああ、今すごくいい気分だ。今なら天にも昇れそうだ」
「昇らないで! 私と合体して怨霊になる約束でしょ!?」

 私はなんとか霊たちを引き留めようとしたが

「もう何も恨んでいないから無理だ」

 彼らは残酷なほど晴れやかな笑顔で言い放つと

「アンタもせっかく生き残ったんだから、怨霊になるなんて馬鹿みたいなことを言わないで、女として真っ当な幸せを掴むんだよ~」

 自分は結婚も出産もしないで死んでいった少女たちが私に手を振り、他の皆も光の粒子になって天へと昇っていった。

 こうなるまでは一緒に、怨霊になったら「あれもしようね、これもしようね」って毎晩のように語り合ったのに、急に手の平を返して来た……。

 村の人たちに大蛇を殺され、信じた仲間にも裏切られた私は、怨霊化の機会を失い灰になった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...