3 / 28
馴れ初め編
怨霊化まであと一歩
しおりを挟む
私が生贄になれば、まずササグの命が救われる。また父にも他に選択肢の無い子どもの命や自由を、金で買う罪を犯せさせずに済む。
私自身も念願だった怨霊になり、これ以上新しい犠牲者が出ないように、大蛇を祟り殺す力を得る。
自分たちを食い殺した憎い大蛇を倒せば、無念の霊たちの怨念は晴れて後はハッピー怨霊ライフだ。死なない程度に人間を脅かしながら、おもしろおかしく暮らして行くんだ。
そしていつか私自身が、この世界の民話に出る大怨霊として後世に語り継がれるんだ……。
私は子どもの頃から思い描いて来た圧倒的大団円を夢見ながら、ひと月蔵に監禁された。
そして、とうとう待ち焦がれた儀式の夜。
私は身を清められ、白い着物を着せられて、山中にある生贄を捧げるための台座にセットされた。その日はゾッとするほど綺麗な満月だった。
山の中は空気もキンと冷えて、辺りは真っ暗で最高のロケーションだ。台座の近くには松明が赤々と燃えて、いかにもな儀式感を盛り上げている。
私をここまで連れて来た連行役の人たちが引き上げようとするのを見て
「縛って行かないの?」
私が逃げないようにひと月も蔵に監禁していたのに、ここに来て拘束もせずに1人にするなんておかしいと質問すると
「ササグから聞いた。お前は自ら望んで生贄になったのだと。だから拘束は必要無いだろう」
その返答に、なるほどと納得した。もう聞きたいことは無かったが、今度は連行役の人が
「……どうして自分から生贄になろうとしたんだ?」
詳細を説明しても、この人には理解できないだろう。万が一、大怨霊になる野望を邪魔されたら困るので
「それがいちばんいいから」
と簡潔に答えた。私が大怨霊になって大蛇を討てば、取りあえずこれ以上の生贄は出さずに済むので嘘ではない。
その代わり各種怨霊ムーブをかまして死ぬほど怖がらせるつもりだけど、実害は無いよ、実害はね……。
連行役の人が去った後。死後も大蛇が恐ろしいのか、今日は無念の霊たちの姿も見えない。
それからしばらくして、本当に山の神である大蛇が姿を現した。話には聞いていたけど、普段はどうやって身を隠しているんだと問いたくなるほど巨大な蛇だった。神では無いだろうが、妖怪の類なのかもしれない。
大蛇は
「今年は女か。マズそうなヤツだ」
みたいな人語を話すことはなく、普通にシューシュー近寄って来た。
私は満月を隠すほど巨大な蛇を見上げながら、前世ではあり得ない光景に、この世の神秘だなぁ! と感動した。
この強大な蛇を祟り殺せるほどの力をもうすぐ手にできると思うと、期待と興奮で痛いくらい胸が高鳴る。
さぁ、大蛇よ、私を食らえ! そして人外の力を与えるのだ!
変身直後に主人公に倒されるタイプの悪役みたいなことを考えながら、大蛇に向かって両腕を広げる。
蛇はコイツ、やべーとか不審がることもなく、私を飲み込もうと顏を近づけた。
しかし次の瞬間。
「放てぇっ!」
突然の号令とともに、森の中からビシビシと何かが飛んで来る。と思ったら、その何かは大蛇に当たった瞬間に、轟音をあげて爆ぜた。
どうやら先端に火薬をつけた火矢が大蛇を攻撃しているようだ。でもなんで? 誰が?
目の前で上がる爆炎。痛みにのたうつ大蛇。
「効いているぞ! 殺れぇ!」
怒号をあげて木々の陰から飛び出して来たのは多分、村の男たち。状況が飲み込めず
「えっ? えっ?」
台座の上でキョトキョトしていると
「こっちだ、ウラメ!」
私の腕を強く引っ張ったのは
「えっ? どうして父さんが?」
「話は後だ! お前は村へ逃げろ!」
父は私の背を強く押して「この子を頼む!」と村の男に託した。
いや、いま説明して欲しい!
しかし村人たちは荒れ狂う大蛇と戦うのに忙しく、私は村の男に腕を引かれて、問答無用で家へと連れ戻された。
私自身も念願だった怨霊になり、これ以上新しい犠牲者が出ないように、大蛇を祟り殺す力を得る。
自分たちを食い殺した憎い大蛇を倒せば、無念の霊たちの怨念は晴れて後はハッピー怨霊ライフだ。死なない程度に人間を脅かしながら、おもしろおかしく暮らして行くんだ。
そしていつか私自身が、この世界の民話に出る大怨霊として後世に語り継がれるんだ……。
私は子どもの頃から思い描いて来た圧倒的大団円を夢見ながら、ひと月蔵に監禁された。
そして、とうとう待ち焦がれた儀式の夜。
私は身を清められ、白い着物を着せられて、山中にある生贄を捧げるための台座にセットされた。その日はゾッとするほど綺麗な満月だった。
山の中は空気もキンと冷えて、辺りは真っ暗で最高のロケーションだ。台座の近くには松明が赤々と燃えて、いかにもな儀式感を盛り上げている。
私をここまで連れて来た連行役の人たちが引き上げようとするのを見て
「縛って行かないの?」
私が逃げないようにひと月も蔵に監禁していたのに、ここに来て拘束もせずに1人にするなんておかしいと質問すると
「ササグから聞いた。お前は自ら望んで生贄になったのだと。だから拘束は必要無いだろう」
その返答に、なるほどと納得した。もう聞きたいことは無かったが、今度は連行役の人が
「……どうして自分から生贄になろうとしたんだ?」
詳細を説明しても、この人には理解できないだろう。万が一、大怨霊になる野望を邪魔されたら困るので
「それがいちばんいいから」
と簡潔に答えた。私が大怨霊になって大蛇を討てば、取りあえずこれ以上の生贄は出さずに済むので嘘ではない。
その代わり各種怨霊ムーブをかまして死ぬほど怖がらせるつもりだけど、実害は無いよ、実害はね……。
連行役の人が去った後。死後も大蛇が恐ろしいのか、今日は無念の霊たちの姿も見えない。
それからしばらくして、本当に山の神である大蛇が姿を現した。話には聞いていたけど、普段はどうやって身を隠しているんだと問いたくなるほど巨大な蛇だった。神では無いだろうが、妖怪の類なのかもしれない。
大蛇は
「今年は女か。マズそうなヤツだ」
みたいな人語を話すことはなく、普通にシューシュー近寄って来た。
私は満月を隠すほど巨大な蛇を見上げながら、前世ではあり得ない光景に、この世の神秘だなぁ! と感動した。
この強大な蛇を祟り殺せるほどの力をもうすぐ手にできると思うと、期待と興奮で痛いくらい胸が高鳴る。
さぁ、大蛇よ、私を食らえ! そして人外の力を与えるのだ!
変身直後に主人公に倒されるタイプの悪役みたいなことを考えながら、大蛇に向かって両腕を広げる。
蛇はコイツ、やべーとか不審がることもなく、私を飲み込もうと顏を近づけた。
しかし次の瞬間。
「放てぇっ!」
突然の号令とともに、森の中からビシビシと何かが飛んで来る。と思ったら、その何かは大蛇に当たった瞬間に、轟音をあげて爆ぜた。
どうやら先端に火薬をつけた火矢が大蛇を攻撃しているようだ。でもなんで? 誰が?
目の前で上がる爆炎。痛みにのたうつ大蛇。
「効いているぞ! 殺れぇ!」
怒号をあげて木々の陰から飛び出して来たのは多分、村の男たち。状況が飲み込めず
「えっ? えっ?」
台座の上でキョトキョトしていると
「こっちだ、ウラメ!」
私の腕を強く引っ張ったのは
「えっ? どうして父さんが?」
「話は後だ! お前は村へ逃げろ!」
父は私の背を強く押して「この子を頼む!」と村の男に託した。
いや、いま説明して欲しい!
しかし村人たちは荒れ狂う大蛇と戦うのに忙しく、私は村の男に腕を引かれて、問答無用で家へと連れ戻された。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる