わたしは怨霊になりたい

知見夜空

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馴れ初め編

怨霊化まであと一歩

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 私が生贄になれば、まずササグの命が救われる。また父にも他に選択肢の無い子どもの命や自由を、金で買う罪を犯せさせずに済む。

 私自身も念願だった怨霊になり、これ以上新しい犠牲者が出ないように、大蛇を祟り殺す力を得る。

 自分たちを食い殺した憎い大蛇を倒せば、無念の霊たちの怨念は晴れて後はハッピー怨霊ライフだ。死なない程度に人間を脅かしながら、おもしろおかしく暮らして行くんだ。

 そしていつか私自身が、この世界の民話に出る大怨霊として後世に語り継がれるんだ……。

 私は子どもの頃から思い描いて来た圧倒的大団円を夢見ながら、ひと月蔵に監禁された。

 そして、とうとう待ち焦がれた儀式の夜。

 私は身を清められ、白い着物を着せられて、山中にある生贄を捧げるための台座にセットされた。その日はゾッとするほど綺麗な満月だった。

 山の中は空気もキンと冷えて、辺りは真っ暗で最高のロケーションだ。台座の近くには松明たいまつが赤々と燃えて、いかにもな儀式感を盛り上げている。

 私をここまで連れて来た連行役の人たちが引き上げようとするのを見て

「縛って行かないの?」

 私が逃げないようにひと月も蔵に監禁していたのに、ここに来て拘束もせずに1人にするなんておかしいと質問すると

「ササグから聞いた。お前は自ら望んで生贄になったのだと。だから拘束は必要無いだろう」

 その返答に、なるほどと納得した。もう聞きたいことは無かったが、今度は連行役の人が

「……どうして自分から生贄になろうとしたんだ?」

 詳細を説明しても、この人には理解できないだろう。万が一、大怨霊になる野望を邪魔されたら困るので

「それがいちばんいいから」

 と簡潔に答えた。私が大怨霊になって大蛇を討てば、取りあえずこれ以上の生贄は出さずに済むので嘘ではない。

 その代わり各種怨霊ムーブをかまして死ぬほど怖がらせるつもりだけど、実害は無いよ、実害はね……。

 連行役の人が去った後。死後も大蛇が恐ろしいのか、今日は無念の霊たちの姿も見えない。

 それからしばらくして、本当に山の神である大蛇が姿を現した。話には聞いていたけど、普段はどうやって身を隠しているんだと問いたくなるほど巨大な蛇だった。神では無いだろうが、妖怪の類なのかもしれない。

 大蛇は

「今年は女か。マズそうなヤツだ」

 みたいな人語を話すことはなく、普通にシューシュー近寄って来た。

 私は満月を隠すほど巨大な蛇を見上げながら、前世ではあり得ない光景に、この世の神秘だなぁ! と感動した。

 この強大な蛇を祟り殺せるほどの力をもうすぐ手にできると思うと、期待と興奮で痛いくらい胸が高鳴る。

 さぁ、大蛇よ、私を食らえ! そして人外の力を与えるのだ!

 変身直後に主人公に倒されるタイプの悪役みたいなことを考えながら、大蛇に向かって両腕を広げる。

 蛇はコイツ、やべーとか不審がることもなく、私を飲み込もうと顏を近づけた。

 しかし次の瞬間。

「放てぇっ!」

 突然の号令とともに、森の中からビシビシと何かが飛んで来る。と思ったら、その何かは大蛇に当たった瞬間に、轟音ごうおんをあげてぜた。

 どうやら先端に火薬をつけた火矢が大蛇を攻撃しているようだ。でもなんで? 誰が?

 目の前で上がる爆炎。痛みにのたうつ大蛇。

「効いているぞ! れぇ!」

 怒号をあげて木々の陰から飛び出して来たのは多分、村の男たち。状況が飲み込めず

「えっ? えっ?」

 台座の上でキョトキョトしていると

「こっちだ、ウラメ!」

 私の腕を強く引っ張ったのは

「えっ? どうして父さんが?」
「話は後だ! お前は村へ逃げろ!」

 父は私の背を強く押して「この子を頼む!」と村の男に託した。

 いや、いま説明して欲しい!

 しかし村人たちは荒れ狂う大蛇と戦うのに忙しく、私は村の男に腕を引かれて、問答無用で家へと連れ戻された。
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