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馴れ初め編
ハッピー怨霊化計画
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まるで日本昔話に出て来るような山間の村。
その村の長である父は、冷たく私を見下ろすと
「今年の生贄はササグではなく、お前に決まった。山の神は今年、男ではなく女の生贄を欲しているとお告げがあったんだ。急で悪いが、村のためだ。飲み込んでくれ」
この村には山の神と呼ばれる大蛇が無差別に人を襲わないように、3年ごとに18歳の若者を生贄に捧げる因習がある。
今年の生贄は、父が12年前に拾って来たササグという若者が務めるはずだった。
けれど村長である父は、その取り決めを反故にして、実の娘である私を生贄にすると告げた。
『山の神が男ではなく女の生贄を欲しているから』
『苦渋の決断なんだ』
みたいな口ぶりだったけど、それは表向きの話。
実際は生贄にするはずだったササグが、死なせるには惜しい好青年に成長したからだ。
人間も財産と考えれば、より価値の低い命で取り引きを済ませたくなるのが人情だ。
私は子どもの頃から霊が見える不気味な少女として、周囲から煙たがられて来た。そんな私は今や家族にとって、他人より無価値な存在になった。
父が私の前から去った後。自室の離れに独り残された私は、堪えきれず笑い出した。
絶望や憤りの表現ではなく、狙いどおり生贄に選ばれた歓喜によって。
なんで生贄の座なんか狙っているんだよ?
もしかして山の神はイケメンで、神嫁コースなのか?
など異世界転生ものに慣れた現代人なら思うかもしれない。
しかし霊感少女として生まれた私は、先に死んだ生贄たちから、山の神がガチの人食い大蛇だと聞いていた。
出会ったが最後、確実に丸飲みにされて終わりだと。
それにもかかわらず私が生贄の座を望むのは、前世からの夢を叶えるためだ。
それは皆のために死ぬことで神に愛されて、来世は特別な力を持ったヒーローやヒロインに生まれ変わらせてもらう……とかではなく。
あえて生贄として非業の死を遂げることで、怨霊になることだった。
自分から怨霊になりたいなんて言うと、そんなに世を憎んでいるのか? それほど悲しい過去があるのかと心配されるかもしれない。
でも私の場合は単なる猟奇趣味なので心配いらない。皆が創作や音楽やスポーツに夢中になるのと同じレベルで、ホラーの虜になっただけだ。
前世の私は子どもの頃からの怪談好きが高じて、プロの怪談師になるほどのマニアだった。
古今東西の怖い話を集めることも、オリジナルの話を考えることも、それを人に聞かせたり読ませたりして反応をもらうことも、とても楽しかった。
けれどスポーツ漫画にハマった少年が、自分も選手になりたいと望むように。
恋愛漫画にハマった少女が、自分もこんな恋愛をしたいと憧れるように。
ホラーにハマった私もまた空想だけでは満足できなくなり
(私もこんな怪異を起こしてみたい。怨霊になりたい!)
と熱望するようになった。
それはもう私だけじゃなくて、人間なら誰しも自分が好きなジャンルの主役を夢見てしまうものだから仕方ない。私の場合それがホラージャンルの花形だっただけの話だ。
だから前世でトラックに轢かれて、この世界に転生した時は本当に嬉しかった。
なんせ今世の私には霊が見え、語らうこともできる。それにより少なくとも、この世界には霊が居ると確認できた。
つまり前世では
(酷い死に方をしたところで怨霊になれるとは限らないし……)
と二の足を踏んでいた夢が、この世界なら叶うかもしれない。
そんな恵まれた条件に加えて、私の名はウラメと言う。前の世界には『名は体を表す』という言葉があった。
『恨め』という名からして「お前は今世、怨霊になるのだよ」と神様に言われている気がしてならない。
ちなみに怨霊になるための詳しい条件は、すでに霊たちから聞いている。
まず怨霊になるには、誰かや何かに強い恨みを抱かなければならない。
ただしいくら恨みが強くても、本人に高い霊的な素質が無ければ単体で怪異を引き起こすほどの怨霊にはなれないらしい。
恨みがあっても素質が無ければ、ただ無念を抱えてさ迷うだけの霊になってしまう。
でも霊的な素質を持つ者を核として、同じ系統の恨みを持つ霊体が複数集まれば、強力な怨霊になれるそうだ。
取り込む霊が多いほど、核となる者の霊力が強いほど、そして対象への恨みが深いほど、怨霊としての力は増す。
山の神に生贄を捧げる儀式は、すでに100年近く行われており、これまでに32人が犠牲となった。
物わかりよく成仏してしまった霊もいるが、この村にはまだ23体もの無念の霊が留まっている。
私も生贄として山の神に食われれば、彼らの恨みの波長と一致して、核となる資格を得る。
その時こそ私は23体の無念の霊たちを取り込み、怨霊界のスタープレイヤーになるんだ!
大怨霊になったら、手始めに私たちを食らった大蛇を祟り殺すつもりだ。
私はもともと怨霊になりたかったからいいけど、普通に生きていたい人たちがこれ以上、食われることは望まない。
ただし怨霊になったからには、やっぱり人を怖がらせたいので、死なない程度の『脅かし』はたくさんさせてもらう。
村中に不吉な色の花を咲かせたり、家の中をスッと横切ったり、人形と言う人形の髪を伸ばしてやるんだ!
私はこの村をさ迷う無念の霊たちと、子どもの頃から
『怨霊になったらあれもしようね。これもしようね』
夜通し夢を語り合い、いつかこの手で思う存分、怨霊ムーブを決める日を楽しみにしていた。
その村の長である父は、冷たく私を見下ろすと
「今年の生贄はササグではなく、お前に決まった。山の神は今年、男ではなく女の生贄を欲しているとお告げがあったんだ。急で悪いが、村のためだ。飲み込んでくれ」
この村には山の神と呼ばれる大蛇が無差別に人を襲わないように、3年ごとに18歳の若者を生贄に捧げる因習がある。
今年の生贄は、父が12年前に拾って来たササグという若者が務めるはずだった。
けれど村長である父は、その取り決めを反故にして、実の娘である私を生贄にすると告げた。
『山の神が男ではなく女の生贄を欲しているから』
『苦渋の決断なんだ』
みたいな口ぶりだったけど、それは表向きの話。
実際は生贄にするはずだったササグが、死なせるには惜しい好青年に成長したからだ。
人間も財産と考えれば、より価値の低い命で取り引きを済ませたくなるのが人情だ。
私は子どもの頃から霊が見える不気味な少女として、周囲から煙たがられて来た。そんな私は今や家族にとって、他人より無価値な存在になった。
父が私の前から去った後。自室の離れに独り残された私は、堪えきれず笑い出した。
絶望や憤りの表現ではなく、狙いどおり生贄に選ばれた歓喜によって。
なんで生贄の座なんか狙っているんだよ?
もしかして山の神はイケメンで、神嫁コースなのか?
など異世界転生ものに慣れた現代人なら思うかもしれない。
しかし霊感少女として生まれた私は、先に死んだ生贄たちから、山の神がガチの人食い大蛇だと聞いていた。
出会ったが最後、確実に丸飲みにされて終わりだと。
それにもかかわらず私が生贄の座を望むのは、前世からの夢を叶えるためだ。
それは皆のために死ぬことで神に愛されて、来世は特別な力を持ったヒーローやヒロインに生まれ変わらせてもらう……とかではなく。
あえて生贄として非業の死を遂げることで、怨霊になることだった。
自分から怨霊になりたいなんて言うと、そんなに世を憎んでいるのか? それほど悲しい過去があるのかと心配されるかもしれない。
でも私の場合は単なる猟奇趣味なので心配いらない。皆が創作や音楽やスポーツに夢中になるのと同じレベルで、ホラーの虜になっただけだ。
前世の私は子どもの頃からの怪談好きが高じて、プロの怪談師になるほどのマニアだった。
古今東西の怖い話を集めることも、オリジナルの話を考えることも、それを人に聞かせたり読ませたりして反応をもらうことも、とても楽しかった。
けれどスポーツ漫画にハマった少年が、自分も選手になりたいと望むように。
恋愛漫画にハマった少女が、自分もこんな恋愛をしたいと憧れるように。
ホラーにハマった私もまた空想だけでは満足できなくなり
(私もこんな怪異を起こしてみたい。怨霊になりたい!)
と熱望するようになった。
それはもう私だけじゃなくて、人間なら誰しも自分が好きなジャンルの主役を夢見てしまうものだから仕方ない。私の場合それがホラージャンルの花形だっただけの話だ。
だから前世でトラックに轢かれて、この世界に転生した時は本当に嬉しかった。
なんせ今世の私には霊が見え、語らうこともできる。それにより少なくとも、この世界には霊が居ると確認できた。
つまり前世では
(酷い死に方をしたところで怨霊になれるとは限らないし……)
と二の足を踏んでいた夢が、この世界なら叶うかもしれない。
そんな恵まれた条件に加えて、私の名はウラメと言う。前の世界には『名は体を表す』という言葉があった。
『恨め』という名からして「お前は今世、怨霊になるのだよ」と神様に言われている気がしてならない。
ちなみに怨霊になるための詳しい条件は、すでに霊たちから聞いている。
まず怨霊になるには、誰かや何かに強い恨みを抱かなければならない。
ただしいくら恨みが強くても、本人に高い霊的な素質が無ければ単体で怪異を引き起こすほどの怨霊にはなれないらしい。
恨みがあっても素質が無ければ、ただ無念を抱えてさ迷うだけの霊になってしまう。
でも霊的な素質を持つ者を核として、同じ系統の恨みを持つ霊体が複数集まれば、強力な怨霊になれるそうだ。
取り込む霊が多いほど、核となる者の霊力が強いほど、そして対象への恨みが深いほど、怨霊としての力は増す。
山の神に生贄を捧げる儀式は、すでに100年近く行われており、これまでに32人が犠牲となった。
物わかりよく成仏してしまった霊もいるが、この村にはまだ23体もの無念の霊が留まっている。
私も生贄として山の神に食われれば、彼らの恨みの波長と一致して、核となる資格を得る。
その時こそ私は23体の無念の霊たちを取り込み、怨霊界のスタープレイヤーになるんだ!
大怨霊になったら、手始めに私たちを食らった大蛇を祟り殺すつもりだ。
私はもともと怨霊になりたかったからいいけど、普通に生きていたい人たちがこれ以上、食われることは望まない。
ただし怨霊になったからには、やっぱり人を怖がらせたいので、死なない程度の『脅かし』はたくさんさせてもらう。
村中に不吉な色の花を咲かせたり、家の中をスッと横切ったり、人形と言う人形の髪を伸ばしてやるんだ!
私はこの村をさ迷う無念の霊たちと、子どもの頃から
『怨霊になったらあれもしようね。これもしようね』
夜通し夢を語り合い、いつかこの手で思う存分、怨霊ムーブを決める日を楽しみにしていた。
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