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最終話・無かったはずの未来
律子さんとの再会
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魔王の再封印を目前に、私は1人だけ元の世界に戻りました。ゲームの帰還エンドと同じように、あちらの世界に行く前の時間と場所に。まるで何事も無かったように。
更に不思議なことに『騎士王と主の伝説』というゲーム自体が無くなっていました。ゲームそのものだけでなく『騎士伝』に関するネットの投稿も、私と律子さんのアカウントも全てです。
もしかして全部、夢だったんでしょうか?
1年前と全く同じ姿のままの私には、向こうの世界に居たと証明するものが何1つありません。
でも私の中には風丸や律子さんやユニちゃんたちと過ごした日々や、かわした言葉が鮮やかに残っています。
夢でも妄想でもない。あの世界は確かにありました。目の前の現実に負けて、皆がくれた大事な思い出を嘘にしたくありません。
世界が記憶を奪うなら私が再生してやらぁ!
せめてもの悪あがきとして、私は再び『騎士王と主の伝説』というタグで、イラストや漫画の投稿をはじめました。今度は導き手にヒロインではなく律子さんを据えたオールキャラギャグです。他の人たちにはオリジナルコンテンツだと思われましたが、構いません。私が忘れないための自己満足ですから。
ところが私の自己満足は、意外な結果を生みました。実は私の後に、こちらの世界に帰って来た律子さんと再会するきっかけになったんです。
なぜユエル君と結婚するはずだった律子さんが、こちらの世界に戻って来たのか? 私は後日、律子さんと直接会って別れの理由を聞きました。
それで知りました。やはり妨害に現れたネフィロスさんをなんとか倒したものの、魔王が復活してしまい、ユエル君が単独で倒しに行ったこと。律子さんだけが元の世界に送り返され、風丸とユエル君は生死不明だと。
風丸が死んだかもしれないと聞いて、ショックで胸が張り裂けそうでした。でもよくよく話を聞くと、律子さんは風丸の死亡を自分の目で確認したわけじゃないようです。
それなら私は風丸を信じます。それは彼の死を信じたくないという逃避ではなく、私たちとの約束を守るために絶対に全力でがんばってくれた彼らを、大好きな人を信じようという意志でした。
律子さんにも「ユエル君を信じてあげてください」と強く訴えると
「由羽ちゃん……そうだね。好きな人のことは信じなきゃダメだ」
私と律子さんは彼らの無事を信じようと、固く誓い合いました。
それから私たちは別れる前に、ある約束をしました。それは消失してしまった『騎士王と主の伝説』を私たちの手で作り直そうというものです。
私たちが過ごした日々と大好きな人たちとの思い出を、奪われたままにしたくなくて私から提案しました。
誰かに見せるためではなく私たちが皆を忘れないために、2人だけのゲームを作ろうと。
フリーターの私と違い、律子さんは大手の商社に勤める会社員です。正社員としてフルタイムで働きながら、ゲーム制作なんて大変すぎると提案した後で思い至りましたが、律子さんは「私も作りたい」と快諾してくれました。
そして、なんと会社を辞めてしまいました。
私のせいかと驚きましたが、もともと律子さんはあの世界での体験が強烈すぎて、これまでの生活が合わなくなっていたそうです。
そんな律子さんの気持ちが、私にも分かる気がしました。私もまるで心の半分を、あの世界に置いて来たような感覚でしたから。
もともと帰るつもりだった私ですらこうなんですから、向こうでユエル君と生きて行くつもりだった律子さんは余計に、ここに居ることが違和感でしょう。
律子さんによれば貯金は十分にあり、当面の生活には困らないそうです。だから今は私とゲームを作り、それが終わってから、この世界で新しくやりたいことを見つけると言っていました。
主に私がグラフィックを、律子さんがプログラムとシナリオを担当してくれました。それ以外の細かいところは、2人で手分けして進めました。18禁要素と選択肢によるルート分岐などを省いたおかげで、それほど大ボリュームにはならず、半年ほどでゲームは完成しました。
後は律子さんが先にゲームをプレイして不具合をチェックしてから、私にくれる予定です。
私たちの記憶の焼き直しとは言え、またゲームを通じて風丸やユニちゃんと会えるのが楽しみです。
……本当はまた風丸に会いたかった。それが無理なら、せめて無事だという確証が欲しかったけど、それは考えないようにしました。
更に不思議なことに『騎士王と主の伝説』というゲーム自体が無くなっていました。ゲームそのものだけでなく『騎士伝』に関するネットの投稿も、私と律子さんのアカウントも全てです。
もしかして全部、夢だったんでしょうか?
1年前と全く同じ姿のままの私には、向こうの世界に居たと証明するものが何1つありません。
でも私の中には風丸や律子さんやユニちゃんたちと過ごした日々や、かわした言葉が鮮やかに残っています。
夢でも妄想でもない。あの世界は確かにありました。目の前の現実に負けて、皆がくれた大事な思い出を嘘にしたくありません。
世界が記憶を奪うなら私が再生してやらぁ!
せめてもの悪あがきとして、私は再び『騎士王と主の伝説』というタグで、イラストや漫画の投稿をはじめました。今度は導き手にヒロインではなく律子さんを据えたオールキャラギャグです。他の人たちにはオリジナルコンテンツだと思われましたが、構いません。私が忘れないための自己満足ですから。
ところが私の自己満足は、意外な結果を生みました。実は私の後に、こちらの世界に帰って来た律子さんと再会するきっかけになったんです。
なぜユエル君と結婚するはずだった律子さんが、こちらの世界に戻って来たのか? 私は後日、律子さんと直接会って別れの理由を聞きました。
それで知りました。やはり妨害に現れたネフィロスさんをなんとか倒したものの、魔王が復活してしまい、ユエル君が単独で倒しに行ったこと。律子さんだけが元の世界に送り返され、風丸とユエル君は生死不明だと。
風丸が死んだかもしれないと聞いて、ショックで胸が張り裂けそうでした。でもよくよく話を聞くと、律子さんは風丸の死亡を自分の目で確認したわけじゃないようです。
それなら私は風丸を信じます。それは彼の死を信じたくないという逃避ではなく、私たちとの約束を守るために絶対に全力でがんばってくれた彼らを、大好きな人を信じようという意志でした。
律子さんにも「ユエル君を信じてあげてください」と強く訴えると
「由羽ちゃん……そうだね。好きな人のことは信じなきゃダメだ」
私と律子さんは彼らの無事を信じようと、固く誓い合いました。
それから私たちは別れる前に、ある約束をしました。それは消失してしまった『騎士王と主の伝説』を私たちの手で作り直そうというものです。
私たちが過ごした日々と大好きな人たちとの思い出を、奪われたままにしたくなくて私から提案しました。
誰かに見せるためではなく私たちが皆を忘れないために、2人だけのゲームを作ろうと。
フリーターの私と違い、律子さんは大手の商社に勤める会社員です。正社員としてフルタイムで働きながら、ゲーム制作なんて大変すぎると提案した後で思い至りましたが、律子さんは「私も作りたい」と快諾してくれました。
そして、なんと会社を辞めてしまいました。
私のせいかと驚きましたが、もともと律子さんはあの世界での体験が強烈すぎて、これまでの生活が合わなくなっていたそうです。
そんな律子さんの気持ちが、私にも分かる気がしました。私もまるで心の半分を、あの世界に置いて来たような感覚でしたから。
もともと帰るつもりだった私ですらこうなんですから、向こうでユエル君と生きて行くつもりだった律子さんは余計に、ここに居ることが違和感でしょう。
律子さんによれば貯金は十分にあり、当面の生活には困らないそうです。だから今は私とゲームを作り、それが終わってから、この世界で新しくやりたいことを見つけると言っていました。
主に私がグラフィックを、律子さんがプログラムとシナリオを担当してくれました。それ以外の細かいところは、2人で手分けして進めました。18禁要素と選択肢によるルート分岐などを省いたおかげで、それほど大ボリュームにはならず、半年ほどでゲームは完成しました。
後は律子さんが先にゲームをプレイして不具合をチェックしてから、私にくれる予定です。
私たちの記憶の焼き直しとは言え、またゲームを通じて風丸やユニちゃんと会えるのが楽しみです。
……本当はまた風丸に会いたかった。それが無理なら、せめて無事だという確証が欲しかったけど、それは考えないようにしました。
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