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第11話・99階にて(風丸視点)

妨害者との再戦(風丸視点)

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 マスターちゃんと別れた翌日。俺たちは魔王の再封印のために、ダンジョンに潜った。

 ネフィロスは予想どおり、魔王が封印されている地下100階の1つ手前、99階で俺たちを待ち受けていた。

 ネフィロスは俺たちと違い魔術師で、本人に戦闘力は無い。前回はカイゼルとクレイグを盾にしていたが、今回は1人だ。

 対する俺たちは、俺とユエルと姐御の3人。普通なら絶対に勝てるはずのない戦いだが、ネフィロスは人数の不利を埋めるために3体に分身した。

 化け物じみたネフィロスの術に、魔法の無い世界から来た姐御は怯んでいたが

「雑魚を増やしたところでどうするつもりだよ。魔術師のアンタじゃ、俺たちの動きについて来られないだろ」

 俺の挑発に、ネフィロスは悠然と微笑んで

「なぜ魔属性の人間に、魂を奪うスキルがあるかご存知ですか? 魂を奪って無力化するだけではない。奪った魂を取り込んで自分の力に変えるためですよ」

 それからネフィロスは俺たちに見せつけるように、アルゼリオたちの魂を飲み込んだ。

 するとネフィロスの言うとおり、分身たちはアルゼリオとカイゼルとクレイグの技と能力値を、それぞれ自分のものにした。

 流石に面食らったが、姿が違うだけで3体のネフィロスは、要するにアルゼリオとカイゼルとクレイグだ。

 それなら導き手のおかげで、通常より強化された俺とユエルよりは格下だ。和泉の姐御も基礎能力は俺たちより低いが、ユエルと同じ100レベルだ。決してヤツラに劣りはしない。

 けれど戦闘が終わり油断した瞬間。

「よし、これで」
「終わりです」

 どこからともなく飛んで来た矢が、ユエルの胸を射貫いぬいた。

 俺たちは、この場で2体の分身を出したネフィロスを見たせいで、敵は3体だと思い込んでいた。

 しかし実際は俺たちが来る前に、ネフィロスはすでに分身していた。俺たちを待ち受けていたのは、そもそも分身で、本物のネフィロスは安全地帯から隙をうかがっていた。

 人がいちばん気を抜くのは、戦いを終えた瞬間だ。ネフィロスはその隙を作るために、自分の分身を犠牲にしたのだ。

 心臓を狙った矢の一撃は、ユエルがすぐに回復魔法で治した。

 問題はその後。ネフィロスの真の狙いは、ユエルへの直接攻撃ではなく

「くっ……!?」
「ゆ、ユエル? どうしたの?」

 ネフィロスが射貫いたのは、ユエルの心臓ではなく魂だった。無防備な魂に直接、魔属性の魔力を流し込まれたユエルは

「ま、マスター。逃げ……」

 苦しげな声を最後に

「姐御!」

 棒立ちの姐御を後ろからグイッと引っ張る。ほんの少しでも回避が遅れていたら、姐御は真正面からユエルに斬り裂かれていた。

「どうしてユエル? なんで私を?」

 婚約者から刃を向けられて、流石の姐御も動揺していた。

 けれど、これはユエルの意思ではなく、ネフィロスによる『傀儡の術』の影響だった。

 要するにネフィロスの操り人形にされたユエルに

「ユエル、お願い! 正気に戻って!」

 姐御はユエルの剣を弾いたり、かわしたりしながら何度も懸命に呼びかけた。しかし術者のネフィロスによれば

「くく……愚かな。いくら呼びかけたところで、魔法は魔法でしか解けません。ただし魔属性の私の術を解けるのは、そこで操られている当人だけですが」

 ただでさえ厄介な状況なのに、ネフィロスは倒れた分身からアルゼリオたちの魂を回収すると、全て取り込んだ。

 力量だけ考えれば、強化されたネフィロスのほうが面倒だ。しかし姐御にとっては、恋人であるユエルを相手にするほうが苦痛だろうと

「姐御、代われ。俺がユエルの相手をする」

 代わりを申し出るも、ネフィロスは魔法で炎の壁を作り、俺と姐御を分断した。

 なぜか執拗に、ユエルに姐御を狙わせるネフィロス。その狙いは姐御を殺させることで、まだ存在しているユエルの自我を破壊し、傀儡の術を完成させることだった。

 最愛の人間なら俺にも居る。あえて愛する者同士を殺し合わせて、ユエルを絶望させようとするネフィロスの残酷さに本気で腹が立って

「姐御、死ぬ気で持ち堪えろ。アンタがユエルにやられる前に、俺が必ずコイツを殺す」

 アルゼリオ、カイゼル、クレイグのステータスを併せ持つネフィロスだが、行動する体は1つだ。1対1での戦闘なら素早さで押し切れる。何度か全ステータスダウンを食らったが、今回は状態異常対策を徹底してある。

 そのおかげで前回と違い、素早さだけはすぐに『加速』で回復できた。攻撃力の低下により、ダメージが入らない分は回数で補った。

 ただでさえ低めの魔法攻撃は捨てて、刀での攻撃に専念する。マスターちゃんが居ないのに俺の士気は不思議と高く、クリティカルを連発した。

 ステータスダウンのせいで、ただでさえ低い防御と魔防がもっと下がり何度も死にかける。手持ちの回復薬を使い切っても間に合わないほどボロボロになりながら、それでも果敢に斬り込むと、ふいに俺たちを分断していた炎の壁が消えた。

 半死半生の姐御がこっちを見ているのに気付いたが、まだネフィロスは生きている。今はヤツの息の根を止めるほうが先決だ。
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