48 / 68
第8話・波乱
絶対に代わりの居ない人(風丸視点)
しおりを挟む
それから朝になるまでマスターちゃんを抱いて、昼まで一緒に眠った。起きてからもまだ裸でくっついていたかったけど、昨日の夜からずっと目隠しされっぱなしのマスターちゃんに
「流石にお顔が見たいです」
と遠慮がちに懇願された。「俺の顔が見たいから」なんていじらしいこと、計算じゃなくて素で言うからマスターちゃんはズルい。
それに自分でつけさせておいてなんだけど、目隠ししていると俺もマスターちゃんの目が見えない。目は心の窓って言うけど、マスターちゃんの眼差しは、陽光のように綺麗で温かい。要するに俺も、ちゃんとマスターちゃんの顔が見たくなったので、予定を変更して服を着直すと、昼食がてら外出した。
ざっくり分けると王都の北側は高級な住宅や店が集まり、南側は猥雑だが、活気のある庶民の街という雰囲気だ。
金髪ちゃんと違って慎ましいマスターちゃんは、格式高いレストランじゃなく、王都の南側、食べ物の屋台が集う通りを選んだ。
「わぁ、いい匂い! どれも美味しそうで迷っちゃいますね!」
楽しそうに屋台を見て回って、目ぼしい食べ物をいくつか買うと、食事用に置かれている木製のテーブルで食べはじめた。
飲食スペースには俺たち以外にも、カップルや親子連れや仕事仲間など、色んな人たちが賑やかに食事を楽しんでいる。
「何気に外食ってはじめてです。一緒に食べると美味しいですね」
俺はマスターちゃんの言葉に同意しながら、ふと
「こうしていると普通の人間みたいだな」
真昼間から仲のいい人と楽しく外食なんて、俺にとってもはじめてで何気なく口にすると
「風丸は普通の人間じゃないんですか?」
「いや、人間は人間だけどさ……普通の人とは違うだろうから」
こんなに明るくて賑やかな場所で、たくさんの笑顔に囲まれていても、長く身を浸して来た暗闇の名残を感じる。やはり自分は日陰の存在なのだと、かえって違いが浮き彫りになる。
しかし俺の勝手な疎外感に、マスターちゃんは
「みんな普通で、みんな変」
何かの格言のような言い回し。目を丸くする俺に、マスターちゃんは続けて
「私の世界の言葉です。自分の普通は誰かの変で、誰かの普通は自分の変。だから自分だけ普通じゃないなんて思わなくていいんです。風丸も私も他の人たちも、みんな普通で、みんな変です」
最後は笑顔で言い切ると、ふと思いついたように目をキラッとさせて
「でも特別扱いをお望みでしたら、私がめっちゃチヤホヤしますのでお任せください!」
胸に手を当てて力強く請け負うマスターちゃんに
「ど、どうしました? 何か変なことを言いましたかね?」
いきなり吹き出した俺に、マスターちゃんは戸惑っていたが
「いや、確かにマスターちゃんは変なヤツだなって」
「割と図太いほうですが、流石に真正面からの変は心に突き刺さりますよ!」
胸を押さえて傷ついたと訴えるマスターちゃん。そのおどけた仕草も愛おしくて
「じゃあ、特別。絶対に代わりの居ない人」
テーブルから少し身を乗り出して、髪を撫でながら言うと、マスターちゃんは少したじろいで
「そ、そんなに温かい目で言われると、真に受けてしまいそうなんですが……」
「真に受けていいよ。嘘じゃないから」
本心だと伝わったのか、マスターちゃんは照れ臭そうにはにかんで
「私にとっても風丸は特別で、絶対に代わりの居ない人です」
幸福そうに口にすると
「……離れても、ずっと大好きです」
最後は痛みを隠すように笑った。
真昼の日差しの下で笑うマスターちゃんを見て、今ここで時が止まればいいのにと願う。今が明らかに幸せのピークで、後は失われていくばかりだから。
でも当然ながら時間は止まることなく進み続ける。しかも俺たちが想像もしなかった最悪の展開に向かって。
「流石にお顔が見たいです」
と遠慮がちに懇願された。「俺の顔が見たいから」なんていじらしいこと、計算じゃなくて素で言うからマスターちゃんはズルい。
それに自分でつけさせておいてなんだけど、目隠ししていると俺もマスターちゃんの目が見えない。目は心の窓って言うけど、マスターちゃんの眼差しは、陽光のように綺麗で温かい。要するに俺も、ちゃんとマスターちゃんの顔が見たくなったので、予定を変更して服を着直すと、昼食がてら外出した。
ざっくり分けると王都の北側は高級な住宅や店が集まり、南側は猥雑だが、活気のある庶民の街という雰囲気だ。
金髪ちゃんと違って慎ましいマスターちゃんは、格式高いレストランじゃなく、王都の南側、食べ物の屋台が集う通りを選んだ。
「わぁ、いい匂い! どれも美味しそうで迷っちゃいますね!」
楽しそうに屋台を見て回って、目ぼしい食べ物をいくつか買うと、食事用に置かれている木製のテーブルで食べはじめた。
飲食スペースには俺たち以外にも、カップルや親子連れや仕事仲間など、色んな人たちが賑やかに食事を楽しんでいる。
「何気に外食ってはじめてです。一緒に食べると美味しいですね」
俺はマスターちゃんの言葉に同意しながら、ふと
「こうしていると普通の人間みたいだな」
真昼間から仲のいい人と楽しく外食なんて、俺にとってもはじめてで何気なく口にすると
「風丸は普通の人間じゃないんですか?」
「いや、人間は人間だけどさ……普通の人とは違うだろうから」
こんなに明るくて賑やかな場所で、たくさんの笑顔に囲まれていても、長く身を浸して来た暗闇の名残を感じる。やはり自分は日陰の存在なのだと、かえって違いが浮き彫りになる。
しかし俺の勝手な疎外感に、マスターちゃんは
「みんな普通で、みんな変」
何かの格言のような言い回し。目を丸くする俺に、マスターちゃんは続けて
「私の世界の言葉です。自分の普通は誰かの変で、誰かの普通は自分の変。だから自分だけ普通じゃないなんて思わなくていいんです。風丸も私も他の人たちも、みんな普通で、みんな変です」
最後は笑顔で言い切ると、ふと思いついたように目をキラッとさせて
「でも特別扱いをお望みでしたら、私がめっちゃチヤホヤしますのでお任せください!」
胸に手を当てて力強く請け負うマスターちゃんに
「ど、どうしました? 何か変なことを言いましたかね?」
いきなり吹き出した俺に、マスターちゃんは戸惑っていたが
「いや、確かにマスターちゃんは変なヤツだなって」
「割と図太いほうですが、流石に真正面からの変は心に突き刺さりますよ!」
胸を押さえて傷ついたと訴えるマスターちゃん。そのおどけた仕草も愛おしくて
「じゃあ、特別。絶対に代わりの居ない人」
テーブルから少し身を乗り出して、髪を撫でながら言うと、マスターちゃんは少したじろいで
「そ、そんなに温かい目で言われると、真に受けてしまいそうなんですが……」
「真に受けていいよ。嘘じゃないから」
本心だと伝わったのか、マスターちゃんは照れ臭そうにはにかんで
「私にとっても風丸は特別で、絶対に代わりの居ない人です」
幸福そうに口にすると
「……離れても、ずっと大好きです」
最後は痛みを隠すように笑った。
真昼の日差しの下で笑うマスターちゃんを見て、今ここで時が止まればいいのにと願う。今が明らかに幸せのピークで、後は失われていくばかりだから。
でも当然ながら時間は止まることなく進み続ける。しかも俺たちが想像もしなかった最悪の展開に向かって。
0
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる