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第2話・〇〇しないと出られない部屋レベル1
キスしないと出られない部屋
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人には適応力があり、どんな状況にもやがては慣れるようです。風丸への愛は日ごとに深まるばかりですが、ただ話すことや軽いじゃれ合いには、けっこう慣れて来ました。
ですから次にお題部屋に入った時には
「さーて、今回のお題は」
「キスでしょう。順番ですから知っています」
自分から言うと、風丸はちょっと驚いて
「なんだよ、やけに冷静だな? 前はいちいち大騒ぎしていたくせに」
「私にも適応力と言うものはあるんです、風丸! あなたが日常的にくっついて来るおかげで、軽いスキンシップなら平気になって来ました! というわけで、今は手にチューくらい余裕です!」
風丸レベルが上がったことが嬉しくてドヤッと報告すると、彼のほうは慣れろと言っていたわりに、なぜか不満そうな顔で
「……つまんね~。口にしてやろうかな?」
「なんでわざわざハードルを上げるんですか!? 手にすれば済む話なのに!」
「だってマスターちゃんが余裕なの、つまんねーんだもん。だからやっぱり口にするわ」
言葉だけじゃなく本当に距離を詰めて来る風丸に、私は慌てて
「わー!? 待ってー!? 口はダメです、本当に!」
本気で拒否すると、風丸は驚きながらも引いてくれて
「マジで嫌がるじゃん……。マスターちゃんは、俺が好きなんじゃなかったの?」
「風丸は好きですよ。世界一大好きですけど……はじめてのキスを冗談でされるのは悲しいです。風丸が相手でも、悪ふざけでキスされたら嫌です……」
言いながら目をじわじわさせる私に、風丸は珍しく狼狽えて
「な、泣くことねーだろ」
「うー、すみません。風丸が悪いんじゃなくて。どうせ誰ともする予定ないのに、何ブスのくせに自分を大事にしているんだろうって、なんか恥ずかしくなっちゃって」
自分に女としての魅力が無いのは重々承知しています。それなのに自分を貴重品みたいに扱ってしまうことを恥じていると
「……なんだよ、それ。関係ねーだろ、ブスがどうとか。大事にしてなよ、マスターちゃんは」
風丸は私の涙を指で拭いながら
「ゴメンな。調子に乗って怖がらせて」
珍しく真剣に労わってくれる風丸に、私は目を丸くして
「か、風丸がマトモに優しい……? ほ、本当に風丸ですか? もしかして何者かと入れ替わっていますか?」
ゲームの世界だし、あり得る展開だと緊張しながら問うと、風丸は笑顔で青筋を立てながら
「悪かったな~? いつもは優しくなくてさ~?」
さっき私の涙を拭った指で、今度は両頬をつねって来ました。加減されているので痛くはありませんが
「うぎゅうぅぅ、すみません。推しの意外な一面に戸惑ってしまったんです……」
素直に謝ると、制裁をやめてくれた風丸に
「でも優しくしてくれて嬉しいです。ありがとうございます」
改めてお礼を言うと、風丸はぷいっとそっぽを向いて
「別にそんなんじゃねーよ。好きでもない女に、無理にキスする必要が無いってだけ」
「それでも嬉しかったんです。さっきの風丸、本気で心配してくれている気がしたから……って、うぎゅー!? 私のほっぺになんの恨みが!?」
「いやー、本当に空気を読まない口だなって」
すっかりいつもの調子に戻った風丸は
「そんで口が嫌なら、どこにキスすりゃいいんだい?」
「普通に手にお願いします」
自分から手を差し出したものの、風丸は少し考えるような間を開けて
「やっぱ手はつまんねーから嫌だ」
「んんっ? 話が一巡してしまいましたよ? 手が嫌ならどこにするんですか?」
困惑する私の手を風丸はいきなり引っ張ると、おでこにチュッとキスしました。あまりの衝撃に固まる私を、彼は少し気まずそうに見下ろして
「ここならいいだろ」
ようやくフリーズの解けた私は、おでこを押さえながら
「ふぇぇ……。ハート泥棒ぉぉ……」
真っ赤になって打ち震える私に
「口にはさせねーくせに、額にされたくらいでそんなになるとか。本当に分かんねーヤツだよな~」
風丸は呆れ顔でぼやいていました。
ですから次にお題部屋に入った時には
「さーて、今回のお題は」
「キスでしょう。順番ですから知っています」
自分から言うと、風丸はちょっと驚いて
「なんだよ、やけに冷静だな? 前はいちいち大騒ぎしていたくせに」
「私にも適応力と言うものはあるんです、風丸! あなたが日常的にくっついて来るおかげで、軽いスキンシップなら平気になって来ました! というわけで、今は手にチューくらい余裕です!」
風丸レベルが上がったことが嬉しくてドヤッと報告すると、彼のほうは慣れろと言っていたわりに、なぜか不満そうな顔で
「……つまんね~。口にしてやろうかな?」
「なんでわざわざハードルを上げるんですか!? 手にすれば済む話なのに!」
「だってマスターちゃんが余裕なの、つまんねーんだもん。だからやっぱり口にするわ」
言葉だけじゃなく本当に距離を詰めて来る風丸に、私は慌てて
「わー!? 待ってー!? 口はダメです、本当に!」
本気で拒否すると、風丸は驚きながらも引いてくれて
「マジで嫌がるじゃん……。マスターちゃんは、俺が好きなんじゃなかったの?」
「風丸は好きですよ。世界一大好きですけど……はじめてのキスを冗談でされるのは悲しいです。風丸が相手でも、悪ふざけでキスされたら嫌です……」
言いながら目をじわじわさせる私に、風丸は珍しく狼狽えて
「な、泣くことねーだろ」
「うー、すみません。風丸が悪いんじゃなくて。どうせ誰ともする予定ないのに、何ブスのくせに自分を大事にしているんだろうって、なんか恥ずかしくなっちゃって」
自分に女としての魅力が無いのは重々承知しています。それなのに自分を貴重品みたいに扱ってしまうことを恥じていると
「……なんだよ、それ。関係ねーだろ、ブスがどうとか。大事にしてなよ、マスターちゃんは」
風丸は私の涙を指で拭いながら
「ゴメンな。調子に乗って怖がらせて」
珍しく真剣に労わってくれる風丸に、私は目を丸くして
「か、風丸がマトモに優しい……? ほ、本当に風丸ですか? もしかして何者かと入れ替わっていますか?」
ゲームの世界だし、あり得る展開だと緊張しながら問うと、風丸は笑顔で青筋を立てながら
「悪かったな~? いつもは優しくなくてさ~?」
さっき私の涙を拭った指で、今度は両頬をつねって来ました。加減されているので痛くはありませんが
「うぎゅうぅぅ、すみません。推しの意外な一面に戸惑ってしまったんです……」
素直に謝ると、制裁をやめてくれた風丸に
「でも優しくしてくれて嬉しいです。ありがとうございます」
改めてお礼を言うと、風丸はぷいっとそっぽを向いて
「別にそんなんじゃねーよ。好きでもない女に、無理にキスする必要が無いってだけ」
「それでも嬉しかったんです。さっきの風丸、本気で心配してくれている気がしたから……って、うぎゅー!? 私のほっぺになんの恨みが!?」
「いやー、本当に空気を読まない口だなって」
すっかりいつもの調子に戻った風丸は
「そんで口が嫌なら、どこにキスすりゃいいんだい?」
「普通に手にお願いします」
自分から手を差し出したものの、風丸は少し考えるような間を開けて
「やっぱ手はつまんねーから嫌だ」
「んんっ? 話が一巡してしまいましたよ? 手が嫌ならどこにするんですか?」
困惑する私の手を風丸はいきなり引っ張ると、おでこにチュッとキスしました。あまりの衝撃に固まる私を、彼は少し気まずそうに見下ろして
「ここならいいだろ」
ようやくフリーズの解けた私は、おでこを押さえながら
「ふぇぇ……。ハート泥棒ぉぉ……」
真っ赤になって打ち震える私に
「口にはさせねーくせに、額にされたくらいでそんなになるとか。本当に分かんねーヤツだよな~」
風丸は呆れ顔でぼやいていました。
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