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第2話・〇〇しないと出られない部屋レベル1

頭を撫でないと出られない部屋

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 はじめてリアルで入ったお題部屋は、ピンクのいかがわしい間接照明に照らされたラブホテル風の一室でした。ゲームでは人の理性を狂わせて、男女の間違いを誘発しそうなこの部屋の雰囲気が好きでしたが、自分が推しと入るには気まずすぎる空間です。

「お、お題はなんでしたか?」

 恐る恐る質問する私に、風丸はニパッと八重歯を見せて

「マスターちゃんを裸にして抜かず3発だって~」
「いきなり過激すぎじゃありません!?」
「なーんて。本当は『頭を撫でろ』だってさ。ビックリしたかい?」
「わーん!? 酷いですよ、風丸! ショックで死ぬところでした!」

 私は思わずポコポコと風丸を叩きました。しかし回避力抜群とは言え、風丸もしばしばモンスターからダイレクトアタックされている身です。防御力特化のクレイグさんほどではなくとも、常人と比べればとっても頑丈なので、女に叩かれたところで痛くはないのでしょう。風丸は余裕の笑顔で叩かれながら

「悪い悪い。麦わらちゃんがあんまりビビるから面白くて、つい」
「ふぇっ!?」

 急に頭を撫でられて私はフリーズしました。

「急に静かになったな? 俺に頭を撫でられて、そんなに嬉しいかい?」

 風丸の問いに私は目を潤ませながら

「うぅ、だって本当に好きだから。風丸に頭を撫でてもらうなんて感動です。夢みたいです」
「……そんなに俺が好きなら、もっと気持ちいいことをいくらでもしてやるのに。ちょうどベッドもあるし、もっといいことしてみるかい?」

 風丸のまさかのお誘いに、私はビョッと飛びのいて

「いやいや! お気遣いなく! 自分を大事にしてください!」
「大事にしろって……女じゃあるまいし。惜しむようなもんじゃないだろ」

 私の反応に、風丸はかえって戸惑った様子ですが

「男も女も関係ないですよ。好きでもない人としたら、確実に何かが減っちゃいます。性欲でも純粋に自分がしたくてするならいいけど、私は風丸に何かしてもらわなくても、なんでも協力しますから。自分の体を取引材料にしないでください……」

 頭には例の『裏切りの風』が浮かんでいました。風丸がヒロインと関係を持ったのは、性欲ではなく利得のためでした。しかしそれは裏を返せば、特別な奉仕をしなければ、十分な援助を得られないと考えてのことです。

 じゃあ、最初から十分にあげますから! 自分を大事にしてください!

 そう考えた私は2周目から、ゲームでも風丸と18禁できなくなりました。風丸に対していやらしい気持ちは全然持っているのですが

(顔は笑っているけど、風丸、本当は好きでしているわけじゃないんですよね……)

 と思うと自然に欲望にブレーキがかかります。ゲームですら穢せなくなった相手に、現実で手を出せるはずがありません。

 風丸が少しでも自分を擦り減らすのは嫌で、切実にお願いするも

「せっかく気遣ってもらったのに悪いけど、俺は忍だから、ここを出りゃまたそういう任務もある。マスターちゃんは遠慮してくれても他のヤツとはするんだぜ? だったら自分もって思わないの?」

 風丸はなぜか少し怒ったように言いました。私が聞き分けないから、イライラしているのかもしれませんが

「思うはずがないです。それが風丸の嫌なことなら、他の人がしていたって私もなんて思いません。というか、風丸が嫌なことは私も楽しくないですよ。風丸が喜ぶことをしたいです」

 そこだけは曲げられなくて、やっぱり拒否すると

「……やるか使うんじゃなきゃ、俺の機嫌を取る意味なんてねーだろうに。マスターちゃんの言うことって、本当に意味不明だな」

 風丸は苛立たしげに頭を掻いていましたが、息を吐いて気を取り直すと

「まぁ、それならいいや。本当は俺も色事が好きなわけじゃないんでね。しなくていいなら助かるよ」
「やっぱり嫌なんじゃないですか。それなのに、どうしてしばしば自分から申し出るんですか?」

 理性を試すようなことをしないで欲しいと注意するも、風丸は掴みどころのない笑顔で

「マスターちゃんの何も要らないって本当かなって。今までそんなヤツに会ったことがないから、どこまで本気か気になってね」

 要するに試されていたと知った私は

「誰も信用してないんですね、風丸。好きです、そういう屈折したところも!」

 輝く笑顔で愛を告げると、風丸は呆れたように半目になって

「……本当に変人だよな~」

 突然のナデナデに衝撃を受けて気づきませんでしたが、この部屋のお題は『頭を撫でる』でした。風丸のおかげでお題をクリアしたので、私たちは無事に宝箱を回収してお題部屋を出ました。
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