殺戮王から逃げられない

知見夜空

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オマケ・2人ただ歩くだけで

最終話・殺戮王は止められない

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 家に戻ったナンデは、まだ昼間だと言うのにドーエスに抱かれた。昔は恐怖や屈辱を煽るような意地悪な抱き方だったが

(なんでこの姿になってからのほうが優しいの……)

 甘さに不慣れなナンデが真っ赤になって悶絶するほど、愛の言葉を囁きながら全身を愛撫される。

 口ぶりはやはり意地悪で、ナンデの反応を見てニヤニヤしてはいるのだが、それすら愛しい人への愛ある戯れのようだった。

 体だけでなく心まで溶かされそうな甘やかな交合。ドーエスに気を許すわけにはいかないナンデにとっては、逆に耐えがたい時間を過ごした。


 ドーエスに抱かれると、ナンデは恐怖と快感による精神的かつ肉体的な消耗から、ほぼ毎回気絶する。

 けれど今回はじめて事後も意識を保っていた。そうしたら

(い、いっそ、いつもみたいに抱き潰して欲しかった……)

 お互いに裸のままベッドに横たわり、ドーエスと見つめ合うことになってしまったナンデは未知の緊張に半泣きになった。

 ドーエスが怖いのではない。むしろその逆で、ドーエスは愛おしげな表情で、ナンデの頬や髪を撫でている。

 いかにも覇者めいた黒衣を脱いで芝居がかった口調も無いと、ドーエスはただの極上美形だ。

 神話の神々のように美しい男が、裸で同じベッドに横たわり、優しく目を細めてこちらを見つめて来る。

 愛の言葉を囁かずとも、視線だけで恋に落とせる威力だった。しかしナンデは恋に落ちそうになるほど

(何この時間? 怖い)

 ドーエスに心を奪われる即、死と思っているので恐怖した。

 しかしずっと無言だったドーエスが、ふと「ふふっ」と笑い声を漏らした。

 謎の寵愛タイムがようやく終わったことに安堵したナンデは

「ど、どうしたんですか?」

 その問いにドーエスはベッドから抜け出ると

「服を着ろ、ナンデ。もうすぐ客が来る」
「きゃ、客って?」
「私が娘たちに魔法をかけるところを目撃していた者たちがいる。この世界には魔法が無いから対処が遅れたようだが、娘たちが行方不明だと分かり、街の者たちは私を怪しんでいるようだ」
「そ、それって」

 自警団か役人が、間もなくドーエスを尋問に来る。無実ならいいがガッツリ有罪なので「罰を受けろ」と迫られるだろう。

 しかしドーエスが大人しく処罰されるはずがないので

「また私と人間たちの間で殺し合いがはじまる。だが、もういい頃だろう。そなたと2人きりの生活は悪くなかったが、そなたを下女のように働かせるのは気に入らぬ」

 今世のナンデは大柄なだけあって体力があり、生まれながらの平民なので辛抱強くもある。家事が全く大変でないとは言わないが、夫の威光を笠に着て人を酷使するよりは気が楽だ。

 けれど意外にもドーエスのほうが、ナンデを働かせることを嫌がった。自分は定期的に脅かして楽しむが、それ以外の苦労はさせたくないのだ。

 そんな事情に加えて

「それに正直、平穏な生活には飽きた。そろそろ派手に人を殺したい」

 ドーエスはサラッと物騒なことを言い放つと、再び黒衣に身を包んで

「殺すのは私に刃向かう者だけだ。それでいいな、ナンデ?」

 許可を求めているようで、止めさせる気の無い圧を感じたナンデは

「は、はい……」

 短い平和だったな……と思いながら虚ろに了承した。

 1人殺せば犯罪者だが、100万人殺せば英雄だという言葉がある。数が殺人を正当化すると。

 たくさん殺せば正当化されるかはさておき、事実としてドーエスは人類が根負けするまで叩き続けることで、自分ではなく道理を捻じ曲げて、殺戮王として世界に君臨して来た。

 この世界でも同様の暴虐が行われるだろう。人類がドーエスに抗うほうが被害が増えると悟るまで。

 恐怖の殺戮王は誰にも止められないので、100万の犠牲者が出る前に人類のほうが折れてくれることをナンデは祈るしか無かった。
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感想 19

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みんなの感想(19件)

ぷにぷに0147

番外編ありがとうございます。
甘くて優しい話のあとは、しょっぱいのも欲しくなるよねw
しょっぱみ強い気もしますがw

2023.07.14 知見夜空

ぷにぷに0147様へ

こちらこそ番外編へのコメントをありがとうございます。またぷにぷに0147様にお話を読んでいただけて嬉しいです。

私も甘くて優しい話が続いたせいか、またしょっぱいのが書きたくなってしまいました。

次回はもっとしょっぱいかもしれませんが、全く平和ではない2人のデートをお楽しみいただけましたら幸いです。

解除
千田
2022.11.28 千田

最後はニヤニヤしてしまいました!
毎回の更新がとっても楽しみでした!
ありがとうございました!またいつか番外編を書いて頂けたら嬉しいです!

2022.11.29 知見夜空

千田様へ

「最後はニヤニヤした」「毎回の更新がとても楽しみだった」との嬉しいお言葉をありがとうございます。

ドーエスとナンデのことは私も好きなのですが、完全にノリと勢いで書いていたので、意図的に番外編を書くということは難しいです(ご期待に応えられず、本当にすみません)。

連載中もたくさん気にかけてくださったこと、こうして最後まで見届けてくださったこと、本当にありがとうございました。

解除
ぷにぷに0147

完結お疲れ様でした!
なんとも、異常で、けど、たぐいまれなる、破れ鍋に綴蓋でした! このとんでもない破れ鍋ドエスには、この歪綴蓋じゃないとだめなんですねw
その綴蓋を歪のままに居させようッていうドーエスも、かなり溺愛ですねw

楽しませていただきました!

でも、完結後でも、たまにオマケ入れてくれてもいいのよw
^o^)/

2022.11.29 知見夜空

ぷにぷに0147様へ

完結記念のコメントをありがとうございます。

お互いに「この人じゃなきゃダメ」という関係性を描きたいと思っているので、とんでもない破れ鍋ドーエスには、ナンデじゃないとダメだと感じていただけて嬉しいです。

こちらこそ最後まで楽しんで読んでくださり、ありがとうございました。

解除

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