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オマケ・転生しても逃がさない
さーて今世のナンデさんは?
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あれからナンデは奇しくも前世と同じ名前で、今度は平民の女性として転生した。
しかし多くの人間がそうであるように、ナンデは前世の記憶を失っていた。その代わりナンデは、子どもの頃から繰り返し前世の記憶を夢に見た。
黒髪赤目に黒衣をまとった、この世の者とは思えないほど美しい男が、山ほどの人を惨たらしく殺していく悪夢。かと思えば、その美しい男の花嫁として夜ごと抱かれる淫らな夢も見た。
前世の記憶は通常の夢と同じように、目が覚めると途端におぼろになって、その男の姿も名もハッキリと思い出せない。
ただ前世で刻み込まれた恐怖は、目が覚めても残り続け、ナンデは悪夢を見るたびに「怖かった」と父に泣きついた。
縁の深い魂は、次の世でも近しい関係になりやすい。ナンデの父は今回もケネンで、今世は王ではなく売れない物書きだった。
ケネン経由で編集者がナンデの悪夢の話を面白がって
「娘さんの見る悪夢を、ケネンさんが書いてみたらどうです?」
と提案した。
今ナンデとケネンが暮らす世界では、怪物や魔法はお話の中だけの存在だった。人間は自分に危険が無ければ、残酷で刺激的なものに惹かれやすい。
ナンデの悪夢は『殺戮王と蒼白の花嫁』というタイトルで出版されて、娘が実際に見た悪夢という触れ込みから、多くの人間の関心を集めて国外にも広まるほどヒットした。
お陰でケネンは物書きとして成功し、平民にも関わらず親子は裕福になった。しかしケネンは作品が思いがけずヒットしたことから、こんな不安を抱くようになった。
もし娘の悪夢が空想ではなく現実だったら。それを本として出版することは、自分たちと同じように転生したかもしれない殺戮王に、自ら居場所を知らせるようなものではないかと。
しかし殺戮王に見つかることを懸念する父に、娘のナンデは呆れ顔で
「前世だの転生だの、自分で書いた小説に影響されないでよ。あんなの私が見たただの夢でしょ」
「ただの夢と言うが、子どもの頃の一時ならともかく、お前は未だに殺戮王の夢を見るのだろう? 物心つく前から18になるまで同じ夢を繰り返し見るなんて、どう考えても普通じゃないと思うが」
「じゃあ、父さんは自分の前世は王様で、私は美しい姫君だったと言うの? まぐれ当たりで小説が売れて大金を稼いだからって、父さんは売れない物書きで私はただの平民の娘よ。それに美人でもなんでもない」
美人じゃないどころか、今世のナンデは前世とは真逆で、むっつりと怒ったような男顏に無骨な体つきの不美人だった。頑健そうな見た目どおり、体力はあるので労働力として嫁にするならいいかもしれないが、うっとり愛でるような対象ではない。
いくら被害者役だからって、どこにでもいるような平凡な自分たちの前世が王族だなんて、とんだ自惚れだとナンデは思っていた。
「それに魔王だの異世界だの冥界だの、現実にあるわけないじゃない。父さんも物書きなら、空想と現実の区別くらいつけなきゃダメよ」
「……ああ。確かに現実的に考えるなら、お前の言うとおりなんだろう。ただ」
「ただ?」
「……いや、なんでもない」
ナンデには言わなかったが、小説を出版した後からケネンも前世の夢を見るようになった。
黒髪赤目の黒衣の男に、惨たらしく殺されて玉座へ座らせられる夢。ただ自分のそれはナンデの悪夢を聞き、本を書いてから見るようになったもの。
ナンデの言うとおり自分の小説に影響を受けて、ありもしない前世の記憶を捏造しているのかもしれないとケネンは考え直した。
しかし多くの人間がそうであるように、ナンデは前世の記憶を失っていた。その代わりナンデは、子どもの頃から繰り返し前世の記憶を夢に見た。
黒髪赤目に黒衣をまとった、この世の者とは思えないほど美しい男が、山ほどの人を惨たらしく殺していく悪夢。かと思えば、その美しい男の花嫁として夜ごと抱かれる淫らな夢も見た。
前世の記憶は通常の夢と同じように、目が覚めると途端におぼろになって、その男の姿も名もハッキリと思い出せない。
ただ前世で刻み込まれた恐怖は、目が覚めても残り続け、ナンデは悪夢を見るたびに「怖かった」と父に泣きついた。
縁の深い魂は、次の世でも近しい関係になりやすい。ナンデの父は今回もケネンで、今世は王ではなく売れない物書きだった。
ケネン経由で編集者がナンデの悪夢の話を面白がって
「娘さんの見る悪夢を、ケネンさんが書いてみたらどうです?」
と提案した。
今ナンデとケネンが暮らす世界では、怪物や魔法はお話の中だけの存在だった。人間は自分に危険が無ければ、残酷で刺激的なものに惹かれやすい。
ナンデの悪夢は『殺戮王と蒼白の花嫁』というタイトルで出版されて、娘が実際に見た悪夢という触れ込みから、多くの人間の関心を集めて国外にも広まるほどヒットした。
お陰でケネンは物書きとして成功し、平民にも関わらず親子は裕福になった。しかしケネンは作品が思いがけずヒットしたことから、こんな不安を抱くようになった。
もし娘の悪夢が空想ではなく現実だったら。それを本として出版することは、自分たちと同じように転生したかもしれない殺戮王に、自ら居場所を知らせるようなものではないかと。
しかし殺戮王に見つかることを懸念する父に、娘のナンデは呆れ顔で
「前世だの転生だの、自分で書いた小説に影響されないでよ。あんなの私が見たただの夢でしょ」
「ただの夢と言うが、子どもの頃の一時ならともかく、お前は未だに殺戮王の夢を見るのだろう? 物心つく前から18になるまで同じ夢を繰り返し見るなんて、どう考えても普通じゃないと思うが」
「じゃあ、父さんは自分の前世は王様で、私は美しい姫君だったと言うの? まぐれ当たりで小説が売れて大金を稼いだからって、父さんは売れない物書きで私はただの平民の娘よ。それに美人でもなんでもない」
美人じゃないどころか、今世のナンデは前世とは真逆で、むっつりと怒ったような男顏に無骨な体つきの不美人だった。頑健そうな見た目どおり、体力はあるので労働力として嫁にするならいいかもしれないが、うっとり愛でるような対象ではない。
いくら被害者役だからって、どこにでもいるような平凡な自分たちの前世が王族だなんて、とんだ自惚れだとナンデは思っていた。
「それに魔王だの異世界だの冥界だの、現実にあるわけないじゃない。父さんも物書きなら、空想と現実の区別くらいつけなきゃダメよ」
「……ああ。確かに現実的に考えるなら、お前の言うとおりなんだろう。ただ」
「ただ?」
「……いや、なんでもない」
ナンデには言わなかったが、小説を出版した後からケネンも前世の夢を見るようになった。
黒髪赤目の黒衣の男に、惨たらしく殺されて玉座へ座らせられる夢。ただ自分のそれはナンデの悪夢を聞き、本を書いてから見るようになったもの。
ナンデの言うとおり自分の小説に影響を受けて、ありもしない前世の記憶を捏造しているのかもしれないとケネンは考え直した。
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