殺戮王から逃げられない

知見夜空

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第一話・身代わりを出しても逃げられない

運命の夜(残酷表現注意)

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 ケダカをドーエスに嫁がせてから数日後の夜。自室で眠っていたナンデは、何者かの気配に目を覚ました。重い瞼を開くと、ベッドを覆う天蓋の内側に

「おはよう、お嬢さん」

 濡れたように艶やかな黒の短髪に、血のように赤い瞳の絶世の美青年が居た。寝起きのナンデは男の美貌に一瞬見惚れたが、帯剣しているのに気付くと

「な、なんで私の部屋に!? 誰よ、あなた! 私を王女と知ってのことなの!? 人を呼ぶわよ!」

 男はナンデの反応を嘲笑うと

「おや? コーナルノ国には王女は1人しかいないはずだがな。唯一の王女であるナンデ姫は、先日ドーエス王に嫁がれたと聞いたが、そなたは本当にこの国の王女か?」

 ドーエスを欺くため、ナンデは自分の名前を捨てて、密かに城内で匿われていた。自分がナンデだと声高に主張できないのを思い出して、

「だ、誰か居ないの!? 早くこの男をどこかにやって!」

 とにかく兵士か誰か呼んで、男を摘まみ出させようとしたが

「残念ながら、いくら呼んでも誰も来ないぞ。この城に残っているのは、もうそなたと私だけだ」
「う、嘘よ、そんな」

 ナンデは男から逃れようと、夜着のまま自室から飛び出した。すると廊下や部屋などいたるところで、悪夢のように城の人たちが死んでいる。

 最後に謁見の間に向かったナンデは、わざわざ王座に座らされて死んでいる父の姿を発見した。

 苦悶の表情を浮かべたまま、血まみれで絶命している父を目の当たりにしたナンデは、その場にへたりと座り込み

「あ、ああ……。お父様……。どうしてこんなことに……」
「気は済んだかな?」

 ナンデは背後からかけられた声に「ひっ!?」と息を飲んだ。影のように背後に立つ男を、カタカタと振り返ったナンデは

「み、みんなあなたがやったの? どうしてこんなことを。この国になんの恨みがあるのよ!?」

 ナンデの悲痛な叫びに、男は面白そうに目を細めながら

「自分の胸に手を当てて、よく考えてみることだ。殺される心当たりが無いとは言わせぬぞ」

 男の言葉に、ナンデはハッとした。単独でここまでの凶行をやってのける人物に1人だけ心当たりがあった。

「ま、まさかあなたが……殺戮王なの……?」

 恐怖に青ざめるナンデに、ドーエスは胸に手を当てて優雅にお辞儀してみせると、

「素敵な遊びの誘いをありがとう。おかげで久しぶりに楽しい夜を過ごせた」

 ここまで来るとナンデにも事情が呑み込めた。どうやら父の不安が現実になったようだ。ケダカは母のために死地に赴く強さと優しさを持っていた。暴君の中の暴君とあだ名されるドーエスと言えど、その気高さと心の美しさに胸を打たれたのかもしれない。

「もしかしてあの子に頼まれたの? 自分を身代わりにした家族と国に復讐して欲しいって」

 震えながら問うナンデに、ドーエスはニヤリと笑って

「土産だ。開けてみろ」

 スイカくらいの玉が入った袋を渡した。言われるままにナンデが開けると、ケダカの首がゴロンと落ちた。恐怖の表情のまま死んだ妹の生首と目が合ってしまったナンデは

「なんでぇぇ!? この子に同情して私たちを裁きに来たんじゃないのぉぉ!?」

 思いきり当てが外れたショックと恐怖で絶叫した。ドーエスはナンデの怯えように、ゾクゾクした様子で

「そなたは本当によい反応をするな。脅かし甲斐がある」

 腰を抜かしたナンデの前に膝をつくと、彼女の前髪を掴んで目を見合わせて

「私は私を恐れる者が好きだ。しかしその娘は、私など怖くないと言った。実の父に死んで来いと嫁に出されるより、惨いことは無いと。だから殺した。私を恐れぬというその思い上がりを正すために。ことさら惨たらしくな……」

 噂通りの人でなし! 評判に一切の偽り無し!

 皆には誤解されているけど、実はいい人……ということは一切なく、まんま殺戮王だったドーエスに

「わ、私も殺すんですか……? あなたをたばかろうとしたから……?」

 父にさえタメ口だったナンデも自然と敬語になった。恐怖に泣き出す寸前の表情で、息を乱しながら自分を見返すナンデに、

「そのつもりだったが、気が変わった」

 ドーエスは彼女の前髪を放すと、思わせぶりに頬に触れて、

「私のものになれ、ナンデ。気が変わらんうちは可愛がってやる」

 死よりも恐ろしい宣告をされたナンデは

「なんでぇぇ!? ドーエス様のように強くて美しい方には、もっと素晴らしい女性がいらっしゃると思いますが!?」

 ナンデは華やかな雰囲気の美女で、スタイルもよく胸も豊満だ。女性として十分に恵まれた容姿だが、ドーエスはこれまでに50人を超える粒ぞろいの美女を娶っては殺して来た男だ。ナンデ程度の美人は見飽きているはず。容姿を抜きにすれば、自分のように父に甘やかされて我がまま放題育った、思いやりも才能も無い女をあえて選ぶ理由は無いはずだとナンデは思った。
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