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約束が叶う時
それぞれの試練
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しかし幸せな気分も束の間。今度はカザネから
『実は私も家族にアメリカ行きを反対されているんだ』
突然の爆弾発言に、ブライアンは衝撃を受けた。問題は学校の合否だけで、てっきりカザネの家族は応援しているものと思っていた。
けれど実際は、カザネの両親は語学留学までは無駄にならないだろうと目を瞑ったものの、本格的なアメリカ行きには反対だった。
娘がアメリカに行ったまま帰らなくなるのも寂しいが、治安の悪さが心配だし、何かあった時にすぐに駆けつけられないところに居て欲しくなかった。
カザネにアメリカ行きを諦めさせたい両親は
「アニメにしたって日本とアメリカじゃ感覚が違うんじゃない? カザネの絵が上手なのは知っているけど、アメリカじゃ通用しないかもしれないわよ。日本の学校に通って、日本のアニメーターになればいいじゃない。そのほうが私たちも安心だし、カザネにだっていいはずよ」
日本人がアメリカのアニメーターになるのは無謀だと諭した。しかしカザネからすれば、日本とアメリカでは感覚が違うからこそ、アメリカのアニメスタジオで働きたかった。少なくとも子どもの頃からの夢を諦めることが、自分のためだとは言って欲しくない。
どれだけ諭しても絶対に折れないカザネに両親は
「だったら俺たちに証明してくれ。お前の夢が口先だけじゃなくて実現可能なものなのか。素人の俺たちには、お前に才能があるか分からないから、プロの審査を受けて欲しい」
「つまり何かのコンテストに出せってこと?」
カザネの質問に父は深く頷いて
「そこでなんらかの賞を取れば、お前には才能があると認める。ただ日本ではなく、アメリカのコンテストにしてくれ。お前がなりたいのが、日本じゃなくアメリカのアニメーターなら、世界に通用する才能があることを証明してくれ」
という条件を課した。
ブライアンのように自分でお金を工面する代わりに、親の指図を受けない手もある。しかしカザネはあえて、その条件を呑んだ。世界中の人に夢を届けたいと言うなら、確かに両親が言うだけの才能を、今からでも発揮できなければおかしいと考えたからだ。
それからカザネは、ずっとコンテスト用の作品を作っていたそうだ。てっきり苦労しているのは自分だけかと思いきや、カザネはもっと大変なことになっていたようだ。カザネの事情を知ったブライアンは
「お前、そんなことになっていたなら早く言えよ」
『ゴメン、ブライアンに心配をかけたくなくて。自分の問題だし自分でなんとかしようと』
「まぁ、アニメ作りに関して、俺が助言できることなんて無いけどさ。コンテストで賞を取るなんて、言うほど簡単じゃ無いだろ。大丈夫なのか?」
カザネの懸念どおり、ブライアンは再会できるか不安になったが
『私の好きな人によれば、できるかできないかじゃなくて、やるかやらないからしいよ。その言葉があるから、私もただやろうと思った。結果はまだだけど、今できる全てを注ぎ込めたと思う』
カザネはあえて強気に言うと
『……傲慢かもしれないけど、自分では行ける気がしているんだ。信じてくれる?』
カザネの言うとおり、他のクリエーターを差し置いて、自分が賞を取れると思うのは傲慢かもしれない。しかしブライアンは
「俺はカザネなら夢を叶えられると思っているから。お前が手応えを感じたなら信じる」
はじめて会った時からなぜか、カザネには夢を叶える力があると感じていた。苦労や挫折を知らないからではなく、どれだけの否定を受けても、決して消えない目の輝きがそう思わせたのかもしれない。
「仮に思うような結果が出なかったとしても、どんな手段を使っても俺がまた絶対に会えるようにするから大丈夫。だから、あともうちょっとだけ待っていてくれ」
カザネにばかり負担をかけまいと、ブライアンは強く請け負った。どちらに転ぼうと、自分と居る未来を諦めないでくれるという言葉が、とても嬉しかったカザネは
『会えたらたくさんキスしてくれる?』
シャイなカザネには珍しい大胆なおねだりに、ブライアンは電話越しに悶えながら
「今すぐそっちに飛んで行きたくなった。危うく乏しい資金をチケット代に注ぎ込んで、お前にキスしに行くところだったよ」
半ば本気のブライアンに、カザネは照れたように笑って
『それは本当に危ないところだ。これからは親に頼れないんだから、お金は大事にしなきゃ』
「そう。だからこっちに来たら、ベッドは1つでいいよな? 節約しなきゃだから」
ブライアンは自分のペースを取り戻すべく冗談を言ったが
『……いつかお金持ちになっても、ベッドは1つでいいよ。私もブライアンと一緒に寝たいから』
カザネからの再びの爆弾発言に、今度こそ余裕を吹き飛ばされたブライアンは
「……それ以上可愛いことを言われたら、欲求不満で死ぬからやめて」
いつもの軽口も忘れて降参すると、最後に囁くような切ない声で
「早くお前に会いたいよ」
『私も』
幸いカザネは希望の学校にはすでに受かっているらしい。後はコンテストの結果を待って、入学手続きをするだけのようだ。ブライアンもすでに志望校に合格し、返済義務無しの奨学金の審査にも受かっていた。
カザネの進路によっては、それらの努力を全て引っ繰り返して別の手段を講じることになる。それでも一緒に居る未来だけは変えまいと、ブライアンは固く誓った。
『実は私も家族にアメリカ行きを反対されているんだ』
突然の爆弾発言に、ブライアンは衝撃を受けた。問題は学校の合否だけで、てっきりカザネの家族は応援しているものと思っていた。
けれど実際は、カザネの両親は語学留学までは無駄にならないだろうと目を瞑ったものの、本格的なアメリカ行きには反対だった。
娘がアメリカに行ったまま帰らなくなるのも寂しいが、治安の悪さが心配だし、何かあった時にすぐに駆けつけられないところに居て欲しくなかった。
カザネにアメリカ行きを諦めさせたい両親は
「アニメにしたって日本とアメリカじゃ感覚が違うんじゃない? カザネの絵が上手なのは知っているけど、アメリカじゃ通用しないかもしれないわよ。日本の学校に通って、日本のアニメーターになればいいじゃない。そのほうが私たちも安心だし、カザネにだっていいはずよ」
日本人がアメリカのアニメーターになるのは無謀だと諭した。しかしカザネからすれば、日本とアメリカでは感覚が違うからこそ、アメリカのアニメスタジオで働きたかった。少なくとも子どもの頃からの夢を諦めることが、自分のためだとは言って欲しくない。
どれだけ諭しても絶対に折れないカザネに両親は
「だったら俺たちに証明してくれ。お前の夢が口先だけじゃなくて実現可能なものなのか。素人の俺たちには、お前に才能があるか分からないから、プロの審査を受けて欲しい」
「つまり何かのコンテストに出せってこと?」
カザネの質問に父は深く頷いて
「そこでなんらかの賞を取れば、お前には才能があると認める。ただ日本ではなく、アメリカのコンテストにしてくれ。お前がなりたいのが、日本じゃなくアメリカのアニメーターなら、世界に通用する才能があることを証明してくれ」
という条件を課した。
ブライアンのように自分でお金を工面する代わりに、親の指図を受けない手もある。しかしカザネはあえて、その条件を呑んだ。世界中の人に夢を届けたいと言うなら、確かに両親が言うだけの才能を、今からでも発揮できなければおかしいと考えたからだ。
それからカザネは、ずっとコンテスト用の作品を作っていたそうだ。てっきり苦労しているのは自分だけかと思いきや、カザネはもっと大変なことになっていたようだ。カザネの事情を知ったブライアンは
「お前、そんなことになっていたなら早く言えよ」
『ゴメン、ブライアンに心配をかけたくなくて。自分の問題だし自分でなんとかしようと』
「まぁ、アニメ作りに関して、俺が助言できることなんて無いけどさ。コンテストで賞を取るなんて、言うほど簡単じゃ無いだろ。大丈夫なのか?」
カザネの懸念どおり、ブライアンは再会できるか不安になったが
『私の好きな人によれば、できるかできないかじゃなくて、やるかやらないからしいよ。その言葉があるから、私もただやろうと思った。結果はまだだけど、今できる全てを注ぎ込めたと思う』
カザネはあえて強気に言うと
『……傲慢かもしれないけど、自分では行ける気がしているんだ。信じてくれる?』
カザネの言うとおり、他のクリエーターを差し置いて、自分が賞を取れると思うのは傲慢かもしれない。しかしブライアンは
「俺はカザネなら夢を叶えられると思っているから。お前が手応えを感じたなら信じる」
はじめて会った時からなぜか、カザネには夢を叶える力があると感じていた。苦労や挫折を知らないからではなく、どれだけの否定を受けても、決して消えない目の輝きがそう思わせたのかもしれない。
「仮に思うような結果が出なかったとしても、どんな手段を使っても俺がまた絶対に会えるようにするから大丈夫。だから、あともうちょっとだけ待っていてくれ」
カザネにばかり負担をかけまいと、ブライアンは強く請け負った。どちらに転ぼうと、自分と居る未来を諦めないでくれるという言葉が、とても嬉しかったカザネは
『会えたらたくさんキスしてくれる?』
シャイなカザネには珍しい大胆なおねだりに、ブライアンは電話越しに悶えながら
「今すぐそっちに飛んで行きたくなった。危うく乏しい資金をチケット代に注ぎ込んで、お前にキスしに行くところだったよ」
半ば本気のブライアンに、カザネは照れたように笑って
『それは本当に危ないところだ。これからは親に頼れないんだから、お金は大事にしなきゃ』
「そう。だからこっちに来たら、ベッドは1つでいいよな? 節約しなきゃだから」
ブライアンは自分のペースを取り戻すべく冗談を言ったが
『……いつかお金持ちになっても、ベッドは1つでいいよ。私もブライアンと一緒に寝たいから』
カザネからの再びの爆弾発言に、今度こそ余裕を吹き飛ばされたブライアンは
「……それ以上可愛いことを言われたら、欲求不満で死ぬからやめて」
いつもの軽口も忘れて降参すると、最後に囁くような切ない声で
「早くお前に会いたいよ」
『私も』
幸いカザネは希望の学校にはすでに受かっているらしい。後はコンテストの結果を待って、入学手続きをするだけのようだ。ブライアンもすでに志望校に合格し、返済義務無しの奨学金の審査にも受かっていた。
カザネの進路によっては、それらの努力を全て引っ繰り返して別の手段を講じることになる。それでも一緒に居る未来だけは変えまいと、ブライアンは固く誓った。
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