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ハッピーホワイトデー
ブライアンとお兄さん
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しかし幸せな時間も束の間。
「あれ、ブライアン?」
突然かかった男の声に、ブライアンはギクッと体を強張らせた。いつも冷静で堂々としたブライアンには珍しい反応。心配するカザネの前で
「オーウェン……」
「やっぱり。どこかで見たようなヤツだと思ったら、お前か」
オーウェンと言うスーツ姿の恰幅のいい男性は、どことなくブライアンを蔑むような態度だった。この時点でカザネは、すでに緊迫した空気を感じていたが、
「オーウェン。もしかして彼は、あなたの弟?」
連れの女性の質問に、オーウェンはぞんざいにブライアンを指差しつつ、
「そうだよ。親父が愛人に産ませた子」
「あ、愛人って……。ブライアンのお父さんとお母さんは、ちゃんと結婚していたんじゃ……」
あまりに酷い紹介にカザネが思わず口を挟むと
「なんだよ、そのチャイニーズ……いや、日本人か?」
オーウェンは侮蔑するようにカザネを見ると、今度はブライアンに嘲りの笑みを向けて
「いくら子ども同士の無責任な付き合いでも、付き合う女は選べよ、ブライアン。せっかく親父に気に入られているのに、黄色い彼女なんて連れていたら、悪趣味なヤツだってガッカリされるぜ。俺は偏見ないけど、親父は白人至上主義者だからな」
あからさまにケンカを売られたブライアンは完璧な笑みで武装すると、
「相変わらず、お兄様は人を不快にさせる天才だね。でもそっちこそ彼女を連れている時くらい、少しは口を慎んだら? ただでさえアメフトをやめてからデブって魅力半減なのに、マナーまで悪いと分かったら、マトモな女は逃げて行くよ」
デブって魅力半減はまさにオーウェンが気にしていることだった。痛烈なカウンターを食らったオーウェンはカッとなって
「お前こそ口を慎めよ! アバズレの子どものくせに!」
ブライアンに掴みかかる勢いだったが
「オーウェン! もうやめて! せっかくデートに来たのにケンカなんかしないで!」
「くっ……」
連れの女性に止められて、なんとか怒りを抑えると
「確かに、せっかく君とデートしているのに、こんな馬鹿に付き合っていられないな」
そう言って立ち去ってくれたのはいいが
「ば、馬鹿って。向こうから侮辱して来たのに」
「いいよ、カザネ。お前が悪く言われるんじゃなきゃ、俺は何を言われても」
「でも……」
「アイツを引き留めて本格的にケンカになるほうが嫌だろ。やろうと思えば叩き潰せるけど、お前は多分そんなこと望まないだろうし」
確かにブライアンが人とケンカするのは嫌だ。例え彼が勝つとしても。ブライアンが誰かに傷つけられるところも、逆に傷つけるところもカザネは見たくなかった。
その後。カザネとブライアンは、チェルシーマーケット内のレストランで昼食を取ることになった。デザートには散策の途中で気になったイタリアンジェラートを食べる予定なので、ランチもイタリアンに合わせた。さっそくテーブルにつき、ピザとパスタをシェアすることになったが
「ゴメンな。嫌な思いをさせて」
「えっ? なんのこと?」
「料理が来たのに、ずっと浮かない顔だから。さっきのことが引っ掛かっているんだろうなって」
ブライアンの指摘に、カザネは「うぅ」と小さくなって
「こっちこそゴメンね。なかなか切り替えられなくて。でも私はいいけど、ブライアンが酷いことを言われたのは、やっぱりショックだった」
「別に慣れているから平気だよ。アバズレの子呼ばわりも、全くの的外れではないし。むしろ俺のほうが優秀で直接は叩けないもんだから、周りを貶すしかないんだと思えば憐れなもんだよ」
ブライアンはカザネには決して向けない冷笑を浮かべたが
「あれ、ブライアン?」
突然かかった男の声に、ブライアンはギクッと体を強張らせた。いつも冷静で堂々としたブライアンには珍しい反応。心配するカザネの前で
「オーウェン……」
「やっぱり。どこかで見たようなヤツだと思ったら、お前か」
オーウェンと言うスーツ姿の恰幅のいい男性は、どことなくブライアンを蔑むような態度だった。この時点でカザネは、すでに緊迫した空気を感じていたが、
「オーウェン。もしかして彼は、あなたの弟?」
連れの女性の質問に、オーウェンはぞんざいにブライアンを指差しつつ、
「そうだよ。親父が愛人に産ませた子」
「あ、愛人って……。ブライアンのお父さんとお母さんは、ちゃんと結婚していたんじゃ……」
あまりに酷い紹介にカザネが思わず口を挟むと
「なんだよ、そのチャイニーズ……いや、日本人か?」
オーウェンは侮蔑するようにカザネを見ると、今度はブライアンに嘲りの笑みを向けて
「いくら子ども同士の無責任な付き合いでも、付き合う女は選べよ、ブライアン。せっかく親父に気に入られているのに、黄色い彼女なんて連れていたら、悪趣味なヤツだってガッカリされるぜ。俺は偏見ないけど、親父は白人至上主義者だからな」
あからさまにケンカを売られたブライアンは完璧な笑みで武装すると、
「相変わらず、お兄様は人を不快にさせる天才だね。でもそっちこそ彼女を連れている時くらい、少しは口を慎んだら? ただでさえアメフトをやめてからデブって魅力半減なのに、マナーまで悪いと分かったら、マトモな女は逃げて行くよ」
デブって魅力半減はまさにオーウェンが気にしていることだった。痛烈なカウンターを食らったオーウェンはカッとなって
「お前こそ口を慎めよ! アバズレの子どものくせに!」
ブライアンに掴みかかる勢いだったが
「オーウェン! もうやめて! せっかくデートに来たのにケンカなんかしないで!」
「くっ……」
連れの女性に止められて、なんとか怒りを抑えると
「確かに、せっかく君とデートしているのに、こんな馬鹿に付き合っていられないな」
そう言って立ち去ってくれたのはいいが
「ば、馬鹿って。向こうから侮辱して来たのに」
「いいよ、カザネ。お前が悪く言われるんじゃなきゃ、俺は何を言われても」
「でも……」
「アイツを引き留めて本格的にケンカになるほうが嫌だろ。やろうと思えば叩き潰せるけど、お前は多分そんなこと望まないだろうし」
確かにブライアンが人とケンカするのは嫌だ。例え彼が勝つとしても。ブライアンが誰かに傷つけられるところも、逆に傷つけるところもカザネは見たくなかった。
その後。カザネとブライアンは、チェルシーマーケット内のレストランで昼食を取ることになった。デザートには散策の途中で気になったイタリアンジェラートを食べる予定なので、ランチもイタリアンに合わせた。さっそくテーブルにつき、ピザとパスタをシェアすることになったが
「ゴメンな。嫌な思いをさせて」
「えっ? なんのこと?」
「料理が来たのに、ずっと浮かない顔だから。さっきのことが引っ掛かっているんだろうなって」
ブライアンの指摘に、カザネは「うぅ」と小さくなって
「こっちこそゴメンね。なかなか切り替えられなくて。でも私はいいけど、ブライアンが酷いことを言われたのは、やっぱりショックだった」
「別に慣れているから平気だよ。アバズレの子呼ばわりも、全くの的外れではないし。むしろ俺のほうが優秀で直接は叩けないもんだから、周りを貶すしかないんだと思えば憐れなもんだよ」
ブライアンはカザネには決して向けない冷笑を浮かべたが
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