ブライアンのお気に入り

知見夜空

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一月のこと

選べないくせに傷つくなんて

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 はじめて唇にキスされた翌朝。キスされた時と同じくらい唐突に、ブライアンはカザネを拒絶した。彼はいつの間にか、カザネに惹かれていたと言うが、それは付き合って欲しいという意味ではなく、むしろ別離の宣言だった。

 嫌いだからなら分かるが、好きなのに距離を置くなんて変な話だ。しかし確かにカザネは6月には日本に帰ってしまう。まだ5ヶ月くらいはあるが、たまたま短くなってしまうのと、最初から別れる前提で恋愛するのでは、確かに後者は無意味に感じられるかもしれない。

 ブライアンと話せなくなるのは寂しい。でも確かにカザネには彼をいちばん大事にできない。こんな中途半端な気持ちで彼にかけられる言葉は無く、その場は飲み込むしかなかった。


 冬休みが開けて学校が再開した。カザネの後ろの席だったブライアンは、他の子と席を交換して教室の後方に戻った。ブライアンは本当に、自分と距離を置こうとしているのだとカザネは実感した。

 またクリスマスにミシェルが失恋したことは、女子の間で噂になっていた。今がチャンスとばかりに、上級生のジュリアは前よりも頻繁にブライアンに会いに来るようになった。

 以前のブライアンは女の子にアプローチされても、上手に話題を切り上げて早々に離れていた。でも今はジュリアをはじめ女の子を避けることはなくなり、談笑する姿を多く見かけるようになった。

 これだけ変化が起これば、共通の友人であるジムとハンナが気づかないはずがない。

 カザネたちの不仲を心配する2人に、放課後カフェに連れて行かれて

「前はあんなに仲が良かったのに、どうして急に離れちゃったの?」

 友だちとは言え、2人の問題を勝手に人に話すのは躊躇われた。でも自分だけでは、この状況をどう受け止めればいいか分からない。ジムとハンナにこれ以上、心配をかけないためにも、カザネは事情を打ち明けることにした。

 カザネから元旦の出来事を聞いたハンナは

「カザネがそのうち帰ってしまうから、本気で好きになる前に離れると言うの?」
「話してから時間が経っちゃったから、合っているかどうか分からない。ブライアンが私を好きだと言うのもピンと来ないし」

 謙遜ではなく本気で、自分の思い違いかもとカザネは疑っていた。そんなカザネにジムは

「でもブライアンは、前に僕にも同じことを言っていたよ。あんまりカザネに構うから、「彼女が好きなの?」って聞いた時。いつかは帰っちゃう人間を、本気で好きにはならないって」
「そんな風に理性で気持ちを止められるものかしら?」

 ハンナは納得いかないようだが、

「理性で止めるのが難しいからこそ、今のうちに離れたいんだと思う。私もその気持ち、分かる気がするんだ。私も同じ気持ちだから」
「同じ気持ちって……じゃあ、君もブライアンのこと」

 カザネはジムの追及を拒むような硬い声音で

「……お願いだから聞かないで。ブライアンのこと、これ以上考えたくない」
「カ、カザネ……」

 心配する2人に、カザネはなんとか笑顔を作って

「せっかく心配してくれたのにゴメンね。でも私とブライアンはどうにもならないよ。またアメリカに来られたとしても、それは夢のためで、ブライアンと居るために曲げられることじゃないから」

 本当はそんな風に簡単に割り切れなかったが、

「……そのくらいの気持ちで、好きなんて言っちゃいけないと思う」

 自分に言い聞かせるように言葉を続けた。


 ブライアンを諦めると決めた翌日。カザネは教室前の廊下で、ブライアンに会いに来たジュリアが、別れ際、彼にキスするのを見た。

 それは抱き合って何度も唇を重ねるような恋人同士の触れ合いではなく、挨拶代わりの軽いキスだった。しかしアメリカでも唇へのキスは、気のある相手にしか許さない。現にこれまでブライアンは、カザネの知る限りミシェルともジュリアとも、挨拶でキスはしなかった。でも今はそれを許している。

(ブライアンはジュリアと付き合うのかな?)

 カザネが諦めたということはブライアンの隣には、いつか別の子が収まるということだ。当たり前のことが起きただけなのに、どうしようもなく胸が痛んでしまう自分がカザネは嫌だった。
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