34 / 73
一月のこと
選べないくせに傷つくなんて
しおりを挟む
はじめて唇にキスされた翌朝。キスされた時と同じくらい唐突に、ブライアンはカザネを拒絶した。彼はいつの間にか、カザネに惹かれていたと言うが、それは付き合って欲しいという意味ではなく、むしろ別離の宣言だった。
嫌いだからなら分かるが、好きなのに距離を置くなんて変な話だ。しかし確かにカザネは6月には日本に帰ってしまう。まだ5ヶ月くらいはあるが、たまたま短くなってしまうのと、最初から別れる前提で恋愛するのでは、確かに後者は無意味に感じられるかもしれない。
ブライアンと話せなくなるのは寂しい。でも確かにカザネには彼をいちばん大事にできない。こんな中途半端な気持ちで彼にかけられる言葉は無く、その場は飲み込むしかなかった。
冬休みが開けて学校が再開した。カザネの後ろの席だったブライアンは、他の子と席を交換して教室の後方に戻った。ブライアンは本当に、自分と距離を置こうとしているのだとカザネは実感した。
またクリスマスにミシェルが失恋したことは、女子の間で噂になっていた。今がチャンスとばかりに、上級生のジュリアは前よりも頻繁にブライアンに会いに来るようになった。
以前のブライアンは女の子にアプローチされても、上手に話題を切り上げて早々に離れていた。でも今はジュリアをはじめ女の子を避けることはなくなり、談笑する姿を多く見かけるようになった。
これだけ変化が起これば、共通の友人であるジムとハンナが気づかないはずがない。
カザネたちの不仲を心配する2人に、放課後カフェに連れて行かれて
「前はあんなに仲が良かったのに、どうして急に離れちゃったの?」
友だちとは言え、2人の問題を勝手に人に話すのは躊躇われた。でも自分だけでは、この状況をどう受け止めればいいか分からない。ジムとハンナにこれ以上、心配をかけないためにも、カザネは事情を打ち明けることにした。
カザネから元旦の出来事を聞いたハンナは
「カザネがそのうち帰ってしまうから、本気で好きになる前に離れると言うの?」
「話してから時間が経っちゃったから、合っているかどうか分からない。ブライアンが私を好きだと言うのもピンと来ないし」
謙遜ではなく本気で、自分の思い違いかもとカザネは疑っていた。そんなカザネにジムは
「でもブライアンは、前に僕にも同じことを言っていたよ。あんまりカザネに構うから、「彼女が好きなの?」って聞いた時。いつかは帰っちゃう人間を、本気で好きにはならないって」
「そんな風に理性で気持ちを止められるものかしら?」
ハンナは納得いかないようだが、
「理性で止めるのが難しいからこそ、今のうちに離れたいんだと思う。私もその気持ち、分かる気がするんだ。私も同じ気持ちだから」
「同じ気持ちって……じゃあ、君もブライアンのこと」
カザネはジムの追及を拒むような硬い声音で
「……お願いだから聞かないで。ブライアンのこと、これ以上考えたくない」
「カ、カザネ……」
心配する2人に、カザネはなんとか笑顔を作って
「せっかく心配してくれたのにゴメンね。でも私とブライアンはどうにもならないよ。またアメリカに来られたとしても、それは夢のためで、ブライアンと居るために曲げられることじゃないから」
本当はそんな風に簡単に割り切れなかったが、
「……そのくらいの気持ちで、好きなんて言っちゃいけないと思う」
自分に言い聞かせるように言葉を続けた。
ブライアンを諦めると決めた翌日。カザネは教室前の廊下で、ブライアンに会いに来たジュリアが、別れ際、彼にキスするのを見た。
それは抱き合って何度も唇を重ねるような恋人同士の触れ合いではなく、挨拶代わりの軽いキスだった。しかしアメリカでも唇へのキスは、気のある相手にしか許さない。現にこれまでブライアンは、カザネの知る限りミシェルともジュリアとも、挨拶でキスはしなかった。でも今はそれを許している。
(ブライアンはジュリアと付き合うのかな?)
カザネが諦めたということはブライアンの隣には、いつか別の子が収まるということだ。当たり前のことが起きただけなのに、どうしようもなく胸が痛んでしまう自分がカザネは嫌だった。
嫌いだからなら分かるが、好きなのに距離を置くなんて変な話だ。しかし確かにカザネは6月には日本に帰ってしまう。まだ5ヶ月くらいはあるが、たまたま短くなってしまうのと、最初から別れる前提で恋愛するのでは、確かに後者は無意味に感じられるかもしれない。
ブライアンと話せなくなるのは寂しい。でも確かにカザネには彼をいちばん大事にできない。こんな中途半端な気持ちで彼にかけられる言葉は無く、その場は飲み込むしかなかった。
冬休みが開けて学校が再開した。カザネの後ろの席だったブライアンは、他の子と席を交換して教室の後方に戻った。ブライアンは本当に、自分と距離を置こうとしているのだとカザネは実感した。
またクリスマスにミシェルが失恋したことは、女子の間で噂になっていた。今がチャンスとばかりに、上級生のジュリアは前よりも頻繁にブライアンに会いに来るようになった。
以前のブライアンは女の子にアプローチされても、上手に話題を切り上げて早々に離れていた。でも今はジュリアをはじめ女の子を避けることはなくなり、談笑する姿を多く見かけるようになった。
これだけ変化が起これば、共通の友人であるジムとハンナが気づかないはずがない。
カザネたちの不仲を心配する2人に、放課後カフェに連れて行かれて
「前はあんなに仲が良かったのに、どうして急に離れちゃったの?」
友だちとは言え、2人の問題を勝手に人に話すのは躊躇われた。でも自分だけでは、この状況をどう受け止めればいいか分からない。ジムとハンナにこれ以上、心配をかけないためにも、カザネは事情を打ち明けることにした。
カザネから元旦の出来事を聞いたハンナは
「カザネがそのうち帰ってしまうから、本気で好きになる前に離れると言うの?」
「話してから時間が経っちゃったから、合っているかどうか分からない。ブライアンが私を好きだと言うのもピンと来ないし」
謙遜ではなく本気で、自分の思い違いかもとカザネは疑っていた。そんなカザネにジムは
「でもブライアンは、前に僕にも同じことを言っていたよ。あんまりカザネに構うから、「彼女が好きなの?」って聞いた時。いつかは帰っちゃう人間を、本気で好きにはならないって」
「そんな風に理性で気持ちを止められるものかしら?」
ハンナは納得いかないようだが、
「理性で止めるのが難しいからこそ、今のうちに離れたいんだと思う。私もその気持ち、分かる気がするんだ。私も同じ気持ちだから」
「同じ気持ちって……じゃあ、君もブライアンのこと」
カザネはジムの追及を拒むような硬い声音で
「……お願いだから聞かないで。ブライアンのこと、これ以上考えたくない」
「カ、カザネ……」
心配する2人に、カザネはなんとか笑顔を作って
「せっかく心配してくれたのにゴメンね。でも私とブライアンはどうにもならないよ。またアメリカに来られたとしても、それは夢のためで、ブライアンと居るために曲げられることじゃないから」
本当はそんな風に簡単に割り切れなかったが、
「……そのくらいの気持ちで、好きなんて言っちゃいけないと思う」
自分に言い聞かせるように言葉を続けた。
ブライアンを諦めると決めた翌日。カザネは教室前の廊下で、ブライアンに会いに来たジュリアが、別れ際、彼にキスするのを見た。
それは抱き合って何度も唇を重ねるような恋人同士の触れ合いではなく、挨拶代わりの軽いキスだった。しかしアメリカでも唇へのキスは、気のある相手にしか許さない。現にこれまでブライアンは、カザネの知る限りミシェルともジュリアとも、挨拶でキスはしなかった。でも今はそれを許している。
(ブライアンはジュリアと付き合うのかな?)
カザネが諦めたということはブライアンの隣には、いつか別の子が収まるということだ。当たり前のことが起きただけなのに、どうしようもなく胸が痛んでしまう自分がカザネは嫌だった。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる