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一月のこと
大みそかと年越しそば
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クリスマスはなんだか苦い感じになってしまったので、カザネたちは大みそかにマクガン家で、友だちだけのカウントダウンパーティーをすることになった。
留学生には勉強だけじゃなくて異文化交流の使命もある。せっかくの大みそかなので、カザネは日頃のお礼も兼ねて皆に年越し蕎麦を振る舞うことにした。と言っても日本から送ってもらった蕎麦を茹でて、温めた麺つゆに入れただけなので、威張れるほどのものではない。
だからこそせめて具は豪華にしようと、カザネはがんばって天ぷらもあげた。日本に居る母に電話でコツを聞き、マクガン家の台所で練習させてもらった甲斐もあって
「これが年越し蕎麦なのね。聞いたことはあるけど、実際に食べるのははじめて」
「僕も。日本の文化に触れられて良かったな」
ハンナとジムの感想に続いて、おばさんもほっこり笑顔で
「寒いから温かいお蕎麦が美味しいわ。ありがとう、カザネ」
「えへへ。喜んでくれて良かった」
蕎麦は風味が独特なので、苦手な人も居るんじゃないかと心配だったが、おおむね好評で良かったとカザネは喜んだ。
「……ブライアンはどう? 蕎麦、口に合う?」
無言で食べているので不安になり、カザネが感想を催促すると、ブライアンはニコッと笑って
「はじめて食べたけど、けっこう美味いよ。意外と料理上手じゃん。さてはいいお嫁さんになるな?」
前半はともかく『いいお嫁さん』は明らかに軽口だと、カザネも頭では分かっていたが、
「ええっ!? お嫁さんって!?」
なぜか変に狼狽えてしまった。ただでさえ恥ずかしいのに
「あら、いいわね。ブライアンがもらってあげたら?」
「お、おばさん!?」
ブライアンとおばさんにからかわれてカザネがオロオロしていると、ジムが見かねたように
「か、母さん。カザネをからかわないであげてよ。カザネは僕と同じくらい異性に免疫が無いのに、ブライアンにもらわれたら心臓がいくつあっても足りないよ」
「分かる……。いくつあっても軒並み破壊されちゃいそう……」
ハンナも苦笑気味に同意したが、おばさんの勢いは衰えず
「あら、いいじゃない。若い頃の恋愛ならドキドキできるのがいちばんよ。ねぇ、カザネ? あなたもジムみたいにシャイな子よりも、ブライアンみたいにリードしてくれそうな子のほうがいいわよね?」
「母さん、その質問は僕に失礼じゃない!?」
お、おかしい。ジムとハンナをくっつけるために集まったのに、なぜか私とブライアンがくっつけられそうになっている……とカザネはたじろいだ。
クリスマスにイメチェンが成功してグッと女性らしくなったハンナは、ジムから異性として意識されるに至った。また、しつこいナンパからハンナを庇えなかったことで自信を失ったジムを、彼女が追いかけて熱心に励ましたことで2人の仲はグッと深まった。けれどジムもハンナも奥手なので、今は両片想いのまま膠着状態だった。自然にくっつくのを待っていたら、良い流れが止まってしまうかもしれない。
何か決定打が必要だと、今回の作戦が立案された。アメリカでは新年になると同時に、近くの人にキスする風習がある。もちろん日本の風習と同じで、嫌がる人に強制する力は無いが、両片想いの人たちにとってはキスの口実になる。
ジムにはまだハンナの好意は秘密なので、ハンナのほうを後押しして、新年と同時にジムにキスする作戦だった。
ちなみにハンナはクリスマス以降、すっかりオシャレが板について、今日も女性らしいファッションをしている。すっかり遠くに行っちゃたな、ハンナ。置き去りにされたようで、ちょっと寂しいけど、イケている友だちを持てて誇らしくもあるよとカザネは喜んでいた。
ただ外見は変わっても、中身は引っ込み思案のままなので
「ほ、本当にうまくいくかしら? いくら新年だからって私なんかにいきなりキスされて、ジムは嫌じゃないかしら?」
ジムの前では微笑みを浮かべていたが、カザネの部屋で2人になった途端、弱気が顔を出した。カザネは不安を訴えるハンナの手を取って
「大丈夫! なんせ恋愛強者のブライアン先生が、このまま畳みかければいけるって太鼓判を押してくれているから! それに最近はジムもハンナを意識しているし、気になる女の子から恋に発展する可能性大だと思う!」
セコンドとして熱く鼓舞すると、
「か、カザネったら盛り上げ上手……」
ハンナはいくぶんホッとした様子で
「カザネとブライアンがそこまで言ってくれるなら……うん。勇気を出してみる」
背中を押しておいてなんだが、いくら周囲から見て両片想いだとしても、自分から好きな人にキスを仕掛けるって、すごく勇気がいることだ。自分だったらできるか分からないことを、ハンナはやろうとしているんだから偉い。すごい勇気だよ。絶対に叶うよ。応援しているからね! とカザネは早くも感極まって目頭が熱くなった。
留学生には勉強だけじゃなくて異文化交流の使命もある。せっかくの大みそかなので、カザネは日頃のお礼も兼ねて皆に年越し蕎麦を振る舞うことにした。と言っても日本から送ってもらった蕎麦を茹でて、温めた麺つゆに入れただけなので、威張れるほどのものではない。
だからこそせめて具は豪華にしようと、カザネはがんばって天ぷらもあげた。日本に居る母に電話でコツを聞き、マクガン家の台所で練習させてもらった甲斐もあって
「これが年越し蕎麦なのね。聞いたことはあるけど、実際に食べるのははじめて」
「僕も。日本の文化に触れられて良かったな」
ハンナとジムの感想に続いて、おばさんもほっこり笑顔で
「寒いから温かいお蕎麦が美味しいわ。ありがとう、カザネ」
「えへへ。喜んでくれて良かった」
蕎麦は風味が独特なので、苦手な人も居るんじゃないかと心配だったが、おおむね好評で良かったとカザネは喜んだ。
「……ブライアンはどう? 蕎麦、口に合う?」
無言で食べているので不安になり、カザネが感想を催促すると、ブライアンはニコッと笑って
「はじめて食べたけど、けっこう美味いよ。意外と料理上手じゃん。さてはいいお嫁さんになるな?」
前半はともかく『いいお嫁さん』は明らかに軽口だと、カザネも頭では分かっていたが、
「ええっ!? お嫁さんって!?」
なぜか変に狼狽えてしまった。ただでさえ恥ずかしいのに
「あら、いいわね。ブライアンがもらってあげたら?」
「お、おばさん!?」
ブライアンとおばさんにからかわれてカザネがオロオロしていると、ジムが見かねたように
「か、母さん。カザネをからかわないであげてよ。カザネは僕と同じくらい異性に免疫が無いのに、ブライアンにもらわれたら心臓がいくつあっても足りないよ」
「分かる……。いくつあっても軒並み破壊されちゃいそう……」
ハンナも苦笑気味に同意したが、おばさんの勢いは衰えず
「あら、いいじゃない。若い頃の恋愛ならドキドキできるのがいちばんよ。ねぇ、カザネ? あなたもジムみたいにシャイな子よりも、ブライアンみたいにリードしてくれそうな子のほうがいいわよね?」
「母さん、その質問は僕に失礼じゃない!?」
お、おかしい。ジムとハンナをくっつけるために集まったのに、なぜか私とブライアンがくっつけられそうになっている……とカザネはたじろいだ。
クリスマスにイメチェンが成功してグッと女性らしくなったハンナは、ジムから異性として意識されるに至った。また、しつこいナンパからハンナを庇えなかったことで自信を失ったジムを、彼女が追いかけて熱心に励ましたことで2人の仲はグッと深まった。けれどジムもハンナも奥手なので、今は両片想いのまま膠着状態だった。自然にくっつくのを待っていたら、良い流れが止まってしまうかもしれない。
何か決定打が必要だと、今回の作戦が立案された。アメリカでは新年になると同時に、近くの人にキスする風習がある。もちろん日本の風習と同じで、嫌がる人に強制する力は無いが、両片想いの人たちにとってはキスの口実になる。
ジムにはまだハンナの好意は秘密なので、ハンナのほうを後押しして、新年と同時にジムにキスする作戦だった。
ちなみにハンナはクリスマス以降、すっかりオシャレが板について、今日も女性らしいファッションをしている。すっかり遠くに行っちゃたな、ハンナ。置き去りにされたようで、ちょっと寂しいけど、イケている友だちを持てて誇らしくもあるよとカザネは喜んでいた。
ただ外見は変わっても、中身は引っ込み思案のままなので
「ほ、本当にうまくいくかしら? いくら新年だからって私なんかにいきなりキスされて、ジムは嫌じゃないかしら?」
ジムの前では微笑みを浮かべていたが、カザネの部屋で2人になった途端、弱気が顔を出した。カザネは不安を訴えるハンナの手を取って
「大丈夫! なんせ恋愛強者のブライアン先生が、このまま畳みかければいけるって太鼓判を押してくれているから! それに最近はジムもハンナを意識しているし、気になる女の子から恋に発展する可能性大だと思う!」
セコンドとして熱く鼓舞すると、
「か、カザネったら盛り上げ上手……」
ハンナはいくぶんホッとした様子で
「カザネとブライアンがそこまで言ってくれるなら……うん。勇気を出してみる」
背中を押しておいてなんだが、いくら周囲から見て両片想いだとしても、自分から好きな人にキスを仕掛けるって、すごく勇気がいることだ。自分だったらできるか分からないことを、ハンナはやろうとしているんだから偉い。すごい勇気だよ。絶対に叶うよ。応援しているからね! とカザネは早くも感極まって目頭が熱くなった。
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