20 / 73
十一月のこと
サンクスギビングデーのお誘い
しおりを挟む
アメリカにはサンクスギビングデーという祝日がある。サンクスギビングデーは周りの人に感謝する日であり、主に家族でご馳走を食べる。またサンクスギビングデーのある週は丸ごとお休みなので、家族、友人、恋人と遠出する人も多い。
カザネのクラスでも友だち同士、または気になる人と遊びの約束を取り付けようと、少しソワソワした空気が漂っていた。マクガン家に居候中のカザネは、自動的にサンクスギビングデーをマクガン家の人たちと過ごす。しかし1週間もお休みなのに、予定がそれだけじゃ寂しいから、どこかでハンナとも遊べないか聞いてみようかなと考えていた。
ところがハンナと約束する前に
「サンクスギビングデーで学校休みだし、どこか遠出でもするか?」
いつもの映画上映会。ジムがトイレに立った隙に、ブライアンから誘われた。しかし学園のスターからの誘いに、カザネはドキッとするよりも
(なんでブライアンが私を誘うんだろ?)
とキョトン顔だ。相手の疑問を正確に読んだブライアンは
「いちおう異文化交流で来たんだろ。せっかくの長期休暇だし、いつもの生活圏を抜け出して冒険してみたら?」
「冒険……! いい響きだね!」
冒険というフレーズに、カザネは今度こそ食いついた。ここまではブライアンの思惑どおりだが、
「せっかくだし、ジムとハンナも誘う?」
「なんでアイツらまで?」
カザネの提案にブライアンは思わず顔をしかめた。ジムとハンナが嫌いなわけじゃないが、自分にとってはわざわざ会いたい相手でもない。しかしカザネとしては恐らく
「もしかしてアイツらをくっつける作戦の続き?」
ブライアンの推測に、カザネは笑顔で頷いて
「お節介かもしれないけど、ハンナは自分じゃ誘えないだろうから、皆で出かけるって口実ならジムに会いやすいかなって」
カザネはデートに誘われたとは欠片も思っていない様子だ。実際ブライアンも、そのうち日本に帰るカザネと、どうにかなろうとは思っていないが
「……お前の気持ちは分かるけど、お前が手取り足取りやってやるほど、ハンナの成長の機会を奪うんだぜ。友だちならハンナには無理だろうからなんて言わないで、アイツが自分から動くのを待ってやったら?」
ブライアンの指摘に、カザネは「うっ」と反省して
「確かにそういう考え方もあるか。ハンナをみくびっているわけじゃないんだけど、ブライアンの言うとおり、私は人の恋愛に気を回しすぎかもね……」
さり気なく邪魔者の排除に成功したブライアンはニッコリと
「そうそう。たまにはお前も人のことは忘れて羽を伸ばせよ。いくらマクガン家の人たちが親切でも、他人の家で暮らすのは窮屈だろうし、この機会にリフレッシュしろよ」
そんな流れから2人で出かけることになった。行き先はカザネの希望でセントラルパークになった。名前だけは知っているが、まだ行ったことが無かったので、とても楽しみだ。
約束の日。セントラルパークまでは、ブライアンの車で行くことになった。彼が運転できることは知っていたが、車に乗せてもらうのははじめてだ。ブライアンの車はゴツイジープなので、冒険感があるなとカザネはワクワクした。
いそいそと助手席に乗り込んだカザネは
「同級生が運転する車に乗せてもらうってはじめて。なんだか新鮮だな」
デートというより、やはり冒険に出発する少年のような笑顔だ。ブライアンはそんなカザネの頭にポンと手を置くと、
「俺も近所の子を乗せるのは、はじめてだから新鮮だな」
「その『子』って絶対に、お子様って意味だよね!?」
いつもの調子でカザネはツッコんだが、
「流石に早とちりじゃないか? ハッキリお子様って言ったわけじゃないのに」
「あっ、私の勘違いだった? ゴメンね」
素直に謝罪するカザネに、ブライアンは親切そうな笑顔で
「いいよ。道中退屈だろうし、アニソンでも流してやろうか? 確か日本の子どもは、ドラえもんとアンパンマンが好きなんだろ? お嬢ちゃんはどっちがいいんだ?」
「やっぱり思いきり子ども扱いだ!」
いいように弄ばれたカザネは、せめてもの仕返しとして
「ブライアンがそのつもりなら、本当にアニソンを流してやる! 「カッコいい車に乗っているのに、この人オタクなのね」って思われればいいんだ!」
荒ぶるカザネに、ブライアンはくっくと笑いながら
「いいよ。流して。お嬢ちゃんの好きな歌」
それから2人は本当にアニソンを流した。ブライアンを辱めたいがために、変な歌を流すんじゃカザネがつまらないので自分が本当に好きな歌を。『デビルマン』や『妖怪人間ベム』の主題歌が流れて来ると、カザネは自然と一緒に歌った。最近のアニメの曲もオシャレで好きなのだが、昭和アニメの主題歌のほうが思わず一緒に歌いたくなる。
ノリノリで熱唱するカザネに、ブライアンは運転しながら
「お嬢ちゃんの歌声、はじめて聞いたな」
「貶しても無駄だよ! 技術は無くても心はあるつもりだからね!」
また意地悪を言う気だなと、先手を打って開き直るカザネに
「うん……。すごくソウルフルで、素晴らしい歌唱だったよ……」
言葉は褒めているが、ブライアンの声は笑いの衝動で震えていた。ブライアンは笑いすぎて潤んだ目でカザネを見ると、
「お嬢ちゃんの歌、もっと聞きたいな。運転代だと思って、いろいろ聞かせてよ」
カザネは「どうせ馬鹿にしているんだ」と思いつつ、車の中で歌うのは意外と楽しかったので、その後も色んな懐かしアニメのテーマソングを歌った。ブライアンが気に入った曲の歌詞の意味を教えてあげたりしていたら、退屈を感じる間もなくセントラルパークに到着した。
カザネのクラスでも友だち同士、または気になる人と遊びの約束を取り付けようと、少しソワソワした空気が漂っていた。マクガン家に居候中のカザネは、自動的にサンクスギビングデーをマクガン家の人たちと過ごす。しかし1週間もお休みなのに、予定がそれだけじゃ寂しいから、どこかでハンナとも遊べないか聞いてみようかなと考えていた。
ところがハンナと約束する前に
「サンクスギビングデーで学校休みだし、どこか遠出でもするか?」
いつもの映画上映会。ジムがトイレに立った隙に、ブライアンから誘われた。しかし学園のスターからの誘いに、カザネはドキッとするよりも
(なんでブライアンが私を誘うんだろ?)
とキョトン顔だ。相手の疑問を正確に読んだブライアンは
「いちおう異文化交流で来たんだろ。せっかくの長期休暇だし、いつもの生活圏を抜け出して冒険してみたら?」
「冒険……! いい響きだね!」
冒険というフレーズに、カザネは今度こそ食いついた。ここまではブライアンの思惑どおりだが、
「せっかくだし、ジムとハンナも誘う?」
「なんでアイツらまで?」
カザネの提案にブライアンは思わず顔をしかめた。ジムとハンナが嫌いなわけじゃないが、自分にとってはわざわざ会いたい相手でもない。しかしカザネとしては恐らく
「もしかしてアイツらをくっつける作戦の続き?」
ブライアンの推測に、カザネは笑顔で頷いて
「お節介かもしれないけど、ハンナは自分じゃ誘えないだろうから、皆で出かけるって口実ならジムに会いやすいかなって」
カザネはデートに誘われたとは欠片も思っていない様子だ。実際ブライアンも、そのうち日本に帰るカザネと、どうにかなろうとは思っていないが
「……お前の気持ちは分かるけど、お前が手取り足取りやってやるほど、ハンナの成長の機会を奪うんだぜ。友だちならハンナには無理だろうからなんて言わないで、アイツが自分から動くのを待ってやったら?」
ブライアンの指摘に、カザネは「うっ」と反省して
「確かにそういう考え方もあるか。ハンナをみくびっているわけじゃないんだけど、ブライアンの言うとおり、私は人の恋愛に気を回しすぎかもね……」
さり気なく邪魔者の排除に成功したブライアンはニッコリと
「そうそう。たまにはお前も人のことは忘れて羽を伸ばせよ。いくらマクガン家の人たちが親切でも、他人の家で暮らすのは窮屈だろうし、この機会にリフレッシュしろよ」
そんな流れから2人で出かけることになった。行き先はカザネの希望でセントラルパークになった。名前だけは知っているが、まだ行ったことが無かったので、とても楽しみだ。
約束の日。セントラルパークまでは、ブライアンの車で行くことになった。彼が運転できることは知っていたが、車に乗せてもらうのははじめてだ。ブライアンの車はゴツイジープなので、冒険感があるなとカザネはワクワクした。
いそいそと助手席に乗り込んだカザネは
「同級生が運転する車に乗せてもらうってはじめて。なんだか新鮮だな」
デートというより、やはり冒険に出発する少年のような笑顔だ。ブライアンはそんなカザネの頭にポンと手を置くと、
「俺も近所の子を乗せるのは、はじめてだから新鮮だな」
「その『子』って絶対に、お子様って意味だよね!?」
いつもの調子でカザネはツッコんだが、
「流石に早とちりじゃないか? ハッキリお子様って言ったわけじゃないのに」
「あっ、私の勘違いだった? ゴメンね」
素直に謝罪するカザネに、ブライアンは親切そうな笑顔で
「いいよ。道中退屈だろうし、アニソンでも流してやろうか? 確か日本の子どもは、ドラえもんとアンパンマンが好きなんだろ? お嬢ちゃんはどっちがいいんだ?」
「やっぱり思いきり子ども扱いだ!」
いいように弄ばれたカザネは、せめてもの仕返しとして
「ブライアンがそのつもりなら、本当にアニソンを流してやる! 「カッコいい車に乗っているのに、この人オタクなのね」って思われればいいんだ!」
荒ぶるカザネに、ブライアンはくっくと笑いながら
「いいよ。流して。お嬢ちゃんの好きな歌」
それから2人は本当にアニソンを流した。ブライアンを辱めたいがために、変な歌を流すんじゃカザネがつまらないので自分が本当に好きな歌を。『デビルマン』や『妖怪人間ベム』の主題歌が流れて来ると、カザネは自然と一緒に歌った。最近のアニメの曲もオシャレで好きなのだが、昭和アニメの主題歌のほうが思わず一緒に歌いたくなる。
ノリノリで熱唱するカザネに、ブライアンは運転しながら
「お嬢ちゃんの歌声、はじめて聞いたな」
「貶しても無駄だよ! 技術は無くても心はあるつもりだからね!」
また意地悪を言う気だなと、先手を打って開き直るカザネに
「うん……。すごくソウルフルで、素晴らしい歌唱だったよ……」
言葉は褒めているが、ブライアンの声は笑いの衝動で震えていた。ブライアンは笑いすぎて潤んだ目でカザネを見ると、
「お嬢ちゃんの歌、もっと聞きたいな。運転代だと思って、いろいろ聞かせてよ」
カザネは「どうせ馬鹿にしているんだ」と思いつつ、車の中で歌うのは意外と楽しかったので、その後も色んな懐かしアニメのテーマソングを歌った。ブライアンが気に入った曲の歌詞の意味を教えてあげたりしていたら、退屈を感じる間もなくセントラルパークに到着した。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる