ブライアンのお気に入り

知見夜空

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十月のこと

友だちに喝を入れるカザネ

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 ジムがミシェルを好きらしいのはともかく、彼女のパーティーに参加しようとしていることは伝えておいたほうがいいかと、

「えっ? ジムがミシェルのパーティーに出る?」

 放課後。ハンナの家に寄ったカザネは、彼女に例のことを話した。

「あんな陽キャの巣窟に行くなんて……ジム、心が壊れちゃわないかしら?」
「ね。私もあんなパーティーピーポーたちのパーティーナイトに出るなんて恐怖しかないけど、ジムはなんか行こうとしているみたいなんだよね……」

 ミシェルのコスプレが目当てらしいとは言えずに濁すも、

「多分、少しでもミシェルを見ていたいのね」

 冷静に考察するハンナに、カザネは驚いて、

「は、ハンナ、知っていたの? ジムがミシェルを好きだって」
「だって子どもの頃から同じ学校だもの。彼が好きな人くらい知っているわ」

 微笑んで見せたのも束の間、彼女はすぐに悲しみに顔を曇らせて、

「でもジムの気持ちはわかる。ミシェルは本当に綺麗だもの。真っすぐでサラサラのブロンドに、真珠のような白い肌。シンデレラのような青い瞳でバレリーナのように華奢で。それに比べて私なんて、髪はチリチリで、肌は黒くて、唇も体も分厚くて、背なんかジムよりも高いくらいで……」

 黒い瞳からぽろりと涙を流すと、

「なんで私、こんな風に生まれちゃったんだろう?」

 恋する少女にとっては、好きな人の好みが美の基準になる。特にハンナの場合は、子どもの頃からジムがミシェルに憧れる様子を見て来た。だからハンナはミシェルとは正反対の、黒人らしい特徴の全てにコンプレックスがあった。

「は、ハンナ。そんな風に言わないで。ミシェルは確かに綺麗だけど、ハンナにはハンナの良さがあるよ。ジムだってミシェルと比べてハンナはダメだなんて思わないよ」

 それはハンナを宥めるためではなくカザネの本心だった。人種や年齢や体型など、色んな特徴を持つ人が居るが、その1人1人に、その人にしかない美しさがあるとカザネは信じている。

 しかしカザネの言葉はハンナには届かず、

「でも私は彼に見惚れられたことなんてないもの」

 可能性に蓋をして自分の世界に閉じ籠もろうとする彼女に

「~っ、もうハンナ!」
「な、何!?」

 突然の大声にビクッとするハンナに、カザネは続けて、

「美の化身みたいなミシェルに臆する気持ちは分かる! でもハンナは今の自分の姿を100%の全力だって言える!? ぶっちゃけ私たちはミシェルと比べて嘆いていいほど、そもそも女子力磨いてない!」

 今の自分たちがミシェルに敵わないと言うのは、無加工のジャガイモが彩り豊かなポテトサラダに「ポテサラはいいよね。皆に人気があって」と言うようなものだ。

 でも本当は自分にも、なんらかのお惣菜になれる可能性があるんだ。ミシェルと同じにはなれなくても、コロッケやじゃがバターのほうが好きだって言う人も絶対に居るとカザネは熱弁した。

「でも私なんか努力したところでミシェルのようには……」
「ミシェルのようにはならなくていいよ! ハンナはハンナなりの美人になればいい! そうすれば少なくとも、今のハンナよりはジムをハッとさせられるはずだよ!」

 カザネに熱く言い聞かされたハンナは、

「か、カザネ……」

 胸を打たれたように瞳を揺らすと、グッと力強い顔つきになって

「そうね。私、甘えていた。今のままの自分でジムに振り向いて欲しいなんて。ミシェルはもともいいけど、明らかに美容やオシャレをがんばっているものね。ジムが振り向いてくれないと嘆きたいなら、やれるだけの努力をしてからすべきよね」

 自分で自分を説得すると、

「私、どうせブスだからなんて言ってないで、髪型とか服装とか、もっとがんばってみる!」
「ハンナ、偉い! きっと素敵になるよ!」

 この日を機にハンナはジムを振り向かせるべく、積極的に行動&変身する努力をすると誓った。
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