ブライアンのお気に入り

知見夜空

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十月のこと

ハロウィンのご予定は?

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 カザネたちの学年のクイーンビーと言えば、チアリーディング部の金髪美少女ことミシェル・アンダーソンだ。しかし1つ上の学年にも、それぞれジョックとクイーンビーに当たるスターが居る。

 最終学年のクイーンビーは、褐色の肌に波打つ黒髪を持つジュリアと言う女性だ。家がお金持ちで流行に敏感なインフルエンサー。アイドル系のミシェルと違い、誘うような伏し目がちの瞳と肉感的な唇が印象的な、お色気むんむんのお姉様だ。まだ高校生だが、高級クラブのママとかやれそうな貫禄がある。

 ミシェルとジュリアはそれぞれの学年の女子トップとして、お互いをライバル視しており、どちらがブライアンを射止めるかでも火花を散らし合っていた。

 10月の下旬。例によってジムから、ブライアンを巡る女子たちの熾烈な争いを聞かされたカザネは、

「でもジュリアにも自分の学年の人気男子が居るんじゃないの?」
「女子はミシェルとジュリアが人気を二分しているけど、男子はブライアンが人気実力ともにダントツなんだ。下級生はまだ頼りないし、最終学年のジョックはアメフト部のキャプテンで家も裕福だけど、本人は馬鹿で下品な脳筋野郎だから」
「ジムもけっこう言うね?」

 温和な口調のまま流れるように先輩をディスるジムに、カザネは瞠目したが

「前に僕たちが入学するまで幅を利かせていた上級生が居たって言ったでしょ? 気の弱い子たちに洒落にならないレベルのいじめをしていたのが、ソイツらのグループだから」

 スクールカーストのトップに君臨する生徒は、良くも悪くも影響力がある。誰がトップに立つかによって、その学校全体の空気が変わってしまうほどに。

 ブライアンは意地悪だが、犯罪レベルの悪行は許さない。だからこの学校では気の弱い子がやんちゃな子たちに、小突き回されるような被害もほとんど無かった。

「そう考えるとブライアンって、皆にとってはヒーローなんだね? 私にとっては未だに、考えが読めないいじめっ子なんだけど」
「誰がいじめっ子だって?」
「ふみゃあっ!?」

 大きな手でいきなり首を掴まれたカザネは悲鳴をあげた。そんな蛮行に及んだのはもちろん。

「お前って本当に首が弱いね」

 噂をすれば影と言った登場の仕方をするブライアンに

「弱いって分かっているなら触らないでよぉ!」
「いい声で鳴くのが分かっているんだから、触るに決まっているじゃん」

 ブライアンはニヤニヤとカザネに手を伸ばした。顔の輪郭から首筋にかけてスルリと撫でられたカザネは、

「うぎー! なんなの、その触り方!? 猫じゃないよぉ!」

 猫を愛でるような仕草に激怒するも、ブライアンはそのままカザネの頭に腕を乗せて

「で、なんの話をしていたんだ?」
「君を巡る女同士の争いと、蹴落とされたかつての王者について」
「その言い方だと、まるでコミックのあらすじみたいだな」

 自分の頭上で話すブライアンにカザネは

「今度のハロウィン、ミシェルの他にもジュリアって人からお誘いを受けているんだってね。ブライアンはどっちの招待を受けるの?」

 そもそもジュリアの話題が出たのは、風の噂がはじまりだった。ミシェルとジュリアがそれぞれ企画するハロウィンパーティー。学園のキングであるブライアンは、どちらに出席するのかと。

 カザネの質問に、ブライアンはちょっと面白そうな顔で

「何? 俺が誰になびくか興味あるの?」
「だってタイプは違うけど、どっちもすごい美人だし。ブライアンはどっちが好きなのか気になる」

 多くの人が恋バナを好むように、カザネも身近な人の恋愛事情に、けっこう興味があった。学園一のモテ男であるブライアンは、どんな女の子が好みなのか普通に気になる。

 単なる好奇心だと分かったブライアンは、一転して興が冷めたように、

「残念ながら、どっちにも興味無いよ。向こうが勝手に取り合っているだけ」
「でも時期はバラバラだけど、どっちとも一時は付き合っていなかった?」

 ジムの指摘に、ブライアンは軽く肩を竦めながら

「ほんの1か月ね。向こうが試しでいいから付き合ってくれってしつこいから」
「モテる人の発言だ」

 目を丸くするカザネに、ブライアンはニッコリと「事実、俺はモテるので」と返した。相変わらず自信家な言動。いつもなら呆れるところだが、この時のカザネは目を輝かせて

「言ってみたいね、ジム! 一生に一度くらい自分はモテるんだぞって!」
「僕たちが言ったら、すごく虚しいことになりそうだけどね……」

 虚ろな笑みで返すジムをよそに、ブライアンはサラッと話を変えて

「そういうお前たちはハロウィンどうするんだ? ミシェルかジュリアのパーティーで良ければ、俺と一緒に来るか?」
「えっ、いいの!? 僕たちも行って!?」

 突然の誘いに食いつくジムに、ブライアンは続けて

「友だちも呼んでいいって言われているし、他のヤツラにもそれを期待されている。パーティーでいい想いができるかは自分次第だって弁えているなら、入場くらいは手伝ってもいいよ」

 パーティーは男女の大切な出会いの場だ。誘われなかった生徒は、知人の紹介によってパーティーに入れてもらう。そこでなんとか人気のある子たちの目に留まるように努力するのだ。

 お年頃なジムも、パーティーへの憧れはあったが、

「うぅ、確かに僕が陽キャの集まりに出ても、十中八九浮くだろうしな。でもハロウィンだし、ミシェルもきっとコスプレするんだよね?」
「多分な。アイツは目立ちたがりだし」

 ミシェルがコスプレするかどうかが、勇気を出すか出さないかに関わるということは、

「もしかしてジムはミシェルが好きなの?」

 カザネの質問に、ジムは気まずそうな顔で

「いや、好きとかおこがましいヤツじゃないんだけど……」

 言い淀むジムの代わりに、ブライアンがサラッと

「コイツは面食いだからエレメンタリースクールの頃からミシェルに憧れているのさ。なまじ見ているだけあって、アイツの性格が悪いことなんて百も承知だろうに、それでも懲りずに見ていたいんだよなぁ?」
「うぅ、悪かったね。デブの陰キャのくせに、身のほど知らずの面食いで」

 ジムの気持ちを知ったカザネは、それで前に私のマイチューブをミシェルに教えちゃったのかと納得した。ミシェルは確かに綺麗だから、性格が合わないとしても惹かれてしまう気持ちは分かる。ただハンナはジムが好きなので、どっちを応援したらいいのかカザネには分からなかった。
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