ブライアンのお気に入り

知見夜空

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十月のこと

まだ子どもだから、やめてあげて

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 ジムにヌイグルミの販売を相談した後。パソコンの得意なジムがハンドメイド作品を販売するサイトに、ハンナの代わりに登録してくれた。価格も皆で考えて、このくらいかなと設定した。

 後は売れるのを待つばかりだったが、カザネたちの期待とは裏腹に、作品はなかなか売れなかった。

「やっぱり無名の作家の作品なんて売れないのかしら?」

 見られてはいるようだから、興味は持たれている。もっと安ければ恐らく売れる。ただ労力や材料費に見合わない安値で売ってしまえば、ハンナは「これほど安くなければ売れない」と、かえって自分の作品の価値を見失うだろう。だから値段は下げられない。

 宣伝を続けていればそのうち必ず買い手が現れるはず。ただ繊細なハンナは、自分の作品が並べたにも関わらず売れない期間に耐えられないかもしれない。

 ハンナの気持ちが折れる前に、購買意欲を高めるような手を打てればいいんだけど……と考えたカザネは

「ハンナのヌイグルミたちをモチーフにして、短編アニメを作ってみたらどうかな?」

 とハンナとジムに提案した。例えば日本でもキャラクターのヌイが人気だが、あれは物語があるから売れる。仮に全く同じ形でも『どんな背景を持つ、どんなキャラクターなのか』が分からなければキャラの魅力は伝わらない。

 だとすると、ヌイグルミたちの個性やハンナの世界観が伝われば、欲しい人が増えるはずだとカザネは考えた。

 ジムは「いいアイディアだね!」と褒めてくれたが、

「私のヌイグルミでアニメを作ってくれるなんて、もしできたらすごいけど、アニメを作るって大変なんでしょう? カザネの負担が大きすぎるんじゃ」

 ハンナは心配したが、カザネは力強く請け負って

「大丈夫。手抜きと言うと聞こえは悪いけど、なるべく短めでシンプルな作りにして作業負担を減らすから。その代わりキャラの魅力が伝わるように、短くても面白い話を考えよう!」

 それから皆でアイディアを出し合い、短編アニメの制作がはじまった。学校でも休み時間やランチタイムなどに打ち合わせをした。カザネは今まで1人でアニメを作っていたので、友だちとアイディアを出し合ってお話を考えるのが楽しかった。

 普段は全部1人でやっていたが、ジムが話に合うサウンドを無料素材サイトで探して来てくれた。声があったほうが楽しいよねと、3人で声優も務めた。

 4コマや1ページ漫画の感覚で、キャラの紹介を兼ねた3分以下の短いお話を、すでにいくつか公開していた。

 今日も今日とて、学校の休み時間に3人でお話を考えていると、

「オタク同士でつるんで何やってんだ?」

 声をかけて来たのはブライアンだった。いつもなら警戒するカザネだが、今は楽しさのあまりオープンマインドになっているので、

「実は今、ハンナのヌイグルミを主人公にしたアニメを作っているんだ」
「えっ、アニメって。素人がアニメなんて作れるのか?」

 目を丸くするブライアンに、カザネは続けて

「1人で枚数を描くのは大変だから私の場合はアニメ寄りの紙芝居って感じだけど、自分でお話を考えて、絵と音をつけてマイチューブで公開しているんだ」

 1人で作っているので作品数は少ないが、無名の作家のオリジナルコンテンツにしては評価されていた。はじめてから1年弱だが、着実に登録者数を増やしている。

「カザネはすごいよ。短いけど、視聴者を引き込む力があるし。今はまだあまり知られていないけど、この調子ならいずれマイチューブの活動だけで食べて行けるようになるんじゃないかな」
「ほめ過ぎだよ、それは」

 ジムに絶賛されたカザネは慌てて否定したが、そんなにすごい作品なら見たいと、ブライアンに興味を持たれた。

 もともとアニメやコミックが好きなジムと違い、ブライアンは大人びた価値観の持ち主だ。そんな相手に子ども向けアニメを見せることをカザネは少し躊躇った。けれど見せる勇気無くしてプロになれるかと、カザネは自分を鼓舞した。

 てっきり馬鹿にされるかと思いきや、カザネのオリジナル作品を見たブライアンは意外にも

「これ全部お前1人で作ったの? すごいじゃん。アニメーターを目指しているって、口だけじゃなかったんだな」
「えっ!?」

 手放しの賞賛に驚くカザネに、ブライアンは呆れ顔で

「何に驚いてんだよ」
「いや、ブライアンもマトモに人を褒めることがあるんだなって。意地悪なだけのヤツじゃなかったんだね」

 悪気は無いらしくカザネは笑顔だったが

「この間、お前の宝物を見つけてやったのは、どこの誰だと思っているんだ?」

 怒ったブライアンに首を掴まれたカザネは、ビクッと体を跳ねさせながら

「ああっ!? ブライアン様ですぅぅ!」
「ちょっ、ブライアン! カザネは女の子だから!」

 慌てて止めに入ったジムにブライアンは、

「ただ首を掴んだだけで締めたわけじゃねぇよ。コイツのリアクションが大げさなの」
「だって首は弱いんだもん……」

 カザネは首だけじゃなくて、脇やわき腹や足の裏なども弱い。要するにくすぐったがり屋だった。無防備に弱点を告白するカザネに、ブライアンはニヤッとして、

「へぇ? 男みたいな格好して、声が出ちゃうほど首が弱いの? 意外とやらしー体だね?」

 さっきとは違う思わせぶりな手つきで、再びカザネの首筋を撫でた。カザネはゾゾッと鳥肌を立てて、

「ひぃ、ジムぅぅ! ブライアンが変なからかい方をしてくるよぉ!」
「やめてブライアン。カザネはまだ子どもだから、やめてあげて」

 ジムが真剣に止めてくれたお陰で、ブライアンは退散してくれた。「カザネはまだ子どもだから」にじゃっかん引っかからなくも無かったが、ブライアンに変な悪戯されるくらいなら一生子どもでいいとカザネは思った。
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