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九月のこと
奪われたリュックの行方
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ランチタイムを終えて教室に戻ると、カザネの机にある異変が起きていた。
「あ、あれ、私のリュックが無い?」
リュックの中身は全て机の上に出され、リュックだけが無くなっていた。
「もしかして、これもブライアンが?」
一緒に居たハンナが、問うようにジムを見たが、
「彼はものを捨てるとか盗むとか、本気で笑えないことはしないよ」
ジムは人目を気にしたように小さな声で
「ただブライアンは人気があるから男子か女子か分からないけど、君が構われているのを気に入らないヤツがやったのかも」
ジムは特に誰とは言わなかったが、視線は無意識にミシェルたちのグループに向いていた。
ミシェルと取り巻きたちは、カザネがブライアンに悪戯された後、高確率で嫌味を言って来る。疑うのは失礼だが、可能性は高いと考えたカザネは、
「あの、誰か私のリュックを見てない?」
「さぁ、知らない」
「私たちが来た時には、そうなっていたよね」
「ねー?」
言葉では否定しているが、声にも笑顔にも悪意が滲んでいた。目撃者は居ないかと周りを見渡しても、カザネと目が合った瞬間、みんなパッと視線を逸らす。知っているが、関わりたくないという感じだ。証拠も無いのに、心証だけで「あなたがやったんじゃないの?」と追及できる空気ではない。
向こうのほうが人数も多いし、かえってこちらの立場が悪くなりそうだ。カザネにできるのは、
「……私、リュックを探して来るね」
「カザネ。でも授業がはじまるよ?」
「教科書とノートはあるんだし、放課後になってから探したほうが」
ジムとハンナには止められたが、
「ゴメン。でもすごく大事なものなんだ。先生には体調不良で先に帰ったって伝えておいて」
カザネはそう言い残して宛てもなく教室を出た。
カザネが教室を出てから数分後。授業開始ギリギリになってブライアンと友人たちが戻って来た。ブライアンは自分の席に着くと、
「あれ? お嬢ちゃんはどこに行ったんだ? もうすぐ授業がはじまるのに」
「それが……」
ジムが説明するよりも先に、
「オモチャ付きの可愛いリュックを、誰かに取られちゃったみたいで探しに行ったのよ。でも授業よりもオモチャが優先なんて、彼女って本当に子どもみたいね」
いかにも愉快そうなミシェルの態度は、自分が犯人だと言うのも同然だった。しかしブライアンは興味無さそうに「ふぅん」と返すと、そのまま午後の授業を受けた。
午後の授業も終わり、部活動の時間になった。ミシェルはチアリーディング部の部室で、仲間とウェアに着替えながら
「あの子、今頃どこを探しているのかしら?」
「さっき見に行ったら、ゴミ置き場でゴミ袋を漁っていたわよ。それも素手で」
「うわ、きったなー」
「そんなところを探したって見つからないのにね? だってあの子のリュックなら、ここにあるんだから」
大方の予想どおり、カザネのリュックを盗んだのはミシェルたちだった。ただジムが半ば気づきながらも、大っぴらには咎められなかったように、よそ者のカザネのために学年の女王様に歯向かう者はいない。
「それにしても、こんな安物のリュックとオモチャが、そんなに大事なのかしら?」
「リュックとオモチャくらい買い換えれば済むのにね」
リュックもオモチャも日本製だが、昔ならともかく今はネットで大概のものは取り寄せられる。特にオモチャはドリームピクチャーという世界的アニメスタジオのキャラだ。ショップに行けば、全く同じ種類では無くとも、似たようなものがいくらでも見つかる。
「コッソリ持ち帰って公園のゴミ箱にでも捨てちゃおうと思っていたけど、そんなに大事なら、ズタズタに引き裂いて机に戻したほうがショックかな?」
「だね。フィギュアもバラバラにしてやろうよ」
女の子たちは残忍な笑みを浮かべながらハサミを取り出した。その時、バンと部室のドアが開いた。ビクッと体を強張らせた彼女たちの前に現れたのは、
「ぶ、ブライアン!?」
「ちょっ、まだ着替えている子も居るのに!」
ほとんどは着替えを済ませていたが、中には下はスカート。上はブラジャーのままでおしゃべりに興じている者も居た。彼女たちは慌てて自分の身体を隠したが、ブライアンは冷めた態度で、
「着替え中に乱入して悪いね。ただ誰かさんの大事な荷物をズタズタにするとか、不穏な会話が聞こえたもんでね」
偶然を装っているが、ブライアンは密かに女子に頼んでミシェルたちの動向を報告させていた。おしゃべりなミシェルなら必ず、女子トイレや更衣室など、男子や教師の目が届かないところで自分の成果を発表すると踏んだのだ。
そして今、言い逃れのできないタイミングで犯行の現場を押さえた。ブライアンに犯行がバレたミシェルは、
「べ、別にいいじゃない。このくらいしたって。あなただってあの子がムカつくから、しつこくイジメていたんでしょう?」
「俺がいつアイツがムカつくなんて言った? むしろお気に入りだって言ったはずだけど?」
ブライアンは笑みを消すと鋭い視線をミシェルに向けて
「俺がアイツを構うのが気に入らないんだろうけど、誰を構おうが俺の自由だろ。分かったら、勝手に俺のオモチャに手を出すな」
低い声で彼女を脅すと、カザネのリュックを奪い返した。
「あ、あれ、私のリュックが無い?」
リュックの中身は全て机の上に出され、リュックだけが無くなっていた。
「もしかして、これもブライアンが?」
一緒に居たハンナが、問うようにジムを見たが、
「彼はものを捨てるとか盗むとか、本気で笑えないことはしないよ」
ジムは人目を気にしたように小さな声で
「ただブライアンは人気があるから男子か女子か分からないけど、君が構われているのを気に入らないヤツがやったのかも」
ジムは特に誰とは言わなかったが、視線は無意識にミシェルたちのグループに向いていた。
ミシェルと取り巻きたちは、カザネがブライアンに悪戯された後、高確率で嫌味を言って来る。疑うのは失礼だが、可能性は高いと考えたカザネは、
「あの、誰か私のリュックを見てない?」
「さぁ、知らない」
「私たちが来た時には、そうなっていたよね」
「ねー?」
言葉では否定しているが、声にも笑顔にも悪意が滲んでいた。目撃者は居ないかと周りを見渡しても、カザネと目が合った瞬間、みんなパッと視線を逸らす。知っているが、関わりたくないという感じだ。証拠も無いのに、心証だけで「あなたがやったんじゃないの?」と追及できる空気ではない。
向こうのほうが人数も多いし、かえってこちらの立場が悪くなりそうだ。カザネにできるのは、
「……私、リュックを探して来るね」
「カザネ。でも授業がはじまるよ?」
「教科書とノートはあるんだし、放課後になってから探したほうが」
ジムとハンナには止められたが、
「ゴメン。でもすごく大事なものなんだ。先生には体調不良で先に帰ったって伝えておいて」
カザネはそう言い残して宛てもなく教室を出た。
カザネが教室を出てから数分後。授業開始ギリギリになってブライアンと友人たちが戻って来た。ブライアンは自分の席に着くと、
「あれ? お嬢ちゃんはどこに行ったんだ? もうすぐ授業がはじまるのに」
「それが……」
ジムが説明するよりも先に、
「オモチャ付きの可愛いリュックを、誰かに取られちゃったみたいで探しに行ったのよ。でも授業よりもオモチャが優先なんて、彼女って本当に子どもみたいね」
いかにも愉快そうなミシェルの態度は、自分が犯人だと言うのも同然だった。しかしブライアンは興味無さそうに「ふぅん」と返すと、そのまま午後の授業を受けた。
午後の授業も終わり、部活動の時間になった。ミシェルはチアリーディング部の部室で、仲間とウェアに着替えながら
「あの子、今頃どこを探しているのかしら?」
「さっき見に行ったら、ゴミ置き場でゴミ袋を漁っていたわよ。それも素手で」
「うわ、きったなー」
「そんなところを探したって見つからないのにね? だってあの子のリュックなら、ここにあるんだから」
大方の予想どおり、カザネのリュックを盗んだのはミシェルたちだった。ただジムが半ば気づきながらも、大っぴらには咎められなかったように、よそ者のカザネのために学年の女王様に歯向かう者はいない。
「それにしても、こんな安物のリュックとオモチャが、そんなに大事なのかしら?」
「リュックとオモチャくらい買い換えれば済むのにね」
リュックもオモチャも日本製だが、昔ならともかく今はネットで大概のものは取り寄せられる。特にオモチャはドリームピクチャーという世界的アニメスタジオのキャラだ。ショップに行けば、全く同じ種類では無くとも、似たようなものがいくらでも見つかる。
「コッソリ持ち帰って公園のゴミ箱にでも捨てちゃおうと思っていたけど、そんなに大事なら、ズタズタに引き裂いて机に戻したほうがショックかな?」
「だね。フィギュアもバラバラにしてやろうよ」
女の子たちは残忍な笑みを浮かべながらハサミを取り出した。その時、バンと部室のドアが開いた。ビクッと体を強張らせた彼女たちの前に現れたのは、
「ぶ、ブライアン!?」
「ちょっ、まだ着替えている子も居るのに!」
ほとんどは着替えを済ませていたが、中には下はスカート。上はブラジャーのままでおしゃべりに興じている者も居た。彼女たちは慌てて自分の身体を隠したが、ブライアンは冷めた態度で、
「着替え中に乱入して悪いね。ただ誰かさんの大事な荷物をズタズタにするとか、不穏な会話が聞こえたもんでね」
偶然を装っているが、ブライアンは密かに女子に頼んでミシェルたちの動向を報告させていた。おしゃべりなミシェルなら必ず、女子トイレや更衣室など、男子や教師の目が届かないところで自分の成果を発表すると踏んだのだ。
そして今、言い逃れのできないタイミングで犯行の現場を押さえた。ブライアンに犯行がバレたミシェルは、
「べ、別にいいじゃない。このくらいしたって。あなただってあの子がムカつくから、しつこくイジメていたんでしょう?」
「俺がいつアイツがムカつくなんて言った? むしろお気に入りだって言ったはずだけど?」
ブライアンは笑みを消すと鋭い視線をミシェルに向けて
「俺がアイツを構うのが気に入らないんだろうけど、誰を構おうが俺の自由だろ。分かったら、勝手に俺のオモチャに手を出すな」
低い声で彼女を脅すと、カザネのリュックを奪い返した。
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