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九月のこと
後ろの席のブライアン
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しかし翌日。教室で自分の席についたカザネは、
「えっ? なんで私の後ろの席にブライアンが居るの?」
昨日ブライアンは教室の後方、大柄な男子たちの集団に居た。バスケ部の彼は190センチ近い長身なので、前のほうに座ると後ろの人は黒板が見えないからだ。
それなのになぜか今は教室のほぼ中央、カザネの後ろの席になっている。
ブライアンは頬杖を突きながら完璧な笑顔で、
「前にお前の後ろに居たヤツ、大のチャイニーズ嫌いでさ。お前を見ると、蕁麻疹が出そうだって言うから席を換えてやったんだ」
「私、日本人だけど!?」
はじめて受ける人種差別に動揺を隠せないカザネに、ブライアンは平然と、
「似たようなもんだろ。外見だけじゃ日本人か中国人か分からないし」
「まぁ、私も見た目だけじゃ白人の区別がつかないから人のことは言えないけど……授業中に変なことをしないでね?」
嫌な予感がして釘を刺すと、ブライアンはニッコリ笑って、
「まさか授業中に悪戯なんて。年齢一桁のガキじゃあるまいし、するはずないだろ?」
「だよね。もう高校生だしね」
ジムやハンナによれば、ブライアンは基本的にクールで大人びた性格らしい。小学生の子みたいに、後ろから攻撃なんてするはずないよねとカザネは納得した。
ところが授業中。カザネの首にカサッと何かが触れた。生理的な嫌悪感から、咄嗟に触って確認すると、
「ビャアアッ!? 蜘蛛ぉぉ!?」
「ど、どうしたの!? ミス・エミヤ」
「く、蜘蛛が! アメリカンサイズのデッカイ蜘蛛が首に!」
日本の華奢な蜘蛛とは違い、タランチュラのような太足で凶悪な見た目のブツだった。首から払い落としたものの、動揺が収まらずカザネはブルブルと震えた。
そんなカザネを心配して、先生やクラスメイトたちが近寄って来たが、
「蜘蛛なんて居ないじゃない」
「ゴミか何かと見間違えたんじゃないの?」
「そ、そんなはずは……」
あんな大きな蜘蛛を見失うはずが無いのに、証拠は忽然と消えてしまった。現物を見ていない先生は呆れ顔で、
「仮に本当に蜘蛛だったんだとしても、虫くらいでいちいち授業を中断させないでね。ここはエレメンタリースクールじゃないのよ」
「す、すみません……」
確かに蜘蛛だったと思うんだけど、一瞬だったし、もしかしたら本当に気のせいか見間違いだったのかもとカザネは考え直した。無駄に悪目立ちしてしまい、居た堪れない想いをした。
しかし休み時間に入ってすぐ。
「お嬢ちゃん」
カザネの席の前に立ったブライアンが、指先でトントンと机を叩き声をかけて来た。カザネが「何?」と無防備に顔を上げると、
「探しものはコレかい?」
彼が手の中から、カザネの机にコロッと転がしたのは
「ビャアアッ!? 蜘蛛ぉぉ!?」
さっきと全く同じ種類のおぞましい蜘蛛を机に乗せられて、カザネは椅子から転げ落ちそうになったが、
「って、あれ? オモチャ?」
よく見ると、それは精巧に作られたゴム製のオモチャだった。でもなんでこんなものが? とカザネが首を捻っていると、
「さっきと丸きり同じ反応。よくこんなちゃちなオモチャに二度も全力で驚けるな。お前、コメディアンになれるよ」
腹を抱えて「くっく」と笑うブライアンに、カザネはようやく
「も、もしかして、さっきの蜘蛛も君の仕業だったの?」
蜘蛛が消えてしまったのも、どうやら先生に見つからないように後ろの席のブライアンが密かに回収したようだ。デカい図体で子どものような嫌がらせをする彼は、
「仕業だなんて悪意のある言い方をするなよ。オモチャ好きの小さな友人に、ちょっとしたプレゼントじゃないか」
「わぁぁ!? こっちに向けないでよぉ!」
ブライアンは蜘蛛を摘まむと、カザネの顔の前で振って見せた。オモチャだと分かっていても、気持ち悪くて嫌がるカザネに、
「ちょっと、うるさいわよ! オモチャの蜘蛛くらいでギャアギャア騒がないでよ!」
「だ、だってブライアンが……」
注意して来たのは、この学年の女子のトップであるミシェルだった。彼女は美しい顔を嫌悪に歪めると、
「あなたが大袈裟な反応をするから、彼が面白がるんじゃない。構われたくなきゃ無視すればいいのよ」
「大声で彼の気を引いて。日本人って意外と下品ね」
ミシェルに同調するように、セクシー系の黒人女子にまでカザネは嫌味を言われた。ちなみに元凶であるブライアンは、まるで他人事のように
「あーあ。さっそく女子に嫌われたな。ご愁傷様」
「誰のせいだと思っているんだよぉ!?」
「えっ? なんで私の後ろの席にブライアンが居るの?」
昨日ブライアンは教室の後方、大柄な男子たちの集団に居た。バスケ部の彼は190センチ近い長身なので、前のほうに座ると後ろの人は黒板が見えないからだ。
それなのになぜか今は教室のほぼ中央、カザネの後ろの席になっている。
ブライアンは頬杖を突きながら完璧な笑顔で、
「前にお前の後ろに居たヤツ、大のチャイニーズ嫌いでさ。お前を見ると、蕁麻疹が出そうだって言うから席を換えてやったんだ」
「私、日本人だけど!?」
はじめて受ける人種差別に動揺を隠せないカザネに、ブライアンは平然と、
「似たようなもんだろ。外見だけじゃ日本人か中国人か分からないし」
「まぁ、私も見た目だけじゃ白人の区別がつかないから人のことは言えないけど……授業中に変なことをしないでね?」
嫌な予感がして釘を刺すと、ブライアンはニッコリ笑って、
「まさか授業中に悪戯なんて。年齢一桁のガキじゃあるまいし、するはずないだろ?」
「だよね。もう高校生だしね」
ジムやハンナによれば、ブライアンは基本的にクールで大人びた性格らしい。小学生の子みたいに、後ろから攻撃なんてするはずないよねとカザネは納得した。
ところが授業中。カザネの首にカサッと何かが触れた。生理的な嫌悪感から、咄嗟に触って確認すると、
「ビャアアッ!? 蜘蛛ぉぉ!?」
「ど、どうしたの!? ミス・エミヤ」
「く、蜘蛛が! アメリカンサイズのデッカイ蜘蛛が首に!」
日本の華奢な蜘蛛とは違い、タランチュラのような太足で凶悪な見た目のブツだった。首から払い落としたものの、動揺が収まらずカザネはブルブルと震えた。
そんなカザネを心配して、先生やクラスメイトたちが近寄って来たが、
「蜘蛛なんて居ないじゃない」
「ゴミか何かと見間違えたんじゃないの?」
「そ、そんなはずは……」
あんな大きな蜘蛛を見失うはずが無いのに、証拠は忽然と消えてしまった。現物を見ていない先生は呆れ顔で、
「仮に本当に蜘蛛だったんだとしても、虫くらいでいちいち授業を中断させないでね。ここはエレメンタリースクールじゃないのよ」
「す、すみません……」
確かに蜘蛛だったと思うんだけど、一瞬だったし、もしかしたら本当に気のせいか見間違いだったのかもとカザネは考え直した。無駄に悪目立ちしてしまい、居た堪れない想いをした。
しかし休み時間に入ってすぐ。
「お嬢ちゃん」
カザネの席の前に立ったブライアンが、指先でトントンと机を叩き声をかけて来た。カザネが「何?」と無防備に顔を上げると、
「探しものはコレかい?」
彼が手の中から、カザネの机にコロッと転がしたのは
「ビャアアッ!? 蜘蛛ぉぉ!?」
さっきと全く同じ種類のおぞましい蜘蛛を机に乗せられて、カザネは椅子から転げ落ちそうになったが、
「って、あれ? オモチャ?」
よく見ると、それは精巧に作られたゴム製のオモチャだった。でもなんでこんなものが? とカザネが首を捻っていると、
「さっきと丸きり同じ反応。よくこんなちゃちなオモチャに二度も全力で驚けるな。お前、コメディアンになれるよ」
腹を抱えて「くっく」と笑うブライアンに、カザネはようやく
「も、もしかして、さっきの蜘蛛も君の仕業だったの?」
蜘蛛が消えてしまったのも、どうやら先生に見つからないように後ろの席のブライアンが密かに回収したようだ。デカい図体で子どものような嫌がらせをする彼は、
「仕業だなんて悪意のある言い方をするなよ。オモチャ好きの小さな友人に、ちょっとしたプレゼントじゃないか」
「わぁぁ!? こっちに向けないでよぉ!」
ブライアンは蜘蛛を摘まむと、カザネの顔の前で振って見せた。オモチャだと分かっていても、気持ち悪くて嫌がるカザネに、
「ちょっと、うるさいわよ! オモチャの蜘蛛くらいでギャアギャア騒がないでよ!」
「だ、だってブライアンが……」
注意して来たのは、この学年の女子のトップであるミシェルだった。彼女は美しい顔を嫌悪に歪めると、
「あなたが大袈裟な反応をするから、彼が面白がるんじゃない。構われたくなきゃ無視すればいいのよ」
「大声で彼の気を引いて。日本人って意外と下品ね」
ミシェルに同調するように、セクシー系の黒人女子にまでカザネは嫌味を言われた。ちなみに元凶であるブライアンは、まるで他人事のように
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