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九月のこと
自己紹介の邪魔をしないで
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しかしその後の自己紹介タイム。他はみんな顔見知りだが、カザネだけ日本から来た留学生と言うことで、わざわざ黒板の前に立たされて挨拶することになった。
目の前には同世代ではあるものの、様々な肌色や目の色を持つクラスメイトたち。カザネは日本では見られない顔ぶれに緊張しながらも
「はじめまして。日本から来たカザネ・エミヤです。アメリカに来たばかりで、まだ英語は下手ですが、話しかけてくれたら嬉しいです。よろしくお願いします」
なんとか自己紹介して最後にぺこりと頭を下げると
(完璧ではないかもしれない。でもベストは尽くせたよね!)
密かな達成感に浸ったのも束の間、カザネの自己紹介を引き継ぐように
「実はエレメンタリースクールから迷い込んで来たの。言葉下手だし生意気だけど、子どもだと思って大目に見てね」
男の裏声と、わははと上がるクラスメイトたちの笑い声。声の主を探すカザネの目に映ったのは、
「誰かと思ったら、また君か! もしかして同じクラスなの!?」
教室の後方。大柄な男子たちの集団に、よく見るとブライアンが紛れていた。カザネは緊張してあまり人の顔を見ていなかったので、ジム以外は認識していなかった。
しかしブライアンは当たり前にカザネに気付いて、
「そうだよ。家が隣でクラスも同じなんて、縁があるな~? 俺たち」
今朝の続きのつもりか、ニヤニヤと絡んで来た。
(私の対応も悪かったかもしれないけど、なんて嫌な性格なんだ!)
カザネは望まぬ再会にダメージを受けた。しかもブライアンだけでも厄介なのに、ジムの言うとおり、彼はこの学校のスターなので
「えっ? あの子、ブライアンの家の隣に住んでいるの?」
「ジムの家にホームステイしているんだよ。だからジムのおばさんに、あらかじめ紹介されていたんだ」
「へー。じゃあ、ジムと同じ家に住んでいるんだ~?」
ブライアンの返答に、クラスの女子たちの視線がピキッと凍り付いた。ブライアンは彼女たちのヒーローなので、よそ者が特別に声をかけられるだけで許せないのだ。
一瞬でカザネに敵意を持った彼女たちは
「良かったわね、ジム。オタク同士お似合いって感じ。彼女になってもらえば?」
要するに「オタクはオタクとくっついてな」と言った。カザネも凹んだが、ただ居候させてもらっているだけで、巻き添えにされたジムが気の毒だった。
人目があるので、その場では言えなかったが、カザネはホームルームが終わった後に、
「ゴメンね、ジム。私のせいで嫌な想いをさせちゃって」
コッソリとジムの席に謝りに行くと、彼は健気に微笑んで
「ううん。僕がもともとイジメられっ子なんだよ。カザネが来る前からこんな感じだから大丈夫」
「逆に大丈夫じゃないよ。辛かったね。何も悪くないのに意地悪されて」
「うぅ、ありがとう。優しいね、カザネ」
ジムはほろりと目を潤ませた。両親には愛されているジムだが、彼は低身長のぽっちゃりオタクな上に、シャイなので同世代からは冷遇されていた。
しかしそんなジムでも地元民であるからには、独自の交友関係があるもので
「じ、ジム。あの」
「あっ、ハンナ。どうしたの?」
声をかけて来たのは黒人の少女だった。やや猫背なので分かりにくいが、割と大柄で170センチ以上ある。ただし眼鏡で見るからに内気なので、身長の割に威圧感は無かった。
ジムの幼馴染であるハンナは、チラチラとカザネを見つつ、
「あっ、いえ、大した用事じゃないんだけど。留学生の子、どんな子かなって。私も少し話したいなって」
「あっ、嬉しい。女の子の友だちが欲しかったんだ。良かったら、仲良くしてね」
「カザネ・エミヤです」と握手を求めると、ハンナもすぐに握り返して、
「わ、私はハンナ・シモンズ。よろしくね、カザネ」
ジムを通して、カザネははにかみ笑顔が可愛いハンナと友だちになった。ちなみにカザネ、ジム、ハンナは全員眼鏡をかけているので、人種はバラバラだが不思議と一体感がある。
ちなみにジムはジム・マクガンで、ブライアンのラストネームはキングらしい。日本では名は体を表すと言う。キングなんて苗字だから、あんな横柄になっちゃったんだなとカザネは納得した。
その後。カザネはジムとハンナから学校のことを色々と聞いた。
日本でもスクールカーストと言う言葉があるが、アメリカでは学園でトップクラスの男子を『ジョック』。女子を『クイーンビー』と言うらしい。洋画に出て来るアメフトやっている傲慢男がジョックで、チアとかやっている白人の金髪美少女がクイーンビー。彼らに小突かれたりからかわれたりする、冴えない子たちがナードと言う位置づけのようだ。
カザネたちの学年は先ほどのブライアンがジョックで、ミシェルと言う子がクイーンビーに当たるらしい。ブライアンはアメフトではなくバスケ部らしいが、ミシェルはチアリーディング部だと言うから、本当に映画さながらだ。
しかしジムによれば、ブライアンは口ぶりこそ意地悪だけど、無法者では無いそうだ。他の学校では立場の弱い子は、カツアゲされたりパシられたり理由なく暴力を振るわれたり散々らしいが、ここではブライアンが抑止力になっていると言う。
「ああ見えてブライアンは正義感が強くて、曲がったことが嫌いなんだ。僕たちがハイスクールに入ったばかりの頃、はばをきかせていた上級生たちも、立場を利用して生徒をいじめていた悪徳教師も、ブライアンがやっつけて護ってくれたし」
同級生にとってブライアンは、まさにカリスマ的な存在。男子も女子も彼に畏敬の念を抱いているので、ブライアンに睨まれそうな悪質なイジメはおのずと慎んでいるそうだ。
ジムとハンナからブライアンについて聞いたカザネは
「じゃあ、いじめっ子の悪党ってわけじゃないんだね?」
「うん。僕も本気でいじめられているわけじゃないから大丈夫だよ。たまに冷やかされることはあるけど、彼は気まぐれだから1人をしつこく狙うことは無いし」
今朝ジムはブライアンに怯えているようだったので、てっきりイジメられているのかとカザネは思った。ところが実際は彼が怖いのではなく、リア充オーラに圧倒されていただけのようだ。
からかいはあっても陰湿ないじめや暴力は無いと聞いて、カザネは少し安心した。今朝は軽く口論になってしまったので、あれで目を付けられてしまうのではないかと密かに心配していたのだ。しかしジムによれば仮に腹を立てていたとしても、1人をしつこく狙うタイプではないと聞いてホッとした。
目の前には同世代ではあるものの、様々な肌色や目の色を持つクラスメイトたち。カザネは日本では見られない顔ぶれに緊張しながらも
「はじめまして。日本から来たカザネ・エミヤです。アメリカに来たばかりで、まだ英語は下手ですが、話しかけてくれたら嬉しいです。よろしくお願いします」
なんとか自己紹介して最後にぺこりと頭を下げると
(完璧ではないかもしれない。でもベストは尽くせたよね!)
密かな達成感に浸ったのも束の間、カザネの自己紹介を引き継ぐように
「実はエレメンタリースクールから迷い込んで来たの。言葉下手だし生意気だけど、子どもだと思って大目に見てね」
男の裏声と、わははと上がるクラスメイトたちの笑い声。声の主を探すカザネの目に映ったのは、
「誰かと思ったら、また君か! もしかして同じクラスなの!?」
教室の後方。大柄な男子たちの集団に、よく見るとブライアンが紛れていた。カザネは緊張してあまり人の顔を見ていなかったので、ジム以外は認識していなかった。
しかしブライアンは当たり前にカザネに気付いて、
「そうだよ。家が隣でクラスも同じなんて、縁があるな~? 俺たち」
今朝の続きのつもりか、ニヤニヤと絡んで来た。
(私の対応も悪かったかもしれないけど、なんて嫌な性格なんだ!)
カザネは望まぬ再会にダメージを受けた。しかもブライアンだけでも厄介なのに、ジムの言うとおり、彼はこの学校のスターなので
「えっ? あの子、ブライアンの家の隣に住んでいるの?」
「ジムの家にホームステイしているんだよ。だからジムのおばさんに、あらかじめ紹介されていたんだ」
「へー。じゃあ、ジムと同じ家に住んでいるんだ~?」
ブライアンの返答に、クラスの女子たちの視線がピキッと凍り付いた。ブライアンは彼女たちのヒーローなので、よそ者が特別に声をかけられるだけで許せないのだ。
一瞬でカザネに敵意を持った彼女たちは
「良かったわね、ジム。オタク同士お似合いって感じ。彼女になってもらえば?」
要するに「オタクはオタクとくっついてな」と言った。カザネも凹んだが、ただ居候させてもらっているだけで、巻き添えにされたジムが気の毒だった。
人目があるので、その場では言えなかったが、カザネはホームルームが終わった後に、
「ゴメンね、ジム。私のせいで嫌な想いをさせちゃって」
コッソリとジムの席に謝りに行くと、彼は健気に微笑んで
「ううん。僕がもともとイジメられっ子なんだよ。カザネが来る前からこんな感じだから大丈夫」
「逆に大丈夫じゃないよ。辛かったね。何も悪くないのに意地悪されて」
「うぅ、ありがとう。優しいね、カザネ」
ジムはほろりと目を潤ませた。両親には愛されているジムだが、彼は低身長のぽっちゃりオタクな上に、シャイなので同世代からは冷遇されていた。
しかしそんなジムでも地元民であるからには、独自の交友関係があるもので
「じ、ジム。あの」
「あっ、ハンナ。どうしたの?」
声をかけて来たのは黒人の少女だった。やや猫背なので分かりにくいが、割と大柄で170センチ以上ある。ただし眼鏡で見るからに内気なので、身長の割に威圧感は無かった。
ジムの幼馴染であるハンナは、チラチラとカザネを見つつ、
「あっ、いえ、大した用事じゃないんだけど。留学生の子、どんな子かなって。私も少し話したいなって」
「あっ、嬉しい。女の子の友だちが欲しかったんだ。良かったら、仲良くしてね」
「カザネ・エミヤです」と握手を求めると、ハンナもすぐに握り返して、
「わ、私はハンナ・シモンズ。よろしくね、カザネ」
ジムを通して、カザネははにかみ笑顔が可愛いハンナと友だちになった。ちなみにカザネ、ジム、ハンナは全員眼鏡をかけているので、人種はバラバラだが不思議と一体感がある。
ちなみにジムはジム・マクガンで、ブライアンのラストネームはキングらしい。日本では名は体を表すと言う。キングなんて苗字だから、あんな横柄になっちゃったんだなとカザネは納得した。
その後。カザネはジムとハンナから学校のことを色々と聞いた。
日本でもスクールカーストと言う言葉があるが、アメリカでは学園でトップクラスの男子を『ジョック』。女子を『クイーンビー』と言うらしい。洋画に出て来るアメフトやっている傲慢男がジョックで、チアとかやっている白人の金髪美少女がクイーンビー。彼らに小突かれたりからかわれたりする、冴えない子たちがナードと言う位置づけのようだ。
カザネたちの学年は先ほどのブライアンがジョックで、ミシェルと言う子がクイーンビーに当たるらしい。ブライアンはアメフトではなくバスケ部らしいが、ミシェルはチアリーディング部だと言うから、本当に映画さながらだ。
しかしジムによれば、ブライアンは口ぶりこそ意地悪だけど、無法者では無いそうだ。他の学校では立場の弱い子は、カツアゲされたりパシられたり理由なく暴力を振るわれたり散々らしいが、ここではブライアンが抑止力になっていると言う。
「ああ見えてブライアンは正義感が強くて、曲がったことが嫌いなんだ。僕たちがハイスクールに入ったばかりの頃、はばをきかせていた上級生たちも、立場を利用して生徒をいじめていた悪徳教師も、ブライアンがやっつけて護ってくれたし」
同級生にとってブライアンは、まさにカリスマ的な存在。男子も女子も彼に畏敬の念を抱いているので、ブライアンに睨まれそうな悪質なイジメはおのずと慎んでいるそうだ。
ジムとハンナからブライアンについて聞いたカザネは
「じゃあ、いじめっ子の悪党ってわけじゃないんだね?」
「うん。僕も本気でいじめられているわけじゃないから大丈夫だよ。たまに冷やかされることはあるけど、彼は気まぐれだから1人をしつこく狙うことは無いし」
今朝ジムはブライアンに怯えているようだったので、てっきりイジメられているのかとカザネは思った。ところが実際は彼が怖いのではなく、リア充オーラに圧倒されていただけのようだ。
からかいはあっても陰湿ないじめや暴力は無いと聞いて、カザネは少し安心した。今朝は軽く口論になってしまったので、あれで目を付けられてしまうのではないかと密かに心配していたのだ。しかしジムによれば仮に腹を立てていたとしても、1人をしつこく狙うタイプではないと聞いてホッとした。
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