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最終話・星に手が届く
突然の告白
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以前は泣いたり笑ったりなどの感情表現が苦手だった嘉門君。しかし私と遊ぶようになってから、少しずつ表情が戻って来た。できることが増えれば当然、これまでとは違う仕事が来る。
今までは感情を持たない殺戮人形系の役が多かった嘉門君に、なんと恋愛映画のオファーが来たそうだ。
その旨を本人から聞いた私は
「おめでとう、嘉門君! 新境地が拓けたね!」
嘉門君が恋愛ものをやってくれるなんて、先輩としてもファンとしても大歓喜だ。しかし本人は浮かない顔で
「恋愛ものを演じられるだけの感情表現ができると見込まれたのはありがたいですが、俺は恋愛経験が無いので説得力のある演技ができるか不安です」
「えっ、恋愛経験が無いって。今まで一度も付き合ったことが無いの?」
反射的に問い返すと、嘉門君は少しバツが悪そうに「……はい」と認めて
「恥ずかしながら、丸井さん以外には未だに友人も居ないくらいなので」
「つくづく意外だね、嘉門君……」
でも華やかなイメージとは違って、実際の嘉門君はとてもピュアで真面目な子だ。遊びで女性と付き合うことはしないだろうから、意外と恋愛する機会が無かったのかもしれない。
「何かアドバイスしてあげられたらいいんだけど、私も恋愛経験が無いんだ。ゴメンね、ダメな先輩で」
恥じ入りながら謝る私に、嘉門君は無垢な瞳で
「丸井さんは明るくて、すごく可愛いのに、本当に男と付き合ったことが無いんですか?」
何度でも確認して来る嘉門君に、私はちょっとヤケクソで
「褒めてくれて、ありがとう! でも私のような太っちょには、こっちから仕掛けない限り向こうからは来ないんだよ! そして私はこう見えて、意外と意識すると緊張して話せなくなるタイプなので、もうずっと見逃し三振を続けている状態!」
心の綺麗な嘉門君は、本気で私がモテるタイプだと誤解しているようなので、この機会に訂正した。
しかし高らかに非モテ宣言する私に、嘉門君は無表情ながら少し顔を暗くして
「そんな丸井さんが自然体で話せるってことは、やっぱり俺には異性としての魅力は無さそうですね」
「わぁぁ、違うよ? 嘉門君には異性としての魅力がバリバリあるよ。でもせっかく友だちになれたんだから、これからも仲良く付き合っていきたいでしょ? だからあえて嘉門君のことは、そういう目で見ないようにしています」
慌ててフォローしたものの、これは本心だ。世界3位の美男で日本でも抱かれたい男ランキング常連の嘉門君が、異性として魅力的じゃないはずがない。
でも私は同じ芸能人ではあっても、嘉門君に釣り合うような美人じゃない。気のいい友人や先輩にはなれても、異性として見られたら逆に迷惑だろう。
クールでミステリアスな雰囲気に反して、意外と素直で優しい嘉門君と過ごす時間が大好きだ。だから彼を変な目で見て、この大切な時間を自ら壊すようなことはしたくなかった。
けれど私のフォローに、嘉門君はなぜか妙に熱っぽい目で
「そういう目で見ないようにしているだけなら、そういう目で見ることもできるんですか?」
「えっ? えっ? どういう意味?」
まるで意識されたがっているような発言に戸惑う。嘉門君は表情を隠すように少し俯いて
「これからも仲よく付き合っていきたいのは俺も同じです。あなたとこういう風に会えなくなるのは絶対に嫌だ」
独り言のように呟くと、苦し気に顔を歪めながら私を見て
「だけど、ずっとこのままの距離は辛いです」
「このままの距離は辛いって?」
オウム返しに尋ねる私に
「手を伸ばせば触れられる距離に居るのに、触れてはいけないことが」
嘉門君はソファに座ったまま距離を詰めると、長い腕で私を囲うように背もたれに手を置いた。体はギリギリ触れていないけど、ほとんど抱きしめられているような近さ。触れてはいけないけど、本当は触れたいのだと訴えるような仕草に
「か、嘉門君?」
体中が心臓になったようにドキドキしながら、問うように彼の名を呼ぶ。嘉門君は決して手の届かないものを見るような切なげな眼差しで
「このまま、あなたを抱きしめたいと言ったら嫌ですか?」
「ええっ!? どうして急に!?」
ソファの上でビョッと体を跳ねさせる私に、嘉門君は小さな声で
「……多分あなたが好きだから」
「た、多分って?」
「ハッキリしなくて、すみません。ただ俺は、さっきも言ったように恋をしたことが無いので。何をもって恋と断定すればいいのか」
好きにも色んな種類がある。異性としての欲を感じることは必ずしも恋じゃない。だとすれば恋ってなんだろう? 分からないなりに、嘉門君の疑問に答えてあげたくて
「一緒に居たいとか、触れたいとか?」
一緒に居たいだけなら親愛かもしれない。触れたいだけなら性欲かもしれない。でも2つが揃ったなら、恋と言えるんじゃないかと返すと
「一緒に居たいし、触れたいです」
嘉門君は熱い手で私の手を握りながら
「……あなたを、ずっと見ていたいです。たまにじゃなくて毎日会いたいです。こういう話をするだけで、壊れそうなくらい胸がドキドキして苦しくなります。こんなに心が動くのは俺だけで、あなたは多分そうじゃないんだろうと思うと、少し悲しいです」
いま私に感じている想いを、そのまま吐き出すと
「俺と違って丸井さんには他にも仲のいい人がたくさん居て、それは仕方ないことだけど……本当は俺だけ見て欲しい。あなたのいちばんになりたい」
嘉門君の目には色んな温度がある。冷酷な殺し屋を演じる時は氷のように冷たく。あまり親しくない人の前では、硝子のように温度が無く。友人になってからは春の日差しのように温かく。今は焦がれるように熱い目で、私を見ている。その目に宿る火に焼かれるように、私の胸も熱くなる。
けれど嘉門君は目を伏せると同時に、握っていた手も静かに放して
「……すみません。丸井さんが優しいからってドンドン増長して。勝手な独占欲を押し付けて」
「か、勝手じゃないよ。すごく驚いたけど、嬉しかった」
私は咄嗟に返すと、今の自分の気持ちを正直に見つめて
「私も嘉門君を、ずっと見ていたいし。たまにじゃなくて毎日会いたいし。「私だけ見て」なんて言える見た目じゃないけど……私も嘉門君のいちばんになりたい」
まるで鏡のように、自分の気持ちが嘉門君と全く同じことに気付いて
「私も嘉門君が好きなのかも。友だちとかファンじゃなくて、特別な意味で」
ふにゃっと照れ笑いしながら出した答えは、そのままストンと腑に落ちた。
よく考えたら、流石に自分しか居ない部屋に異性を上げないや。嘉門君を無意識に誘惑していたとかではなく、ただ彼ともっと長く一緒に居たかった。家族や友だちよりもずっと近くで、同じ時間を過ごしたかった。
私の気持ちに嘉門君は
「か、嘉門君?」
「すみません、嬉しくて」
今度こそギュッと私を抱きしめると
「丸井さんは俺にとって本当に憧れの人だから。あなたが俺を特別な意味で好きだと言ってくれて、星に手が届いたみたいに嬉しい」
その言葉に、ちょっと前まで嘉門君は、私にとってそれこそ星のように遠い人だったことを思い出した。
同じ芸能界に属していても、嘉門君は一流のアクション俳優で、私はぽっちゃりマルチタレントで出演する番組のジャンルが全く違う。だから、ずっと会うはずの無い相手だった。
それがなんでか親しくなって、今こうして抱き合っている。お互いの体温や鼓動が伝わる距離で。
それが奇跡みたいにすごいことだと、私だけじゃなく嘉門君も思ってくれているのが、いっそう夢みたいに嬉しくて
「私も星に手が届いたみたい」
彼の広い背中に腕を回すと
「好きになってくれて、ありがとう」
こんなに眩しい想いをくれた嘉門君に心から感謝した。
今までは感情を持たない殺戮人形系の役が多かった嘉門君に、なんと恋愛映画のオファーが来たそうだ。
その旨を本人から聞いた私は
「おめでとう、嘉門君! 新境地が拓けたね!」
嘉門君が恋愛ものをやってくれるなんて、先輩としてもファンとしても大歓喜だ。しかし本人は浮かない顔で
「恋愛ものを演じられるだけの感情表現ができると見込まれたのはありがたいですが、俺は恋愛経験が無いので説得力のある演技ができるか不安です」
「えっ、恋愛経験が無いって。今まで一度も付き合ったことが無いの?」
反射的に問い返すと、嘉門君は少しバツが悪そうに「……はい」と認めて
「恥ずかしながら、丸井さん以外には未だに友人も居ないくらいなので」
「つくづく意外だね、嘉門君……」
でも華やかなイメージとは違って、実際の嘉門君はとてもピュアで真面目な子だ。遊びで女性と付き合うことはしないだろうから、意外と恋愛する機会が無かったのかもしれない。
「何かアドバイスしてあげられたらいいんだけど、私も恋愛経験が無いんだ。ゴメンね、ダメな先輩で」
恥じ入りながら謝る私に、嘉門君は無垢な瞳で
「丸井さんは明るくて、すごく可愛いのに、本当に男と付き合ったことが無いんですか?」
何度でも確認して来る嘉門君に、私はちょっとヤケクソで
「褒めてくれて、ありがとう! でも私のような太っちょには、こっちから仕掛けない限り向こうからは来ないんだよ! そして私はこう見えて、意外と意識すると緊張して話せなくなるタイプなので、もうずっと見逃し三振を続けている状態!」
心の綺麗な嘉門君は、本気で私がモテるタイプだと誤解しているようなので、この機会に訂正した。
しかし高らかに非モテ宣言する私に、嘉門君は無表情ながら少し顔を暗くして
「そんな丸井さんが自然体で話せるってことは、やっぱり俺には異性としての魅力は無さそうですね」
「わぁぁ、違うよ? 嘉門君には異性としての魅力がバリバリあるよ。でもせっかく友だちになれたんだから、これからも仲良く付き合っていきたいでしょ? だからあえて嘉門君のことは、そういう目で見ないようにしています」
慌ててフォローしたものの、これは本心だ。世界3位の美男で日本でも抱かれたい男ランキング常連の嘉門君が、異性として魅力的じゃないはずがない。
でも私は同じ芸能人ではあっても、嘉門君に釣り合うような美人じゃない。気のいい友人や先輩にはなれても、異性として見られたら逆に迷惑だろう。
クールでミステリアスな雰囲気に反して、意外と素直で優しい嘉門君と過ごす時間が大好きだ。だから彼を変な目で見て、この大切な時間を自ら壊すようなことはしたくなかった。
けれど私のフォローに、嘉門君はなぜか妙に熱っぽい目で
「そういう目で見ないようにしているだけなら、そういう目で見ることもできるんですか?」
「えっ? えっ? どういう意味?」
まるで意識されたがっているような発言に戸惑う。嘉門君は表情を隠すように少し俯いて
「これからも仲よく付き合っていきたいのは俺も同じです。あなたとこういう風に会えなくなるのは絶対に嫌だ」
独り言のように呟くと、苦し気に顔を歪めながら私を見て
「だけど、ずっとこのままの距離は辛いです」
「このままの距離は辛いって?」
オウム返しに尋ねる私に
「手を伸ばせば触れられる距離に居るのに、触れてはいけないことが」
嘉門君はソファに座ったまま距離を詰めると、長い腕で私を囲うように背もたれに手を置いた。体はギリギリ触れていないけど、ほとんど抱きしめられているような近さ。触れてはいけないけど、本当は触れたいのだと訴えるような仕草に
「か、嘉門君?」
体中が心臓になったようにドキドキしながら、問うように彼の名を呼ぶ。嘉門君は決して手の届かないものを見るような切なげな眼差しで
「このまま、あなたを抱きしめたいと言ったら嫌ですか?」
「ええっ!? どうして急に!?」
ソファの上でビョッと体を跳ねさせる私に、嘉門君は小さな声で
「……多分あなたが好きだから」
「た、多分って?」
「ハッキリしなくて、すみません。ただ俺は、さっきも言ったように恋をしたことが無いので。何をもって恋と断定すればいいのか」
好きにも色んな種類がある。異性としての欲を感じることは必ずしも恋じゃない。だとすれば恋ってなんだろう? 分からないなりに、嘉門君の疑問に答えてあげたくて
「一緒に居たいとか、触れたいとか?」
一緒に居たいだけなら親愛かもしれない。触れたいだけなら性欲かもしれない。でも2つが揃ったなら、恋と言えるんじゃないかと返すと
「一緒に居たいし、触れたいです」
嘉門君は熱い手で私の手を握りながら
「……あなたを、ずっと見ていたいです。たまにじゃなくて毎日会いたいです。こういう話をするだけで、壊れそうなくらい胸がドキドキして苦しくなります。こんなに心が動くのは俺だけで、あなたは多分そうじゃないんだろうと思うと、少し悲しいです」
いま私に感じている想いを、そのまま吐き出すと
「俺と違って丸井さんには他にも仲のいい人がたくさん居て、それは仕方ないことだけど……本当は俺だけ見て欲しい。あなたのいちばんになりたい」
嘉門君の目には色んな温度がある。冷酷な殺し屋を演じる時は氷のように冷たく。あまり親しくない人の前では、硝子のように温度が無く。友人になってからは春の日差しのように温かく。今は焦がれるように熱い目で、私を見ている。その目に宿る火に焼かれるように、私の胸も熱くなる。
けれど嘉門君は目を伏せると同時に、握っていた手も静かに放して
「……すみません。丸井さんが優しいからってドンドン増長して。勝手な独占欲を押し付けて」
「か、勝手じゃないよ。すごく驚いたけど、嬉しかった」
私は咄嗟に返すと、今の自分の気持ちを正直に見つめて
「私も嘉門君を、ずっと見ていたいし。たまにじゃなくて毎日会いたいし。「私だけ見て」なんて言える見た目じゃないけど……私も嘉門君のいちばんになりたい」
まるで鏡のように、自分の気持ちが嘉門君と全く同じことに気付いて
「私も嘉門君が好きなのかも。友だちとかファンじゃなくて、特別な意味で」
ふにゃっと照れ笑いしながら出した答えは、そのままストンと腑に落ちた。
よく考えたら、流石に自分しか居ない部屋に異性を上げないや。嘉門君を無意識に誘惑していたとかではなく、ただ彼ともっと長く一緒に居たかった。家族や友だちよりもずっと近くで、同じ時間を過ごしたかった。
私の気持ちに嘉門君は
「か、嘉門君?」
「すみません、嬉しくて」
今度こそギュッと私を抱きしめると
「丸井さんは俺にとって本当に憧れの人だから。あなたが俺を特別な意味で好きだと言ってくれて、星に手が届いたみたいに嬉しい」
その言葉に、ちょっと前まで嘉門君は、私にとってそれこそ星のように遠い人だったことを思い出した。
同じ芸能界に属していても、嘉門君は一流のアクション俳優で、私はぽっちゃりマルチタレントで出演する番組のジャンルが全く違う。だから、ずっと会うはずの無い相手だった。
それがなんでか親しくなって、今こうして抱き合っている。お互いの体温や鼓動が伝わる距離で。
それが奇跡みたいにすごいことだと、私だけじゃなく嘉門君も思ってくれているのが、いっそう夢みたいに嬉しくて
「私も星に手が届いたみたい」
彼の広い背中に腕を回すと
「好きになってくれて、ありがとう」
こんなに眩しい想いをくれた嘉門君に心から感謝した。
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