見定者

色音花絵

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 いつも通り、柔らかな日差しと鳥の鳴き声で目が覚めた。掛け布団に包まったまま伸びをする。カサリと紙に触れる音がして、そちらに視線を向ける。そこには昨夜持ったまま寝たらしい、使用人からの手紙が無造作に置かれていた。
 手紙に書かれた言葉を思い出して、ベッドから跳ね起きた。ぐっすり眠っている場合などでは無かったのだ。得体の知れない誰かが、今この瞬間にも近くにいるかもしれない。僕は貴重品と無線機をしっかり持っていることを確認して、戸の鍵を開けた。
 そこには、いつもと変わりない朝が待っていた。心地良い風が木々を揺らし、僕を包むように撫でて、階段の下へと抜けていく。家も特に変わった所も無い。石の祠も、変わらずひっそりと佇んでいる。そこまで確認すると、僕は安堵して深呼吸をした。
 良かった。いつもと同じ朝だ。そう思った時、不意に吹いていた風が止んだ。こういうことは、この辺りでは良くあることだ。風が突然止んだり、急に突風が吹いて来たり。きっと、山の中だからなのだろう。
 違う。同じ朝では無い。初めてのことが起きている。風が止んだことなど、慣れ切ったことだ。問題はそんなことでは無く。誰かの呼吸の音が聞こえることだ。この規則正しい呼吸音は、寝息なのだろうか。いや、今はそんなことを悠長に考えている場合では無いのだ。今、僕がすべきことは――。
「誰ですか…?」
 寝息が聞こえる方へ、恐る恐る声を掛ける。当然、返事は無い。当たり前だ、寝ているはずなのだから。その呼吸が聞こえる方、手洗い場へと向かっていく。頼りないことに、全身が震えてしまっていた。
 そこで僕が見たものは。信じられない、いや、信じたくない光景だった。

 ――人が血を流して倒れていた。
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