花の舞散る季節

色音花絵

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季節四 秋

神様

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「……蒼。あの、わざわざ心配してくださって、ありがとうございました」
「あ、ああ…」
「お陰様で元気になれました」
「それは良かった」
 呼び捨てには少しずつ慣れてきたが、それでも敬語を無くすのには、まだ気が引けた。蒼はあの日から春を避けるように、二人で会っているというのに、ずっと顔を背けたままでいる。
(ほら、今だって、絶対に視線を合わせてはくれない)
 二人の間に、気まずい沈黙が流れた。話をしようと思う度に、いざ蒼を見ると言葉を飲み込んでしまう。その悲しげな横顔に、春は思わず蒼から目を離してしまった。
 何も言ってはいけない。何故かそんな気がした。今までそんなことは無かっただけに、春は蒼の反応に戸惑ってしまっていた。
(私のことを、嫌いになってしまわれたの…?)
 特に好きだと言われたことはないが、家族である以上、嫌われるようなことにはならないだろうと考えていた。けれど、その考えは間違っていたのだろうか。春はただ考えを巡らせていた。
 春は蒼の顔も見ることも出来ず、俯いていた。そんな中、不意に蒼が話し始める。それに驚いた春が顔を上げ、蒼を見詰めた。
「なぁ…春」
「はい、何でしょう?」
「神様って、居ると思うか?」
 独り言のようにも聞こえるその呟きに、春は思考が停止した。突然の問いに驚いたからというより、それは今春も思っていたことだったからだ。春は少し考えると、真剣に言葉を選んで答えた。今度は目を逸らさずに、蒼の顔をまっすぐに見詰めて。
「居ない、と思います。私が生まれてきたことも、不老不死となったことも、蒼と、他の兄様達とも出会えたことも、全て神様が仕組んだこととは思えません。全ては、起きるべくして起こったこと。神様がいるのなら、皆が幸せになれていると思うのです。だから、私は居ないと思います」
「やはり、そうか。そうだよな」
「どうしました?」
「すまない、私は起こったこと全てを、神様の所為にしようとしていた。…神様なんて、居る訳がないのに」
 蒼がゆっくりと春の方に向き直った。あれから初めて、蒼が春をしっかりと見たような気がする。その真剣な眼差しに、春の心が軋むように音を立てる。その正体は分からないまま、音は大きさを増した。
「だとしたら、私のこの想いも、偽りではないのだろう…」
「え?」
「春。今から言うことは本当のことだ。嘘だと思うかもしれないが、信じて欲しい」
「大丈夫です。蒼のことは、いつでも信じております」
 蒼の言葉を聞くと、安心させるように、春はにっこりと笑った。蒼もそれを聞いて安心したのか、固くなっていた表情が一瞬崩れて、笑みを浮かべていた。
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