十歳の少女の苦難

りゅうな

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道を決めるのはマリンカ姫次第。

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「何を怖い顔をされているんですか。ジャン様」
 膝の上に寝ているセーラを見つめてから疲れているレンの眼は眼光が鋭くジャンをみていた。
 
 ジャンはレンに対して怒りがおさまっていない様子だった。
《俺らがいなければすぐに家に着くような言い方されればな……》
 
 ジャンの話にレンはフッと顔を緩ませていた。
「邪魔とは思いません。ただ、予定外が起きたことに私は思いつかなかったんです。近道を使えば私の家までつきますが、人数制限のある道なので使えないのです。マリンカ姫にとっては怖いでしょうが、もう一つの方法は洞窟しかないのです」



 私は二人の間に座って話を聞いていた。
 正直二人の言い合いの中にいるのは気まずいままでいる。なんだか、二つの壁に挟まれている気分だわ。
  今のジャンの顔は爺の身体を飛ばした時みたいに苛立っているように見える。
  私は二人に気付かれないように、観察をしていた。
 視線をジャンの方に向けてみた。ジャンは今でも怖い顔をしている。
 私が見てもハラハラする。
 どうしたらいいの。寝たふりもできない。だって、今話していたのは大叔父様の家にたどり着ける近道は、ジャン達は行けないと言われて怒っている。ここは私が大叔父様に聞いてみよう。
「大叔父様。近道はどんな方法で大叔父様の家にたどり着くのですか?」
 ジャンの怖い顔を見ずに、大叔父様に首を傾げて私は笑って聞いてみた。
 近くにいるジャンの殺気がひしひしと感じる。勘弁してよ~
 

 レンは胸にかけているペンダントを握りながら話していた。
「この水晶は錬金術士に作ってもらったものです。水晶をかざすと道ができます。私の家までたどり着きますが、道は狭くて一度通った場所は壊れていく仕組みになっています。人数制限もあります」

 私の眠たげな目が一気に開いた気がした。 
「人数は何人までですか?」

「三人です」

 冷静になったジャンはレン大叔父様に聞いた。
《誰かが落ちそうになっても、振り向いて助けられないと言う事だな》

「そういうことです」
 落ち着いている彼は素直に頷いた。

 水晶の道を使って歩くなら、答えは一つしかない。
 二人の間にいた私は離れて、たき火近くの前に移動した。
「なら、洞窟に向おう。でも、その前に一眠りさせて……」
 二人の前ではっきり言ったあと、マリンカはいつものように別の場所に動いてから身体を横にして眠ろうとしていた。
 このまま眠れるかも。おやすみ……

《おい、寝るな姫》
 ジャンは姫の頭を軽く叩いていた。

「何?」
 叩かれて眼が開いたマリンカの近くにジャンの顔があった。まともな眼でじっと私を見ていた。
《姫の覚悟はレン殿と、オレが聞いたぜ。起き上がって崖まで向かうぞ》
「そうですね。姫様が決めたのなら洞窟に向かいましょう」

 何だって、今から行くのかい。
 言うんじゃなかった。ジャンに起こされて、今から動くとは。でも、私は眠たい。ここは主張しよう。
「もう少し寝かせて」

《ダメだ。今すぐ実行だ》

「イヤよ。此処で寝るの~」
 普段の声の大きさより私は凄い大声をだしていた。大叔父様とジャンは私の大きい声を聞いて耳をふさいでいた。

《嫌でも連れて行くぞ。目指すは崖だ》
 ジャンが先頭になり、私の襟首を口でくわえて四つん這いで歩き出す。
 
 私はこの場所に留まりたくって、両足の爪先で砂丘につくように抵抗するが、ジャンの大きさに私の両足が浮いたり、両足の爪先が砂丘についたりと、不安定な状態で引きずられていた。
 大叔父様は私に遠慮しているのか、彼は左手をだしてわたしは右手で握手するかのように握っていた。そのまま、牛男とレン大叔父様に引きずられるとは思いもしなかった私だった。
 





 時には、同じ砂丘にいた二人のジプシーたちは眠れずに星空を見上げていた。
 星空の美しさに感激して声をもらした。
「なんてきれいな星たちだろう。三日月が白く光って見える」
「何か遠くから声がしないか?」
「何も聞こえないよ。風の妖精じゃないか」
「それはすごいぞ。風の妖精の声を聞けたことを族長に言えるな」
 

 私の大声がジプシーたちには風の妖精の仕業になっているのは後日知ることになる。







 





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