十歳の少女の苦難

りゅうな

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砂漠での夜物語

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 崖から飛び降りる話は、ひとまずおいといて光の力のおかげで体があったまった。
 黙っている大叔父様も疲れているはず。光の力を長く使わせたくはないわ。
 明るい光が差し込んでいると砂嵐のせいで細い木や、枝があっちこっち落ちているのを見かけた私は木と枝を拾って思いついた。
 この細い木と枝に私が持っている布をくるませて液体をかけて大叔父様の光の力を少し使えれば火をおこせるかも……でも、これじゃ足りないわ。
 マリンカはいきなり立ち上がり大叔父様に言う。
「大叔父様。火をおこすのに枝と細い木を取りに行ってきます」

《俺も行く》
 ジャンも立ち上がりマリンカの側に来た。

「姫。あまり遠くには行かないでください」
 心配するレンはマリンカを見ていた。
 子犬のセーラは大叔父様の膝の上で寝ている。

「大丈夫です。光のある場所でしかいきませんから。ジャン行きましょう」 
 私は手に持っていた細い木と枝は皆の中心に置き、ジャンを連れて細い木と、枝を取りに行った。
 赤い液体が入っている瓶と布きれは私のバックの中に入っているから、あとから取り出せばいい。
 
 マリンカとジャンは光がともされている範囲の中で探そうと行動した。

 時間はそんなにかからなかった。私は落木を抱えるように持ってきたが、隣にいるジャンが持ってきた落木に交じっている白い骨を見た。
「それ、何の骨?」
 ジャンに聞いた。何の骨か私は知りたかった。本当は怖いけど……

《何の骨かな? 人骨か、動物か分からんよ》
 骨をジッと見て言うジャンは平然としていた。

「ジャンは、骨は怖くないの?」

《いや。全然》
 
「……」
 ジャンは意外にも平気そうだ。それより、ジャンが私の顔を見ているが気のせいかな……

《お前。顔、汚れているぞ》

「あ、そう。って、ほんとジャン? 私の顔汚れているの? どんな感じになっているの? 教えて!」
 さっきより大きい声になっているマリンカはジャンに聞いた。 

《光のおかげで姫の顔が汚れているのがわかるからいいよな。眼の周りと、口の周りは汚れてないが、ほかは砂かぶりになっているぞ。オレも森に入る前から汚れているんだ。気にするな》
 
 落木を持っている私は自分の顔が汚れているなんて気付かなかった。
 あとで顔でも拭こう。
 彼は私に気遣って言っているのではない。ありのまま正直に言っているだけ。
 数時間だけなのにジャンのことが少し理解できるんだなとマリンカは初めて思った。

 森の中で荊に絡まれたジャンは私達が見かけなければ餌食になっていたし、私達も知らないで森の中に過ごしていたら餌食になっていたんだよね。森の中から抜け出せて良かったよ。
 ジャンと歩いているうちに、私は気になることが一つあった。
「ジャンは、シンリ国に離れたのはいつからなの?」
 
 いきなり言われたせいかジャンは足を止めた。顔を俯かせてしばらく考えてからマリンカの顔を見ず、低い声で話す。
《分からん。オレを追いかけてきた兵士をまくのにどれだけ時間経っていたか、何日経ってかも分からない。》

「そう。」
 これ以上は何も言わないでおこうとマリンカは思った。
 二人は大叔父様の所へ戻った。
 
 
 大叔父様、亡くなったジプシーの少女、疲れて寝ているセーラ達の前に落木と骨を置いた。
 木に布をくるませて、赤い液体をかけて、大叔父様の光の力を加えれば火が起こせました。

「光の力で火が起こせました。ありがとうございます。これで大叔父様は光の力は使わなくても過ごせますわ」
 たき火ができれば、私達に気遣って大叔父様は光を使いそうだから。このまま、休んでほしい。
 マリンカは側にいる大叔父様に言った。
 
「私の光の力だけでは火は起こせませんよ。さすが、マリンカ姫。王様に似て賢いですね。昔王様も赤い液体をご自分で作って、私の光の力を使ってマリンカ様と同じように火をおこしたことがありましたよ」
 嬉しそうに昔を思い出す大叔父様はズボンのポケットに入っていたハンカチをだして、マリンカの顔を拭いてくれた。

「顔を拭いてくれてありがとうございます。」
 照れながら礼を言うマリンカは、正直人に顔を拭いてくれることが恥ずかしかった。
 今まで自分でやっていたことだから、顔を拭いてくれると、小さい子供の気分になってしまう。
 
 大叔父様は黙って笑っていた。


《お前の父親。液体も作れるのかよ。スゲェな》
 
 ジャンの話に私も自分の父親の事は気になった。
「大叔父様。父上は何故液体を作る必要があったのでしょう?」
 以外だわ。何かを作るなんて考えられないんですけど。父上だから……

「マリンカ様のお父様は王子だった頃は冒険者だったんですよ。だから、色んな薬液を作ったり実験したり、成功したら外国に行ってそこで実践したりしていましたね」

「何で外国で実践するの? ガーディル国で実践すればいいじゃない」
 思ったことをはっきり言うマリンカに、レンは困った顔して言う。

「姫様の話で解決する話ではないのですよ。その頃私の兄が王様の頃、母国ではアリファ様のいきすぎた行動が問題視され、厳重注意受けてからアリファ様は外国に思いをはせて冒険者になったんですがね……」

 大叔父様が私の父親の若い頃の話を語ってくれたのは嬉しいんだけど。
 私の父親は若い頃、何をして厳重注意されたのかな。何か悪いことでもしたのかなぁ。つっこんで聞いたら二倍かえってきそうだし何か嫌だなぁ。
 色んな思いと、とまどいを感じていたマリンカは呆れたせいか溜息が出てきた。

《レン殿。この少女はどうするつもりだ?》
 ジャンはレンの向かい側にいる少女はどうするのか気になっていた。

「此処に置けばアベルの手下がやってきて餌として食べられるだろうな。私は彼女を抱えて崖から飛び降ります。」
 大叔父様は、疲れた顔をしていたが目はしっかりとしていた。

「本当に飛び降りないとダメなの……他に方法があるかもしれないとか?」
 
「マリンカ様。岸壁の中の洞窟に入らなければ私の家にたどりつきません」

「どういう事ですか?大叔父様」

「ガーディル国から私の所までたどり着くには人の足でもひと月はかかります。ですが、マリンカ様と付添いの者が来ることは最初から考えていましたので近道を使う事を考えていました。
……ですが、思いもよらない人物に出会う事は考えていませんでした」

《俺とセーラは邪魔なのかよ!》

 


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