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3話
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「皆さんも知っていると思いますが、この半年間で3年の生徒が5人も亡くなるという不幸が続いています。警察の調査では全てが不慮の事故ということで、本当に悪いことが重なっています。生徒の皆さん、しばらくは夕方以降の外出は控え、これ以上悪いことが続かないよう注意して残りの夏休みを過ごしてください」
夏休み最後の登校日で臨時朝礼が行われ、校長は生徒にそう説明した。
朝礼が終わると、生徒は各教室へ戻っていった。
「おいジュンどう思うよ!?半年で5人も死ぬって普通じゃあないよな!」
久しぶりに学校に集まった生徒達は、朝礼の話で持ちきりになっていた。
「ジュンの意見も聞かせてくれよ。まさか全部偶然だとは思ってないよな?」
頭のいいジュンの見解を聞くため、数人がジュンの席へ集まっていた。
「さあ…警察が事故って言うなら事故なんじゃない?でも仮に事件だとしたら犯人は天才かもね。5件の殺人を全て事故に見せかけるって、捕まらないよりも難しいと思うよ」
ジュンは雑誌を片手に、ペンをクルクル回しながら答えた。
「間違いなく誰かが殺してると俺は思うぜ。死んだ奴らの中にゃ不良もいたしよ、恨んでた人間も多かったはずだ。いなくなってよかったって思ってる奴らも多いはずだぜ」
すると横からもう一人の生徒が口を挟んだ。
「いや、いくらなんでも殺されるような事はしてないと思うよ。不良っていってもただの学生だよ?普通の生徒も混じってたみたいだしさ」
そう言った生徒を見て、ジュンが口を挟んだ。
「なぜ普通の生徒だとわかるの?学生といっても18歳。もう大人と変わらないんだ。裏では何をやってるかわからないさ。殺される理由がないとは言い切れないな」
そう言われた生徒は少し驚いた。
「え?ジュン君、殺人だよ?ムカついたとか気に食わないとかとは別物だよ?人を殺すなんてどんな国でも大罪だ。しかもそんな事が出来るなんて普通じゃない、精神が逸脱してる人間だ。被害者には女子も2人含まれてる。殺されるような事なんてさすがにしてないはずだよ」
ジュンはペン回しをピタリとやめた。
「君は蚊やムカデを殺す時、噛まれるのを待ってから殺すのかい?」
「え?」
「自分の家で見つけたらすぐ殺すよね。それは自分にとって害になることがわかっているからだ。だから殺しても罪悪感なんて抱かないし、後悔や反省の念もない。人だろうが虫だろうが、人間は自分に害があると思えば排除していく生き物なんだよ」
「えっ?あっ、まあ…それはそうかもしれないけど…」
「道を歩いている時、小さな虫を踏み潰してしまったかもしれないと考えながら歩く人間なんていない。自分の人生に関係ない事は気にもしない。これは生き物全てに言えることさ。そうなるとこの事件だって、誰かにとっては殺す理由があったと考えても不思議じゃないよね」
「え?あ、うーん…なんかややこしくなってわかんないけど…やっぱり殺してしまうなんて考えにくいよ…。でももしそうなら、とんでもない連続殺人犯がいるってことになるよ。…ジュン君てさ、なんか冷めてるっていうか機械的っていうか…ちょっと怖いとこあるよね」
「そうかな?エゴで動物を飼ったり食ったりしてる人間の方がよっぽど怖いよ」
ジュンはそう言うと席を立ち、さっさと帰っていった。
「なんかアイツと話してると疲れるよな。頭はいいけど話がデカくなったりややこしくなったりするし…。さっきの話なんて同じ人間とは思えないぜ」
「うん。僕も前から思ってたけど、なんか人間性に欠けてる気がするよね」
帰っていくジュンを見ながら、残った数人の生徒も一緒に頷いていた。
ーーーー
「ジュンく~ん!」
門を出た所で、1人の生徒がジュンを呼び止めた。
ジュンが振り向くと、女子生徒が1人走ってきているのが見えた。
「はぁ~っ、追いついた。途中まで一緒に帰ってもいい?」
ジュンはしばらく彼女を見つめたあと、素気なく問いかけた。
「君、誰?」
女子生徒は鳩が豆鉄砲を食らったように目を見開いて驚いた。
「え…冗談でしょ…?マジで言ってるの!?」
ジュンは表情を変えることなく彼女の次の言葉を待っていた。
「あの~、私ですね、同じクラスの大橋美子と申しまして…。半年間同じクラスで勉強していて、席もそんなに離れていません。一応目も何回か合ったことあります……思い出してくれましたでしょうか?」
美子が皮肉混じりに自己紹介すると、ジュンは表情も変えることなく小さく頷いた。
「そうなんだ。で、なんか用?」
ジュンはまた前を向いて歩き始めると、美子も足並みを揃えて歩き始めた。
「その前にさ、ジュン君て記憶力めちゃめちゃいいじゃん?私たちが何度も反復しないと覚えれないものも1発で覚えてるレベルじゃん?なのになんで私のこと覚えてないの?」
美子はジュンに恋愛感情は抱いてなかったが、素で自分のことを知らないと言ったジュンに少し腹が立っていた。
「何でと言われても…じゃあ君は1週間で履いた靴下の色を全部覚えてるの?」
「は?いや、それは覚えてないけど。っていうかなんで例えが靴下なのよ?失礼過ぎるでしょ!」
美子は笑いどころのようにツッコんだが、ジュンはクスリともしなかった。
「興味のあるものや覚えようとするものは一度見ただけで覚えてるよ。逆に関心のないものは見たことさえ覚えてないことが多いんだ。昨日来た服とかつまらない話とか、些細な出来事はほとんど覚えていない。だからただのクラスメイトになんて関心がないんだ」
「関心がない…か。でも毎日見てたらいやでも覚えてそうなもんだけどね…それにジュン君そんなに頭いいのにさ、なんでこんな普通の高校に入ったの?」
「ああ…いい高校はお金がかかるし、母親が独りになってしまうからね」
「え?あっ、ごめん。ジュン君、母子家庭だったんだ…」
「気にしなくていいよ。それより何の用なの?」
「あ、うん。あのさ…」
美子は周りをキョロキョロと見回し、小声でジュンに問いかけた。
「今朝校長先生が言ってた話なんだけど…。ジュン君はさ、みんな誰かに殺されたんじゃないか、とか…考えたことない?」
ジュンはクスリと笑った。
「はは、あるよ。でも現実的じゃない。可能性は1%もないね。君は誰かに殺されたと思ってるの?」
「いや、証拠なんて一つもないんだけどさ…不自然だなぁって思って」
「不自然?…なにが?」
「死んだ人はみんなさ、夜7時以降に誰にも行き先を言わずに出て行ってるのよ。おかしくない?5人ともが誰にも行き先を言わずに外出。そんなことってある?」
「…それで?」
「だからさ、みんな誰かに秘密で呼び出されたんじゃないか、って思ってるの」
「へぇ…面白い推測だね」
「だとしたら犯人はすごく賢いのよ。殺した人をどこかに埋めたり捨てたりしてないでしょ?行方不明だと行動を細かく捜査されちゃうから、敢えて事故死を作ってるの。ちゃんと死因があれば警察も深い捜査はしない、犯人はそこまで考えてると思うのよ」
「なるほどね。でも仮に秘密で呼び出せていたとしても、全てを事故に見せかけるってのは無理があるんじゃないかな。そもそも動機はなんだってのもある」
「そうなのよ、そうなんだけど、ジュン君さっき言ってたじゃん。事件だとしたら犯人は天才的で、理由なんてたくさんあるって」
「え?ああ、教室の話聞いてたんだ。まあそうなんだけど、それじゃみんなが容疑者になってしまうよね。だから単なる可能性の話で、現実的には当てはめれないな」
「でも事件なら、その単なる可能性を捜査することになるわ」
「その警察がもう事故だと言ってるみたいだよ」
「そう…だからさ私、被害者の家族みんなにお願いして、事件として捜査するよう警察に嘆願書を出してもらおうと思ってるの」
「嘆願書?なぜ君がそんなことするの?」
「被害者の1人に松木典子って子がいたんだけどさ、中学までよく遊んでた幼馴染だったのよ。その子の死因は夜8時頃自転車で走行中に、前輪が溝に落ちて体ごと前に吹っ飛んで顔面をコンクリートに強打。運悪くそこに突起物があって、それが脳に達して即死。…でもね、あの子は親が厳しくて、夜出ていくことなんて出来なかったはずなの。きっと誰かに呼び出されたんだと私は思ってる」
「ちょっと強引な推理だね。急な用事だったのかも。例えばペンがいる、ノートがいる、生理用品がなくなった。ちょっとコンビニ行く程度なら、いちいち家族に言わないことはあると思うよ」
「ジュン君は知らないと思うけど、あの子2年の終わりまでに色々と問題起こしててね…3年になってからは、卒業させるために親がめちゃめちゃ厳しくなってたのよ。そんな時間に黙って出るなんてありえないの」
「ふーん。でもそんなに厳しいなら、仮に呼び出されてたとしても家族に言ってから出ていくんじゃないかな」
「だから犯人はさ、そうさせない話術で彼女を呼び出したのよ」
「はは。君の考えを聞いてると、どうしても犯人がいなきゃ気が済まないって感じだね」
「茶化さないで、真剣なんだから。犯人は5人に面識のある人間。つまり知ってる人間に呼び出されたわけ。5人ともが知らない人に呼ばれて夜に会いに行くなんて考えられないからね」
「………」
「5人全員に面識がある、呼び出すことができる、密会に従わせる、賢い。この4つの条件を満たしてる人間が犯人だと思うの」
この女…
「ズバリそれはこの学校の教師!教師なら全ての条件を満たしてるわ。私はこの学校の教師が犯人だと思ってる。そして1人じゃないかもしれない」
大橋美子…
誰にも告げずに家を出たと知ったのは、話からして松木典子の件だけだ。
その疑問から被害者全員の詳細をわざわざ確認したというのか
そして誰かに呼び出されたという推理に辿り着き、事件と決めつけて動こうとしている。
友情や正義感というもので動いているのか、ただ腑に落ちないという事にこだわっているのか…
証拠など出ることはないが、また小さな疑問を見つけるたびに大きな行動に出るかもしれない
松木典子は3人目に殺害した3年の生徒だ。
学校から処罰を受けたのはタバコくらいだが、裏では気の弱い生徒を無理矢理連れ回し、売春や万引きを手伝わせたりもしていた。
気に入らない女子生徒には無職の人間を使って強姦などをさせる、更生の余地がない社会悪。
たかが幼馴染というだけでなぜこの女がここまでするのか理解できないが…
この女には高い推察力と行動力がある。
「教師か…なるほど。確かに教師なら全員が知ってるし、適当な理由をつけて秘密で呼び出すことも難しくはないね。もし事件ならその可能性は高い。動機も素行が悪い生徒を異常なほど憎んでいた、とかありそうだしね」
「でしょ!?ジュン君が賛同したら、もうそうだとしか思えなくなったわ!」
「大橋さんだっけ?でも警察って、事件の可能性が出て初めて捜査を始めるものなんだ。目撃者もなく状況証拠も物的証拠もない状況では、行っても相手にされないよ。子供の妄想で捜査なんてしてくれない」
「そんなことわかってるわよ。だから嘆願書を出すんじゃないの。遺族全員の意見ならそう簡単に無視できないでしょ?」
「この国では毎日4,000人近くが死んでいる。半年で5人が死んだ事に、果たして本気で捜査してくれるかどうか…」
「相対的にはたった5人でも、同じ学校の生徒が半年で5人というのは異常よ。あなただってさっき1%くらいの可能性はあるって言ってたじゃない。とりあえず警察が捜査してくれれば、何か手掛かりが出てくるかもしれないわ」
「うん…そうだね。遺族の意見が集まれば捜査してくれるかもしれないね」
「もし全てが偶然だったら、ごめんなさいって謝ればいいのよ」
「はは。君の考えはわかったよ。…じゃあ、そろそろいいかな?独りで考え事をしながら帰るのが好きなんだ」
「あ!うん、ごめんね長いこと話しちゃって…」
「じゃあ頑張って。また明日」
ジュンは美子と離れるために、反対側の歩道へ渡ろうとした。
「あっ、待ってジュン君!」
美子が不意にジュンを呼び止めると、ジュンは振り返った。
「あのさ…今日から遺族の家を廻ろうと思ってるの。それで、すごく言いにくいんだけど……。もしよかったら、一緒に来てくれない…かな?」
「えっ?」
思ってもみなかった話に、ジュンは本気で驚いた。
夏休み最後の登校日で臨時朝礼が行われ、校長は生徒にそう説明した。
朝礼が終わると、生徒は各教室へ戻っていった。
「おいジュンどう思うよ!?半年で5人も死ぬって普通じゃあないよな!」
久しぶりに学校に集まった生徒達は、朝礼の話で持ちきりになっていた。
「ジュンの意見も聞かせてくれよ。まさか全部偶然だとは思ってないよな?」
頭のいいジュンの見解を聞くため、数人がジュンの席へ集まっていた。
「さあ…警察が事故って言うなら事故なんじゃない?でも仮に事件だとしたら犯人は天才かもね。5件の殺人を全て事故に見せかけるって、捕まらないよりも難しいと思うよ」
ジュンは雑誌を片手に、ペンをクルクル回しながら答えた。
「間違いなく誰かが殺してると俺は思うぜ。死んだ奴らの中にゃ不良もいたしよ、恨んでた人間も多かったはずだ。いなくなってよかったって思ってる奴らも多いはずだぜ」
すると横からもう一人の生徒が口を挟んだ。
「いや、いくらなんでも殺されるような事はしてないと思うよ。不良っていってもただの学生だよ?普通の生徒も混じってたみたいだしさ」
そう言った生徒を見て、ジュンが口を挟んだ。
「なぜ普通の生徒だとわかるの?学生といっても18歳。もう大人と変わらないんだ。裏では何をやってるかわからないさ。殺される理由がないとは言い切れないな」
そう言われた生徒は少し驚いた。
「え?ジュン君、殺人だよ?ムカついたとか気に食わないとかとは別物だよ?人を殺すなんてどんな国でも大罪だ。しかもそんな事が出来るなんて普通じゃない、精神が逸脱してる人間だ。被害者には女子も2人含まれてる。殺されるような事なんてさすがにしてないはずだよ」
ジュンはペン回しをピタリとやめた。
「君は蚊やムカデを殺す時、噛まれるのを待ってから殺すのかい?」
「え?」
「自分の家で見つけたらすぐ殺すよね。それは自分にとって害になることがわかっているからだ。だから殺しても罪悪感なんて抱かないし、後悔や反省の念もない。人だろうが虫だろうが、人間は自分に害があると思えば排除していく生き物なんだよ」
「えっ?あっ、まあ…それはそうかもしれないけど…」
「道を歩いている時、小さな虫を踏み潰してしまったかもしれないと考えながら歩く人間なんていない。自分の人生に関係ない事は気にもしない。これは生き物全てに言えることさ。そうなるとこの事件だって、誰かにとっては殺す理由があったと考えても不思議じゃないよね」
「え?あ、うーん…なんかややこしくなってわかんないけど…やっぱり殺してしまうなんて考えにくいよ…。でももしそうなら、とんでもない連続殺人犯がいるってことになるよ。…ジュン君てさ、なんか冷めてるっていうか機械的っていうか…ちょっと怖いとこあるよね」
「そうかな?エゴで動物を飼ったり食ったりしてる人間の方がよっぽど怖いよ」
ジュンはそう言うと席を立ち、さっさと帰っていった。
「なんかアイツと話してると疲れるよな。頭はいいけど話がデカくなったりややこしくなったりするし…。さっきの話なんて同じ人間とは思えないぜ」
「うん。僕も前から思ってたけど、なんか人間性に欠けてる気がするよね」
帰っていくジュンを見ながら、残った数人の生徒も一緒に頷いていた。
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「ジュンく~ん!」
門を出た所で、1人の生徒がジュンを呼び止めた。
ジュンが振り向くと、女子生徒が1人走ってきているのが見えた。
「はぁ~っ、追いついた。途中まで一緒に帰ってもいい?」
ジュンはしばらく彼女を見つめたあと、素気なく問いかけた。
「君、誰?」
女子生徒は鳩が豆鉄砲を食らったように目を見開いて驚いた。
「え…冗談でしょ…?マジで言ってるの!?」
ジュンは表情を変えることなく彼女の次の言葉を待っていた。
「あの~、私ですね、同じクラスの大橋美子と申しまして…。半年間同じクラスで勉強していて、席もそんなに離れていません。一応目も何回か合ったことあります……思い出してくれましたでしょうか?」
美子が皮肉混じりに自己紹介すると、ジュンは表情も変えることなく小さく頷いた。
「そうなんだ。で、なんか用?」
ジュンはまた前を向いて歩き始めると、美子も足並みを揃えて歩き始めた。
「その前にさ、ジュン君て記憶力めちゃめちゃいいじゃん?私たちが何度も反復しないと覚えれないものも1発で覚えてるレベルじゃん?なのになんで私のこと覚えてないの?」
美子はジュンに恋愛感情は抱いてなかったが、素で自分のことを知らないと言ったジュンに少し腹が立っていた。
「何でと言われても…じゃあ君は1週間で履いた靴下の色を全部覚えてるの?」
「は?いや、それは覚えてないけど。っていうかなんで例えが靴下なのよ?失礼過ぎるでしょ!」
美子は笑いどころのようにツッコんだが、ジュンはクスリともしなかった。
「興味のあるものや覚えようとするものは一度見ただけで覚えてるよ。逆に関心のないものは見たことさえ覚えてないことが多いんだ。昨日来た服とかつまらない話とか、些細な出来事はほとんど覚えていない。だからただのクラスメイトになんて関心がないんだ」
「関心がない…か。でも毎日見てたらいやでも覚えてそうなもんだけどね…それにジュン君そんなに頭いいのにさ、なんでこんな普通の高校に入ったの?」
「ああ…いい高校はお金がかかるし、母親が独りになってしまうからね」
「え?あっ、ごめん。ジュン君、母子家庭だったんだ…」
「気にしなくていいよ。それより何の用なの?」
「あ、うん。あのさ…」
美子は周りをキョロキョロと見回し、小声でジュンに問いかけた。
「今朝校長先生が言ってた話なんだけど…。ジュン君はさ、みんな誰かに殺されたんじゃないか、とか…考えたことない?」
ジュンはクスリと笑った。
「はは、あるよ。でも現実的じゃない。可能性は1%もないね。君は誰かに殺されたと思ってるの?」
「いや、証拠なんて一つもないんだけどさ…不自然だなぁって思って」
「不自然?…なにが?」
「死んだ人はみんなさ、夜7時以降に誰にも行き先を言わずに出て行ってるのよ。おかしくない?5人ともが誰にも行き先を言わずに外出。そんなことってある?」
「…それで?」
「だからさ、みんな誰かに秘密で呼び出されたんじゃないか、って思ってるの」
「へぇ…面白い推測だね」
「だとしたら犯人はすごく賢いのよ。殺した人をどこかに埋めたり捨てたりしてないでしょ?行方不明だと行動を細かく捜査されちゃうから、敢えて事故死を作ってるの。ちゃんと死因があれば警察も深い捜査はしない、犯人はそこまで考えてると思うのよ」
「なるほどね。でも仮に秘密で呼び出せていたとしても、全てを事故に見せかけるってのは無理があるんじゃないかな。そもそも動機はなんだってのもある」
「そうなのよ、そうなんだけど、ジュン君さっき言ってたじゃん。事件だとしたら犯人は天才的で、理由なんてたくさんあるって」
「え?ああ、教室の話聞いてたんだ。まあそうなんだけど、それじゃみんなが容疑者になってしまうよね。だから単なる可能性の話で、現実的には当てはめれないな」
「でも事件なら、その単なる可能性を捜査することになるわ」
「その警察がもう事故だと言ってるみたいだよ」
「そう…だからさ私、被害者の家族みんなにお願いして、事件として捜査するよう警察に嘆願書を出してもらおうと思ってるの」
「嘆願書?なぜ君がそんなことするの?」
「被害者の1人に松木典子って子がいたんだけどさ、中学までよく遊んでた幼馴染だったのよ。その子の死因は夜8時頃自転車で走行中に、前輪が溝に落ちて体ごと前に吹っ飛んで顔面をコンクリートに強打。運悪くそこに突起物があって、それが脳に達して即死。…でもね、あの子は親が厳しくて、夜出ていくことなんて出来なかったはずなの。きっと誰かに呼び出されたんだと私は思ってる」
「ちょっと強引な推理だね。急な用事だったのかも。例えばペンがいる、ノートがいる、生理用品がなくなった。ちょっとコンビニ行く程度なら、いちいち家族に言わないことはあると思うよ」
「ジュン君は知らないと思うけど、あの子2年の終わりまでに色々と問題起こしててね…3年になってからは、卒業させるために親がめちゃめちゃ厳しくなってたのよ。そんな時間に黙って出るなんてありえないの」
「ふーん。でもそんなに厳しいなら、仮に呼び出されてたとしても家族に言ってから出ていくんじゃないかな」
「だから犯人はさ、そうさせない話術で彼女を呼び出したのよ」
「はは。君の考えを聞いてると、どうしても犯人がいなきゃ気が済まないって感じだね」
「茶化さないで、真剣なんだから。犯人は5人に面識のある人間。つまり知ってる人間に呼び出されたわけ。5人ともが知らない人に呼ばれて夜に会いに行くなんて考えられないからね」
「………」
「5人全員に面識がある、呼び出すことができる、密会に従わせる、賢い。この4つの条件を満たしてる人間が犯人だと思うの」
この女…
「ズバリそれはこの学校の教師!教師なら全ての条件を満たしてるわ。私はこの学校の教師が犯人だと思ってる。そして1人じゃないかもしれない」
大橋美子…
誰にも告げずに家を出たと知ったのは、話からして松木典子の件だけだ。
その疑問から被害者全員の詳細をわざわざ確認したというのか
そして誰かに呼び出されたという推理に辿り着き、事件と決めつけて動こうとしている。
友情や正義感というもので動いているのか、ただ腑に落ちないという事にこだわっているのか…
証拠など出ることはないが、また小さな疑問を見つけるたびに大きな行動に出るかもしれない
松木典子は3人目に殺害した3年の生徒だ。
学校から処罰を受けたのはタバコくらいだが、裏では気の弱い生徒を無理矢理連れ回し、売春や万引きを手伝わせたりもしていた。
気に入らない女子生徒には無職の人間を使って強姦などをさせる、更生の余地がない社会悪。
たかが幼馴染というだけでなぜこの女がここまでするのか理解できないが…
この女には高い推察力と行動力がある。
「教師か…なるほど。確かに教師なら全員が知ってるし、適当な理由をつけて秘密で呼び出すことも難しくはないね。もし事件ならその可能性は高い。動機も素行が悪い生徒を異常なほど憎んでいた、とかありそうだしね」
「でしょ!?ジュン君が賛同したら、もうそうだとしか思えなくなったわ!」
「大橋さんだっけ?でも警察って、事件の可能性が出て初めて捜査を始めるものなんだ。目撃者もなく状況証拠も物的証拠もない状況では、行っても相手にされないよ。子供の妄想で捜査なんてしてくれない」
「そんなことわかってるわよ。だから嘆願書を出すんじゃないの。遺族全員の意見ならそう簡単に無視できないでしょ?」
「この国では毎日4,000人近くが死んでいる。半年で5人が死んだ事に、果たして本気で捜査してくれるかどうか…」
「相対的にはたった5人でも、同じ学校の生徒が半年で5人というのは異常よ。あなただってさっき1%くらいの可能性はあるって言ってたじゃない。とりあえず警察が捜査してくれれば、何か手掛かりが出てくるかもしれないわ」
「うん…そうだね。遺族の意見が集まれば捜査してくれるかもしれないね」
「もし全てが偶然だったら、ごめんなさいって謝ればいいのよ」
「はは。君の考えはわかったよ。…じゃあ、そろそろいいかな?独りで考え事をしながら帰るのが好きなんだ」
「あ!うん、ごめんね長いこと話しちゃって…」
「じゃあ頑張って。また明日」
ジュンは美子と離れるために、反対側の歩道へ渡ろうとした。
「あっ、待ってジュン君!」
美子が不意にジュンを呼び止めると、ジュンは振り返った。
「あのさ…今日から遺族の家を廻ろうと思ってるの。それで、すごく言いにくいんだけど……。もしよかったら、一緒に来てくれない…かな?」
「えっ?」
思ってもみなかった話に、ジュンは本気で驚いた。
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