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第12話 女戦士ラ・エルの実力
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メフィオステル地下墳墓を進んだ先、高位の死霊術師が眠る霊廟―――。
法衣を纏い、頭蓋骨に冠を戴くその姿は、名のある高僧だった頃の名残だろう。地下墳墓に葬られた理由は、死者の骸を弄ぶ唾棄すべき遣り口から想像ができる。
一行に突き刺さる強烈な悪意に、悪寒が走った。場合によっては、後退を視野にいれる哲郎。そもそも道を間違えている可能性が高い。隠し扉から続く階段を降りた先の空間―――、おそらくあの場所にも隠し扉があったのではないのか、と今更ながらに考える。
ダークエルフの女戦士ラ・エルが見つけた扉は、有事の際に追っ手を誘い込むための罠だったのだ。
―――ゴォォォッッッ
地響きがして後ろを振り返った哲郎は、進んできた通路を塞ぐようにして地面からせり上がる一枚の壁を見た。
「はい、出ました定番」
「敵は死霊術師です。それもかなり高位の・・・・・・」
哲郎の呟きに、ミリーが敵の正体を教えてくれた。
「逃がす気なさそうだな」
言った哲郎は戦えるメンツを確認する。前衛にオーク族のボンダールとダークエルフの女戦士ラ・エル。
後衛には戦力が未知数のゴブリン兄弟パッタとジョロ、それに魔族のフランツ。神聖魔法の使い手エリーザを温存といったところか。
魔法が使えないアーリと伝令のミリー、それに病み上がりのミロは戦力外。自分はその場に応じてフリーランスと決めた。実はミロより深手なのだが、黙っていられないのが哲郎という男。
先のアンデットを撃退した戦いの経験から、短時間で意思疎通が図られる。都落ちする一行に段々と連帯感が生まれ始めていた。
戦闘に向けた一行の動きを見て、死霊術師が先に動いた。祭壇からゆっくりと体を浮かび上がらせる。天井付近まで上昇し、手に持っていた大きな宝玉の嵌った杖を掲げた。
すると両サイドの壁面に穿たれた無数の大きな穴から、アンデット兵が現れた。その数、ざっと見て100体。まだまだ増えそうな勢いだ。
戦力外のミロから借りた直剣を手にした哲郎は、前衛に加わる。
「見ろ、大将は高みの見物だ。油田してる今がチャンス。囲まれる前に決着をつけるぞ!」
「オォーーー!」
「―――はい!」
先頭に立った哲郎に、ボンダールとラ・エルが続く。
祭壇の上、高い天井付近に浮かぶアンデット兵を操っていると思われる死霊術師に現状では手が届かない。
そのために哲郎が考えた作戦は、―――警察学校で取得した剣道初段の哲郎とボンダールが、なるべく敵の懐に深く切り込んで、アンデット兵を一手に惹き付ける。
その間に、ぎりぎりまで死霊術師に近づいたラ・エルが弓矢で死霊術師を仕留めるというものだった。仕留められなくても地に落とせば、その後の展開がある。ラ・エル本人には聞いていないが、あの立派な大弓を見ると、もの凄い必殺技がさく裂する瞬間を想像する。
「ウリャャャアアア~~~!!」
「ウォーーー!!」
魔王の体の奥底から漲る力は感じる。それを哲郎は上手く扱うことができない現状で、どこまでやれるかは未知数だ。
横に薙いだ直剣がアンデット兵の頭部を打ち砕く。その横ではボンダールが10体ほどのアンデット兵を後方に吹き飛ばした。
さらに踏み込む。アンデットを一手に引き受けた2人の背後。開いたスペースにラ・エルが弓を構えて立つ。
「完璧な戦略! いけラエル~!!」
「ラエルではありません。ラ・エルです」
期待を込めた哲郎の呼びかけに、どうしても譲れない部分なのか、ラ・エルが名を訂正する。この後の旅路で一行を悩ませる、ラのあとの発音を小さく切るか、続けるか問題の出発点だった。
弓を引き絞って的を狙う、その悠然とした立ち姿には見惚れるものがある。一同の視線がラ・エルに向けられた。
―――ギリギリギリ
大弓が限界まで引き絞られる音が霊廟に響き渡り、死霊術師が自分に向かう危険を察知した様子で身構えた。
「当ったれーーー!!」
甲高いラ・エルの叫びに呼応して、大弓から必殺の矢が放たれ―――、その瞬間、確かにスカッっと音がした。一本の矢がラ・エルの足元へゆっくりと落ちる。
アンデットを操っていた死霊術師も唖然とし、操っていたアンデット兵の動きが止まる。矢を放つはずだったラ・エルは悠然と立ったまま。見る人が見れば、見事な残身に拍手を送っていたかもしれない。
「おいーーー!!」
絶叫する哲郎にラ・エルが我に返り慌てて次の矢を―――、スカッとやっぱり音が聞こえた。
「その場の雰囲気で当たるかな、って思いましたが、やっぱり無理ですね。・・・・・・てへ、ペロ」
「てへペロじゃねえよ。そもそも、その弓はどう見ても達人の域だよな。俺の知ってるエルフは、みんな使い手だ」
「偏見ですよ、魔王様。エルフが弓の使い手って、誰のことなんですか。何処にいるんですか―――」
「開き直るってか。じゃあ、その大きな弓は一体なんなんだ。そんなもん背負ってるから使い手に思うだろうが普通は」
「逃げる途中に、城の中で拾ったんです」
「逃げる途中って・・・・・・、ラエルは戦士だろ」
「ラ・エルですから。はい、戦士です。ただし見習いですけど」
「・・・・・・見習い。どのくらいの期間だ。半年か? 1年か?」
この世界の暦についての知識はない。しかし哲郎は勢いに任せて聞いた。
「2日目ですね」
「ど、ど素人じゃねえか。なんだよ、さっきの余裕ある佇まい。絶対に当たるパターン入ってただろ。弓を3本同時発射でも違和感ないぞ」
「魔王様の立てた作戦に、無理って言えないです」
涙目になっているラ・エルに、言い過ぎたと感じた。結局は、本当の魔王の悪しき影響の結果なのだと痛感する。
「言い過ぎた。悪い―――、これからは何でも言ってくれ。絶対に怒らないから」
「・・・・・・はい」
「―――動き出しました!」
作戦の練り直しを迫られた哲郎に、後方からエリーザの緊迫した声が掛かった。
法衣を纏い、頭蓋骨に冠を戴くその姿は、名のある高僧だった頃の名残だろう。地下墳墓に葬られた理由は、死者の骸を弄ぶ唾棄すべき遣り口から想像ができる。
一行に突き刺さる強烈な悪意に、悪寒が走った。場合によっては、後退を視野にいれる哲郎。そもそも道を間違えている可能性が高い。隠し扉から続く階段を降りた先の空間―――、おそらくあの場所にも隠し扉があったのではないのか、と今更ながらに考える。
ダークエルフの女戦士ラ・エルが見つけた扉は、有事の際に追っ手を誘い込むための罠だったのだ。
―――ゴォォォッッッ
地響きがして後ろを振り返った哲郎は、進んできた通路を塞ぐようにして地面からせり上がる一枚の壁を見た。
「はい、出ました定番」
「敵は死霊術師です。それもかなり高位の・・・・・・」
哲郎の呟きに、ミリーが敵の正体を教えてくれた。
「逃がす気なさそうだな」
言った哲郎は戦えるメンツを確認する。前衛にオーク族のボンダールとダークエルフの女戦士ラ・エル。
後衛には戦力が未知数のゴブリン兄弟パッタとジョロ、それに魔族のフランツ。神聖魔法の使い手エリーザを温存といったところか。
魔法が使えないアーリと伝令のミリー、それに病み上がりのミロは戦力外。自分はその場に応じてフリーランスと決めた。実はミロより深手なのだが、黙っていられないのが哲郎という男。
先のアンデットを撃退した戦いの経験から、短時間で意思疎通が図られる。都落ちする一行に段々と連帯感が生まれ始めていた。
戦闘に向けた一行の動きを見て、死霊術師が先に動いた。祭壇からゆっくりと体を浮かび上がらせる。天井付近まで上昇し、手に持っていた大きな宝玉の嵌った杖を掲げた。
すると両サイドの壁面に穿たれた無数の大きな穴から、アンデット兵が現れた。その数、ざっと見て100体。まだまだ増えそうな勢いだ。
戦力外のミロから借りた直剣を手にした哲郎は、前衛に加わる。
「見ろ、大将は高みの見物だ。油田してる今がチャンス。囲まれる前に決着をつけるぞ!」
「オォーーー!」
「―――はい!」
先頭に立った哲郎に、ボンダールとラ・エルが続く。
祭壇の上、高い天井付近に浮かぶアンデット兵を操っていると思われる死霊術師に現状では手が届かない。
そのために哲郎が考えた作戦は、―――警察学校で取得した剣道初段の哲郎とボンダールが、なるべく敵の懐に深く切り込んで、アンデット兵を一手に惹き付ける。
その間に、ぎりぎりまで死霊術師に近づいたラ・エルが弓矢で死霊術師を仕留めるというものだった。仕留められなくても地に落とせば、その後の展開がある。ラ・エル本人には聞いていないが、あの立派な大弓を見ると、もの凄い必殺技がさく裂する瞬間を想像する。
「ウリャャャアアア~~~!!」
「ウォーーー!!」
魔王の体の奥底から漲る力は感じる。それを哲郎は上手く扱うことができない現状で、どこまでやれるかは未知数だ。
横に薙いだ直剣がアンデット兵の頭部を打ち砕く。その横ではボンダールが10体ほどのアンデット兵を後方に吹き飛ばした。
さらに踏み込む。アンデットを一手に引き受けた2人の背後。開いたスペースにラ・エルが弓を構えて立つ。
「完璧な戦略! いけラエル~!!」
「ラエルではありません。ラ・エルです」
期待を込めた哲郎の呼びかけに、どうしても譲れない部分なのか、ラ・エルが名を訂正する。この後の旅路で一行を悩ませる、ラのあとの発音を小さく切るか、続けるか問題の出発点だった。
弓を引き絞って的を狙う、その悠然とした立ち姿には見惚れるものがある。一同の視線がラ・エルに向けられた。
―――ギリギリギリ
大弓が限界まで引き絞られる音が霊廟に響き渡り、死霊術師が自分に向かう危険を察知した様子で身構えた。
「当ったれーーー!!」
甲高いラ・エルの叫びに呼応して、大弓から必殺の矢が放たれ―――、その瞬間、確かにスカッっと音がした。一本の矢がラ・エルの足元へゆっくりと落ちる。
アンデットを操っていた死霊術師も唖然とし、操っていたアンデット兵の動きが止まる。矢を放つはずだったラ・エルは悠然と立ったまま。見る人が見れば、見事な残身に拍手を送っていたかもしれない。
「おいーーー!!」
絶叫する哲郎にラ・エルが我に返り慌てて次の矢を―――、スカッとやっぱり音が聞こえた。
「その場の雰囲気で当たるかな、って思いましたが、やっぱり無理ですね。・・・・・・てへ、ペロ」
「てへペロじゃねえよ。そもそも、その弓はどう見ても達人の域だよな。俺の知ってるエルフは、みんな使い手だ」
「偏見ですよ、魔王様。エルフが弓の使い手って、誰のことなんですか。何処にいるんですか―――」
「開き直るってか。じゃあ、その大きな弓は一体なんなんだ。そんなもん背負ってるから使い手に思うだろうが普通は」
「逃げる途中に、城の中で拾ったんです」
「逃げる途中って・・・・・・、ラエルは戦士だろ」
「ラ・エルですから。はい、戦士です。ただし見習いですけど」
「・・・・・・見習い。どのくらいの期間だ。半年か? 1年か?」
この世界の暦についての知識はない。しかし哲郎は勢いに任せて聞いた。
「2日目ですね」
「ど、ど素人じゃねえか。なんだよ、さっきの余裕ある佇まい。絶対に当たるパターン入ってただろ。弓を3本同時発射でも違和感ないぞ」
「魔王様の立てた作戦に、無理って言えないです」
涙目になっているラ・エルに、言い過ぎたと感じた。結局は、本当の魔王の悪しき影響の結果なのだと痛感する。
「言い過ぎた。悪い―――、これからは何でも言ってくれ。絶対に怒らないから」
「・・・・・・はい」
「―――動き出しました!」
作戦の練り直しを迫られた哲郎に、後方からエリーザの緊迫した声が掛かった。
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